この記事は、ガンマ関数について解説した以下の動画
の補足記事です。
※ 内容は独立しているので、記事単体でも読むことができます。ガンマ関数の連続性と微分可能性についてのみ知りたい方は「補足1. ガンマ関数の連続性と微分可能性について」まで飛ばしてください。
ガンマ関数
$$\Gamma(x) = \int_0^{\infty} e^{-t} t^{x-1} dt \quad (x > 0)$$
は
- $\Gamma(x+1) = x\Gamma(x)$
- $\Gamma(1) = 1$
という性質を満たします。この 2 つの性質から $\Gamma(n+1) = n!$ が得られるため、階乗の一般化、または階乗の実数への拡張といわれます。一方でガンマ関数は $\Gamma(x+1) = x\Gamma(x)$, $\Gamma(1) = 1$ という条件だけでは特徴付けることはできません。例えば、周期関数 $\cos (2\pi x)$ を掛けた $\Gamma(x) \cos (2\pi x)$ は上の 2 つの条件を満たします。他にも極端な例だと、$0 < x \leq 1$ で $1$、それ以外で上手く拡張した
\begin{align}g(x) = \begin{cases}1 & (0 < x \leq 1) \\ (x-1)\cdots (x-n) & (n < x \leq n+1, n \geq 1) \end{cases}\end{align}
は $g(x+1) = xg(x)$, $g(1)$ を満たし、従って $g(n+1) = n!$ を満たします。( $g(x)$ は連続関数ではありません)。$0 < x \leq 1$ の関数を与えるごとに、上の 2 つの条件を満たす関数を作る事ができます。よって上の 2 つの条件だけで階乗の一般化といってしまうと、少しモヤモヤした気持ちになります。それでは、ガンマ関数が階乗の一般化と考えられる理由は他にあるのでしょうか。
よく知られた結果として、$g(x)$ が
- $g(x+1) = xg(x)$.
- $g(1) = 1$.
- $\log g(x)$ は $x > 0$ で凸である.
という 3 つの性質を持てば、それは $\Gamma(x)$ に一致します (ボーア・モレルップの定理)。つまり、さっき述べた 1, 2 の性質に加えて $\log g(x)$ が凸であることが、ガンマ関数を特徴付けるものになります。しかし、$\log g(x)$ が凸であるという条件は、階乗の一般化の持つべき性質として納得できるかというと、そうでもない気がします。
ガンマ関数は他にも特徴的な性質として、ベータ関数
\begin{align}B(x, y) & = \int_0^1 t^{x-1} (1-t)^{y-1} dt \\ & = 2 \int_0^{\frac{\pi}{2}} \sin^{2x-1}\theta \cos^{2y-1} d\theta \quad (x, y >0) \end{align}
に対して
$$B(x, y) = \frac{\Gamma(x) \Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}$$
という関係を持つことが知られています。ベータ関数は組み合わせの数 (の逆数) の実数への拡張であり、自然数 $n, m$ に対して
\begin{align}B(n, m) &= \frac{(n-1)!(m-1)!}{(n+m-1)!} \\ & = \frac{1}{(n+m-1)}\frac{1}{ _{n+m-2} C_{n-1}}\end{align}
が成り立つため、ベータ関数とガンマ関数の関係は組み合わせの数と階乗の関係の一般化と言えます。この条件は階乗の一般化が持つべき性質として適しているように思われます。
ベータ関数については以下の動画で詳しく説明していますので、ベータ関数をご存知ない方、復習したい方はこちらを見ていただきたいです。
では、このベータ関数との関係によってガンマ関数を特徴付けることはできないのでしょうか。少し条件を追加した
- $B(x, y) = {\displaystyle \frac{g(x)g(y)}{g(x+y)}}$
- ${\displaystyle \frac{g(x +n)}{g(n)} \sim n^x}$ つまり ${\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{g(x +n)}{g(n)} \frac{1}{n^x} = 1}$
という条件からガンマ関数を構成することは、冒頭の動画で (厳密な議論を避けて) 簡単に紹介しました。ただ、$\frac{g(x +n)}{g(n)} \sim n^x$ という条件は、$\log$ 凸性と同じぐらいパッとしません。この条件を緩めたいと思います。
ということでこの記事では、ガンマ関数が
- $\log$ 凸性から一意的に定まること
- ベータ関数との関係と $ \frac{g(x +n)}{g(n)} \sim n^x$ から一意的に定まること
を示した後、$ \frac{g(x +n)}{g(n)} \sim n^x$ という条件が緩められることを示します。その条件は
- $B(x, y) = {\displaystyle \frac{g(x)g(y)}{g(x+y)}}$,
- $g(1) = 1$,
- $g(x)$ はある一点で連続
で与えられるため、ガンマ関数がベータ関数との関係のみでかなり特徴づけられることがわかります。
$\log$ 凸性の話はしなくてもいいのですが、$ \frac{g(x +n)}{g(n)} \sim n^x$ と深く関わるのと、結構面白いので紹介します。
記事の構成上、論理の流れが複雑になってしまっていますが、ご了承ください。
目次
ガンマ関数の特徴付け1($\log$ 凸性)
条件
- $g(x+1) = xg(x)$.
- $g(1) = 1$.
- $\log g(x)$ は $x > 0$ で凸である.
を満たす関数 $g(x)$ $(x > 0)$ が存在すれば、それがガンマ関数に一致することを示します。流れとしては、3 つの条件から $g(x)$ の値が一意的に定まることを示し、その後、$\Gamma(x)$ が 3 つの条件を満たすことを示します。
条件を満たす関数が一意的に定まること
3 つの条件を満たす $g(x)$ が存在すると仮定して、$g(x)$ の値が一意的に定まることを示します。
$f(x) = \log g(x)$ とおくと、凸性から、$0 < a < t < b$ に対して
\begin{align} f(t) \leq \frac{f(b) -f(a)}{b-a} (t-a) + f(a), \\ f(t) \leq -\frac{f(b) -f(a)}{b-a} (b-t) + f(b) \\ \end{align}
が成り立つので
$$\frac{f(t) -f(a)}{t -a} \leq \frac{f(b) -f(a)}{b -a} \leq \frac{f(b) -f(t)}{b-t} \tag{1}$$
が成り立ちます。
$0 < x \leq 1$, $n \geq 2$ とし、$(a, t, b) = (n-1, n, n+x)$ に対して不等式 (1) を適用すると
$$\log g(n) -\log g(n-1) \leq \frac{\log g(x+n) -\log g(n)}{x}$$
となりますが、$g(n) = (n-1)!$ から
$$\log g(n) -\log g(n-1) = \log(n-1)$$
なので
$$\log(n-1) \leq \frac{\log g(x+n) -\log g(n)}{x}$$
が成り立ちます。従って
\begin{gather} (n-1)^x \leq \frac{g(x+n)}{g(n)} \\[0.3em] (n-1)^x g(n) \leq g(x+n) = g(x)(x +n-1) \cdots (x+1) x \\[0.6em] \frac{(n-1)^x (n-1)!}{(x +n-1) \cdots (x+1)x } \leq g(x) \tag{2} \end{gather}
が成り立ちます。同様に $(a, t ,b) = (n, n+x, n+1)$ に対して不等式 (1) を適用すると
\begin{align}& \frac{\log g(x+n) -\log g(n)}{x} \\ \leq \ & \log g(n+1) -\log g(n) \\ = \ & \log n\end{align}
となるので、同様に計算して
\begin{gather} \frac{g(x+n)}{g(n)} \leq n^x \\ g(x) \leq \frac{n^x (n-1)!}{(x +n-1) \cdots x} \tag{3} \end{gather}
が成り立ちます。よって、不等式 (2) の $n$ を $n+1$ に置き換えたものと、不等式 (3) の両辺に $\frac{n}{x+n}$ をかけたものから
\begin{align} \frac{n}{x+n} g(x)\leq \frac{n^x n!}{(x +n) \cdots x } \leq g(x)\end{align}
が成り立ちます。$n \to \infty$ の極限を取ると
$$g(x) = \lim_{n\to\infty} \frac{n^x n!}{(x +n) \cdots x}$$
となり、$g(x)$ の値が $0 < x \leq 1$ で一意的に定まることがわかりました。これをガウスの無限積表示と言います。
$g(x)$ は $x > 1$ において
$$g(x) = x (x-1) \cdots (x -m) g(x -m) \quad (0 < x -m \leq 1)$$
によって値が定まるので、$x > 0$ の全ての点で $g(x)$ が一意的に定まることがわかりました。
ちなみに、$0 < x \leq 1$, $m \in \mathbb{N}$ に対して $y = x + m$ とおくと
\begin{align} &\lim_{n \to \infty} \frac{n^y n!}{(y +n) \cdots y} \\ = \ &\lim_{n \to \infty} \frac{n^{x+m} n!}{(x+m +n) \cdots (x+m)} \\ = \ & \lim_{n \to \infty} \frac{n^x n!}{(x+n) \cdots x} \frac{n^m}{(x + m +n) \cdots (x+n+1)}(x+m-1) \cdots x\\ = \ & (x+m-1) \cdots xg(x) \\ = \ & g(y) \end{align}
なので、
$$g(x) = \lim_{n\to\infty} \frac{n^x n!}{(x +n) \cdots x}$$
は $x > 0$ で成り立ちます。
ガンマ関数が条件を満たすこと
ガンマ関数が
- $\Gamma(x+1) = x \Gamma(x)$
- $\Gamma(1) = 1$
を満たすことは、(部分積分等の) 単純な計算で確かめられるので省略します。
$\log \Gamma(x)$ が凸であることを示します。そのためには $\log \Gamma(x)$ の 2 階微分が $x > 0$ で常に正であることを示せば十分です。
積分と微分の順序交換を認めれば
\begin{align} \frac{d}{dx} \Gamma(x) &= \frac{d}{dx} \int_0^{\infty}e^{-t}t^{x-1} dt \\ &= \int_0^{\infty} \frac{d}{dx} e^{-t}t^{x-1} dt \\ &= \int_0^{\infty} e^{-t}t^{x-1} \log t dt \\ \frac{d^2}{dx^2} \Gamma(x) &= \int_0^{\infty} \frac{d}{dx} e^{-t}t^{x-1} \log t dt \\ &= \int_0^{\infty} e^{-t}t^{x-1} (\log t)^2 dt \\ \end{align}
となります。積分と微分の順序交換が可能であることは記事の末尾で示すこととして、今は一旦認めることとします。$\log \Gamma(x)$ の 2 階微分は
\begin{align} \left( \log \Gamma(x)\right)^{\prime\prime} &= \left(\frac{\Gamma^{\prime}(x)}{\Gamma(x)}\right)^{\prime}\\ &= \frac{\Gamma^{\prime\prime}(x)\Gamma(x) -\Gamma^{\prime}(x)^2 }{\Gamma(x)^2} \end{align}
となります。ここで、$\Gamma^{\prime}(x)^2 -\Gamma^{\prime\prime}(x)\Gamma(x)$ は方程式
$$\Gamma^{\prime\prime}(x) u^2 + 2\Gamma^{\prime}(x)u +\Gamma(x) = 0$$
の判別式なので、この方程式が解を持たなければ判別式 $D < 0$、つまり $\left( \log \Gamma(x)\right)^{\prime\prime} > 0$ がわかります。任意の $u \in \mathbb{R}$ に対して
\begin{align} &\Gamma^{\prime\prime}(x) u^2 + 2\Gamma^{\prime}(x)u +\Gamma(x) \\ = \ & \int_0^{\infty} e^{-t}t^{x-1} (u^2 (\log t)^2 + 2 u \log t + 1) \\ = \ & \int_0^{\infty} e^{-t} t^{x-1} (u \log t + 1)^2 \\ > \ & 0 \end{align}
なので、$\log \Gamma(x)$ は $x > 0$ で凸関数です。(ちなみに、ヘルダーの不等式を用いた証明もあるようで、そっちの方が簡単です。)
よって $\Gamma(x)$ は 3 つの条件を満たします。さっき示したことから
$$\Gamma(x) = \lim_{n\to\infty} \frac{n^x n!}{(x +n) \cdots x}$$
が成り立ちますが、3 つの条件を満たす他の関数 $g(x)$ が存在したとすると
$$g(x) = \lim_{n\to\infty} \frac{n^x n!}{(x +n) \cdots x} = \Gamma(x)$$
となるので、3 つの条件が $\Gamma(x)$ を特徴付けるものになっています。
$\log$ 凸について思うこと
$\log$ 凸性から、ガウスの無限積表示
$$g(x) = \lim_{n\to\infty} \frac{n^x n!}{(x+n) \cdots x}$$
を示し、それによって関数が一意的に定まる、ガンマ関数が条件を満たすのでガンマ関数に一致する、という流れで話をしましたが、これはガンマ関数の積分表示を知っていること前提なのが少し不満です。
証明を振り返ると、ガウスの無限積表示を得るためには $n^x \sim \frac{g(x+n)}{g(n)}$ が成り立てば十分です。ただ、$n^x \sim \frac{g(x+n)}{g(n)}$ は $\log$ 凸性と同じぐらいパッとしないし、$\log$ 凸性の方が印象に残るので、そういう意味では $\log$ 凸性という条件は悪くない気もします。
$\log$ 凸性から直接的にガンマ関数の積分表示を得ることは難しいように思います。ガンマ関数の積分表示を得るには、ガンマ関数とベータ関数の関係を示して、この後で説明するガンマ関数の構成2の方法を用いるのが自然だと思われます。ガンマ関数とベータ関数の関係は $\log$ 凸性から積分の計算をせずに導く事ができるので、その点は個人的には良いと思います。その方法はこの記事の末尾で紹介します。
ガンマ関数の構成2 (ベータ関数)
$x > 0$ で定義された関数 $g(x)$ が条件
- $B(x, y) = {\displaystyle \frac{g(x)g(y)}{g(x+y)}}$
- ${\displaystyle \frac{g(x +n)}{g(n)} \sim n^x}$ つまり ${\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n^x}\frac{g(x +n)}{g(n)} = 1}$
を満たすとき、$g(x)$ はガンマ関数に一致することを示します。
証明の概略
まず条件 1 から、任意の自然数 $n$ に対して
$$g(x) = \frac{g(x+n)}{g(n)} B(x, n)$$
が成り立ちます。また、
\begin{align} & n^x B(x, n+1) \\ = \ & n^x \int_0^1 t^{x-1} \left(1 -t\right)^{n}dt \\ = \ & n^x \int_0^n \left(\frac{u}{n} \right)^{x-1} \left(1 -\frac{u}{n}\right)^{n} \frac{1}{n} du \quad \left(t = \frac{u}{n}\right) \\ = \ & \int_0^n u^{x-1} \left(1 -\frac{u}{n}\right)^{n} du \end{align}
となります。よって
$$\lim_{n\to \infty} \int_0^n u^{x-1} \left(1 -\frac{u}{n}\right)^{n} du = \int_0^{\infty} u^{x-1} e^{-u} du \tag{*}$$
を示すことができれば、
\begin{align} g(x) &= \lim_{n\to\infty}\frac{g(x+n)}{g(n)} B(x, n) \\ &= \lim_{n\to\infty} n^x \frac{1}{n^x} \frac{g(x+n)}{g(n)} \frac{x +n}{n} B(x, n+1) \\ &= \lim_{n\to\infty} n^x B(x, n+1) \\ &= \lim_{n\to\infty} \int_0^n u^{x-1} \left(1 -\frac{u}{n}\right)^{n} du \\ &= \Gamma(x) \end{align}
となり、ガンマ関数に一致することがわかります。
積分と極限の交換
等式 $(*)$ の極限の交換ができることを示します。積分範囲を合わせるために、
$$1_{\leq n} (t) = \begin{cases} 1 & ( t \leq n) \\ 0 & (t > n) \end{cases}$$
として、
$$\int_0^n t^{x-1} \left(1 -\frac{t}{n}\right)^n dt = \int_0^{\infty} t^{x-1} \left(1 -\frac{t}{n}\right)^n 1_{\leq n}(t) dt$$
としておきます。
$$f_n(t) = t^{x-1} \left(1 -\frac{t}{n}\right)^{n} 1_{\leq n}(t)$$
とおいたとき、各点 $t$ で
$$\lim_{n \to \infty} f_n(t) = t^{x-1} e^{-t}$$
となるので、示すべきことは
$$\lim_{n \to \infty} \int_0^{\infty} f_n(t) dt = \int_0^{\infty} \lim_{n \to \infty} f_n(t) dt $$
です。
通常のリーマン積分論においては一般に、関数列 $\{f_n\}$ が一様収束することが、極限と積分の交換の十分条件として知られていますが、広義積分においてはそれだけでは不十分のようです。広義積分の場合は、区分的に連続な可積分関数 $g(t)$ で、任意の $n$ と任意の $t$ に対して $|f_n(t)| \leq g(t)$ を満たすものが存在すれば良いことが知られています。このような $g(t)$ を優関数といいます。この辺りの事情は「Wikibooks 解析学基礎/関数列の極限」に載っています。
ルベーグ積分においても同様に、優関数が存在すれば極限の交換が可能であることが知られています (優収束定理)。この場合は区分的に連続である必要はありません。
いずれにしても、関数列 $\{f_n\}$ の優関数を見つければ十分です。実は $\left(1 -\frac{t}{n}\right)^{n}$ は $n$ に関して単調増加になっていて、$e^{-t}$ に収束するので、
$$g(t) = t^{x-1} e^{-t}$$
が $\{f_n\}$ の優関数になっています。($g(t)$ が可積分であることは既知とします。冒頭の動画で説明しています。)
それでは $\left(1 -\frac{t}{n}\right)^{n}$ が $n$ に関して単調増加であることを示します。$n$ を連続変数とみなして微分をしても良いですが、計算が面倒なので別の方法を用います。
$n$ 個の $1 -\frac{t}{n}$ と $1$ 個の $1$ の相加平均、相乗平均の関係から
\begin{align} \frac{n\left(1 -\frac{t}{n}\right) + 1}{n+1} &\geq \sqrt[n+1]{\left(1 -\frac{t}{n}\right)^n \cdot 1} \\ \frac{n -t + 1}{n+1} = 1 -\frac{t}{n+1} & \geq \sqrt[n+1]{\left(1 -\frac{t}{n}\right)^n} \\ \left(1 -\frac{t}{n+1}\right)^{n+1} &\geq \left(1 -\frac{t}{n}\right)^n \end{align}
となり、$n$ に関して単調増加であることがわかりました。
以上で、
$$f_n(t) = t^{x-1} \left(1 -\frac{t}{n}\right)^{n} \leq t^{x-1} e^{-t} = g(t)$$
が分かり、$f_n \to g$ から
$$\lim_{n \to \infty} \int_0^n t^{x-1} \left(1 -\frac{t}{n}\right)^n dt = \int_0^{\infty} t^{x-1} e^{-t} dt$$
が分かりました。
もっと良い特徴付けはないのか?
ガンマ関数のもっと良い特徴付けはないのでしょうか。冒頭にも述べた通り、$\log$ 凸性はいまいちパッとしません。ベータ関数による特徴付けも、$n^x \sim \frac{g(x+n)}{g(n)}$ という条件があまりパッとしません。この条件を緩められないか考えます。ガンマ関数
$$\Gamma(x) = \int_0^{\infty} t^{x-1} e^{-t} dt$$
が
$$B(x, y) = \frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}$$
を満たすことは既知とします。(これは冒頭の動画で証明していますし、$\log$ 凸性から示すこともできます。)
ベータ関数との関係だけから分かること
$x > 0$ で定義された関数 $g(x)$ が
$$B(x, y) = \frac{g(x)g(y)}{g(x+y)}$$
を満たすとします。$B(x, x) > 0$ かつ
$$B\left(\frac{1}{2}x, \frac{1}{2}x\right) = \frac{g\left(\frac{1}{2}x\right)^2}{g(x)}$$
から、$g(x) > 0$ が分かります。すでに示したように
\begin{align}& \lim_{n \to \infty} n^x B(x, n) \\ = \ & \lim_{n \to \infty} \frac{n+x}{n} n^x B(x, n+1) \\ = \ & \Gamma(x)\end{align}
なので、
\begin{align}\Gamma(x) &= \lim_{n \to \infty}n^x \frac{g(x)g(n)}{g(n+x)} \\ &= g(x) \lim_{n \to \infty} n^x \frac{g(n)}{g(n+x)} \\ & < \infty\end{align}
となります。ここで
$$a(x) = \lim_{n \to \infty} n^x \frac{g(n)}{g(n+x)}$$
とおけば、
$$g(x) = \Gamma(x) a(x)$$
となります。$\frac{g(n+x)}{g(n)} \sim n^x$ は $a(x) = 1$ を意味し、$g(x) = \Gamma(x)$ となりますが、必要なのは $a(x) = 1$ だけなので、$\frac{g(n+x)}{g(n)} \sim n^x$ という条件は強いように思われます。
任意の $x, y >0$ に対して
\begin{align} & B(x, y) = \frac{g(x)g(y)}{g(x+y)} \\ = \ & \frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)} \frac{a(x)a(y)}{a(x+y)} \\ = \ & B(x, y) \frac{a(x)a(y)}{a(x+y)} \\ \end{align}
なので、$a(x)$ は
$$a(x)a(y)=a(x+y)$$
を満たします。これが $1$ になる条件を見つければ良いです。
コーシーの関数方程式
実数上の関数に関する方程式
$$f(x + y) = f(x) + f(y)$$
をコーシーの関数方程式というようです。
$$\log a(x+y) = \log a(x) + \log a(y)$$
なので、$\log a(x)$ はコーシーの関数方程式を満たします。
コーシーの関数方程式は結構有名らしく、”f(x+y) = f(x) + f(y)” で検索すると幾つか解説が見つかります。例えば数学の景色というサイトでは、$f$ がある一点で連続であれば、$c \in \mathbb{R}$ を定数として
$$f(x) = c x$$
と表される事が解説されています。(他にも 3 つほど十分条件が知られており、「ある区間で有界」という十分条件もあります。そっちの方がシンプルかもしれません。)
以上を仮定すれば、$a(x)$ がある一点で連続であれば $a(x) = e^{cx}$ と表される事が分かります。さらに $a(1) = 1$ も満たせば、$a(x) = 1$ が分かります。
ガンマ関数のより良い特徴付け
定義から
$$a(x) = \frac{\Gamma(x)}{g(x)}$$
で、$\Gamma(x)$ は連続、$g(x) > 0$ なので、$g(x)$ が一点で連続であれば $a(x)$ も一点で連続です。さらに $\Gamma(1) = 1$ なので、$g(1) = 1$ であれば $a(1) = 1$ となります。従って
- $B(x, y) = {\displaystyle \frac{g(x)g(y)}{g(x+y)}}$
- $g(1) = 1$
- $g(x)$ は (一点で) 連続
を満たせば、$g(x)$ はガンマ関数に一致します。
$g(1) = 1$ は $\log$ 凸の特徴付けにもあったように自然であり、階乗の実数への拡張に連続性を求めるのも自然であると思われます。ベータ関数は組み合わせの数の実数への拡張で、さらに
- ベータ関数はガンマ関数よりも簡単
- ベータ関数は、歴史的に古いウォリス積分の一般化である
- ベータ関数はオイラーの第1種積分、ガンマ関数はオイラーの第2種積分とも呼ばれているし、ガンマはベータの後のアルファベットである
ことから、ベータ関数を前提として、それと良い関係が成り立つように階乗の実数への拡張を定義することは自然であると思われます。
以上から、このガンマ関数の特徴付けは、$\log$ 凸よりも自然な感じがします。
ちなみに歴史的には、オイラーは
$$\Gamma(x) = \int_0^1 (- \log t)^{x-1} dt$$
と定義していた (指数は $x-1$ でなく $x$ としていた可能性もある) ようです。ベータ関数との関係を前提にガンマ関数を求めたわけではなさそうです。おそらくオイラーがゴールドバッハに宛てた手紙が初出で、ベータ関数の考察から始まっているので、オイラーもベータ関数から何らかの方法でガンマ関数を求めた可能性があります。 (スターリングの研究からの派生のようです。手紙の内容を眺めたときそう感じましたが、根拠とする文言が見つかりませんでした。(おそらくラテン語なのでちゃんと読めてません。))
補足1. ガンマ関数の連続性と微分可能性について
ガンマ関数の微分についての説明を飛ばしていたので、最後にそれを説明します。
ガンマ関数の連続性
微分の前に、ガンマ関数が連続であることを説明します。示すべきことは
\begin{align}\lim_{\delta \to \infty}\Gamma(x+\delta) &= \lim_{\delta \to 0} \int_0^{\infty} e^{-t} t^{x+\delta-1} dt \\ &= \int_0^{\infty} e^{-t} t^{x-1}dt\end{align}
なので、極限と積分が交換できることを示せば良いです。そのためには、十分小さい $\delta$ に対して $e^{-t} t^{x+\delta-1}$ の優関数が存在すれば良いです (詳しくはこちら)。優関数は、$|\delta| < \delta^{\prime} < x-1$ を満たす $\delta^{\prime}$ を一つとり
$$g(t) = \begin{cases}e^{-t} t^{x-\delta^{\prime}-1} & (t \leq 1) \\ e^{-t} t^{x+\delta^{\prime} -1} & (t > 1) \end{cases}$$
とすることで得られます。$g(t)$ が可積分であることは、ガンマ関数の可積分性と同じです。
積分と微分の順序交換について
積分と微分の順序交換は、通常のリーマン積分においては割とゆるい条件で成立します。$I$ を適当な区間、$J = [a, b]$ を閉区間とし、連続関数 $f: I \times J \to \mathbb{R}$ が
- ${\displaystyle \frac{\partial f}{\partial x}} (x, t)$ が $I \times J $ で存在して連続である
を満たせば、$x \in I$ で
$$\frac{d}{d x}\int_a^b f(x, t) dt = \int_a^b \frac{\partial f}{\partial x} (x, t) dt$$
が成り立つことが知られています ([基礎物] パラメータを含む積分)。
しかし、ガンマ関数は積分区間が閉区間でない (広義積分) ため、積分区間に関する極限操作を必要とします。その場合は、$f$ の可積分性や区間の極限に関する一様収束を仮定するのが一般的なようです ([杉浦 定理 14.4])。具体的には以下のようになります。
$I$ を適当な区間、$J = [a, b)$ とし、連続関数 $f: I \times J \to \mathbb{R}$ が
- ${\displaystyle \frac{\partial f}{\partial x}} (x, t)$ が $I \times J $ で存在して連続である.
- 任意の $x \in I$ に対して $\int_a^b f(x, t) dt$ は収束する.
- $b$ に収束する任意の $\{b_n\}$ に対して $F_n(x) = {\displaystyle \int_a^{b_n} \frac{\partial f}{\partial x} dt}$ は $I$ 上広義一様収束する.
を満たせば、$x \in I$ で
$$\frac{d}{d x}\int_a^b f(x, t) dt = \int_a^b \frac{\partial f}{\partial x} (x, t) dt$$
が成り立ちます。$J$ を $(a, b]$ や $(a, b)$ に置き換えても、($(a, b) = (a, c] \cup [c, b)$ と分割することで) 同様のことが成り立ちます。また、$[a, \infty)$, $(-\infty, b]$ の場合も成り立ちます。
このように広義積分の場合、広義積分の収束に関する条件が追加されます。$\frac{\partial f}{\partial x}$ の積分が閉区間 $I^{\prime} \subset I$ 上で一様収束するための十分条件は知られていて、$J$ 上の関数 $g(t)$ で、
- $\int_a^b g(t) dt$ が収束する.
- 任意の $t \in J$ に対して$$\sup_{x \in I^{\prime}} \left| \frac{\partial f}{\partial x} (x, t) \right| \leq g(t).$$
を満たすものが存在すれば良いです ([杉浦 定理 14.2])。このような関数 $g(t)$ を優関数といいます。
ちなみに、ルベーグ積分だと通常の積分と広義積分を分ける必要がなく、以下の条件で微分と積分の交換が成り立ちます。$I$ を開区間として、関数 $f: I \times \mathbb{R} \to \mathbb{R}$ が
- ${\displaystyle \frac{\partial f}{\partial x}} (x, t)$ が $I \times \mathbb{R}$ で存在する.
- 任意の $x \in I$ に対して $\int_{\mathbb{R}} |f(x, t)| dt < \infty$.
- ある可積分関数 $g(t)$ が存在し、$$\sup_{x \in I} \left| \frac{\partial f}{\partial x} (x, t) \right| \leq g(t).$$
を満たすとき、$x \in I$ で微分と積分が交換できます ([吉田 定理 2. 5. 1])。応用上はリーマン積分の場合とほぼ同じです。違いは連続性を仮定しないことと理論的にスッキリしていることです。
優関数の存在を示すことで、ガンマ関数の微分と積分が交換できることを示します。
ちなみに、絶対収束する広義リーマン積分はルベーグ積分と一致することが知られており ([吉田 定理 3. 3. 2])、都合に合わせて互いを行き来することができます。
ガンマ関数の微分
ガンマ関数の積分の中身である $e^{-t} t^{x-1}$ の微分は
$$\frac{d^n}{d x^n} e^{-t} t^{x-1} = e^{-t} t^{x-1} (\log t)^n$$
となります。
よって、任意の $x_0 > 0$ と $n \geq 0$ に対して、ある $0< \delta < 0$ が存在して、$x_0 -\delta < x < x_0 +\delta$ に対して
$$|e^{-t} t^{x -1} (\log t)^n| \leq g_{n, x_0, \delta}(t)$$
を満たす可積分関数 $g_{n, x_0, \delta}(t)$ を構成すれば、任意の $x > 0$ で微分と積分の交換ができ、$\Gamma(x)$ の微分を求めることができます。
$t \geq 1$ と $t \leq 1$ で分けます。$t \geq 1$ のときは $e^{-t} t^{x -1} (\log t)^n > 0$ で、$\log t < t$ なので $e^{-t} t^{x + n-1}$ が可積分であることを示せば良いです。$m$ を
$$m > x _0 + \delta + n + 1$$
を満たす自然数とすると、
$$e^t = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} t^n > \frac{1}{m!} t^m$$
であることから
\begin{align}e^{-t} t^{x + n-1} &< m! \frac{t^{x +n-1}}{t^m} \\ &< m! t^{x_0 +\delta +n-1-m} \\ &< \frac{m!}{t^2}\end{align}
であり、$\frac{m!}{t^2}$ は (広義リーマン) 可積分なので、$t \geq 1$ において可積分関数 $\frac{m!}{t^2}$ により上から抑えられます。
$t \leq 1$ の場合は、$0 < x_1 < x_0 -\delta$ とすると $t^{x_1 -1} > t^{x-1}$ なので
$$|e^{-t} t^{x -1} (\log t)^n| \leq t^{x_1 -1} |\log t|^n = (-1)^n t^{x_1 -1} (\log t)^n$$
が可積分であることを示せば良いです。計算すると
\begin{align} & \int_0^1 t^{x_1 -1} (\log t)^n dt\\ = \ & \int_0^1 \left(\frac{t^{x_1}}{x_1}\right)^{\prime}(\log t)^n dt \\ = \ & \frac{1}{x_1}\big[t^{x_1}(\log t)^n\big]_0^1 -\frac{1}{x_1}\int_0^1 t^{x_1} n (\log t)^{n-1} \frac{1}{t} dt \\ = \ & \frac{1}{x_1} \lim_{t \to 0} t^{x_1}(\log t)^n -\frac{1}{x_1}\int_0^1 t^{x_1-1} n (\log t)^{n-1} dt \\ \end{align}
なので、あとは
$$\left|\lim_{t \to 0} t^{x_1}(\log t)^n \right| < \infty$$
を示せば良いです。これは微分を取れば簡単にわかるので、可積分関数 $t^{x_1 -1} |\log t|^n$ で上から抑えられます。
以上から
$$g_{n, x, \delta}(t) = \begin{cases} t^{x_1 -1} |\log t|^n & (t \leq 1) \\ {\displaystyle \frac{m!}{t^2}} & (t > 1) \end{cases}$$
とおけば、$g_{n, x_0, \delta}(t)$ は可積分で
$$\sup_{x \in (x_0 -\delta, x_0+\delta)} |e^{-t} t^{x -1} (\log t)^n| \leq g_{n, x_0, \delta}(t)$$
を満たします。これにより、任意の $n \geq 0$ において $x_0$ の近くの点で微分と積分が交換できます。$x_0 > 0$ は任意なので、任意の $x > 0$ に対して
$$\Gamma^{(n)}(x) = \int_0^{\infty} e^{-t} t^{x-1} (\log t)^n dt$$
であることが示されました。
補足2. $\log$ 凸性からガンマ関数とベータ関数の関係を得る
$\log$ 凸での特徴付けでは
$$\Gamma(x) = \lim \frac{n^x n!}{(x+n) \cdots x}$$
という形のガンマ関数の表示が得られましたが、条件から直接ガンマ関数の積分表示を得るのは難しそうです。ガンマ関数の積分表示を得るには、ベータ関数とガンマ関数の関係を使うのが良いので、$log$ 凸性から
$$B(x, y) = \frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}$$
を示しましょう。
まず $y$ を固定して
$$f(x) = B(x, y) \Gamma(x + y)$$
とおきます。これが $x$ に関してガンマ関数の定数倍であることを示します。両辺の $\log$ を取ると
$$\log f(x) = \log B(x,y) + \log \Gamma(x + y)$$
で、$\log \Gamma(x + y)$ は $x$ に関して凸なので、$\log B(x,y)$ が $x$ に関して凸であれば $\log f(x)$ も凸になります。$B(x, y)$ の微分は、微分と積分の順序交換を仮定すると
\begin{align}\frac{d}{dx} B(x, y) &= \int_0^1 \frac{d}{dx} t^{x-1} (1 -t)^{y-1} dt \\ &= \int_0^1 t^{x-1} (1 -t)^{y-1} \log t dt \\ \frac{d^2}{dx^2} B(x, y) &= \int_0^1 t^{x-1} (1 -t)^{y-1} (\log t)^2 dt \\ \end{align}
なので、ガンマ関数の $\log$ 凸性を示したときと同様にして、$\log B(x,y)$ が凸である事が分かります。微分と積分の順序交換は $t^{x-1} (1 -t)^{y-1} (\log t)^n$ の優関数を求めれば良いですが、それはガンマ関数の場合より簡単なので省略します。
次に $f(x+1)$ と $f(x)$ の関係は
\begin{align}f(x+1) &= B(x+1, y) \Gamma(x+y+1) \\ &= \frac{x}{y+x} B(x, y) (x+y) \Gamma(x+y) \\ &= B(x+1, y) \Gamma(x+y) \\ &= xf(x) \end{align}
となります。
最後に $f(1)$ は
$$f(1) = B(1, y)\Gamma(y+1) = \frac{1}{y} y \Gamma(y)$$
なので、
$$\bar{f}(x) = \frac{f(x)}{\Gamma(y)}$$
とおくと、$\bar{f}(x)$ は $\log$ 凸かつ $\bar{f}(x +1) = x \bar{f}(x)$, $\bar{f}(1) = 1$ を満たすので、$\bar{f}(x) = \Gamma(x)$ となります。よって
$$\Gamma(x) = \frac{f(x)}{\Gamma(y)} = \frac{B(x, y) \Gamma(x)}{\Gamma(y)}$$
となり、
$$B(x, y) = \frac{\Gamma(x)\Gamma(y)}{\Gamma(x+y)}$$
が分かりました。
このように、$\log$ 凸でガンマ関数を特徴付けると積分の計算なしにベータ関数とガンマ関数の関係を示す事ができます。
参考文献
[杉浦] 杉浦 光夫. 解析入門 (1)
[基礎物] 基礎物理から半導体デバイスまで. パラメータを含む積分
[吉田] 吉田伸生. ルベーグ積分入門