$\arctan$ を用いた円周率の公式は多く (無限個) 存在し、例えば
\begin{align} \frac{\pi}{4} &= \arctan 1 \\ \frac{\pi}{4} &= 4\arctan \frac{1}{5} -\arctan \frac{1}{239} \\ \frac{\pi}{4} &= 5\arctan \frac{1}{7} + 2\arctan \frac{3}{79} \\ \frac{\pi}{4} &= 12\arctan \frac{1}{18} + 8\arctan \frac{1}{57} -5\arctan \frac{1}{239} \\ \end{align}
などがあります (例えば [円])。$\arctan$ の冪級数展開
$$\arctan x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n }{2n+1}x^{2n+1}$$
を用いることで、円周率が計算できます。
$\arctan$ の円周率公式を得る方法はいくつか知られており、一番単純なのは、$\arctan$ の加法定理
\begin{align} \arctan a \pm \arctan b = \arctan \left(\frac{a \pm b}{1 \pm a b}\right) \quad (a, b \in \mathbb{R}) \end{align}
を使って
\begin{align} \arctan \frac{1}{p} = \arctan \frac{1}{p + q} + \arctan \frac{q}{p^2 +pq + 1} \end{align}
のように変形する方法だと思います。$\arctan$ 公式は円周率の計算記録の更新に使われたことがあるほど優秀な方法なので、$\arctan$ 型の公式の中で収束の速いものを探すにはどうすれば良いか?という問いが自然に発生します。
Lehmer は 1938年に出した以下の論文
「On Arccotangent Relations for π」
において、$\arctan$ 公式の収束の速さの指標 (Lehmer は measure と呼んでいる) を導入し、measure がより小さくなるように $\arctan$ 公式を変形する方法を考案しています。この記事では Lehmer のこの論文の内容を紹介しようと思います。
目次
$\arctan$ の一般型と Lehmer 指標
$\arctan$ 公式の一般形
$\arctan$ 公式の一般形は
\begin{gather}k \frac{\pi}{4} = \sum_{i=1}^{N} c_i \arctan \frac{a_i}{b_i} \\(k \in \mathbb{Z}_{>0},\ c_i \in \mathbb{Z} \setminus \{0\},\ a_i, b_i \in \mathbb{Z}_{>0},\ a_i < b_i)\end{gather}
と表されます。ここで、$\mathbb{Z}_{>0}$ は正の整数を表します。左辺の $\frac{1}{4}$ は右辺の $c_i$ に吸収させることもできますが、歴史的経緯からこのように表します。$a_i < b_i$ は、$\arctan x$ のテイラー展開が $x > 1$ で発散してしまうので、それを防ぐためにつけています。
Lehmer 指標
Lehmer は $\arctan$ 公式に対して、
$$\sum_{i = 1}^N \frac{1}{\log_{10}(\frac{b_i}{a_i})}$$
を measure と呼びました (おそらく測度とは無関係)。そしてこれが $\arctan$ 公式の収束の速さを表す指標であるとしました。
Lehmer の論文では、Lehmer 指標の意味を以下のように説明されています。$\arctan x$ を冪級数展開
$$\arctan x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n }{2n+1}x^{2n+1}$$
を用いて計算すると、計算誤差 ($n = m$ までで止めた値と実際の値の差) はおおよそ $\frac{1}{2m+3} x^{2m+3}$ で与えられることが知られています。$x < 1$ かつ $m$ が十分大きければ係数 $\frac{1}{2m+3}$ の寄与は小さいと考えられるので、無視します。ここで、例えば計算誤差を $10^{-n}$ にしたいときは
\begin{align} & x^{2m+3} \fallingdotseq 10^{-n} \\ \Leftrightarrow \ & (2m+3)\log_{10} \frac{1}{x} \fallingdotseq n \\ \Leftrightarrow \ & m \fallingdotseq \frac{1}{2} \left(\frac{n}{\log_{10} \frac{1}{x}} -3\right) \end{align}
となります。このように、ある精度を得るために必要な級数の項数は、$\log_{10} \frac{1}{x}$ に反比例して増加すると考えられます。$\frac{1}{\log_{10} \frac{1}{x}}$ が小さいほど、ある精度を得るために必要な級数の項数は少ないので、これが級数の良さを表す指標として妥当だと言えます。
一般の $\arctan$ 公式については $\arctan$ が $N$ 個あるので、ある精度を得るために必要な級数の項数は、それぞれを足した
$$\sum_{i = 1}^N \frac{1}{\log_{10} \frac{1}{x}}$$
に比例すると考えられます。よってこの値が小さいほど、計算に必要な項数が少ないと考えられます。これが Lehmer 指標です。ちなみに $\log_{10}a = \frac{\log a}{\log 10}$ なので、常用対数の代わりに自然対数を用いても大小には変化がなく、自然対数を使っても良いです。
以上の説明は Lehmer の論文における説明に少し肉付けしたものになりますが、実は Lehmer の論文では、「係数の部分は無視できるので、ある精度を得るのに必要な計算項数はこの値に比例する」ということを述べているのみで、それ以上の説明は書かれていません。
このように Lehmer の measure の説明は、(肉付けしたとしても) あっさりしすぎているため、もう少し厳密に計算したいところです。例えば、
$$E(m) = \min_{m = \sum_{i=1}^N \alpha_i} \left\{\left| \sum_{i=1}^N \gamma_i E_{\alpha_i}(x_i)\right|\right\}$$
または
$$\overline{E}(m) = \min_{m = \sum_{i=1}^N \alpha_i} \left\{\sum_{i=1}^N |\gamma_i| E_{\alpha_i}(x_i)\right\}$$
の、常用対数をとって $m$ で割った極限の逆数が、Lehmer 指標の逆数 (の定数倍) と一致すれば、納得感があります。しかし、それをするとあまりにも長くなってしまうため、以下の記事で行います。
Lehmer 指標を小さくする方法
Lehmer は $\arctan$ 公式の 2 つの変形によって、Lehmer 指標がどのように変化するかを述べています。一つ目は例えば
$$\arctan \frac{1}{p} = \arctan \frac{1}{p +q} +\arctan \frac{q}{p^2 + pq + 1}$$
のような、係数が全て $1$ の変形です。この変形では多くの場合、Lehmer 指標は大きくなります。もう一つは
$$\arctan \frac{a}{b} = 2\arctan \frac{a}{2b} -\arctan \frac{a^3}{4b^3 +3 a^2 b} $$
あるいは
$$\arctan \frac{a}{b} = n\arctan \frac{a}{nb} -\arctan u_n(a, b)$$
という変形で、この変形では、条件は限られていますが、Lehmer 指標は小さくなります。これらの変形が正しいことは、$\arctan$ の加法定理から従います。
係数が全て $1$ の変形について
Lehmer は係数が全て $1$ であるような変形
$$\arctan \frac{a}{b} = \arctan \frac{c_1}{d_1} + \arctan \frac{c_2}{d_2}$$
について、以下の事実を示しました。
定理 1. (cf. Lehmer Theorem 1.)
$x, y, z$ を任意の正の実数とし,
$$\arctan \frac{1}{x} = \arctan \frac{1}{y} + \arctan \frac{1}{z}$$
を満たすとする. このとき, $x > 2.88200803$ ならば
$$\frac{1}{\log x} < \frac{1}{\log y} + \frac{1}{\log z}$$
を満たす. $\Box$
特に $x \geq 3$ ならば Lehmer 指標が大きくなるので、ほとんどの場合、このような変形は Lehmer 指標を大きくすることわかります。それではこの定理を示しましょう。
$y < x$ または $z < x$ ならば示したい不等式が常に成り立つので、$y > x$ かつ $z > x$ とします。$\arctan$ の加法定理から
\begin{align} \arctan \frac{1}{x} -\arctan \frac{1}{y} &= \arctan \frac{\frac{1}{x} -\frac{1}{y}}{1 +\frac{1}{x}\frac{1}{y}} \\ &= \arctan \frac{y -x}{xy +1} \\ \end{align}
なので、
$$z = \frac{xy + 1}{y -x}$$
となります。$y = x +t$, $(t > 0)$ とおくと、
$$z = \frac{x(x+t) +1}{t} = x +\frac{x^2 + 1}{t}$$
となります。ここで
\begin{align} \log y & = \log (x + t) = \log x \left(1 + \frac{t}{x}\right) \\ &= \log x +\log \left(1 +\frac{t}{x}\right) \\ \log z &= \log \left(x +\frac{x^2 + 1}{t} \right) \\ &= \log x + \log \left(1 +\frac{x +x^{-1}}{t}\right) \end{align}
となりますが、以下の等式
$$\frac{1}{p + q} + \frac{1}{p + r} -\frac{1}{p} = \frac{p^2 -qr}{p(p+q)(p+r)}$$
に
$$p = \log x, \quad q = \log\left(1 +\frac{t}{x}\right), \quad r = \log \left(1 +\frac{x +x^{-1}}{t}\right)$$
を代入すると
\begin{align} &\frac{1}{\log y} +\frac{1}{\log z} -\frac{1}{\log x} \\ = \ & \frac{(\log x)^2 -\log\left(1 +\frac{t}{x}\right)\log \left(1 +\frac{x +x^{-1}}{t}\right)}{\log x \log y \log z}\end{align}
となります。ここで、$e^x$ のテイラー展開から任意の $x >0$ に対して $e^x > 1 + x$ がわかるので、$x > \log(1 +x)$ となります。これを上の式に当てはめて
\begin{align} &(\log x)^2 -\log\left(1 +\frac{t}{x}\right)\log \left(1 +\frac{x +x^{-1}}{t}\right) \\ > \ & (\log x)^2 -\frac{x + x^{-1}}{x} = (\log x)^2 -1 -\frac{1}{x^2} \end{align}
となります。これが $0$ より大きければ、示したい不等式が示されます。$(\log x)^2 -1 -\frac{1}{x^2}$ は微分すると、$x > 0$ で単調増加であり、$x = 2.88200803$ より少し小さい値で $0$ になるようです。これで定理が示されました。
おまけ
ちなみに
$$\arctan \frac{1}{x} = \arctan \frac{1}{y} -\arctan \frac{1}{z}$$
という変形の場合は、$\arctan$ の加法定理から
$$\arctan \frac{1}{x} + \arctan \frac{1}{z} = \arctan \frac{x+z}{xz-1}$$
が成り立つので
$$y = \frac{xz -1}{x+z} = x -\frac{x^2 + 1}{x +z} < x$$
となり、Lehmer 指標は大きくなります。
Lehmer 指標を小さくする変形 1
Lehmer は以下を Lehmer 指標を小さくする方法として、次の方法を考えました。
定理 2. (cf. Lehmer Theorem 2.)
任意の $x > \frac{1}{2}$ に対して成り立つ以下の等式
$$\arctan \frac{1}{x} = 2\arctan \frac{1}{2x} -\arctan \frac{1}{4x^3 +3 x} $$
において, $x < 6.676013$ ならば右辺の Lehmer 指標は左辺の Lehmer 指標より小さくなる. $x > 6.6760131$ ならば Lehmer 指標は大きくなる $\Box$
これを示すのはさっきより簡単で、素直に計算すればよく
\begin{align} & \frac{1}{\log 2x} + \frac{1}{\log (4x^3 +3x)} -\frac{1}{\log x} \\ = \ & \frac{1}{\log x +\log2} + \frac{1}{\log x +\log (4x^2 +3)} -\frac{1}{\log x} \\ = \ & \frac{(\log x)^2 -(\log 2)\log (4x^2 +3)}{(\log 2x) (\log (4x^3 +3x)) \log x} \end{align}
となります。よって
$$(\log x)^2 -(\log 2)\log (4x^2 +3)$$
が正なら Lehmer 指標が増え、負なら Lehmer 指標が減ります。グラフは以下のようになり、$\frac{1}{2} < x < 6.676013$ では負になります。
また、微分すると少なくとも $x > 2e$ で単調増加なので、$x > 6.676013$ で正になります。以上で定理が示されました。これで、$x < 6.676013$ という限定的な条件ではありますが、Lehmer 指標を小さくできます。
Lehmer はこの方法をもう少し改良し、
\begin{align} \arctan \frac{1}{x} &= 3\arctan \frac{1}{3x} -\arctan \frac{8x}{27x^4 +18x^2 -1} \\ \arctan \frac{1}{x} &= 4\arctan \frac{1}{4x} -\arctan \frac{80x^2 -1}{256x^5 +160x^3 -15x} \end{align}
という変形では、上の場合は $x < 14.797$、下の場合は $x < 91.464$ (グラフを書くと $26.222$ あたりで $0$ になるので間違っているかも) のときに Lehmer 指標が減少することを確認しています (下限は確認されていません)。
Lehmer 指標を小さくする変形 2
Lehmer はより一般に
$$\arctan \frac{1}{x} = n\arctan \frac{1}{nx} -\arctan u_n(x)$$
について考えており、$x \leq n^2$ のときに Lehmer 指標が減ると述べています (実際にはもう少し詳しい主張を述べている (cf. Lehmer Theorem 3.)) が、証明は書かれていません。そこでこの主張を証明します。$x \geq 1$ を仮定します。
Lehmer 指標を比較すると
\begin{align} & \frac{1}{\log nx} +\frac{1}{\log \frac{1}{u_n(x)}} -\frac{1}{\log x} \\ = \ & \frac{1}{\log n +\log x} +\frac{1}{\log x + \log \frac{1}{xu_n(x)}} -\frac{1}{\log x} \\ = \ & \frac{(\log x)^2 -(\log n)(\log \frac{1}{xu_n(x)})}{(\log nx)(\log \frac{1}{u_n(x)}) \log x} \end{align}
なので、$0 < u_n(x) < 1$ であることを認めれば、
$$(\log x)^2 +(\log n) (\log u_n(x) +\log x )$$
の符号が正なら Lehmer 指標が増え、負なら Lehmer 指標が減ります。この値を評価するために、$u_n(x)$ の大きさを評価します。
$0 < u_n(x)$ であること
まずは任意の $n \in \mathbb{N}$ と任意の $x \geq 1$ で $u_n(x) > 0$ であることを示します。$u_n(x)$ は
$$\arctan u_n(x) = n\arctan \frac{1}{nx} -\arctan \frac{1}{x}$$
を満たします。これは底辺 1、高さ $\frac{1}{nx}$ の直角三角形のある頂点の角度の $n$ 倍が、高さ $\frac{1}{x}$ の直角三角形のある頂点の角度より大きいことを意味します。それはひとまず置いておいて、$n$ を連続変数とみなし、$n$ について微分することで求めます。
\begin{align} & \frac{d}{dn} \left(n\arctan \frac{1}{nx} -\arctan \frac{1}{x}\right) \\ = \ & \arctan \frac{1}{nx} + n \frac{1}{1 +\frac{1}{n^2x^2}} \left(-\frac{1}{n^2 x}\right) \\ = \ & \arctan \frac{1}{nx} -\frac{\frac{1}{n x}}{1 +\frac{1}{n^2x^2}} \end{align}
となりますが、$g(y) = \arctan y -\frac{y}{y^2 +1}$ とおいたとき、$g(0) = 0$ かつ
\begin{align} g^{\prime}(y) = & \frac{1}{1 +y^2} -\frac{1}{y^2+1} -y\frac{-2y}{(y^2+1)^2} \\ = & \frac{2y^2}{(y^2 + 1)^2} > 0\end{align}
なので、$y > 0$ で $g(y) > 0$ となります。よって
$$\arctan \frac{1}{nx} -\frac{n x}{n^2 x^2 +1} = g\left(\frac{1}{nx}\right) > 0$$
であり、$n = 1$ のとき $\arctan u_1(x) = 0$ なので、$n > 1$ で
$$\arctan u_n(x) > 0$$
となります。$\arctan x > 0$ ならば $x > 0$ なので、$u_n(x) > 0$ となります。
$u_n(x)$ の上からの評価
次は上からの評価をします。$\arctan x$ のテイラー展開から
$$\frac{1}{x} -\frac{1}{3 x^3} <\arctan \frac{1}{x} < \frac{1}{x}$$
なので、
\begin{align} \arctan u_n(x) &= n\arctan \frac{1}{nx} -\arctan \frac{1}{x} \\ & < n \frac{1}{nx} -\left(\frac{1}{x} -\frac{1}{3x^3} \right) \\ &= \frac{1}{3x^3} \end{align}
が成り立ちます。$\tan$ は単調増加なので
$$u_n(x) < \tan \frac{1}{3 x^3}$$
となります。ここで
\begin{align} & (\tan \theta)^{\prime} = 1 +\tan^2 \theta \\ \Rightarrow \ & \tan \theta = \theta + \int_0^\theta \tan^2 t dt \end{align}
であり、$x \geq 1$ のとき $\frac{1}{3 x^3} \leq \frac{1}{3} < \frac{\pi}{4}$ から $\tan \frac{1}{3 x^3} < 1$ なので
\begin{align} u_n(x) & < \frac{1}{3 x^3} + \int_0^{\frac{1}{3x^3}} \tan^2 t dt \\ & < \frac{1}{3 x^3} + \int_0^{\frac{1}{3x^3}} 1 dt \\ & = \frac{2}{3 x^3} \end{align}
となります。特に任意の $n \in \mathbb{N}$ と任意の $x \geq 1$ に対して $u_n(x) < 1$ となります。
Lehmer 指標の評価
Lehmer 指標は
\begin{align} & (\log x)^2 +(\log n) (\log u_n(x) +\log x) \\ < \ & (\log x)^2 +(\log n) \left(\log \frac{2}{3 x^3} +\log x \right) \\ = \ & (\log x)^2 +(\log n) \left(\log \frac{2}{3} -2\log x \right) \\ \end{align}
が負ならば減少します。ここで、
\begin{align} & (\log x)^2 +(\log n) \left(\log \frac{2}{3} -2\log x \right) \\ = \ & (\log x)^2 -2 (\log n)(\log x) -(\log n)\left(\log \frac{3}{2}\right) \\ = \ & (\log x)(\log x -2\log n) -(\log n) \left(\log \frac{3}{2}\right) \\ = \ & (\log x)\left(\log \frac{x}{n^2}\right) -(\log n) \left(\log \frac{3}{2}\right) \end{align}
なので、$1 \leq x \leq n^2$ で $\log \frac{x}{n^2} < 0$ となり、Lehmer 指標が減少します。
よって $1 \leq x \leq n^2$ のときに、Lehmer 指標を減らすことができます。
$u_n(x)$ の具体的な表示
具体的な計算には $u_n(x)$ の具体的な表示が必要です。一般に、$\tan$ の $n$ 倍角は
$$\tan n \theta = \frac{{\displaystyle \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} \tan^k\theta }}{{\displaystyle\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} \tan^k \theta}}$$
となることが知られています ([Iga])。よって $\theta = \arctan x$ とおけば
$$n \arctan x = \arctan \frac{{\displaystyle \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} x^k }}{{\displaystyle\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} x^k}}$$
となります。頑張って計算すると
\begin{align} n \arctan \frac{1}{nx} &= \arctan \frac{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} \frac{1}{n^k x^k}}{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} \frac{1}{n^k x^k}} \\ &= \arctan \frac{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}}{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}} \\ \end{align}
\begin{align} &\arctan x -n \arctan \frac{1}{nx} \\ = \ &\arctan \frac{\frac{1}{x} -\left(\frac{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}} {\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}}\right)} {1 +\frac{1}{x} \left(\frac{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}}{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}}\right)} \\ = \ & \arctan \frac{\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k} -\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} n^{n-k}x^{n-k+1}} {\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} n^{n-k} x^{n-k+1} +\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}} \end{align}
となりますが、分母に関しては
\begin{align} & \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} n^{n-k} x^{n-k+1} +\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k}\\ = \ & n^n x^{n+1} +\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k+1}{2}} \binom{n}{k+1} n^{n-k-1} x^{n-k} \\ & \qquad +\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k} \\ = \ & n^n x^{n+1} + \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \left(n\binom{n}{k} -\binom{n}{k+1}\right)n^{n-k-1}x^{n-k} \\ = \ & n^n x^{n+1} + \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \frac{k(n+1)}{k+1} \binom{n}{k}n^{n-k-1}x^{n-k} \end{align}
となり、分子に関しては
\begin{align} & \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k} -\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \binom{n}{k} n^{n-k}x^{n-k+1} \\ = \ & \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k} (nx)^{n-k} -\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \binom{n}{k +1} n^{n-k-1}x^{n-k} \\ = \ & \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}} \left( n\binom{n}{k} -\binom{n}{k +1}\right) n^{n-k-1}x^{n-k} \\ = \ & \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}}\frac{k(n+1)}{k+1} \binom{n}{k} n^{n-k-1}x^{n-k} \end{align}
となります。特に $k = 0$ の項は $0$ なので、最高次の項は
\begin{align} & \frac{2(n+1)}{3} \binom{n}{2} n^{n-3}x^{n-2} \\ = \ & \frac{2(n+1)}{3} \frac{n(n-1)}{2} n^{n-3}x^{n-2} \\ = \ & -\frac{1}{3}(n^2 -1)n^{n-2}x^{n-2} \\ \end{align}
となります。以上から、
$$u_n(x) = \frac{ -\sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 偶数}}} (-1)^{\frac{k}{2}}\frac{k(n+1)}{k+1} \binom{n}{k} n^{n-k-1}x^{n-k}}{n^n x^{n+1} + \sum_{\substack{0 \leq k \leq n, \\ k: \textrm{ 奇数}}} (-1)^{\frac{k-1}{2}} \frac{k(n+1)}{k+1} \binom{n}{k}n^{n-k-1}x^{n-k}}$$
とおけば、
$$\arctan \frac{1}{x} = n\arctan \frac{1}{nx} -\arctan u_n(x)$$
となります。実際の計算は以下で確認できます。
参考文献
[Lehmer] D. H. LEHMER. ON ARCCOTANGENT RELATIONS FOR π
[円] 円周率.jp. arctan系公式
[Iga] Iga(rashi). 三角関数の n 倍角の公式について
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