今回は、京都大学OCWで3回生向けに後期に行われたガロア理論の講義の第4回の内容の要約をします。
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:目次
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第1回(10月7日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第2回(10月14日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第4回(10月28日)←今回
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第5回(11月4日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第6回(11月11日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第7回(11月18日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第8回(12月2日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第11回(1月6日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第12回(1月13日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第13回(1月20日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第14回(1月27日)
目次
分離拡大 (続) (00:09 ~)
前回分離拡大について話しましたが、標数が $0$ だったら全ての体の拡大は分離拡大になります。これは後ほど示します。ガロア理論でややこしいのは分離性の考察のところなので、標数 $0$ を仮定すればガロア理論は楽になりますが、この授業ではそういうわけにはいかないので、分離拡大を説明します。
復習と問題提起 (01:01 ~)
$L / K$ を代数拡大、$\alpha \in L$ とし、$f(x)$ を $\alpha$ の最小多項式とします。$f(x)$ が重根を持たないとき、$\alpha$ を分離的と言いました。
このとき、$K(\alpha)$ の任意の元が分離的かどうかは自明ではありません。これは代数的な元に関しても同様でしたが、代数的な元の場合は $K(\alpha)$ が $K$ ベクトル空間として有限次元であることを用いて示されました。よって、$K(\alpha)$ の任意の元は分離的か?という疑問が生まれます。これが非自明な理由は、最小多項式が $\alpha$ に依存していて、それを用いて定義されているからです。
このような場合は、$\alpha$ に関する性質を、$K(\alpha)$ に関する性質で言い換えることができれば、その疑問に答えやすいです。今回の主な内容は、分離性を体の言葉で表すことです。
多項式の分離性について (05:17 ~)
先週の講義で、一つ多項式を与えて、それが分離的でない素数を求める例を説明しましたが、その前にある系の証明を飛ばしていました。先週の講義で、$\alpha \in \overline{K}$ が $f(\alpha) = 0$ を満たすとき、$\alpha$ が $f(x)$ の重根であることと、$f^{\prime}(\alpha) = 0$ であることが同値であることを示しました。以下はその系になります。
系. (07:22 ~)
$K$ を体とする. 任意の $f(x) \in K[x]$ に対し, 以下の条件
- $f(x)$ は重根を持たないこと.
- $f(x)$ と $f^{\prime}(x)$ は互いに素であること.
は同値である.
(証明の概要) : (1) $\Rightarrow$ (2) は, $f(x)$ と $f^{\prime}(x)$ が互いに素でないとし, $g(x)$ をその共通因子とすると, ある $\alpha \in \overline{K}$ が存在して $g(\alpha) = 0$ となることから, $f(\alpha) = f^{\prime}(\alpha) = 0$ となり, $f(x)$ が重根を持つことからわかる. (2) $\Rightarrow$ (1) は, $K[x]$ が PID なので (ベズーの等式、またはユークリッド環であることと互除法から),
$$a(x)f(x) + b(x)f^{\prime}(x) = 1$$
を満たす $a(x), b(x) \in K[x]$ が存在する. これに $f(\alpha) = 0$ を満たす $\alpha$ を代入すれば良い.$\Box$
以下の命題から、標数 $0$ の場合、任意の代数拡大が分離拡大であることがわかります。
命題. 既約多項式が重根を持つ条件 (11:48 ~)
$K$ を体とし, $f(x) \in K [x]$ を既約多項式とする. このとき, 以下の 3 つは同値である.
- $f(x)$ が重根を持つ.
- $f^{\prime}(x) = 0$.
- $\mathrm{ch} K = p > 0$ であり, ある $n > 0$ と既約 (かつ分離) 多項式 $g(x) \in K[x]$ が存在し, $f(x) = g(x^{p^n})$ となる.
((58:26 ~) $g(x)$ が分離的であるという条件が抜けていたことが訂正される)
(証明の概略) : (1) $\Rightarrow$ (2) を示す. $f(x)$ が重根を持つので, $f(x)$ と $f^{\prime}(x)$ は共通根 $\alpha$ を持つ. $f(x)$ (モニックと仮定しない) の定数倍は最小多項式なので, $f^{\prime}(x)$ は $f(x)$ で割り切れる. $\deg (f(x)) > \deg (f^{\prime}(x))$ なので, $f^{\prime}(x) = 0$.
(2) $\Rightarrow$ (1) は, $f(\alpha) = f^{\prime}(\alpha) = 0$ であることと前回示した命題から明らか.
(2) $\Rightarrow$ (3) を示す. $f(x) = \sum_{i=0}^n a_i x^i$ とおけば, $f^{\prime}(x) = \sum_{i=1}^{n} ia_i x^{i-1}$. $f^{\prime}(x) = 0$ は任意の $i$ に対して $i a_i = 0$ を意味するが, $a_i \neq 0$ となる $i$ に対しては $i = 0$ でなければならない. よって $\mathrm{ch} K > 0$ である. $\mathrm{ch} K = p$ とおくと, $a_i \neq 0$ となる $i$ に対して $p | i$ ($i$ は $p$ で割り切れる) でなければならない. よって $f(x) = \sum_{j}^n a_{pj} x^{pj}$ と表される. $g(x) = \sum_{j}^n a_{pj} x^{j}$ とおけば, $f(x) = g(x^p)$. $g(x)$ が既約でないならば, $g(x) = h_1(x)h_2(x)$ と表され, $f(x) = h_1(x^p)h_2(x^p)$ となるが, $f(x)$ が既約なので $g(x)$ も既約. $g(x)$ が重根を持つとき, 同様の操作を繰り返すと, ある $h(x)$ が存在して $f(x) = g(x^p) = h((x^p)^p) = h(x^{p^2})$ となる. (58:26 ~) これを繰り返せば, 次数が減っていくのでどこかで重根がなくなる.
(3) $\Rightarrow$ (2) を示す. $f(x) = g(x^{p^n})$ なので,
$$f^{\prime}(x) = g^{\prime}(x^{p^n}) \cdot (x^{p^n})^{\prime} = g^{\prime}(x^{p^n}) \cdot p^n x^{p^n -1} = 0$$
最後の等式は ($K$ において) $p = 0$ から導かれる.$\Box$
例 1 (分離拡大でない例). (24:56~)
$p > 0$ を素数とする. $K = \mathbb{F}_p(t)$, $L = \mathbb{F}_p(\sqrt[p]{t})$ とする. $L /K$ は拡大体である. 実は $x^p -t$ は既約で (従って $\sqrt[p]{t}$ の $K$ 上の最小多項式) (次の命題で示します), $(x^p -t)^{\prime} = 0$ なので, $\sqrt[p]{t}$ は $K$ 上分離的でない.$\Box$
例 2 (分離拡大の例). (27:59~)
$f(x) = x^p -x -a \in K [x]$ とし, $\mathrm{ch} K = p > 0$ とする. $f^{\prime}(x) = -1 \neq 0$ なので, $f(x), f^{\prime}(x)$ は共通根を持たない. よって $f(x)$ は分離多項式. (既約性は不明)$\Box$
命題. (非分離的な最小多項式) (30:30 ~)
$K$ を体とし, $\mathrm{ch}K = p > 0$ とする. $L /K$ を拡大体, $\alpha \in L \setminus K$ とし, $q = p^N$ $(N > 0)$ に対して $a^q \in K$ かつ $a^{p^{N-1}} \notin K$ が成り立つとする. このとき, $t = a^q$ とおくと, $f(x) = x^q -t$ は $\alpha$ の最小多項式である. よって $\alpha$ は非分離的である.
(証明の概略) : $p > 0$ なので, $(a +b)^q = a^q + b^q$. よって (符号に注意して)
$$(x -\alpha)^q = x^q -\alpha^q = x^q -t$$
となる. $\alpha$ は $(x -\alpha)^q$ の根なので, $\alpha$ の最小多項式は $(x -\alpha)^n$ という形になる. $n < q$ と仮定し, $n = p^i m$ ($p$ と $m$ は互いに素) とおく. このとき, $p^i < q$ (つまり $i < N$) である. $(x -\alpha)^n$ を展開すると
\begin{align}(x -\alpha)^n &= \left( (x -\alpha)^{p^i}\right)^m = (x^{p^i} -\alpha^{p^i})^m \\ &= x^n -m a^{p^i} x^{(m-1) p^i} +\cdots \end{align}
となる. $x^{(m-1) p^i}$ の係数 $-m a^{p^i}$ を見ると, $m \in \mathbb{F}_p^{\times} \subset K^{\times}$ なので $-m \neq 0$, $a^{p^i}$ は仮定から $a^{p^i} \notin K$ であるので (もし $a^{p^i} \in K$ ならば, $(a^{p^i})^p = a^{p^{i+1}} \in K$ となる) $-m a^{p^i} \notin K$. よって $n < q$ のとき, $(x -\alpha)^n$ は最小多項式ではない.$\Box$
この命題により, 先ほどの例. 1 の $x^p -t$ が既約であることがわかります。
有限体が完全体であること (40:08~)
標数 0 の体が完全体 (任意の代数拡大が分離拡大であること) は 命題. 既約多項式が重根を持つ条件 からわかりましたが、正標数でも、有限体は完全体であることを示します。
体 $K$ に対して
$$K^{p^{-1}} := \{\alpha \in \overline{K} \mid \alpha^p \in K\}$$
と定義します。このとき、次の命題が成り立ちます。
命題. (40:55 ~)
$K$ を体とする. このとき, 以下の2つは同値である.
- $K$ は完全体
- $\mathrm{ch} K = 0$ または $\mathrm{ch}K = p>0$ かつ $K^{p^{-1}} = K$
(証明の概略) : (1) $\Rightarrow$ (2) を示す. $\mathrm{ch}K = p>0$ かつ $K^{p^{-1}} \setminus K \neq \varnothing$ とする. このとき, $\alpha \in \overline{K} \setminus K$, $\alpha^p \in K$ が存在する. このとき, $x^p -\alpha^p \in K[x]$ は既約で, $\alpha$ は非分離的なので, $K$ は完全体でない.
(2) $\Rightarrow$ (1) を示す. $\mathrm{ch} K = 0$ なら, 全ての既約多項式は分離的なのでOK. $\mathrm{ch} K = p > 0$ とする. 既約多項式 $f(x) \in K[x]$ が重根を持つとする. このとき, ある既約多項式 $g(x)$ と $q = p^N$ が存在し, $f(x) = g(x^q)$ となる. $g(x) = \sum_{i = 0}^m a_i x^i$ とおくと, $K^{p^{-1}} = K$ から, $a_i = b_i^p$ となる $b_i \in K$ が存在する. $h(x) = g(x^p)$ とおけば, $f(x) = h(x^{p^{N-1}})$ なので, $h(x)$ が可約であれば $f(x)$ も可約となる. ここで
$$h(x) = \sum_{i=0}^m b_i^p x^{pi} = \left(\sum_{i=0}^m b_i x^i \right)^p$$
なので $h(x)$ が可約であり, $f(x)$ が既約であることに反する. よって $f(x)$ は重根を持たない.$\Box$
系. (51:05 ~)
任意の有限体は完全体である.
(証明) : $\mathrm{ch} K = p > 0$, $|K| < \infty$ とする. フロベニウス準同型
$$\mathrm{Frob}_p: K \ni x \mapsto x^p \in K$$
は準同型なので単射. $|K| < \infty$ なので $\mathrm{Frob}_p$ は全射でもある. よって $K = K^{p^{-1}}$.$\Box$
純非分離拡大 (56:04 ~)
命題. (56:16 ~)
$L /K$ を代数拡大とし, $\mathrm{ch}K = p > 0$ とする. このとき, 以下は同値.
- $L /K$ は純非分離拡大.
- 任意の $\alpha \in L$ に対して, ある $n \geq 0$ が存在して $\alpha^{p^n} \in K$
(証明の概要) : (2) $\Rightarrow$ (1) を示す. $\alpha^{p^n} \in K$ を満たす最小の $n$ を $n_0$ とすれば, 前に示した命題から, $x^{p^{n_0}} -\alpha^{p^{n_0}}$ は $\alpha$ の最小多項式. $n_0 = 0$ なら元々 $\alpha \in K$ なので, $\alpha \in L \setminus K$ ならば $n_0 > 0$ である. このとき $x^{p^{n_0}} -\alpha^{p^{n_0}}$ は重根を持つ.
(1) $\Rightarrow$ (2) を示す. $\alpha \in L \setminus K$ の最小多項式 $f(x)$ は, 分離多項式 $g(x)$ と $n \geq 0$ が存在して $f(x) = g(x^{p^n})$ と表される. $g(\alpha^{p^n})$ で $g(x)$ は既約なので, $g(x)$ は $\alpha^{p^n}$ の最小多項式である. このとき $\deg g(x) > 1$ ならば $\alpha^{p^n} \in L \setminus K$ は分離的なので, $\deg g(x) = 1$ でなければならない. よって $g(x) = x -\alpha^{p^n}$ であり, $\alpha^{p^n} \in K$.$\Box$
[注意] $K /K$ は純非分離拡大とみなします。
共役に関する補足 (1:06:17~)
命題. (1:06:35 ~)
$L /K$ を代数拡大とし, $\alpha \in L$ とする. このとき, 次の2つは同値である.
- $\beta \in \overline{K}$ は $\alpha$ の共役.
- ある $K$ 準同型 $\varphi: L \to \overline{K}$ が存在し, $\varphi(\alpha) = \beta$
(証明の概要) : (2) $\Rightarrow$ (1) はすでに別の命題で示している. (1) $\Rightarrow$ (2) を示す. $f(x)$ を $\alpha$ の最小多項式とすると, $f(x)$ は $\beta$ の最小多項式でもある. よって
$$K(\alpha) = K[\alpha] \simeq K[x]/(f(x)) \simeq K[\beta] = K(\beta)$$
から, $K$ 同型 $\rho: K(\alpha) \to K(\beta)$ で, $\rho(\alpha) = \beta$ を満たすものが存在する. $K \subset K(\alpha) \subset L \subset \overline{K}$ かつ $K \subset K(\beta) \subset \overline{K}$ なので, 別の命題で示した通り, $\rho$ は $K$ 同型 $\psi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(\overline{L}, \overline{K})$ に拡張できる. これを $L$ に制限すれば良い.$\Box$
分離的な元で生成された体は分離拡大である (1:14:08 ~)
補題. (1:14:21 ~)
$L / K$ を有限次拡大, $\overline{K} \supset L \supset M \supset K$ とし, 全ての $\phi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})$ に対し, その拡張 $\overline{\phi} \in \operatorname{Aut}_K^{al}(\overline{K})$ を一つ固定する. このとき,
$$\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K}) \times \operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K}) \ni (\psi, \phi) \mapsto \overline{\phi} \circ \psi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$$
は全単射であり, よって
$$|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = |\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})| \times |\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})|$$
が成り立つ.
(証明の概略) : $\lambda \in \operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ とする. このとき $\lambda |_M = \phi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})$. $\psi = {\overline{\phi}}^{-1} \circ \lambda$ とおくと, 任意の $\alpha \in M$ に対して $\psi(\alpha) = \alpha$ なので $\psi \in \operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})$. このとき, $\lambda = \overline{\phi} \circ \psi$. よって全射.
また, 上記の対応 $\lambda \mapsto ({\overline{\phi}}^{-1} \circ \lambda, \lambda|_M)$ は逆写像になる. 実際, 任意の $(\psi, \phi)$ に対して, $\overline{\phi} \circ \psi |_M = \phi$ であり(任意の $\alpha \in M$ に対して $\psi(\alpha) = \alpha$ なので $\overline{\phi} \circ \psi(\alpha) = \overline{\phi}(\alpha) = \phi(\alpha)$ となる), ${\overline{\phi}}^{-1} \circ(\overline{\phi} \circ \psi) = \psi$ が成り立つ. $\Box$
何をしたいかというと, $\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ の元がどれだけあるかによって分離性を判断したいです。$|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})|$ は拡大次数以下になりますが、拡大次数と一致するときに分離的であることを示します。その時に $L$ の生成元の個数に対する帰納法を使いたいので、$\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ を分解して考えたいです。($\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})$ は $M$ を固定する $K$ 準同型、$\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})$ は $M$ に関する $K$ 準同型なので、綺麗に分かれています。)
次回
参考文献
無し