ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限

今回は、京都大学OCWで3回生向けに後期に行われたガロア理論の講義の第3回の内容の要約をします。この日は2限と3限の両方が講義だったようですが、まとめると長いので、この記事では2限の内容のみまとめます。

  1. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:目次
  2. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第1回(10月7日)
  3. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第2回(10月14日)
  4. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限 ←今回
  5. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限
  6. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第4回(10月28日)
  7. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第5回(11月4日)
  8. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第6回(11月11日)
  9. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第7回(11月18日)
  10. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第8回(12月2日)
  11. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)
  12. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)
  13. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第11回(1月6日)
  14. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第12回(1月13日)

補足 (00:00~ )

補足 1 : $A$ 上整な元 $\alpha$ に対して環 $A[\alpha]$ が有限生成 $A$ 加群であること

前回の講義の最後で、代数的な元 1つで生成された体の基底が定まるという命題を示しましたが、環上でも成り立つことを示します。

命題. (01:03 ~)

$A$ を可換環, $f(x) \in A[x]$ をモニックな多項式で, $\deg f(x) = n > 0$ とする. このとき,

$$\alpha = x + (f(x)) \in A[x] / (f(x))$$

とおくと, $A[x] / (f(x))$ は $\{1, \alpha, \cdots, \alpha^{n-1}\}$ が生成する自由 $A$ 加群である.

(証明の概略) : まず, $\{1, \alpha, \cdots, \alpha^{n-1}\}$ が $A[x] / (f(x))$ を生成することを示す. 任意の $g(x) \in A[x]$ に対して, $g(x)$ を $f(x)$ で割った余り $r(x)$ は $\deg r(x) < n$ を満たす ($f(x)$ がモニックなので割り算ができる)。よって

$$r(x) + (f(x)) \in A[x] / (f(x))$$

は $\{1, \alpha, \cdots, \alpha^{n-1}\}$ の一次結合で表される. 次に, $\{1, \alpha, \cdots, \alpha^{n-1}\}$ が一次独立であることを示す.

$$a_0 + a_1 \alpha + \cdots + a_{n-1} \alpha^{n-1} = 0$$

のときに, $a_0 = \cdots = a_{n -1} = 0$ であることを示せば良い. 上の等式が成り立つならば

$$a_0 + a_1 x + \cdots + a_{n-1} x^{n-1} \in (f(x))$$

なので, $q(x)f(x)$ とおくことができるが, $q(x)f(x)$ の最高次の次数を考えれば $q
(x) = 0$ であることがわかる。

(補足) : $f(x)$ がモニックのときに割り算ができることについて補足しておきます。

\begin{align} g(x) &= a_0 x^m + a_1 x^{m-1} + \cdots + a_m \\ f(x) &= x^n + b_1x^{n-1} + \cdots + b_n \end{align}

とおきます。このとき、($m > n$ として) $q_0(x) = a_0x^{m-n}$ とおくと

$$g(x) -q_0(x)f(x) = (a_1 -a_0b_1)x^{m-1} + \cdots$$

となります。次に、右辺の最大次の係数に着目して

$$q_1(x) = a_0x^{m-n} + (a_1 -a_0b_1)x^{m-n-1}$$

とおき、$g(x) -q_1(x)f(x)$ を計算して、と繰り返すことで

$$g(x) = q(x)f(x) + r(x) \quad \deg r(x) < \deg f(x)$$

を満たす $q(x), r(x)$ が構成できます。$\Box$

補足 2 : 代数的な元全体が体であること (10:50 ~)

以下の命題の前半部分は前回証明しましたが、後半の主張を補足します。

命題. (11: 00 ~)

$L/K$ を拡大体, $x, y \in L$ を $K$ 上代数的とする. このとき, $K(x, y)/K$ は代数拡大である. よって

$$M= \left\{x \in L \mid x \textrm{ は } K \textrm{ 上代数的 } \right\}$$

は $L/K$ の中間体である.

(証明の概略) : $M$ の元の和, 差, 積は $K$ 上代数的である. また, $K$ 上代数的な元の逆元は $K$ 上代数的である. よって $M$ は体である.$\Box$

補足 3 : 有限生成な代数拡大は有限次拡大 (14:33 ~)

命題. (14:39 ~)

拡大体 $L/K$ が有限生成で, かつ代数拡大ならば, 有限次拡大である.

(証明の概略) : $L = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_n)$ とおくと, $\alpha_i$ が $K$ 上代数的なので, $M_i = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_{i-1})$ 上代数的であり, $[M_i: M_{i-1}] < \infty$ から $[L:K] < \infty$.$\Box$

整拡大の概念を使うと (18:48 ~)

体上整であることと代数的であることは同じなので、これまで示したことは整拡大に関する事実を用いれば良かった、ということを紹介します。

たとえば、 $C/B$, $B/A$ が整ならば、$C/A$ が整であることを前期で示しています (この記事の末尾でも証明します)。これにより前回の講義で示した、代数拡大の代数拡大が代数拡大であるという命題が証明されます。

また、$B \supset A$ を拡大環とし、

$$C = \left\{b \in B \mid b \textrm{ は } A \textrm{ 上整 }\right\}$$

とおくと、$C\supset A$ で $C$ は $B$ の部分環となります (前期で示しています。この記事の末尾でも証明します)。これを用いて、先ほど (補足2で) 示した $L/K$ の $K$ 上代数的な元全体が体であることを証明することができます。示さないといけないことは、$A$ (と $B$) が体ならば $C$ も体であることですが、整拡大 $D/E$ において ($D$ が整域であるとき)、$E$ が体 $\Leftrightarrow$ $D$ が体であること (この記事の末尾でも証明します) を用いると、$B$ が体なので $C$ が整域、$A$ が体なので $C$ が体であることがわかります。

(補足) 講義では $C$ が整域であることについて言及していませんが、$C$ が整域であることは必要です。たとえば、$k$ を体、$k[\varepsilon] = k[x]/(x^2)$ とおくと、$\varepsilon^2 = 0$ なので $k[\varepsilon]$ は整域ではない (つまり体でもない) ですが、$\varepsilon$ は $k$ 上整なので $k[\varepsilon]/k$ は整拡大です。

(上記の議論での中で整拡大に関する事実が3つ使われています。これらはこの記事の末尾で証明します。)

(25:52 ~) 理論上は整拡大に依存しない形で展開することができますが、最小多項式を求める際には (前回紹介した) 整拡大に関する事実を用いた方が効率的です。ただし、既約性の判定は別途必要です。

体の拡大次数を求めるのが重要である理由 (27:59~ )

まとめるのが大変だったので省略します。

共役な元 (32:42 ~)

前回、$K$ が体で $f(x)$ が既約ならば、拡大体 $L/K$ と $\alpha \in L$ で、$f(\alpha) = 0$ となるものが存在することを示しました ($L = K[x] / (f(x))$)。(この主張は明示的には述べられていませんが、この命題が該当すると思われます。) これから、次のことが言えます。

命題. (35:16~ )

$K$ を体, $f(x) \in K[x] \setminus K$ をモニック多項式とする. このとき, ある拡大体 $L/K$ と $\alpha_1, \cdots, \alpha_n \in L$ が存在して

$$f(x) = (x -\alpha_1)\cdots (x -\alpha_n)$$

となる.

(証明の概略) : $f(x)$ を割り切る既約多項式 $g(x)$ が存在する. $g(x)$ の一つの根を $\alpha_1$ とし, $L_1 = K(\alpha_1)$ とおくと, $f(\alpha_1) = 0$ なので

$$f(x) = (x -\alpha_1)f_1(x)$$

と分解できる. $f_1(x) \in L_1[x]$ なので, これを繰り返せば良い.$\Box$

定義. 共役 (39:24 ~ )

$L, M \supset K$ を拡大体とし, $\alpha \in L$ を $K$ 上代数的とする. また, $f(x)$ を $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式とする. このとき, $\beta \in M$ で $f(\beta) = 0$ を満たすものが存在するなら, $\beta$ を $\alpha$ の $M$ における共役という.$\Box$

(追記 : 最小多項式は部分体 $K$ によるので, $\alpha$ に共役な元は $K$ にも依存します。なので、$\beta$ を $M$ における “$K$ 上の” 共役ということがあります。後の講義 (正規拡大のところ) では “$K$ 上” を明記しています。)

例. (40:59 ~)

$\alpha = \sqrt{2} \in \mathbb{Q}(\sqrt{2})$ とすると, $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式は

$$x^2 -2 = (x + \sqrt{2})(x -\sqrt{2})$$

で, $\beta = -\sqrt{2}$ は $\sqrt{2}$ の ($\mathbb{Q}(\sqrt{2})$ における) 共役である. $\alpha = \sqrt[3]{2} \in \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$ の例は (講義では 42:14 ~ 説明されているが) 省略する.$\Box$

補題. (43:50 ~)

$L, M \supset K$ を拡大体とし, $\alpha \in L$, $\varphi \in \operatorname{Hom}^{al}_K(L, M)$ ($K$ 準同型) とする. また $f(x) \in K[x]$ は $f(\alpha)$ を満たすとする. このとき, $f(\varphi(\alpha)) = 0$ が成り立つ. よって $\varphi(\alpha)$ は $\alpha$ の共役である.

(証明の概略) : $f(x)$ を

$$f(x) = x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n, \quad (a_i \in K)$$

とおくと,

$$f(\alpha) = \alpha^n + a_1 \alpha^{n-1} + \cdots + \alpha_n = 0$$

が成り立つ. $f(\alpha) \in L$ であり, $\varphi(f(\alpha)) = f(\varphi(\alpha)) = 0$ である. $f(x)$ が $\alpha$ の最小多項式ならば, $\varphi(\alpha)$ は $\alpha$ の共役である. $\Box$

命題. (47:50 ~)

$L/ K$ を拡大体, $\alpha \in L$ とし, $f(x)$ を $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式とする. このとき, $\beta \in L$ が $f(\beta) = 0$ を満たすなら, $f(x)$ は $\beta$ の $K$ 上の最小多項式でもある. さらに, $K$ 同型 $\varphi: K(\alpha) \to K(\beta)$ が存在する.

(証明の概略) : 前半の主張は前回の講義で示した. 後半は

$$K(\alpha) = K[\alpha] \simeq K[x]/(f(x)) \simeq K[\beta] = K(\beta)$$

から従う.$\Box$

代数閉包の構成 (53:25 ~)

代数閉包 (代数閉体では?) とは、$\mathbb{C}$ のように任意の多項式が根を持つような体のことです。代数閉包を考える理由は、たとえば $\sqrt[3]{2}$ の性質を調べるときに、共役な元 $\omega\sqrt[3]{2}, \omega^2 \sqrt[3]{2}$ $(\omega = e^{\frac{2}{3}\pi i} = \frac{-1 + \sqrt{-3}}{2})$ を全て含む体を考える方が都合が良いからです。

定義. 代数閉体, 代数閉包(55:49 ~)

$K$ を体とする. このとき

  1. 任意の $f(x) \in K[x]$ が $K$ で根を持つとき, $K$ を代数閉体
  2. $L/K$ が代数拡大で, $L$ が代数閉体であるとき, $L$ を $K$ の代数閉包

という.$\Box$

$\mathbb{C}$ は代数閉体です。これは講義では証明しませんが、代数学の基本定理と呼ばれ、基本的に解析的に証明されます。$\mathbb{R}$ 上の奇数次の多項式が実数根を持つことを利用して、ガロア理論とシローの定理を組み合わせて証明する方法もあります。

代数閉包の存在の間違った証明 (59:11 ~)

まずは代数閉包の存在の間違った証明をします。これを先に話しておくと、正しい証明でなぜそのようにするのかわかりやすくなると思います。

(間違った証明 (59:58 ~)): $X$ を $K$ の全ての代数拡大からなる集合とする. $L_1, L_2 \in X$ に対して, $L_1 / L_2$ が拡大体なら $L_1 \geq L_2$ と定める. このとき, $X$ は帰納的順序集合になる (任意の全順序部分集合 $X^{\prime}$ に対して $\bigcup_{L \in X^{\prime}} L$ が体になり, $K$ 上代数的になる? )。ツォルンの補題から $X$ の極大元 $L_{\max}$ が存在し, $L_{\max}$ は $K$ の代数閉包である. (そうでなければ $L_{\max}$ 上で根を持たない $K$ 上の多項式 $f(x)$ が存在し, その根 $\alpha$ による拡大は $L_{\max}(\alpha) \geq L_{\max}$ を満たす.) $\Box$

どこが間違っているかというと $X$ を集合をとしてしまっているところです。$X$ は一般には集合であるとは限りません。$K$ が代数閉体ではないとして、$X$ が集合なら矛盾することを示します。方針としては、$X$ が集合なら全ての集合を含む集合が作れることを示します。するとラッセルのパラドックスにより矛盾します。

($X$ が集合でないことの証明 (1:02:54~)) : $L / K$ を代数拡大とし, $x \in L \setminus K$ とする. 集合 $S$ を $S \not \subset L$ を満たすものとし, $s \in S \setminus L$ とする. ここで,

$$F = (L \setminus {x} ) \cup \{s\}$$

を考える. $\varphi: L \to F$ を

$$\varphi(y) = \begin{cases} y & (y \neq x) \\ s & (y = x)\end{cases}$$

と定めると, これは全単射である. $\varphi$ により $F$ に体の構造を入れることができ, $\varphi$ は $K$ 同型になる. よって $L /K$ が代数的ならば $F / K$ は代数的である. よって $F \in X$ である.

ここで

$$\mathcal{Y} = \bigcup_{F^{\prime} \in X} F^{\prime}$$

とおくと, $\mathcal{Y} \supset L$ であり, $S \not \subset L$ ならば $\mathcal{Y} \supset S$ となる. よって $\mathcal{Y}$ は全ての集合を含む. (ということは, 任意の集合 $T$ に対して $\mathcal{Y} \supset \{T\}$ であり, $T \in \mathcal{Y}$ である. ) $\Box$

代数閉包の存在の証明にはツォルンの補題が必要ですが、限定されたところで使わないとこのように矛盾がおきます。

(1:11:57 ~) なお、$\{X_i\}_{i \in I}$ に対して、それらを含む大きな集合が存在しなくても $\bigcup_{i \in I} X_i$ を集合と認めるのは、置換公理と呼ばれています。

(置換公理に関する補足) : (私が公理的集合論に関して詳しくないので間違いがある可能性がありますが、) ZF公理系には和集合の公理というのがあるので、$\bigcup_{i \in I} X_i$ が集合であることは和集合の公理により保証されます。置換公理が何かを説明するのは難しいですが (というか、私は理解していません)、その系である分出公理は理解しやすいので簡単に説明します。分出公理とは、集合 $A$ の中で、ある条件を満たすもの全体の集まりが集合である、つまり

$$\{x \in A \mid P(x)\}$$

のようなものが集合であることを保証するものです。ポイントは “集合 $A$ の中で” というところで、この条件を完全に無くしてしまうと、ラッセルのパラドックスが発生します。置換公理は分出公理に類する公理で、”集合 $A$ の中で” という条件を少し緩めたもののようです。詳しくはたとえば以下をご参照ください。

数学の基礎としての集合論 vs. 数学としての集合論

代数閉包の存在の正しい証明 (1:14:09 ~)

前述のようなことがあるので、限定された範囲でツォルンの補題を用いる必要があるが、ここでは濃度を証明を行います。

命題. (1:14:35 ~)

$L/K$ を代数拡大とする. このとき,

  1. $|K| < \infty$ ならば, $L$ は高々可算
  2. $|K| = \infty$ ならば, $|L| = |K|$

である.

(証明の概要) : $X_n$ を $L$ の元で, $K$ 上の (モニックな) $n$ 次多項式の根になるもの全体とする. このとき,

$$L = \bigcup_{n} X_n$$

が成り立つ. $K$ 上の (モニックな) $n$ 次多項式は $K$ の $n$ 個の元を用いて表され, それは高々 $n$ 個の根を持つので, $|X_n| \leq |\coprod_{n} K^n|$ となる ($\coprod_{n}$ は $n$ 個の直和). これは, $|K| < \infty$ なら高々有限, $|K| = \infty$ ならば $|K|$ の濃度と等しい (後で補足します). よって $|L|$ は, $|K|< \infty$ なら $|\mathbb{N} \times \mathbb{N}| = |\mathbb{N}|$ 以下, $|K| = \infty$ なら $|K \times \mathbb{N}| = |K|$ 以下となる.$\Box$

(濃度の演算に関する補足) : 上記の証明で、$|K| = \infty$ のとき

  1. $|K^n| = |K|$
  2. $|\coprod_{n} K| = |K|$
  3. $|\mathbb{N} \times \mathbb{N}| = |\mathbb{N}|$
  4. $|K \times \mathbb{N}| = |K|$

の4つの等式を用いています。(3) については $\mathbb{Q}$ が可算であることとほぼ同じです。(4) については、(1) を仮定すれば

$$|K| \leq |K \times \mathbb{N}| \leq |K \times K| = |K|$$

からわかります。(1), (2) の証明には、以下の記事によるとツォルンの補題を用いるようです。(私は証明を追っていません)

ツォルンの補題の応用 (I) ー濃度の和と積ー

集合の濃度については次回の講義で軽くおさらいしていますが、(1), (2) の証明はされていません。$\Box$

代数閉包の存在の証明は次回の講義で行うようです。

前期で証明された命題

ここからは前期ですでに示された (ため、後期の講義では省略された) 命題を証明します。

整拡大についての命題

証明は [H] を参考にしています。[H] では環の拡大を準同型 $\phi: A \to B$ が存在することとしていますが、ここでは $\phi$ が単射であることを仮定し、$A \subset B$ とみなします。環の拡大を体同様、$B / A$ と表すこととします。

命題の証明の前に少し準備します。$B$ が $A$ 加群として有限生成であるとき、$B$ は $A$ 上有限である、または $B$ は有限拡大であると言います。$B$ の元が全て $A$ 上整 (つまりあるモニック多項式の根になる) ならば、$B$ は $A$ 上整である、または $B$ は $A$ の整拡大であると言います。

ここで、「$x \in B$ が $A$ 上整 $\Leftrightarrow$ $A[x] \subset B$ が $A$ 上有限」が成り立ちます。($\Rightarrow$) は、$x$ が $A$ 係数モニック多項式の根であることから、ある $a_1, \cdots, a_n \in A$ が存在して

$$x^n + a_1x^{n-1} + \cdots + a_n = 0$$

となることを用いて $n$ 次以上の項の次数を落とすことで、$A[x]$ が ($A$ 加群として) $\{1, x, \cdots, x^{n-1}\}$ で生成されることがわかります。($\Leftarrow$) は Cayley-Hamilton の定理によります。$f: A[x] \ni y \mapsto xy \in A[x]$ とおくと、Cayley-Hamilton の定理より

$$f^n + a_1f^{n-1} + \cdots + a_n = 0 \quad (a_1, \cdots, a_n \in A)$$

が成り立ちます。これを $1 \in A[x]$ に作用させると

$$x^n + a_1x^{n-1} + \cdots + a_n = 0 \quad (a_1, \cdots, a_n \in A)$$

となり、$x$ が $B$ 上整であることがわかります。

これから、$A$ 上整な元 $x_1, \cdots, x_n$ で生成される $A$ 代数 $A[x_1, \cdots, x_n]$ は $A$ 上有限であることがわかります。実際、$A[x_1, \cdots, x_{n-1}]$ が $A$ 上有限 (つまり有限生成 $A$ 加群) であるとすると、$x_n$ は $A[x_1, \cdots, x_{n-1}]$ 上整でもあるので $A[x_1, \cdots, x_{n-1}][x_n]$ が $A[x_1, \cdots, x_{n-1}]$ 上有限であることがわかります。$A[x_1, \cdots, x_{n-1}]$ は $A$ 上有限なので

$$A[x_1, \cdots, x_{n-1}][x_n] = A[x_1, \cdots, x_n]$$

も $A$ 上有限になります。

それでは命題を証明していきます。

命題. 整な元全体は部分環をなす

$B / A$ を拡大環とし

$$C = \left\{b \in B \mid b \textrm{ は } A \textrm{ 上整 }\right\}$$

とおくと, $C\supset A$ で $C$ は $B$ の部分環となる.

(証明) : $C\supset A$ は明らか. 任意の $x, y \in C$ に対して $A[x, y]$ は $A$ 上有限なので, $x \pm y$, $xy \in A[x, y]$ は (例えば $f(z) = (x+y)z$ として) Cayley-Hamilton の定理から $A$ 上整である. よって $x \pm y$, $xy \in C$. $\Box$

命題.

$C /B$, $B /A$ が整拡大ならば, $C /A$ は整拡大である.

(証明) : $x \in C$ が $A$ 上整であることを示せば良い. $x$ は $B$ 上整なので, ある $b_1, \cdots, b_n \in B$ が存在して

$$x^n + b_1 x^{n-1} + \cdots + b_n = 0$$

を満たす. よって $x$ は

$$A^{\prime} = A[b_1, \cdots, b_n]$$

上整である. $A^{\prime}[x]$ は $A^{\prime}$ 上有限で, $A^{\prime}$ は $A$ 上有限なので, $A^{\prime}[x]$ は $A$ 上有限である. $A[x] \subset A^{\prime}[x]$ なので, 前期で証明された命題から $x$ は $A$ 上整である.$\Box$

命題.

$B/A$ を整拡大とする. $B$ が整域であるとき, $A$ が体であることと $B$ が体であることは同値である.

(証明) : $A$ が体 $\Rightarrow$ $B$ が体を示す. $0 \neq x \in B$ に対して $x^{-1} \in B$ を示せば良い. $x$ が $A$ 上整であることから

$$x^n + a_1 x^{n -1} + \cdots + a_n = 0 \quad (a_1, \cdots, a_n \in A)$$

を次数が最小の多項式関係とする. もし $a_n = 0$ ならば

$$x(x^{n-1} + a_1 x^{n-2} + \cdots + a_{n-1}) = 0$$

であり, $x \neq 0$, $B$ が整域であることから

$$x^{n-1} + a_1 x^{n-2} + \cdots + a_{n-1} = 0$$

となる. これは多項式関係の最小性に反するので, $a_n \neq 0$ である. よって

$$x \frac{-1}{a_n} (x^{n-1} + a_1 x^{n-2} + \cdots + a_{n-1}) = 1$$

から

$$x^{-1} = \frac{-1}{a_n} (x^{n-1} + a_1 x^{n-2} + \cdots + a_{n-1}) \in B$$

となり, $B$ が体であることがわかる.

逆に, $B$ が体 $\Rightarrow$ $A$ が体を示す. 任意の $0 \neq y \in A$ に対して $y^{-1} \in A$ を示せば良い. $A \subset B$ なので, $y \in B$ つまり $y^{-1} \in B$. よって $y^{-1}$ は $A$ 上整であり,

$$y^{-m} + b_1 y^{-m+1} + \cdots + b_m = 0 \quad (b_1, \cdots, b_m \in A)$$

が成り立つ. 両辺に $y^{m-1}$ をかけて整理すると

$$y^{-1} = -(b_1 + \cdots + b_my^{m-1}) \in A$$

となり, $A$ が体であることがわかる.$\Box$

次回

ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限

参考文献

[H] 堀田 良之. 可換環と体