バドミントンのフットワークで腰を落とすのは正しいのか?

私がバドミントンを習ったときは、常に腰を落としなさいと教えられました。また、フットワークは床を蹴って動くようにと教えられました。しかし、この2つの教えは実は相性が悪く、これらを両立することはとても難しいのです。では、どちらが正しいのでしょうか。そして、どう解決するのが良いのでしょうか。以下、それを考えてみましょう。

フットワークに求められる要素

そもそも、良いフットワークとはなんでしょうか。バドミントンは、 シャトルに向かう、シャトルを打つ、次の準備をする、の繰り返しです。それぞれの質が問題であるとすれば、フットワークに求められる要素として、以下の3つが挙げられます。

  1. ホームポジションから素速くシャトルへ向かう
  2. 安定してシャトルを打つ
  3. 素速くホームポジションに戻る (次の準備をする)

以下、それぞれについて考察しましょう。まずは1番目。単純化のため短距離走を想像してください。よーいドンでスタートするとき、おそらく腰を低く構える人は少ないでしょう。それは腰を高くした方が速いからです。ただし、短距離走は進む方向があらかじめ決まっています。実際の状況では相手が打つまでシャトルがどこに来るかわかりません。床を蹴って動く場合、一度進行方向とは逆の足に体重を乗せるという予備動作が必要になります。その予備動作は腰が高い方が良いのか、低い方が良いのか。私の感覚では、腰が高い方が断然早いです。従って、シャトルに向かうという点では、腰が高い方が良いと思われます。

次に2番目。バドミントンというスポーツの特性上、ミスの可能性はできる限り下げるべきです。ここでは、目線の高さに焦点を当てましょう。シャトルが目線より高い場合と低い場合で、どちらがミスしやすいでしょうか。低い場合の方がミスしやすいはずです。特にヘアピンやレシーブなどの場合は顕著でしょう。そこで、腰を下ろすと、目線が下がります。従って、シャトルが相対的に高くなり、ミスしにくくなります。シャトルを安定して打つという観点からは、腰を落とすのが良いと思われます。

3番目はあとで言及するとして、1番目と2番目で食い違いが発生しました。これらの長所を共存させるため、動き出しは腰を高く、打つときは腰を低くするとどうなるのでしょうか。これをやろうとすると、動きの中で目線の高さが大きく変わるため、ミスしやすくなります。安定性を考えれば、動き出しの時点で腰を落とし、目線をほぼ一定にしながら動くのがベストです。しかし、それをすると速さを犠牲にすることになります。これが相性が悪いと言った理由です。では、どちらを取るべきかというと、私は安定性、つまり、腰を落とすことをとるべきだと思います。そして、腰を落として動きやすいフットワークを考えるべきなのです。

蹴らないフットワーク

私は、床を蹴らないと動けないとずっと思っていました。しかし、これは大きな間違いでした。例えば階段を登るとき、体はどのような動作をするでしょうか。まず足を上の段に置きます。そしてその足で体を持ち上げます。すると一段上に行きます。この時、もう一方の足で蹴っていないにも関わらず、体は前に進んでいます。歩く時も同様です。足を前に出して、その足で体を持ち上げる、もう一方の足を前に出して、その足で体を持ち上げる、の繰り返しです。持ち上げる動作が推進力となり、前に進むことができます。私はこの動きを引く動きと読んでいます。床を蹴る動きを押し (床をpush) による動きと考え、その逆と捉えています。

これをフットワークに応用して、先程の条件1, 2, 3を満たすことを確認しましょう。まずは1番目について、引く動きは腰を落とすほど速く動けます。理由は歩幅が大きくなることと、体を持ち上げる力が推進力になるからです。また、引く動きは押す動きに対して動く距離が歩幅分減ります。押す動きは進行方向の逆の足が動きの起点となります。一方で、引く動きは進行方向の足が動きの起点となります。歩幅分得をします。さらに、引く動きは、押す動きに必要な体重移動の予備動作が要りません。その為、押す動きよりも初動が速くなります。動く距離が短く、初動が速く、腰を落とすことと相性が良い。いいこと尽くめですね。

2番目についてはいうことがありません。

3番目についても、引く動きにはメリットがあります。ホームポジションに戻るには、シャトルを取りに行った勢いをとめ、さらに移動しなければなりません。これを押す動きだけでやろうとすると、これらを片足だけで行わなければなりません。引く動きだと、最後に出した足で動きの勢いをとめ、逆の足で戻る、といった役割分担ができます。

引く動きの良いところばかりを挙げてしまいましたが、進むべき方向があらかじめわかっていれば、押す動きの方が速いです。

習得するために

引く動きはなかなか難しく、私は習得に半年〜1年ほどかかりました。7,8 年前は引く動きをしている選手は少なく、youtubeの画質もあまりよくありませんでしたが、最近では日本のトップはほぼ全員この動きを取り入れており、参考になる動画がyoutubeで簡単にみることができます。引く動きが分かりやすいのは

  • ラウンドからの2ステップでの戻り
  • フォア奥への2ステップでの動き

でしょう。進行方向の足が動きの起点になっていることがよくわかると思います。もちろん、それ以外のほぼ全ての動きで引く動きが使われています。ちなみに桃田選手が一番上手いです。

ちなみに、蹴らない動き(歩き方、走り方)で検索すると、重心を前に崩すこと(足を前に出す事)のみに注目がいっていて、前に進む力がどこから来ているのかはっきりしません。引く動きでは、体を引き寄せる、体を持ち上げる事が推進力となります。ここを意識しましょう。