今回は、京都大学OCWで3回生向けに後期に行われたガロア理論の講義の第5回の内容の要約をします。
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:目次
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第1回(10月7日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第2回(10月14日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第4回(10月28日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第5回(11月4日)←今回
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第6回(11月11日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第7回(11月18日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第8回(12月2日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第11回(1月6日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第12回(1月13日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第13回(1月20日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第14回(1月27日)
目次
分離拡大 (続2) (00:08~)
前回の復習 (00:08~)
前回は以下のことを示しました。
補題. (00:24 ~)
$L \supset M \supset K$ を代数拡大とする. このとき,
$$|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = |\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})| \times |\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})|$$
が成り立つ. $\Box$
今は、分離的な元で生成された体は分離拡大であることを示そうとしています。そのために元の性質を、その元で生成された体の性質で言い換えたいです。分離的であるという性質を、代数閉包への準同型の数で特徴づける、ということをやります。
分離的な元で生成された体は分離拡大である (続) (02:34~)
補題. (02:43 ~)
$L / K$ を代数拡大とし, 一つの元 $L \in \alpha$ により生成されている, つまり $L = K(\alpha)$ とする. このとき
- $\alpha$ が $K$ 上分離的なら $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = [L:K]$
- $\alpha$ が $K$ 上分離的でないなら $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| < [L:K]$
が成り立つ.
(証明の概略) : $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式を $f(x)$ とおく. $L \subset \overline{K}$ とみなせば
$$f(x) = (x -\alpha_1) \cdots (x -\alpha_n) \quad (\alpha_1 = \alpha, \alpha_2, \cdots ,\alpha_n \in \overline{K})$$
となる. このとき, $[L : K] = n$.
(1) を示す. $\alpha$ が分離的なら, $\alpha_1, \cdots, \alpha_n$ は全て異なる. 以前示した命題から, 任意の $i$ に対して $\varphi_i(\alpha) = \alpha_i$ を満たす $\varphi_i \in \operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ が存在する. よって $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| \geq n$. 逆にもし $\varphi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ ならば, 以前示した命題から, $f(\varphi(\alpha)) = 0$. よって $\varphi(\alpha) = \alpha_i$ となる $i$ が存在する. $L = K(\alpha)$ なので, $\varphi$ は $\alpha$ の行き先のみで決まるので, $\varphi = \varphi_i$. よって $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = n$.
(2) は, (1) の証明での議論と $\alpha_i = \alpha_j$ となる $i, j$ が存在することからわかる. $\Box$
(12:11 ~) この補題は、論理的に考えれば逆も成り立ちます。つまり $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = [L:K]$ ならば $\alpha$ は分離的, $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| < [L:K]$ ならば $\alpha$ は分離的でないことがわかります。
定理. (19:18 ~)
$L / K$ を有限次拡大とする. このとき,
- $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| \leq [L:K]$
- $L / K$ が分離的であることと, $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = [L:K]$ が成り立つことは同値である
が成り立つ.
(証明の概要) : (1) を示す. $L = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_r)$ とかける. $L_i = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_i)$ とおく ($L_0 = K$). 前回示した補題と一つ前の補題から,
\begin{align} |\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| &= \prod_{i=1}^{r-1}|\operatorname{Hom}_{L_{i-1}}^{al}(L_i, \overline{K})|\\ & \leq \prod_{i=1}^{r-1} [L_i: L_{i-1}] \\ & = [L : K] \end{align}
が成り立つ.
(2) を示す. $L / K$ が分離的なら, $\alpha_i$ は $L_{i-1}$ 上分離的 (最小多項式が重根を持たない). よって
$$|\operatorname{Hom}_{L_{i-1}}^{al}(L_i, \overline{K})| = [L_i: L_{i-1}]$$
なので等号が成り立つ. 逆に, $|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = [L:K]$ とする. このとき, $\alpha \in L$ に対して $M = K(\alpha)$ を考えると,
\begin{align} [L: K] &= |\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| \\ &= |\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})| |\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})| \\ & \leq [M: K][L: M] \end{align}
となる. ここで $[L: K] = [M: K][L: M]$ なので, $|\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})| = [M : K]$ でなくてはならない. よって $\alpha$ は $K$ 上分離的.$\Box$
これで、体の性質 ($|\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = [L:K]$) で分離性を表すことができました。
系. (36:07 ~)
$L \supset M \supset K$ とし, $L / M$, $M / K$ は分離代数拡大とする. このとき, $L / K$ も分離代数拡大である.
(証明の概略) : $[L : K] < \infty$ とする. このとき,
$$ |\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| = |\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})| |\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})|$$
が成り立つ. $\overline{M} \simeq \overline{K}$ なので, $|\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})| = |\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{M})|$. $M / K$ が分離的なので, $|\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})| = [M : K]$, $L / M$ が分離的なので, $|\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{M})| = [L : M]$. よって $|\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})| = [L : K]$ となり, $L / K$ は分離的.
$[L : K ] = \infty$ のとき, $\alpha \in L$ に対して
$$f(x) = x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n \quad (a_i \in M)$$
を $\alpha$ の $M$ 上の最小多項式とする. $F = K(a_1, \cdots, a_n)$ とおくと, $F / K$ は代数拡大なので $[F: K] < \infty$. $[F(\alpha): F] = n < \infty$ から, $[F(\alpha): K] < \infty$. $F \subset M$ なので, $F$ の任意の元は $K$ 上分離的, つまり $F / K$ は分離的. また, $L / M$ が分離的なので, $f(x)$ は重根を持たない, つまり $F(\alpha) / F$ は分離的. よって $[F(\alpha): K] < \infty$ かつ $F(\alpha) / F$, $F / K$ が分離的なので, $F(\alpha)$ は $K$ 上分離的, 特に $\alpha$ は $K$ 上分離的.$\Box$
系. (45: 38 ~)
$L / K$ を代数拡大とする. $L = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_n)$ で, $\alpha_1, \cdots, \alpha_n$ が $K$ 上分離的ならば, $L / K$ は分離的.
(証明の概略) : $L_i = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_i)$, $(L_0 = K)$ とおくと, $\alpha_i$ は $L_{i-1}$ 上分離的なので, $|\operatorname{Hom}_{L_{i-1}}^{al}(L_i, \overline{K})| = [L_i : L_{i-1}]$, つまり $L_i/L_{i-1}$ は分離的. よって $L / K$ は分離的.$\Box$
分離閉包 (48:58 ~)
定義. 分離平方 (49:16 ~)
$L / K$ を代数拡大とする. このとき,
$$L_S = \{\alpha \in L \mid \alpha \textrm{ は } K \textrm { 上分離的} \}$$
と定義し, $L$ における $K$ の分離閉包 (separable closure) という. $L = \overline{K}$ の場合, $K^S$ と書き, 単に $K$ の分離閉包という.$\Box$
一般的には、$K^S$ を $K^{sep}$, $K_{sep}$, $K_S$ と書く場合もあります。
命題. (52:10~)
$L / K$ を代数拡大とする. このとき $L_S$ は中間体で, $L / L_S$ は純非分離拡大である. ($L = L_S$ の場合も純非分離拡大とする.)
(証明の概要) : $L_S$ が体であることを示す. $\alpha, \beta \in L_S \setminus \{0\}$ に対して, $K(\alpha, \beta) / K$ は分離拡大. よって $\alpha \pm \beta$, $\alpha \beta$, $\frac{\alpha}{\beta} \in L_S$. 従って $L_S$ は体. 中間体であることは明らか.
$\mathrm{ch} K = 0$ のときは $L_S = L$ なので, $\mathrm{ch} K = p > 0$ とする. $L \setminus L_S \neq \varnothing$ とする. 前回示した命題から, $L / L_S$ が純非分離拡大であることを示すには, 任意の $\alpha \in L \setminus L_S$ に対して $\alpha^{p^n} \in L_S$ となる $n \geq 0$ が存在することを示せば良い. $\alpha$ は $K$ 上非分離的なので, 前回示した (別の) 命題から, 既約分離多項式 $g(x) \in K[x]$ と $n \geq 0$ が存在して, $g(\alpha^{p^n}) = 0$ を満たす. $g(x)$ は分離多項式なので, $\alpha^{p^n} \in L_S$. $\Box$
分離次数 (58:04~)
定義. 分離次数 (58:11 ~)
$L / K$ を代数拡大とする. このとき
$$[L : K]_S = [L_S: K]$$
と定義し, 分離次数という. また,
$$[L : K]_i = \frac{[L: K]}{[L:K]_S}$$
を非分離次数という. $\Box$
例. (59:24 ~ )
$K = \mathbb{F}_2(t)$, $L = \mathbb{F}_2(s)$ とし, $t = s^6$ を満たすとする. このとき, $[L: K] = 6$ である. なぜなら, $\mathbb{F}_2[t] \subset K$ は UFD で $t$ は素元 ($(t)$ は $\mathbb{F}_2[t] / (t) = \mathbb{F}_2$ なので極大イデアル) であり,
$$f(x) = x^6 -t \in \mathbb{F}_2[t][x]$$
は $f(s) = 0$ を満たし, アイゼンシュタイン多項式なので, $f(x)$ は $s$ の $K$ 上の最小多項式になるからである.
ここで $s^2 = u$ とおくと, $u$ は $g(x) = x^3 -t$ の根である. $g(x)$ もアイゼンシュタイン多項式なので $K$ 上既約. さらに,
$$g^{\prime}(x) = 3x^2 = x^2 \neq 0$$
なので分離的. よって $u \in L_S$ で, $[K(u):K] = 3$. もし $s \in K(u)$ であれば $K(u) = L$ であり, $[K(u):K] = [L:K] = 6$ となってしまうので, $s \notin K(u)$. さらに, $s$ は
$$h(x) = x^2 -u \in K[u][x]$$
の根であるが, $h(x)$ は次数の関係で最小多項式であり, 分離的である. よって $s$ は $K(u)$ 上分離的. これで $K(u) \subset L_S \neq L$ がわかった.
もし $K(u) \neq L_S$ なら, $[L_S : K(u)] \geq 2$ なので
$$[L_S: K] = [L_S: K(u)][K(u): K] \geq 6$$
となり, $L_S \neq L$ に矛盾する. よって $L_S = K(u)$. 以上から, $[L :K]_S = 3$, $[L:K]_i = 2$ となる.$\Box$
命題. (1:07:40 ~)
$L / K$ を有限次拡大とする. このとき
- 代数拡大 $F / L$ が純非分離的ならば, $\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ の元は $\operatorname{Hom}_K^{al}(F, \overline{K})$ の元に一意的に延長できる.
- $[L: K]_S = |\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})|$ が成り立つ.
となる.
(証明の概略) : $\mathrm{ch} K = 0$ のときは明らか. $\mathrm{ch} K = p > 0$ とする. (1) を示す. 延長できることは代数閉包の一意性の証明での構成と同様にできる. 一意性に関しては, $\phi \in \operatorname{Hom}_K^{al}(F, \overline{K})$ が $\phi|_L$ で定まることを確認すれば良い. $F/L$ が純非分離拡大なので, 任意の $\alpha \in F$ に対してある $n \geq 0$ が存在して, $\beta = \alpha^{p^n} \in L$ となる. このとき
$$\phi(\beta) = \phi(\alpha^{p^n}) = \phi(\alpha)^{p^n}$$
となるが, Frobenius 準同型 $\mathrm{Frob}_{p^n}: F \to F$ が単射であることから, これを満たす $\phi(\alpha)$ は $\phi(\beta)$ から一意的に定まる. $\beta \in L$ なので, $\phi$ は $\phi|_L$ から一意的に定まる.
(2) を示す. $L / L_S$ は純非分離拡大なので, (1) より
\begin{align} |\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})| &= |\operatorname{Hom}_K^{al}(L_S, \overline{K})| \\ &= [L_S : K] \\ &= [L:K]_S \end{align}
となる. $\Box$
(1:15:47 ~) 上の命題の (2) から、$L \supset M \supset K$ が代数拡大のとき
\begin{align} [L: K]_S &= |\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})|\\ &= |\operatorname{Hom}_M^{al}(L, \overline{K})| \times |\operatorname{Hom}_K^{al}(M, \overline{K})| \\ &= [L: M]_S [M : K]_S \end{align}
が成り立ちます。拡大次数については $[L: K] = [L : M][M : K]$ なので、非分離次数についても
$$[L: K]_i = [L : M]_i[M : K]_i$$
が成り立つ.
例. $\operatorname{Hom}_K^{al}(L, \overline{K})$ がどれだけあるか (1:17:39 ~)
$K = \mathbb{Q}$, $d \neq 1$ を平方因子を持たない整数とする ($2$ 以上のどの整数の2乗でも割り切れない). $L = \mathbb{Q}(\sqrt{d}) \subset \overline{\mathbb{Q}}$ とする. ある素数 $p$ が存在し, $p | d$ ($d$ は $p$ で割り切れる) か, $d = -1$ のどちらかである. $\sqrt{-1} \notin \mathbb{Q}$ かつ, ある素数 $p$ が存在し, $p | d$ であるとき, $\sqrt{d} \notin \mathbb{Q}$ である (もし $\sqrt{d} \in \mathbb{Q}$ ならば, 互いに素な整数 $a, b$ が存在して $a / b = \sqrt{d}$ となる. このとき $a^2 / b^2 = d$ となる. よって $b = \pm 1$. $d$ は $p$ で割り切れるので, $a^2$ も $p$ で割り切れるが, このとき $a$ が $p$ で割り切れるので, $d$ は $p^2$ で割り切れる. 矛盾. ) ので, $\sqrt{d} \notin \mathbb{Q}$.
一方, $(\sqrt{d})^2 = d \in \mathbb{Q}$ なので, ($\sqrt{d}$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式を考えれば) $[L: \mathbb{Q}] = 2$ つまり $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Q}}^{al}(L, \overline{\mathbb{Q}}) = 2$. $d$ の最小多項式は $x^2 -d \in \mathbb{Q}[x]$ であり, その根は $\pm \sqrt{d}$ である. $\varphi \in \operatorname{Hom}^{al}_{\mathbb{Q}}(L, \mathbb{Q})$ に対して,
$$\varphi((\sqrt{d})^2 -d) = \varphi(\sqrt{d})^2 -d = 0$$
なので, $\varphi(\sqrt{d}) = \pm \sqrt{d}$ となる. ここで $L$ は $\sqrt{d}$ で生成されているので, $\varphi$ は $\varphi(\sqrt{d})$ の値で定まる. $\varphi(\sqrt{d}) = \sqrt{d}$ ならば $\varphi = \mathrm{Id}_L$ となるので, $\varphi(\sqrt{d}) = -\sqrt{d}$ となる $\varphi$ がある. これを $\varphi_{-}$ とおけば,
$$\varphi \in \operatorname{Hom}^{al}_{\mathbb{Q}}(L, \overline{\mathbb{Q}}) = \{\mathrm{Id}_L, \varphi_{-}\}$$
となる.$\Box$
実はこれは拡大 $L / K$ のガロア群になっていますが、ガロア群を求めるときには、元の個数がいくつあるのかを知ると色々とやりやすく、そのため、拡大次数を計算するのが重要になります。