今回は、京都大学で3回生向けに後期に行われたガロア理論の講義の第13回の内容の要約をします。やっと最後の講義です。5 次以上の方程式が一般には冪根で解けないことを証明します。講義の時間がギリギリだったようで、補足が必要だと感じる部分がいくつかあったので、記事の最後に補足します。また、この講義では話されなかった対称群の (非) 可解性についても補足します。
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:目次
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第1回(10月7日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第2回(10月14日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第4回(10月28日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第5回(11月4日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第6回(11月11日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第7回(11月18日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第8回(12月2日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第11回(1月6日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第12回(1月13日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第13回(1月20日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第14回(1月27日)← 今回
目次
前回の訂正 (00:13 ~)
前回の講義で拡大次数が 2 冪ならば作図できると述べましたが、それは間違いでした。$[K: \mathbb{Q}]$ が 2 冪でも、$K$ の元が作図可能とは限りません。例えば、$f(x)$ を 4 次多項式、$\alpha$ を $f(x)$ の一つの根、$K = \mathbb{Q}(\alpha)$、$L$ を $f(x)$ の最小分解体とすると、$\mathrm{Gal}(L / \mathbb{Q}) \simeq \mathfrak{S}_4$ の場合があります。
\[ \xymatrix{ L \ar@{-}[d] & \{1\} \ar@{-}[d] \\ K \ar@{-}[d] \ar@{-}[r] & \mathfrak{S}_3 \ar@{-}[d] \\ \mathbb{Q} \ar@{-}[r] & \mathfrak{S}_4 } \]
このとき
\begin{align} [K:\mathbb{Q}] &= \frac{[L:\mathbb{Q}]}{[L :K]} = \frac{|\mathfrak{S}_4|}{|\mathfrak{S}_3|} \\ &= \frac{4!}{3!} = 4 \end{align}
なので $[K:\mathbb{Q}]$ は 2 冪ですが、$\mathfrak{S}_3 \subset G \subset \mathfrak{S}_4$ を満たす部分群はないので、$K$ と $Q$ の間に中間体は存在しません。従って $K$ と $Q$ の間に 2 次拡大の列が存在せず、作図可能な数の条件から、$K$ の元は作図可能ではありません。
補足
上の主張をきちんと証明するなら、4 次既約多項式 $f(x)$ で、実数根 $\alpha$ を持ち、$L / \mathbb{Q}(\alpha)$ のガロア群が $\mathfrak{S}_3$、$L / \mathbb{Q}$ のガロア群が $\mathfrak{S}_4$ であるものが存在することを示す必要があります。これは記事の末尾で補足します。
方程式論 (03:08~)
5 次以上の一般の方程式が冪根で解けないということを証明します。
準同型の一次独立性 (03:32~)
基本となるのは準同型の一次独立性と呼ばれるもので、非常によく知られています。
(03:53 ~) この定理は非常に重要で、講義ではやりませんが、ヒルベルトの定理90というガロアコホモロジーに関する定理を示すのに使われます。
定理. 準同型の一次独立性 (04:17~)
$K, L$ を体とし, $\chi_1, \cdots, \chi_n: K \to L$ を相異なる体の準同型とする. このとき、$\chi_1, \cdots, \chi_n$ は $L$ 上一次独立である. ($K$ から $L$ への写像全体は $L$ ベクトル空間である.)
(証明の概略 (06:19~)) :
$n = 1$ のときは明らか ( $\chi_1(1_K) = 1_L$ なので $0$ でない). $n \geq 2$ として帰納法を用いる. $\chi_2, \cdots, \chi_n$ は一次独立であるとし,
$$a_1 \chi_1 + \cdots + a_n \chi_n = 0 \quad a_1, \cdots, a_n \in L$$
が成り立つとする. このとき, $a_1 = \cdots = a_n = 0$ を示せば良い. そうでないと仮定して矛盾を導く. $a_i \neq 0$ を満たす $i$ が一つだけならば $n =1$ の場合に帰着する. 添字を入れ替えて $a_1, a_2 \neq 0$ として良い. $\chi_1 \neq \chi_2$ なので, $\alpha \in K$ で, $\chi_1(\alpha) \neq \chi_2(\alpha)$ を満たすものが存在する. 任意の $x \in K$ に対して
$$a_1 \chi_1(x) + a_2 \chi_2(x) +\cdots = 0$$
が成り立ち, また $x$ を $\alpha x$ に置き換えて
$$a_1 \chi_1(\alpha)\chi_1(x) + a_2 \chi_2(\alpha) \chi_2(x) +\cdots = 0$$
が成り立つ. 上の式を $\chi_1(\alpha)$ 倍して下の式を引くと, $\chi_1(x)$ の項が消えて
\begin{align} &a_2 (\chi_1(\alpha) -\chi_2(\alpha)) \chi_2(x) + \\ & \quad a_3 (\chi_1(\alpha) -\chi_3(\alpha)) \chi_3(x) +\cdots = 0\end{align}
となる. $a_2 \neq 0$ かつ $\chi_1(\alpha) -\chi_2(\alpha) \neq 0$ で, $x$ は任意なので, $\chi_2, \cdots, \chi_n$ が一次独立であることに反する. よって矛盾.
(13:17~) この定理をガロア群の元に対して明示的に解釈すると、以下のようになります。
系. (12:05~)
$L / K$ をガロア拡大. $\mathrm{Gal}(L / K) = \{\sigma_1, \cdots, \sigma_n\}$ とする. また $a_1, \cdots, a_n \in L$ を $L / K$ のベクトル空間としての基底とする. このとき, $L$ 係数行列 $(\sigma_j(a_i))_{ij}$ は正則行列である.
(証明の概略) :
$\sigma_i: L \to L$ は準同型で, 相異なるので, 先ほどの定理から 1 次独立である. 行列 $(\sigma_j(a_i))_{ij}$ が可逆でないとして矛盾を導く. $(\sigma_j(a_i))_{ij}$ が可逆でないとすれば, どれかは $0$ でない $x_1, \cdots, x_n \in L$ が存在して
$$\sum_{j=1}^n (\sigma_j(a_i))x_j = 0$$
を満たす. 任意の $a \in L$ は, $a_1, \cdots, a_n$ の $K$ 上の 1 次結合で表されるので, $a = \sum_{i = 1}^n c_i a_i$ $(c_i \in K)$とおくと
\begin{align} \sum_{j=1}^n (\sigma_j(a))x_j &= \sum_{j=1}^n \sum_{i = 1}^n c_i (\sigma_j(a_i))x_j \\ &= \sum_{i = 1}^n c_i \sum_{j=1}^n (\sigma_j(a_i))x_j \\ &= 0 \end{align}
となる. これが任意の $a \in L$ 対して成り立つので, 関数として
$$ \sum_{j=1}^n \sigma_j x_j = 0$$
となる. これは $\sigma_j$ が 1 次独立であることに反する.
(17:43 ~) この系は、いろんなところで用いられ、特に整数論で用いられます。整数論では判別式というものを定義しますが、その時にこの行列が正則行列であることを用います。
冪根で解けるとは (18:26~)
冪根で解けることに関する条件を記述しますが、それは次のことが基本になっています。
命題. (18:39~)
$K$ を体, $n$ を正の整数とする. また, $\mathrm{ch}K = 0$ または $\mathrm{ch} K = p \nmid n$ であり, $K$ は原始 $n$ 乗根を持つとする. このとき, $n$ 次拡大 $L / K$ に対して以下は同値である.
- $L / K$ はガロア拡大で, $\mathrm{Gal}(L / K) \simeq \mathbb{Z} / n \mathbb{Z}$.
- $a \in K$ が存在し, $L = K(\sqrt[n]{a})$
(20:30~) 冪根で解けるということをガロア群の言葉で表したい訳です。(1) $\Rightarrow$ (2) が難しくて、先ほどの準同型の一次独立性を用います。(2) のような拡大を繰り返していくというのが冪根で解けるということです。(2) $\Rightarrow$ (1) は、ガロア群の商が巡回群になるような部分群列があることを意味し、(1) $\Rightarrow$ (2) はその逆を意味します。これでガロア群の可解性と冪根で解けることがつながります。
(証明の概略 (21:45 ~)) :
(1) $\Rightarrow$ (2) を示す. $\sigma \in \mathrm{Gal}(L / K)$ を生成元とし、$x \in L$ に対して
$$f(x) = \sum_{i = 0}^{n-1} \zeta^{-i} \sigma^i(x)$$
とおく. $1 = \sigma^0, \cdots, \sigma^{n-1}$ は相異なり, $\zeta^{-i} \neq 0$ なので, 準同型の一次独立性から $f(x) \neq 0$ を満たす $x \in L$ が存在する. $b = f(x)$ とおくと,
\begin{align} \sigma(b) &= \sum_{i=0}^{n-1} \sigma(\zeta^{-i}) \sigma^{i+1}(x) \\ &= \sum_{i=0}^{n-1} \zeta^{-i} \sigma^{i+1}(x) \quad (\zeta \in K) \\ &= \zeta \sum_{i=0}^{n-1} \zeta^{-i-1} \sigma^{i+1}(x) \\ &= \zeta \sum_{i=0}^{n-1} \zeta^{-i} \sigma^{i}(x) \quad (\zeta^{-n} \sigma^n(x) = \zeta^{-0} \sigma^0(x)) \\ &= \zeta b \end{align}
となる. よって
\begin{align} \sigma(b^n) = (\sigma(b))^n = (\zeta b)^n = b \end{align}
となり, $\sigma$ がガロア群の生成元であることから, $b^n \in K$ がわかる. $a = b^n$ とおくと $b = \sqrt[n]{a}$ である. これが $L$ を生成することを示すには, 単拡大に関する定理から, $\sigma^i(b)$ が全て異なっていれば良い ($\sigma^i|_{K(b)}$ が全て異なるので, $[K(b):K] = [L : K]$ がわかる). $\sigma(b) = \zeta^ib$ だが, $1, \zeta, \cdots, \zeta^{n-1}$ は全て異なる. よって $L = K(b) = K(\sqrt[n]{a})$. (なぜこの方法で上手くいくのかの解説がここで挟まりますが, この記事では証明後に記述します.)
(2) $\Rightarrow$ (1) を示す. $b = \sqrt[n]{a}$ とおく. $n = 1$ のときは明らかなので, $n \geq 2$ とする. このとき $L \neq K$ なので $b\neq 0$. $b$ は $x^n -a = 0$ の解で, 他の解は $\zeta^i b$ $(i = 0, \cdots n-1)$ である. これらは全て $L = K(b)$ に含まれるので, $L / K$ は正規拡大. また, $p \nmid n$ から $x^n -a$ は分離多項式 (微分すればわかる). よって $L / K$ はガロア拡大.
$\sigma \in \mathrm{Gal}(L / K)$ は $\sigma(b)$ の値のみで決定される. ある $i \in \mathbb{Z} /n\mathbb{Z}$ が存在して $\sigma(b) = \zeta^i(b)$ なので, 対応
$$\mathrm{Gal}(L / K) \ni \sigma \mapsto i \in \mathbb{Z} /n\mathbb{Z}$$
が定まる. これが準同型であることは明らか. $\sigma, \tau \in \mathrm{Gal}(L / K)$ に対して $\sigma(b) = \tau(b)$ ならば $\tau = \sigma$ なので, 単射である. また, 位数の関係から全射であることもわかる. よって
$$\mathrm{Gal}(L / K) \simeq \mathbb{Z} /n\mathbb{Z}$$
がわかる.
(30:13 ~) 証明方法を振り返って、なぜ $f(x) = \sum_{i = 0}^{n-1} \zeta^{-i} \sigma^i(x)$ を考えたのかを考察します。$L = K(\sqrt[n]{a})$ を示そうとしていて、$\sqrt[n]{a}$ に当たるものを探していました。もし $L = K(\sqrt[n]{a})$ だとすると $x \in L$ は
$$x = c_0 + c_1 \sqrt[n]{a} + c_2 \sqrt[n]{a^2} + \cdots$$
という形をしています。$x$ から $\sqrt[n]{a}$ を抜き出したいのですが、$f(x)$ により、それ以外の項が全て消えてしまいます。
それは、よく使うことですが、自明でない指標の値の和は $0$ になることからわかります (これが何を意味しているのか理解できていませんが、具体的に考えると $\sigma(\sqrt[n]{a}) = \zeta \sqrt[n]{a}$ なので $\zeta^{-i}\sigma^i(\sqrt[n]{a^j}) = \zeta^{i (j -1)}\sqrt[n]{a^j}$ となり、$i$ についての和をとると $\sum_{i=0}^{n-1}\zeta^i = 0$ から $0$ になるのではないかと思います)。
別の解釈として、$f(x)$ が固有値の固有ベクトルになっているから、というのもありますが、いずれにしても、最初に考えた人は、何らかの方法で $\sqrt[n]{a}$ の項を抜き出そうとしたと考えられます。
方程式の可解性 (39:40~)
(39:40~) 準備ができたので、ようやく方程式の可解性についてお話しします。以下、$\mathrm{ch} K = 0$ と仮定します。まずはモニックな方程式が冪根で解けることを定式化しましょう。
定義. 冪根で解ける (40:19 ~)
$f(x) \in K[x]$ をモニック多項式とする. $f(x) = 0$ が冪根で解けるとは, 体の列
$$K_0 = K \subset K_1 \subset \cdots \subset K_t$$
で, $K_i$ は $K_{i-1}$ に $1$ の冪根を加えた体であるか, または $a \in K_{i-1}$ により $K_i = K_{i-1}(\sqrt[n]{a})$ となるものが存在し, $f(x)$ の最小分解体 $L$ が $K_t$ に含まれることをいう.
定義. 可解群 (補足)
群 $G$ が可解群であるとは, 部分群の列
$$G = G_0 \supset G_1 \supset \cdots \supset G_n = \{1\}$$
で, $0 \leq i \leq < n$ に対して $G_i \triangleright G_{i+1}$ であり, $G_i / G_{i+1}$ がアーベル群であるものが存在することをいう.
定理. ガロア群が可解群 $\Leftrightarrow$ 冪根で解ける (44:42~)
$K$ を体, $\mathrm{ch} K = 0$, $f(x) \in K[x]$ とする. このとき, 以下は同値である.
- $f(x) = 0$ は冪根で解ける
- $L$ を $f(x)$ の最小分解体としたとき, $\mathrm{Gal}(L / K)$ は可解群
(証明):
(1) $\Rightarrow$ (2) を示す. 体の列
$$K_0 = K \subset \cdots \subset K_t \supset L$$
で, $K_i = K_{i-1}(\sqrt[n_i]{a_i})$ を満たすものを考える. ($1$ の冪根は $a_i = 1$ とみなす.) $N = n_1 \cdots n_t$ とおく. $\zeta_N = \exp\left(\frac{2 \pi \sqrt{-1}}{N}\right)$ とおいたとき, $\mathrm{ch} K = 0$ なので $\overline{K} \supset \mathbb{Q}(\zeta_N)$ として良い. $K^{\prime}_1 = K(\zeta_N)$, $K^{\prime}_i = K_{i-1}(\zeta_N)$ と置き換えることで, 初めから $K_1 = K(\zeta_N)$ として良い. $\zeta_N$ の最小分解体の根は $x^N -1 = 0$ の根でもあり, $x^N -1 = 0$ の根は全て $K_1$ に含まれるので, $K_1 / K$ はガロア拡大である. $\zeta_{n_i}$ は $K_{i-1}$ に含まれるので, 先ほどの命題から $K_i/ K_{i-1}$ はガロア拡大で, ガロア群は巡回群である.
(52:17~ ) $K_t$ としてガロア拡大であるものが取れることをいう. 基本的な考え方は, 全ての共役を含むように $K_i$ を大きくすることである. $\phi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(K_t, \overline{K})$ に対して, $\zeta_N \in K_1$ から
$$\varphi(K_i) = \varphi(K_{i-1}) (\sqrt[n_i] {\phi(a_i)})$$
となる. よって $F_0 = K$ として, $F_i \subset \overline{K}$ を $K$ 上
$$\left\{\phi(K_i) \mid \phi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(K_t, \overline{K}) \right\}$$
で生成された体とする. 以前示した定理から
$$|\operatorname{Hom}_K^{al}(K_t, \overline{K})| \leq [K_t : K] < \infty$$
なので, $F_i$ は $F_{i-1}$ に有限個の $\sqrt[n_i]{\phi(a)}$ の形の元を加えたものになっている. $F_t$ は自身の全ての元の共役を含むので, $F_t / K$ はガロア拡大である. 以上から, $K_1$ から始めて有限個の冪根を加えていって $F_t$ が得られるので, $K_t$ は初めから $K$ のガロア拡大として良い.
(59:00 ~) $\mathrm{Gal}(K_t / K)$ が可解群であることを示す. $H_i = \mathrm{Gal}(K_t / K_i)$ とすると, 群の列
$$\{1\} = H_t \subset H_{t-1} \subset \cdots \subset H_0 = \mathrm{Gal}(K_t/K)$$
が得られる. $i \geq 2$ に対して $\zeta_N \in K_1 \subset K_{i-1}$ なので, 先ほどの命題から $K_i / K_{i-1}$ はガロア拡大であり, ガロアの基本定理から $H_i \triangleleft H_{i-1}$ で $H_{i-1}/H_i = \mathrm{Gal}(K_{i}/K_{i-1})$ は巡回群である. $i = 1$ の場合は推進定理を使う. 以下の図を考えると
\[ \xymatrix@=12pt{ & K_1 \ar@{-}[ld] \ar@{-}[rd] & \\ K \ar@{-}[rd] && \mathbb{Q}(\zeta_N) \ar@{-}[ld] \\ & K \cap \mathbb{Q}(\zeta_N) = K^{\prime}_1 \ar@{-}[d] & \\ & \mathbb{Q} & } \]
$\mathbb{Q}(\zeta_N) / K^{\prime}_1$ は $\mathbb{Q}(\zeta_N)$ が $\mathbb{Q}$ 上の全ての共役を含み, (最小多項式を考えれば) $K^{\prime}_1$ 上の全ての共役を含むので, 正規拡大, 特にガロア拡大である. 推進定理より $K_1/ K$ はガロア拡大で
$$\mathrm{Gal}(K_1 / K) \simeq \mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_N) / K^{\prime}_1)$$
となる.
$$\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_N) / K^{\prime}_1) \subset \mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_N) / \mathbb{Q})$$
で, $\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_N)/ \mathbb{Q})$ は (円分体のガロア群から) 有限アーベル群である. よって $\mathrm{Gal}(K_1 / K)$ も有限アーベル群である. よって $H_1 \triangleleft H_0$ で, $H_0 / H_1$ は有限アーベル群である. 以上で $H_0 = \mathrm{Gal}(K_t / K)$ が可解群であることがわかった.
(1:07:53~) $L / K$ のガロア群が可解群であることを示す. $P = \mathrm{Gal}(K_t / L)$ とおくと, $L / K$ が (定義から) ガロア拡大であることから, ガロアの基本定理により, $P \triangleleft H_0$ かつ $H_0 / P \simeq \mathrm{Gal}(L / K)$ である.
\[ \xymatrix@=12pt{ K_t \ar@{-}[d] \ar@{-}[r] & \{1\} \ar@{-}[d] \\ L \ar@{-}[d] \ar@{-}[r] & P \ar@{-}[d] \\ K \ar@{-}[r]& H_0 } \]
$P$ が正規部分群なので,
$$H_i P = \{h p \in G \mid h \in H_i, p \in P \}$$
は $H_0$ の部分群である ($h_1 p_1 h_2 p_2$ が $h_1 h_2 (h_2^{-1} p_1 h_2) p_2$ と一致し, $h_1 h_2 \in H$, $(h_2^{-1} p_1 h_2) p_2 \in P$ である. 逆元も同様の変形をすれば良い). $\overline{H}_i = H_i P / P$ と定義すると, $\overline{H}_i \subset H_0 / P$ であり, $\mathrm{Gal}(L / K)$ の部分群とみなせる. これにより部分群の列
$$\{1\} = \overline{H}_t \subset \cdots \subset \overline{H}_1 \subset \overline{H}_0 = \mathrm{Gal}(L / K)$$
が得られる. $\overline{H}_i \triangleleft \overline{H}_{i-1}$ を示したい. そのためには, $H_i P$ の任意の元 $bc$ ($b \in H_i$, $c \in P$) が, $a \in H_{i-1}$ と $d \in P$ に対して $a^{-1} (bc) a \in H_i P$, $d^{-1} (bc) d \in H_i P$ となることを示せば十分である.
\begin{align} a^{-1} (bc) a &= (a^{-1} ba) (a^{-1} c a) \in H_i P \\ d^{-1} (bc) d &= b (b^{-1} d^{-1} b) cd \in H_i P \\ \end{align}
となり, $\overline{H}_i \triangleleft \overline{H}_{i-1}$ がわかった. ここで, 群の同型定理 ([wiki] の定理2と定理3) から
\begin{align} \overline{H}_{i-1} / \overline{H}_i &\simeq H_{i-1}P / H_{i}P \\ & \simeq H_{i-1} / H_{i-1} \cap (H_{i}P) \end{align}
となる. $H_{i-1} \cap (H_{i}P) \supset H_i$ が成り立つので, 自然な全射準同型
$$H_{i-1} / H_{i} \to H_{i-1} / H_{i-1} \cap (H_{i}P)$$
が存在するが, $H_{i-1} / H_{i}$ はアーベル群なので, その剰余群である $H_{i-1} / H_{i-1} \cap (H_{i}P)$ もアーベル群である. よって $\mathrm{Gal}(L / K)$ は可解群である.
(1:16:47~) 次は (2) $\Rightarrow$ (1) を示す. $\mathrm{Gal}(L / K)$ が可解群であることから, 部分群の列
$$\{1\} = H_t \subset \cdots \subset H_1 \subset H_0 = \mathrm{Gal}(L / K)$$
で, $H_i \triangleleft H_{i-1}$ かつ $H_{i-1} / H_i$ がアーベル群であるものが存在する.
(補足) $H_{i-1} / H_i$ を巡回群に取れることを示す. $L / K$ は有限次拡大なので, $H_{i-1} / H_i$ は有限群であり, 有限生成アーベル群の基本定理から, 正規部分群の列
$$\{1\} \triangleleft J_1 \triangleleft \cdots \triangleleft J_{s_i} \triangleleft H_{i-1} / H_i$$
で, $J_l / J_{l -1}$ が巡回群であるものが存在する. $\tau: H_{i-1} \to H_{i-1} / H_i$ を自然な全射準同型とすると, $H_{i} \subset \tau^{-1}(J_l) \subset H_{i-1}$ は正規部分群で, 群の同型定理 ([wiki] の定理3) から
\begin{align} \tau^{-1}(J_l) / \tau^{-1}(J_{l-1}) &\simeq (\tau^{-1}(J_l)/ H_{i}) / (\tau^{-1}(J_{l-1}) /H_i) \\ &= J_l / J_{l-1} \end{align}
となる. よって $H_i$ の列に $\tau^{-1}(J_l)$ 達を追加することで, 初めから $H_{i-1} / H_i$ を巡回群として良い. (補足終わり)
(1:17:46~) $N$ を $|H_{i-1} / H_i|$ の全ての倍数になるようにとり, $\zeta_N$ を $1$ の原始 $N$ 乗根として, $K_1 = K(\zeta)$ とおく. $F = K_1 L \subset \overline{K}$ とおくと, 推進定理より
\[ \xymatrix@=12pt{ & F \ar@{-}[rd] \ar@{-}[ld] & \\ K_1 \ar@{-}[rd] & & L \ar@{-}[ld] \\ & K_1 \cap L & } \]
$$G := \mathrm{Gal}(F / K_1) \simeq \mathrm{Gal}(L / K_1 \cap L) \subset H_0$$
となる. $H_0$ は可解群なので, その部分群である $G$ も可解である (部分群の列との共通部分を取れば良い. 一般に $H \supset G$, $H \triangleright N$ に対して, $n \in G \cap N$ かつ $g \in G$ ならば $gng^{-1} \in G \cap N$). $G_i = H_i \cap G$ とおくと, 部分群の列
$$H_0 \supset G \supset G_1 \supset \cdots \supset G_t = \{1\}$$
が得られる. $H_i \triangleleft H_{i-1}$ なので,
$$G_i = (H_i \cap G) \triangleleft (H_{i -1} \cap G) = G_{i-1}$$
となる. $G_{i-1}/G_i$ は $H_{i-1}/H_i$ の部分群とみなせ ($G_{i-1} \hookrightarrow H_{i-1}/ H_i$ の核は $G_i$ ) , $H_{i-1}/H_i$ は巡回群なので, $G_{i-1}/G_i$ も巡回群.
(1:23:19~) $G_i$ に対応する中間体を $K \subset F_i \subset F$ とする. このとき, $G_i \triangleright G_{i-1}$ なので, $F_i / F_{i-1}$ はガロア拡大である. $G_{i-1} / G_{i}$ は巡回群で, その位数は $N$ を割るので, 先ほどの命題から $F_i = F_{i-1}(\sqrt[n]{a})$ という形である. $L \subset F$ なので, $f(x)$ は冪根で解ける.
一般の 5 次方程式が冪根で解けないこと
$\mathfrak{S}_n$ は, $n \geq 5$ なら可解でないことが知られています (記事末尾で示します)。$x_1, \cdots, x_n$ を変数, $s_1, \cdots, s_n$ をその基本対称式として,
\begin{align}L = \mathbb{Q}(x_1, \cdots, x_n) \\ K = \mathbb{Q}(s_1, \cdots, s_n) \end{align}
とおくと、$L / K$ はガロア拡大で、$\mathrm {Gal}(L / K) = \mathfrak{S}_n$ となります (以前の講義で示されています)。
$$f(x) = (x-x_1) \cdots (x -x_n) = x^n -s_1 x^{n-1} + \cdots = 0$$
の解は $x_1, \cdots, x_n$ ですが, 定理から解の公式は存在しません (冪根では解けません)。今は変数の場合に示しましたが、$\mathbb{Q}$ 上の多項式で、ガロア群が $\mathfrak{S}_n$ になるものも存在します。よって解の公式がないだけでなく、具体的な方程式の中にも冪根で解けないものがあります。
(補足) 以下のPDFに $x^5 + ax +b = 0$ という形の 5 次方程式のガロア群についての記載があり、ガロア群が $\mathfrak{S}_5$ となる条件と例が載っています。
補足
拡大次数が 2 冪でも作図不可能な例
講義の冒頭で、$[K: \mathbb{Q}]$ が 2 冪でも作図できない場合があることを解説されていました。要約すると、4 次多項式 $f(x)$ の解の一つを $\alpha$ としたとき、$K = \mathbb{Q}(\alpha)$ とおくと $[K: \mathbb{Q}] = 4$ は 2 冪だが、$f(x)$ の最小分解体 $L$ の $\mathbb{Q}$ 上のガロア群が $\mathfrak{S}_4$ に一致する場合、$K$ と $\mathbb{Q}$ の間に 2 次拡大の列が存在しないので作図可能でない、ということでした。この話を正当化するには
- 実根 $\alpha$ を持つ $\mathbb{Q}$ 上の既約 4 次多項式 $f(x)$ で、$f(x)$ の最小分解体を $L$ としたとき $\mathrm{Gal}(L / \mathbb{Q}) = \mathfrak{S}_4$ となるものが存在する.
- $K = \mathbb{Q}(\alpha)$ としたとき、$\mathrm{Gal}(L / K) = \mathfrak{S}_3$ となる.
- $\mathfrak{S}_3$ と $\mathfrak{S}_4$ の間に部分群が存在しない.
を示す必要があります。$[K : \mathbb{Q}(\alpha)] = 4$ であることは以前示した命題からわかります。
(1) の条件を満たす既約 4 次多項式の例
$f(x) = x^4 -2 x -2$ が求めるものであることを示します。$f(0) = -2 < 0$, $f(2) = 10 > 0$ なので、$f(x)$ は実根を持ちます。アイゼンシュタインの判定法から、$f(x)$ は既約です。4 次多項式のガロア群については以前の講義で求め方を説明されているので、それに沿って求めます。一般に
$$f(x) = x^4 + a_1 x^3 + a_2 x^2 + a_3 x + a_4$$
に対して
\begin{align} g(y) &= y^3 + b_1 y^2 + b_2 y + b_3 \\ &= y^3 -a_2 y^2 + (a_1 a_3 -4a_4) y \\ & \qquad \quad -a_4(a_1^2 -4a_2) -a_3^2 \end{align}
\begin{align} h(z) &= z^2 +(b_1 b_2 -3 b_3) z \\ & \qquad + b_2^3 + 9b_3^2 -6b_1b_2 b_3 +b_1^3 b_3 \end{align}
がの両方が既約であれば、$f(x)$ のガロア群は $\mathfrak{S}_4$ に一致します。具体的に計算すると
\begin{align} g(y) &= y^3 + 8y -4 \\ h(z) &= z^2 + 12z + 656 \end{align}
となります。$g(y)$ が ($\mathbb{Z}$ 上) 可約ならば、一次因子を持ち、根は $\pm 1, \pm 2, \pm 4$ のいずれかになります。しかしいずれも $g(y)$ の根ではないため、$g(y)$ は既約です。$h(z)$ の既約性は、判別式
$$D = 12^2 -4 \cdot 656 = -2480 < 0$$
からわかります。これで $\mathrm{Gal}(L / \mathbb{Q}) \simeq \mathfrak{S}_4$ がわかりました。(プログラムで検算しているのでほぼ間違いないと思います。)
$\mathrm{Gal}(L / K) \simeq \mathfrak{S}_3$ であること
$\mathrm{Gal}(L / K) \subset \mathrm{Gal}(L / \mathbb{Q})$ で、拡大次数の関係から $|\mathrm{Gal}(L / K)| = 6$ です。$\mathfrak{S}_4$ の位数 $6$ の部分群が $\mathfrak{S}_3$ のみであることを示します。sylow の定理から $\mathrm{Gal}(L / K)$ は位数 $3$ の部分群 $G$ を持ちますが、ラグランジュの定理からそれは巡回群です。文字の順番を入れ替えて、$G = \langle (1 \ 2\ 3) \rangle$ とします。$G$ は $\mathrm{Gal}(L / K)$ の正規部分群なので、任意の $\sigma \in \mathrm{Gal}(L / K)$ に対して
$$\sigma (1 \ 2\ 3) \sigma^{-1} = (\sigma(1) \ \sigma(2)\ \sigma(3)) \in G$$
であり、$\sigma$ は $4$ を動かさないので $\mathrm{Gal}(L / K) \subset \mathfrak{S}_3$ がわかります。位数の関係で $\mathrm{Gal}(L / K) \simeq \mathfrak{S}_3$ です。
$\mathfrak{S}_3$ と $\mathfrak{S}_4$ の間に部分群が存在しないこと
$\mathfrak{S}_3 \subset G \subset \mathfrak{S}_4$ は、$\mathfrak{S}_3 \neq G$ ならば $G = \mathfrak{S}_4$ であることを示します。そのためには $G$ が互換 $(1 \ 4)$, $(2 \ 4)$, $(3 \ 4)$ を含むことを示せば良いですが、これらのうち一つを含めば、$\mathfrak{S}_3$ に含まれる互換による共役を取ることで他も含むことがわかるので、一つ含むことを示せば十分です。$\sigma \in G \setminus \mathfrak{S}_3$ とすると、$\sigma(4) \neq 4$ となります。$\tau = (\sigma(4) \ 4)$ とおくと $\sigma^{-1} \tau (4) = 4$ なので、$\sigma^{-1} \tau \in \mathfrak{S}_3$ です。よって
$$\tau = \sigma (\sigma^{-1} \tau)$$
は $\sigma$ と $S_3$ の元の積で表され、$\tau \in G$ となります。よって $G = \mathfrak{S}_4$ が示されました。
$\mathfrak{S}_n$ が可解であること $(n \leq 4)$
まずは $n \leq 4$ のときに $\mathfrak{S}_4$ が可解群であることを示します。$n = 1$ のときは明らかです。$n = 2$ のときは一つの互換のみで生成されるのでアーベル群、特に可解群です。
$n = 3$ のときは、まず巡回置換 $(1,2,3)$ で生成される部分群 $A_3$ はアーベル群なので $S_3$ の正規部分群となります。$S_3 / A_3$ の位数は $2$ なので、これはアーベル群です。よって部分群の列
$$\{1\} \subset A_3 \subset S_3$$
が存在し、$S_3$ は可解群です。
$n=4$ のとき、交代群 $A_4$ は $S_4$ の正規部分群です。これは対称群を、各行各列に $1$ が一つのみ、それ以外の成分は $0$ であるような $n \times n$ 行列で表すと、$\det: \mathfrak{S}_n \to \{\pm 1\}$ が準同型で、その核が $A_4$ であることからわかります。$S_4 / A_4 \simeq \mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z}$ はアーベル群で、$|A_4| = 12$ です。Klein の四元群 $N$ は $A_4$ の部分群であり、以前示した命題の証明中で示したように、$N \simeq \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z}$ なのでアーベル群、特に $N \triangleleft A_4$ です。また、$A_4 /N$ は位数が $3$ なので、ラグランジュの定理からアーベル群です。以上から
$$\{1\} \triangleleft N \triangleleft A_4 \triangleleft S_4$$
は $N$, $A_4 / N$, $S_4/ A_4$ がアーベル群なので、$S_4$ は可解群です。
$\mathfrak{S}_n$ が可解でないこと $(n \geq 5)$
群 $G$ は、その正規部分群が $\{1\}$ と $G$ のみであるとき、単純群といいます。$\mathfrak{S}_n$ が可解でないことは、$A_n$ が単純群であることから従います。まずはこれを仮定して、$\mathfrak{S}_n$ が可解でないことを示します。
定理. $\mathfrak{S}_n$ の非可解性 $(n \geq 5)$
$\mathfrak{S}_n$ は $n \geq 5$ のとき可解ではない.
(証明):
$\mathfrak{S}_n$ を可解群と仮定すると, その部分群である $A_n$ も可解群である. これは
$$\{1\} \subset G_1 \subset \cdots \subset G_t \subset \mathfrak{S}_n$$
に対して
$$\{1\} \subset G_1 \cap A_n \subset \cdots \subset G_t \cap A_n \subset A_n$$
を考えると, $G_i \cap A_n \to G_i / G_{i-1}$ の核が $G_{i-1} \cap A_n$ であることから
$$(G_i \cap A_n) / (G_{i-1} \cap A_n) \subset G_i / G_{i-1}$$
とみなせること, $G_i / G_{i-1}$ がアーベル群であることから $(G_i \cap A_n) / (G_{i-1} \cap A_n)$ もアーベル群となることから従う. これで $A_n$ が可解群であることがわかった.
ここで, 任意の正規部分群の列
$$\{1\} \subset H_1 \subset \cdots \subset H_s \subset A_n$$
に対し, $A_n$ が単純群であることから $H_s = \{1\}$ となる. よって $A_n / H_s = A_n$ はアーベル群である. 一方 $(1\ 2\ 3) = (1\ 2)(2\ 3)$, $(2\ 3\ 4)$ に対して
\begin{align} (1\ 2\ 3)(2\ 3\ 4) &= (1\ 2)(3\ 4) \\ (2\ 3\ 4)(1\ 2\ 3) &= (1\ 3) (2 \ 4) \\ & \neq (1\ 2\ 3)(2\ 3\ 4) \end{align}
なので, $A_n$ はアーベル群でない. よって矛盾. $\mathfrak{S}_n$ は可解群でない.
あとは残りの、$A_n$ が単純群であることを示します。
命題. $n \geq 5$ のとき $A_n$ は単純群
$A_n$ は $n \geq 5$ のとき単純群である.
(証明):
まずは $A_n$ が長さ 3 の巡回置換全体で生成されることを示す. $(i\ j\ k) = (i\ j)(j\ k)$ なので, 長さ 3 の巡回置換は $A_n$ に含まれる. 逆に 2 つの互換の積は, 長さ 3 の巡回置換で表される. 実際 $(i \ j)(k \ l)$ は, $k = j$ のとき
$$(i \ j)(j \ l) = \begin{cases}(i \ j \ l) & (l \neq i) \\ 1 & (l = i) \end{cases}$$
であり, $k \neq j$ のとき
\begin{align} (i \ j)(k \ l) &= (i \ j)(j \ k)(j\ k)(k \ l) \\ &= \begin{cases} (i \ j \ k)(j \ k \ l) & (k \neq i, j \neq l) \\ (j \ k \ l) & (k = i, j \neq l) \\ (i \ j \ k) & (k \neq i, j = l) \\ 1 & (k =i, j = l) \end{cases} \end{align}
と表される. よって $A_n$ は長さ 3 の巡回置換全体で生成される.
$H \subset A_n$ を $\{1\}$ でない正規部分群とする. このとき $H = A_n$ となるには, $H$ に少なくとも一つの長さ 3 の巡回置換を含めば良い. 実際, 例えば $(1\ 2\ 3) \in H$ とすると,
$$\tau = \left( \begin{array}{ccc} 1 & 2 & 3 \\ i & j & k \\ \end{array}\right)$$
に対して
$$\tau (1\ 2\ 3) \tau^{-1} = (i, j, k) \in H$$
なので, $H$ は全ての長さ 3 の巡回置換を含む. よって, $H = A_n$ を示すには, $H$ が長さ 3 の巡回置換を少なくとも一つ含むことを示せば良い.
$\sigma \in H$ を, 単位元以外の元で, 動かす文字数が最小のものをとする. $\sigma$ が長さ 3 の巡回置換であることを示す. $H$ は互換を含まないので, 動かす文字数は 3 以上である. 4 以上であるとして矛盾を導く. $\sigma$ に対して, $\sigma(1), \cdots, \sigma^i(1), \cdots$ を計算すると, どこかで $\sigma^l(1) = 1$ となる. 次に, $\{\sigma(1), \cdots \sigma^l(1)\}$ に含まれないものをとって同様に計算し, と繰り返すと, $\sigma$ は
$$\sigma = (1 \ \sigma(1) \ \cdots \ \sigma^l(1)) \cdots$$
と巡回置換の積に一意的に表される. 適当に番号を入れ替えて,
\begin{align}\sigma &= (1\ 2)(3 \ 4) \cdots \quad \textrm{または} \\ \sigma &= (1\ 2 \ 3 \cdots) \cdots\end{align}
と分解される. ただし, 上の分解は全て互換, 下の分解の最初の巡回置換は長さが 3 でも良い. このとき, $\tau = (3 \ 4\ 5) \in A_n$ に対して
\begin{align} \sigma^{\prime} &= \tau \sigma \tau^{-1} = (1\ 2)(4 \ 5) \cdots \\ \sigma^{\prime} &= \tau \sigma \tau^{-1} = (1\ 2 \ 4 \cdots) \cdots\end{align}
なので, 巡回置換の分解の一意性から, $\sigma \neq \sigma^{\prime}$ である. 従って $\rho = \sigma^{\prime} \sigma^{-1} \neq e$. $\rho$ の動かす文字数が $\sigma$ よりも小さいことを示せば, $\sigma$ の最小性に反するため矛盾する.
$i > 5$ に対して $\rho(i) = i$ は明らか. $\rho(1) = 1$ も明らか. $\sigma$ の巡回置換分解が互換のみで表される場合 (上の場合), $\rho(2) = 2$ なので, $\rho$ の動かす文字数は 3 文字. よってこの場合は矛盾. $\sigma$ の巡回置換分解が互換のみで表されない場合 (下の場合), $\sigma$ の $1$ を含む巡回置換の長さが 3 ならば, $\sigma$ は 5 文字以上動かす. $1$ を含む巡回置換の長さが 4 ならば, $(1 \ 2 \ 3 \ 4)$ は奇置換なので, $\sigma$ は 5 文字以上動かす. それ以外の場合も $\sigma$ は 5 文字以上動かすが, $\rho$ の動かす文字は 4 文字以下である. よってこちらの場合も矛盾する. よって $\sigma$ は長さ 3 の巡回置換であり, $\sigma \in H$ なので $H = A_n$ である.
以上で $A_n$ が単純群であることが示された.
参考文献
[wiki] Wikipedia. 同型定理.
[堀田] 堀田 良之. 可換環と体.