入射加群による加群の分解の構成

加群の入射分解は、加群の層のコホモロジーの理論において重要な役割を果たします。しかし重要なのは入射分解の存在のみであり、また、層の大域切断のコホモロジーに限れば脆弱層分解という別の分解で代用することができるので、名前だけが出てきて証明が省略されることがよくあります。

そこでこの記事では、加群の入射分解の存在をきちんと証明します。まず入射分解がなぜ重要なのかの背景について、より簡単な射影分解の場合に説明し、その後加群の入射分解の存在を証明します。証明は記事の後半になるので、そこだけを見たい方は目次から、「入射加群への単射の存在」の項目に移動してください。

分解とは

数学において、対象を何らかの方法で分解することで、問題の難易度が格段に下がることがよくあります。入射分解もその一つといえ、例えば層の層のコホモロジー理論において重要な役割を果たします。

$R$ を可換環とします。$R$ 加群 $M$ の右分解とは以下のような $R$ 加群の完全列

$$0 \to M \xrightarrow[]{\varepsilon} C^0 \xrightarrow[]{d^0} C^1 \xrightarrow[]{d^1} C^2 \xrightarrow[]{d^2} \cdots \xrightarrow[]{d^{n-1}} C^n \xrightarrow[]{d^n} \cdots $$

のことです。各 $C^n$ が入射加群 (後で定義します) のとき、入射分解といいます。

逆方向の分解

$$\cdots \xrightarrow[]{d_{n+1}} E_n \xrightarrow[]{d_n} \cdots \xrightarrow[]{d_3} E_2 \xrightarrow[]{d_2} E_1 \xrightarrow[]{d_1} E_0 \xrightarrow[]{\varepsilon} M \to 0$$

左分解といいます。各 $E_n$ が自由加群のとき自由分解、射影加群 (後で定義します) のとき射影分解といいます。

射影分解

入射分解の存在を説明する前に、まず簡単な射影分解を説明します。その前に、さらに簡単な自由加群による分解を説明します。

自由分解の存在

$M$ を $R$ 加群とします。$M$ の部分集合 $S = \{x_i\}_{i \in I_0}$ が $M$ を生成するとすると、自由加群 $R^{I_0} = \bigoplus_{i \in I_0} R$ からの全射 $\varepsilon: R^{I_0} \to M$ が

$$\varepsilon: R^{I_0} \ni (r_i)_{i \in I_0} \mapsto \sum_{i \in I_0} r_i x_i \in M$$

により定まります。$(r_i)_{i \in I_1} \in R^{I_1}$ の成分は有限個を除いて $0$ なので、右辺の和が問題なく定まります。$\varepsilon$ は全射なので $\operatorname{Im} \varepsilon = M$ であり、$M \to 0$ の核は $M$ なので

$$R^{I_0} \xrightarrow[]{\varepsilon} M \to 0$$

は完全列になります。

$\varepsilon: R^{I_0} \to M$ に対して、$\iota_0:\operatorname{Ker} \varepsilon \to R^{I_0}$ を自然な単射とします。 $\operatorname{Ker} \varepsilon$ に対しても同様に自由加群 $R^{I_1}$ からの全射 $j_1: R^{I_1} \to \operatorname{Ker} \varepsilon$ を構成することができます。

\[ \xymatrix{ R^{I_1} \ar@{->>}[r]^{j_1} \ar@/_15pt/[rr]_{d_1} & \operatorname{Ker} \ \varepsilon \ar@{^{(}->}[r]^{\iota_0} & R^{I_0} \ar[r]^{\varepsilon} & M } \]

$d_1 = \iota_0 \circ j_1$ とおくと、明らかに $\operatorname{Im} d_1 = \operatorname{Ker} \varepsilon$ なので

$$R^{I_1} \xrightarrow[]{d_1} R^{I_0} \xrightarrow[]{\varepsilon} M \to 0$$

は完全列になります。

同様に $\iota_1: \operatorname{Ker} d_1 \to R^{I_1}$ を自然な単射とします。$\operatorname{Ker} d_1$ に対しても同様に自由加群 $R^{I_2}$ からの全射 $j_2: R^{I_2} \to \operatorname{Ker} d_1$ を構成することができ、$d_2 = \iota_1 \circ j_2$ とおくと以下の図式のようになります。

\[ \xymatrix@M=8pt{ && & {\operatorname{Ker} \ \varepsilon} \ar@{^{(}->}[rd]^{\iota_0} & & \\ R^{I_2} \ar@{->>}[rd]^{j_2} \ar[rr]^{d_2} & &R^{I_1} \ar@{->>}[ru]^{j_1} \ar[rr]^{d_1} & &R^{I_0} \ar[r]^{\varepsilon} & M \\ & {\operatorname{Ker} \ d_1} \ar@{^{(}->}[ru]^{\iota_1} &&&& } \]

このとき $j_2$ は全射、$\iota_1$ は単射なので、$\operatorname{Im} d_2 = \operatorname{Ker} d_1$ となり、

$$R^{I_2} \xrightarrow[]{d_2} R^{I_1} \xrightarrow[]{d_1} R^{I_0} \xrightarrow[]{\varepsilon} M \to 0$$

は完全列となります。これを繰り返すことで、自由分解が構成されます。

射影加群とは

射影加群を定義します。

定義. 射影加群

$P$ を $R$ 加群とする。任意の $R$ 加群 $M, N$ と任意の全射 $f: M \to N$ と任意の準同型 $g: P \to N$ に対して、準同型 $h: P \to M$ で、$f \circ h = g$ を満たすものが存在するとき、つまり以下の図式を可換にする $h$ が存在するとき

\[ \xymatrix{ & P \ar@{.>}[ld]_h \ar[d]^g \\ M \ar@{->>}[r]_f & N } \]

$P$ は射影的であるという。射影的な加群を射影加群という。$\Box$

自由加群は射影加群です。これを確認しましょう。$F$ を自由加群とし、$\{x_i\}_{i \in I}$ をその基底とします。各 $g(x_i) \in N$ に対して、$f: M \to N$ が全射であることから、$y_i \in M$ で、$f(y_i) = g(x_i)$ となるものが存在します。この $y_i \ (i \in I)$ に対して $h(x_i) = y_i$ を満たす準同型 $h: F \to M$ が存在します。これは $f \circ h = g$ を満たすので、自由加群が射影加群であることがわかりました。

一応補足すると、$h$ は一意的であるとは限りません。$y_i = g(x_i)$ を満たす $y_i \in M$ が一意的であるとは限らないからです。

なぜ射影分解なのか

なぜ射影加群による分解を考えるのかというと、ホモロジーの理論的に良い性質を持つからです。それを簡単に説明します。

すべての $R$ 加群を対象とし、準同型を射とする圏を $\mathrm{Mod}(R)$ と表します。$M \in \mathrm{Mod}(R)$ の分解

$$\cdots \xrightarrow[]{d_{n+1}} E_n \xrightarrow[]{d_n} \cdots \xrightarrow[]{d_3} E_2 \xrightarrow[]{d_2} E_1 \xrightarrow[]{d_1} E_0 \xrightarrow[]{\varepsilon} M \to 0$$

が与えられたとします。関手 $F: \mathrm{Mod}(R) \to \mathrm{Mod}(R)$ ( 例えば $- \otimes N$ や $\mathrm{Hom}_{R}(N, -)$ ) を分解に作用させると

$$\cdots \xrightarrow[]{F(d_{n+1})} F(E_n) \xrightarrow[]{F(d_n)} \cdots \xrightarrow[]{F(d_3)} F(E_2) \xrightarrow[]{F(d_2)} F(E_1) \xrightarrow[]{F(d_1)} F(E_0) \xrightarrow[]{F(\varepsilon)} F(M) \to 0$$

が得られます。$- \otimes N$ や $\mathrm{Hom}_{R}(N, -)$ は一般に、完全列を完全列にうつさないので、これは完全列ではありません。一方で $0$ 写像を $0$ 写像に写す、つまり $F(0) = 0$ を満たすので

$$F(d_i) \circ F(d_{i + 1}) = F(d_i \circ d_{i + 1}) = F(0) = 0$$

となります。よって分解に $F$ を作用させると、複体が得られます。複体の (コ) ホモロジーを取ることで、$F$ を通して $M$ の性質を調べることができます。しかし分解の取り方は一意的でないので、ホモロジーが分解の取り方に依存してしまう可能性があります。

射影分解であれば、ホモロジーが分解の取り方に依存しないことが知られています。それを確認するためには、$M$ の任意の射影分解がホモトピー同値であること確認すれば良いです。それを示すためには

  1. $f: M \to N$ からそれぞれの分解の (複体としての) 射を構成できること
  2. $f$ が同型のときにそれぞれの分解がホモトピー同値であること

を確認すれば十分です。

複体の射の構成

$f: M \to N$ を準同型とし、それぞれの射影分解を

$$\cdots \xrightarrow[]{d_{n+1}} P_n \xrightarrow[]{d_n} \cdots \xrightarrow[]{d_2} P_1 \xrightarrow[]{d_1} P_0 \xrightarrow[]{\varepsilon} M \to 0$$

$$\cdots \xrightarrow[]{d^{\prime}_{n+1}} P^{\prime}_n \xrightarrow[]{d^{\prime}_n} \cdots \xrightarrow[]{d^{\prime}_2} P_1 \xrightarrow[]{d^{\prime}_1} P^{\prime}_0 \xrightarrow[]{\varepsilon^{\prime}} N \to 0$$

とおきます。このとき、$M$ の分解から $N$ の分解への複体の射、つまり以下の図式を可換にする準同型 $\{f_i: E_i \to E^{\prime}_i\}$ を構成します。

\[ \xymatrix{ \cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & P_n \ar[r]^{d_n} \ar@[blue][d]_{f_n} & \cdots \ar[r]^{d_2} & P_1 \ar[r]^{d_1} \ar@[blue][d]_{f_1} & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar@[blue][d]_{f_0} & M \ar[d]^f \ar[r] & 0\\ \cdots \ar[r]_{d^{\prime}_{n+1}} & P^{\prime}_{n} \ar[r]_{d^{\prime}_{n}} & \cdots \ar[r]_{d^{\prime}_2} & P^{\prime}_1 \ar[r]_{d^{\prime}_1} & P^{\prime}_0 \ar[r]_{\varepsilon^{\prime}} & N \ar[r] & 0 } \]

まずは $f_0$ を構成しましょう。以下の赤い部分に注目すると

\[ \xymatrix{ P_0 \ar@[red][rd]^{f \circ \varepsilon} \ar[r]^{\varepsilon} \ar@{.>}[d]_{f_0} & M \ar[r] \ar[d]^{f} & 0\\ P^{\prime}_0 \ar@[red][r]_{\varepsilon^{\prime}} & N \ar@[red][r] & 0 } \]

$\varepsilon^{\prime}$ は全射、$P_0$ は射影加群なので、$f \circ \varepsilon = \varepsilon^{\prime} \circ f_0$ を満たす準同型 $f_0: P_0 \to P^{\prime}_0$ が存在します。

次に $f_1$ を構成しましょう。以下の図式の赤い部分に注目します。

\[ \xymatrix{ P_1 \ar@[red][rd]^{f_0 \circ d_1} \ar[r]^{d_1} & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar[d]^{f_0} & M \ar[d]^{f} \ar[r] & 0\\ P^{\prime}_1 \ar@[red][r]_{d^{\prime}_1} & P^{\prime}_0 \ar@[red][r]_{\varepsilon^{\prime}} & N \ar[r] & 0 } \]

これは先ほどと異なり $d_1$ が全射でないので、少し工夫が必要です。下の列が完全なので

$$\operatorname{Im} d^{\prime}_1 = \operatorname{Ker} \varepsilon^{\prime}$$

であり、$P^{\prime}_1 \to \operatorname{Ker} \varepsilon^{\prime}$ は全射です。 また、図式の可換性と $\varepsilon \circ d_1 = 0$ であることから

$$\varepsilon^{\prime} \circ f_0 \circ d_1 = f \circ \varepsilon \circ d_1 = 0$$

なので、

$$\operatorname{Im} (f_0 \circ d_1) \subset \operatorname{Ker}\ \varepsilon^{\prime}$$

となります。よって $f_0 \circ d_1: P_1 \to P^{\prime}_0$ は $\operatorname{Ker} \varepsilon^{\prime}$ を経由します。

\[ \xymatrix{ & P_1 \ar@[red][rd]^{f_0 \circ d_1} \ar[r]^{d_1} \ar@{.>}@/_12pt/[dd] & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar[d]^{f_0} & M \ar[d]^{f}\\ P^{\prime}_1 \ar@[red][rr]_(.6){d^{\prime}_1} \ar@{->>}[rd] & & P^{\prime}_0 \ar@[red][r]_{\varepsilon^{\prime}} & N \\ & \operatorname{Ker}\ \varepsilon^{\prime} \ar@{^{(}->}[ru] && } \]

$P_1$ は射影加群で、$P^{\prime}_1 \to \operatorname{Ker} \varepsilon^{\prime}$ は全射なので、$f_1: P_1 \to P^{\prime}_1$ が存在し、図式が可換になります。これを続けることで、図式を可換にする準同型 $\{f_i: E_i \to E^{\prime}_i\}$ ができます。

ホモトピー同値の定義

$M, N$ を $R$ 加群、$f, g: M \to N$ を準同型とし、 $\{f_i\}, \{g_i\}$ をそれぞれの射影分解間の複体の射とします。$\{f_i\}, \{g_i\}$ がホモトピックであるとは、以下のような準同型の族 $\{\Phi_i\}$

\[ \xymatrix{ \cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & P_n \ar[r]^{d_n} \ar[d]|{f_n -g_n} \ar@[red][ld]|{\Phi_{n+1}} & \cdots \ar[r]^{d_2} & P_1 \ar[r]^{d_1} \ar[d]|{f_1-g_1} \ar@[red][ld]|{\Phi_{2}} & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar[d]|{f_0 -g_0} \ar@[red][ld]|{\Phi_{1}} & M \ar[d]|{f-g} \ar[r] \ar@[red][ld]|{\Phi_{0}} & 0 \ar@[red][ld]|{\Phi_{-1}} \\ \cdots \ar[r]_{d^{\prime}_{n+1}} & P^{\prime}_{n} \ar[r]_{d^{\prime}_{n}} & \cdots \ar[r]_{d^{\prime}_2} & P^{\prime}_1 \ar[r]_{d^{\prime}_1} & P^{\prime}_0 \ar[r]_{\varepsilon^{\prime}} & N \ar[r] & 0 } \]

で、以下の条件

\begin{align} &f -g = \Phi_{-1} \circ 0 + \varepsilon^{\prime} \circ \Phi_0 = \varepsilon^{\prime} \circ \Phi_0, \\ &f_0 -g_0 = \Phi_0 \circ \varepsilon + d_1^{\prime} \circ \Phi_1, \\ &f_i -g_i = \Phi_i \circ d_i + d^{\prime}_{i+1} \circ \Phi_{i+1} \quad (i \geq 1) \end{align}

を満たすものが存在することをいいます ( $\varepsilon = d_0, \varepsilon^{\prime} = d^{\prime}_0$ とおけば、一番下の等式に統一されます)。

以後、$M$ の上記の射影分解を $\{P_{\bullet}, d_{\bullet}\}$、$N$ の上記の射影分解を $\{P^{\prime}_{\bullet}, d^{\prime}_{\bullet}\}$ と表し、$f: M \to N$ から誘導される複体の射をそれぞれ $f_{\bullet}$ と表します。誤解がない場合は $\{P_{\bullet}, d_{\bullet}\}$ を単に $P_{\bullet}$ と表すこともあります。また、$f_{\bullet}$ と $g_{\bullet}$ がホモトピックであることを

$$f_{\bullet} \sim g_{\bullet}$$

と表します。

$P_{\bullet}$ と $P^{\prime}_{\bullet}$ がホモトピー同値であるとは、複体の射 $f_{\bullet}: P_{\bullet} \to P^{\prime}_{\bullet}$ と $\widetilde{f}_{\bullet}: P^{\prime}_{\bullet} \to P_{\bullet}$ が存在して、

$$f_{\bullet} \circ \widetilde{f}_{\bullet} \sim \mathrm{id}_{P_{\bullet}}, \quad \widetilde{f}_{\bullet} \circ f_{\bullet} \sim \mathrm{id}_{P^{\prime}_{\bullet}}$$

が成り立つことをいいます。

ホモトピー同値であること

$f: M \to N$ が同型射の場合、$P_{\bullet}$ と $P^{\prime}_{\bullet}$ がホモトピー同値であることを示します。$f^{-1}: N \to M$ が誘導する複体間の射を $\widetilde{f}_{\bullet}$ とおきます。

\[ \xymatrix{ \cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & P_n \ar[r]^{d_n} \ar[d]|{f_n} & \cdots \ar[r]^{d_2} & P_1 \ar[r]^{d_1} \ar[d]|{f_1} & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar[d]|{f_0} & M \ar[d]|f \ar[r] & 0\\ \cdots \ar[r]_{d^{\prime}_{n+1}} & P^{\prime}_n \ar[r]_{d^{\prime}_n} \ar[d]|{\widetilde{f}_n} & \cdots \ar[r]_{d^{\prime}_2} & P^{\prime}_1 \ar[r]_{d^{\prime}_1} \ar[d]|{\widetilde{f}_1} & P^{\prime}_0 \ar[r]_{\varepsilon^{\prime}} \ar[d]|{\widetilde{f}_0} & N \ar[d]|{f^{-1}} \ar[r] & 0\\ \cdots \ar[r]_{d_{n+1}} & P_{n} \ar[r]_{d_{n}} & \cdots \ar[r]_{d_2} & P_1 \ar[r]_{d_1} & P_0 \ar[r]_{\varepsilon} & M \ar[r] & 0 } \]

$f_{\bullet}$ と $\widetilde{f}_{\bullet}$ の合成を $h =\widetilde{f}_{\bullet} \circ f_{\bullet}$ とおき、$h$ と $\mathrm{id}_{P_{\bullet}}$ のホモトピーを構成します。

\[ \xymatrix{ \cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & P_n \ar[r]^{d_n} \ar[d]|{h_n-\mathrm{id_{P_n}}} & \cdots \ar[r]^{d_2} & P_1 \ar[r]^{d_1} \ar[d]|{h_1-\mathrm{id_{P_1}}} & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar[d]|{h_0-\mathrm{id_{P_0}}} & M \ar[d]|{\mathrm{id_{M}} -\mathrm{id_{M}}} \ar[r] & 0\\ \cdots \ar[r]_{d_{n+1}} & P_{n} \ar[r]_{d_{n}} & \cdots \ar[r]_{d_2} & P_1 \ar[r]_{d_1} & P_0 \ar[r]_{\varepsilon} & M \ar[r] & 0 } \]

まず、$\mathrm{id_{M}} -\mathrm{id_{M}} = 0$ なので、$\Phi_0 = 0$ とすれば良いです。以下の図式の赤い部分に注目すると

\[ \xymatrix{ & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar@[red][d]|{h_0-\mathrm{id_{P_0}}} & M \ar[d]|{\mathrm{id_{M}} -\mathrm{id_{M}}} \ar@[blue][ld]|{\Phi_0}\\ P_1 \ar@[red][r]_{d_1} & P_0 \ar@[red][r]_{\varepsilon} & M } \]

図式の可換性から

$$\varepsilon \circ (h_0-\mathrm{id_{P_0}}) = (\mathrm{id_{M}} -\mathrm{id_{M}}) \circ \varepsilon = 0 $$

であり、$P_0$ は射影加群なので、複体の射を構成したときと同様に

$$d_1 \circ \Phi_1 = h_0 -\mathrm{id}_{P_0}$$

を満たす $\Phi_1$ が存在します。$\Phi_0 = 0$ なので

$$h_0 -\mathrm{id}_{P_0} = \Phi_0 \circ \varepsilon + d_1 \circ \Phi_1$$

が成り立ちます。次に、以下の図式に注目します。

\[ \xymatrix{ & P_1 \ar[r]^{d_1} \ar@[red][d]|{\mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1}} & P_0 \ar[r]^{\varepsilon} \ar@[blue][ld]|{\Phi_1} \ar[d]|{\mathrm{h_0} -\mathrm{id}_{P_0}} & M \ar@[blue][ld]|{\Phi_0} \\ P_2 \ar@[red][r]_{d_2} & P_1 \ar@[red][r]_{d_1} & P_0 & } \]

このとき、$d_1 \circ (\mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1})$ は $0$ とは限らないので先ほどの議論は適用できませんが、

\begin{align} & d_1 \circ (\mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1} -\Phi_1 \circ d_1) \\ = \ & d_1 \circ (\mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1}) -d_1 \circ \Phi_1 \circ d_1 \\ = \ & (\mathrm{h_0} -\mathrm{id}_{P_0}) \circ d_1 -d_1 \circ \Phi_1 \circ d_1 \\ = \ & (\mathrm{h_0} -\mathrm{id}_{P_0} -d_1 \circ \Phi_1) \circ d_1 \\ = \ & \Phi_0 \circ \varepsilon \circ d_1 \\ = \ & 0 \end{align}

なので、$\mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1} -\Phi_1 \circ d_1$ に先ほどの議論が適用できて、

\begin{align} & d_2 \circ \Phi_2 = \mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1} -\Phi_1 \circ d_1 \\ \Leftrightarrow \ \ & \mathrm{h_1} -\mathrm{id}_{P_1} = \Phi_1 \circ d_1 + d_2 \circ \Phi_2 \end{align}

を満たす $\Phi_2$ が存在することがわかります。これを繰り返すことで、$h \sim \mathrm{id}_{P_{\bullet}}$ がわかります。

同様に $f \circ \widetilde{f} \sim \mathrm{id}_{P^{\prime}_{\bullet}}$ もわかり、$P_{\bullet}$ と $P^{\prime}_{\bullet}$ がホモトピー同値であることがわかりました。

関手 $F: \mathrm{Mod}(R) \to \mathrm{Mod}(R)$ が射の足し算を保ち、$0$ を $0$ にうつすならば、ホモトピー同値な分解に $F$ を作用させてできるそれぞれの複体もホモトピー同値になります。これはホモトピーの定義に関手を適用させることで直ちにわかります。ホモトピー同値な複体のホモロジーは同型になることが知られているので、これでホモロジーが分解の取り方によらないことがわかります。

入射分解

これまでは左分解について考えてきましたが、応用上 (特に層のコホモロジーで) は右分解が必要な場合が多いです。左分解と右分解では矢印の向きが反対になるので、左分解での射影加群の役割を果たすのは、その双対である入射加群になります。

入射加群とは

入射加群とは、先ほども述べたとおり、射影加群の双対、つまり矢印と単射、全射を逆にしたものになります。

定義. 入射加群

$R$ 加群 $I$ が入射的であるとは、任意の単射準同型 $f: N \to M$ と任意の準同型 $g: N \to I$ に対して、$h \circ f = g$ を満たす準同型 $h: M \to I$ が存在すること、つまり以下の図式を可換にする $h$ が存在することをいう。

\[ \xymatrix{ N \ar@{^{(}->}[r]^{f} \ar[d]_{g} & M \ar@{.>}[ld]^{h} \\ I & } \]

$I$ が入射的であるとき、$I$ を入射加群という。$\Box$

入射分解の構成

射影分解には自由加群のような良い性質を持った加群を用いることができました。では、どのような入射加群が存在すれば、入射分解を構成できるのでしょうか。それを考えてみましょう。

$M$ を $R$ 加群、$I^0$ を入射加群とします。以下の図式

$$0 \to M \xrightarrow[]{\varepsilon} I^0$$

が完全列であることと、$\varepsilon$ が単射であることは同値です。よって任意の $M$ が入射分解をもつためには、ある入射加群 $I$ への単射が存在する必要があります。

逆にこれを満たせば、入射分解を構成できます。$\varepsilon$ の余核

$$\operatorname{Cok} \varepsilon = I^0 / \operatorname{Im} \varepsilon$$

を考えます。$j^0: I^0 \to \operatorname{Cok} \varepsilon$ を自然な全射とし、$\iota^0: \operatorname{Cok} \varepsilon \to I^1$ を入射加群 $I^1$ への単射とします。この合成を

$$d^0 = \iota^0 \circ j^0$$

とおくと、$\iota^0$ は単射なので

$$\operatorname{Ker} d^0 = \operatorname{Ker} j^0 = \operatorname{Im} \varepsilon$$

となります。よって以下の図式は完全になります。

$$0 \to M \xrightarrow[]{\varepsilon} I^0 \xrightarrow[]{d^0} I^1$$

同様に $j^1: I^1 \to \operatorname{Cok} d^0$ を自然な全射、$\iota^1: \operatorname{Cok} d^0 \to I^2$ を入射加群 $I^2$ への単射とし、$d^1 = \iota^1 \circ j^1$ とおきます。$\iota^1$ は単射なので

$$\operatorname{Ker} d^1 = \operatorname{Ker} j^1 = \operatorname{Im} d^0$$

となり、以下の図式は完全になります。

$$0 \to M \xrightarrow[]{\varepsilon} I^0 \xrightarrow[]{d^0} I^1 \xrightarrow[]{d^1} I^2$$

これを繰り返すと、$M$ の入射分解が得られます。

以上から、入射分解が可能であるためには、任意の加群からある入射加群への単射が存在すれば良いです。

入射加群への単射の存在

では、そのような入射加群が存在するのでしょうか。結論からいうと、

$$E(R) = \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(R, \mathbb{Q} / \mathbb{Z})$$

とおいたとき、$E(R)$ の直積 $\prod_{i \in I} E(R)$ が答えになります。つまり $\prod_{i \in I} E(R)$ は入射加群であり、単射

$$M \to \prod_{i \in I} E(R)$$

が存在します。ちなみに $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}$ は $\mathbb{Z}$ 加群としての準同型を意味し、$\psi \in E(R)$ への $r \in R$ の作用は、

$$(r \psi) (r^{\prime}) = \psi(r r^{\prime})$$

で定義されます。

ちょっと複雑なので、一つずつ説明していきます。まず、$\mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ が $\mathbb{Z}$ 加群として入射的であることを示します。

$\mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ が入射加群であること

$M, N$ を $\mathbb{Z}$ 加群とし、$f: N \to M$ を単射準同型、$g: N \to \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ を準同型とします。このとき、$M$ の部分 $\mathbb{Z}$ 加群 $M^{\prime}$ と準同型 $h^{\prime}: M \to \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ で、$g = h^{\prime} \circ f$ を満たすものの組 $(M^{\prime}, h^{\prime})$ 全体の集合 $J$ を考えます。

\[ \xymatrix{ N \ar@{^{(}->}[r]^{f} \ar[d]_{g} & M & M^{\prime} \ar@{}[l]|*{\supset} \ar[lld]^{h^{\prime}}\\ \mathbb{Q} / \mathbb{Z} & & } \]

$0 \in M$ で生成される部分加群と $0$ を $0$ に写す準同型の組が存在するので、$J$ は空集合ではありません。$J$ の順序関係

$$(M_1, h_1) < (M_2, h_2)$$

を、$M_1 \subset M_2$ かつ $h_2|_{M_2} = h_1$ であることと定めると、これは半順序集合になります。$J$ の任意の全順序部分集合

$$\cdots < (M_{n}, h_n) < (M_{n+1}, h_{n + 1}) < \cdots$$

に対して帰納極限が存在して、それは全順序部分集合の上界になるので、$J$ は帰納的順序集合になります。よって Zorn の補題から極大元が存在するので、そのひとつを $(\widetilde{M}^{\prime}, \widetilde{h}^{\prime})$ とおきます。$\widetilde{M}^{\prime} = M$ ならば証明が完了するので、$\widetilde{M}^{\prime} \neq M$ と仮定して矛盾を導きます。

$\widetilde{M}^{\prime} \neq M$ と仮定したので、$y_0 \in M \setminus \widetilde{M}^{\prime}$ となる元が取れます。ここで、$M^{\prime \prime}$ を $\widetilde{M}^{\prime}$ と $y_0$ で生成される $\mathbb{Z}$ 加群、つまり

$$M^{\prime \prime} = \{x + m y_0 \mid x \in \widetilde{M}^{\prime}, \ m \in \mathbb{Z}\}$$

とします。このとき、ある $z \in \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ が存在し、

$$h^{\prime\prime}(x + m y_0) = h(x) + m z$$

により準同型 $h^{\prime\prime}: M^{\prime \prime} \to \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ が定まれば、これは $\widetilde{M}^{\prime}$ の拡張になるため $\widetilde{M}^{\prime}$ の極大性に反します。( $h^{\prime\prime}$ は元の表示によって値が変わる可能性があり、写像であるのかわかりません。写像であれば準同型であることは明らかです。)

$0$ を除く任意の整数 $n$ に対して $n y_0 \notin \widetilde{M}^{\prime}$ であると仮定します。このとき $z_0 \in \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ を一つとり、

$$h^{\prime\prime}(x + my_0) = h(x) + mz_0$$

と定めます。これが写像であることを確かめましょう。$M^{\prime\prime}$ の元が

$$x + m y_0 = x^{\prime} + m^{\prime} y_0$$

と表されたとすると、

$$(m -m^{\prime}) y_0 = x^{\prime} -x \in \widetilde{M}^{\prime}$$

なので、仮定から $m = m^{\prime}$ かつ $x = x^{\prime}$ であることがわかります。よって $h^{\prime\prime}$ は $M^{\prime\prime}$ の元の表示によらず定まり、写像であることがわかります。

次に、$0$ でない整数 $n$ で $n y_0 \in \widetilde{M}^{\prime}$ を満たすものが存在すると仮定します。すると $\widetilde{h}^{\prime}(n y_0) \in \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ なので、 $\widetilde{h}^{\prime}(n y_0) = n z_1$ となる $z_1 \in \mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ が存在します。このとき

$$h^{\prime\prime}(x + my_0) = h(x) + mz_1$$

とおきます。$h^{\prime\prime}$ が表示によらず定まることを確認しましょう。$M^{\prime\prime}$ の元が

$$x + m y_0 = x^{\prime} + m^{\prime} y_0$$

と表されたとします。このとき、

$$x^{\prime} -x = (m -m^{\prime})y_0 \in \widetilde{M}^{\prime}$$

なので

\begin{align} & h^{\prime\prime}(x + my_0) \\ = \ & h(x) + mz_1 \\ = \ & h(x) + (m -m^{\prime})z_1 + m^{\prime}z_1 \\ = \ & h(x) + h((m -m^{\prime})y_0) + m^{\prime}z_1 \\ = \ & h(x) + h(x^{\prime} -x) + m^{\prime}z_1 \\ = \ & h(x^{\prime}) + m^{\prime}z_1 \\ = \ & h^{\prime\prime}(x^{\prime} + m^{\prime}y_0) \end{align}

となります。よって $h^{\prime\prime}$ は写像になります。

以上で $\widetilde{M}^{\prime} = M$ であることがわかり、$\mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ が入射加群であることがわかりました。

$E(R)$ が入射加群であること

次に $R$ 加群 $E(R) = \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(R, \mathbb{Q} / \mathbb{Z})$ が入射加群であることを示します。まず、$\operatorname{Hom}$ とテンソル積 $\otimes$ の随伴性から

\begin{align} \operatorname{Hom}_{R}(M, E(R)) &= \operatorname{Hom}_{R}(M, \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(R, \mathbb{Q} / \mathbb{Z})) \\ & \simeq \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M \otimes_{R} R, \mathbb{Q} / \mathbb{Z}) \\ &= \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M, \mathbb{Q}/\mathbb{Z}) \end{align}

が成り立ちます。具体的な対応は、$\overline{\psi} \in \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M, \mathbb{Q}/\mathbb{Z})$ に対して、対応する $\psi \in \operatorname{Hom}_{R}(M, E(R))$ を

$$\psi(m)(r) = \overline{\psi}(rm)$$

とすることで与えられます。逆の対応は $\psi \in \operatorname{Hom}_{R}(M, E(R))$ に対して

$$\overline{\psi}(m) = \psi(m)(1)$$

を対応させることで与えられます。対応が全単射であることの証明は省略します。

この対応により、以下の図式が対応します。ただし右の $f$ は $\mathbb{Z}$ 加群としての準同型とみなしています。

\[ \xymatrix{ N \ar@{^{(}->}[r]^f \ar[d]_{\psi} & M & N \ar@{^{(}->}[r]^f \ar[d]_{\overline{\psi}} & M \ar@{.>}[ld]^{\overline{h}} \\ E(R) & & \mathbb{Q}/\mathbb{Z} & } \]

$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は入射加群なので、図式を可換にする $\overline{h}$ が存在します。これにより $R$ 準同型 $h: M \to E(R)$ が得られますが、

\begin{align} h(f(n))(1) &= \overline{h}(f(n)) \\ &= \overline{\psi}(n) \\ &= \psi(n)(1) \end{align}

なので、$h \circ f = \psi$ が成り立ちます。よって $E(R)$ は入射加群になります。

単射 $M \to \prod_{i \in I} E(R)$ の存在

$E(R)$ の直積 $\prod_{i \in I} E(R)$ は、各成分ごとに考えればこれも入射加群であることがわかるので、あとは単射 $M \to \prod_{i \in I} E(R)$ の存在を示せば良いです。まず、評価準同型

\begin{align} \mathrm{ev}: M &\to \operatorname{Hom}_{\mathbb{R}}( \operatorname{Hom}_{\mathbb{R}}(M, E(R)), E(R)) \\ \end{align}

$$\mathrm{ev}(m)(\psi) = \psi(m) \ \ (m \in M, \ \psi \in \operatorname{Hom}_{\mathbb{R}}(M, E(R)))$$

が単射であることを示します。そのためには $0$ でない任意の $m_0 \in M$ に対して、$\mathrm{ev}(m_0)$ が $0$ でないこと、つまり

$$\mathrm{ev}(m_0)(\psi) = \psi(m_0) \neq 0$$

を満たす $\psi \in \operatorname{Hom}_{R}(M, E(R))$ が存在すれば良いです。さらに同型

$$\operatorname{Hom}_{R}(M, E(R)) \simeq \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M, \mathbb{Q}/\mathbb{Z})$$

から、$\overline{\psi}(m_0) \neq 0$ となる $\overline{\psi} \in \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M, \mathbb{Q}/\mathbb{Z})$ が存在すれば良いです。

$dm_0 = 0$ を満たす整数 $d$ が存在しない場合、$1$ を $m_0$ に対応させる ( $\mathbb{Z}$ 準同型としての ) 単射 $\mathbb{Z} \to M$ が存在します。さらに $1$ を $\frac{1}{2}$ に対応させる $\mathbb{Z}$ 準同型 $\mathbb{Z} \to \mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ が存在するので、$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ が入射加群であることから、$\overline{\psi}(m_0) = \frac{1}{2}$ を満たす $\overline{\psi} \in \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M, \mathbb{Q}/\mathbb{Z})$ が存在します。

\[ \xymatrix{ \mathbb{Z} \ar@{^{(}->}[r] \ar[d] & M \ar@{.>}[ld]^{\overline{\psi}} \\ \mathbb{Q}/\mathbb{Z} } \]

$dm_0$ を満たす整数 $d$ が存在するのとき、その最小の正の整数を $d_0$ とおくと、単射 $\mathbb{Z} / d_0 \to M$ が存在します。さらに $1$ を $\frac{1}{d_0}$ に対応させる $\mathbb{Z}$ 準同型 $\mathbb{Z} / d_0 \to \mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ が存在するので、$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ が入射加群であることから $\overline{\psi}(m_0) = \frac{1}{d_0}$ を満たす $\overline{\psi} \in \operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(M, \mathbb{Q}/\mathbb{Z})$ が存在します。

以上で、評価準同型 $\mathrm{ev}$ が単射であることがわかりました。

ここで、自由 $R$ 加群 $F$ からの全射

$$F \to \operatorname{Hom}_{R}(M, E(R))$$

に対し $\operatorname{Hom}_{R}(-, E(R))$ を適用すると、単射

$$\operatorname{Hom}_{R}(\operatorname{Hom}_{R}(M, E(R)), E(R)) \to \operatorname{Hom}_{R}(F, E(R))$$

が得られます。評価準同型と合成することで単射 $M \to \operatorname{Hom}_{R}(F, E(R))$ が得られますが、

$$\operatorname{Hom}_{R}(F, E(R)) \simeq \prod_{i \in I} E(R)$$

なので、これで単射 $M \to \prod_{i \in I} E(R)$ が得られました。

以上で、加群の単射分解の存在が示されました。

参考文献

[T] 高橋 篤史. 別冊数理科学 弦理論の代数的基礎

[N] 中岡 宏行. 圏論の技法


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