中国最古の円周率の求め方である劉徽の方法を簡単に解説した後、以下の記事
を参考に、動画では触れなかった無限積公式について解説します。
劉徽の方法の詳細は以下の動画で解説しています。
劉徽の方法
劉徽は円の面積を上下から評価することで円周率を求めました。下からの評価はスタンダードに内接正多角形を用いましたが、上からの評価は少し特殊で、内接正多角形の各辺に長方形を付け足して円を覆うようにした図形を用いました。

円の半径を $1$ とし、内接正 $n$ 角形の面積を $A_n$ とおきます。円の面積は $\pi r^2 = \pi$ なので
$$A_n < \pi$$
が成り立ちます。下の図のように線を引くと

緑の部分の面積は内接正 $2n$ 角形から内接正 $n$ 角形を除いた部分になり、長方形の面積はその $2$ 倍なので
$$\pi < A_{n} + 2(A_{2n} -A_n) = 2A_{2n} -A_n$$
が成り立ちます。よって内接正 $n$ 角形の面積を求めれば円周率が求められます。
次に、内接正 $n$ 角形の 1 辺の長さを $a_n$ とおくと、以下の図の三角形の底辺の長さは $1$、高さは $\frac{a_n}{2}$ であり、その $2n$ 倍が $A_{2n}$ に等しいので

$$A_{2n} = \frac{na_n}{2}$$
が成り立ちます。よって $a_n$ を求めれば $A_n$ が計算できます。
$a_n$ の計算は、以下の図のように点 $P$ をおくと

\begin{align} 1 &= OP^2 + \left(\frac{a_n}{2}\right)^2 \\ a_{2n}^2 &= (1 -OP)^2 + \left(\frac{a_n}{2}\right)^2 \\ \end{align}
がわかります。整理すると
\begin{align} a_{2n}^2 &= 1 -2OP + OP^2 + \left(\frac{a_n}{2}\right)^2 \\ &= 2 -2 \sqrt{1 -\left(\frac{a_n}{2}\right)^2} \\ &= 2 -\sqrt{4 -a_n^2} \end{align}
となり、$a_n$ の漸化式が得られます。$a_6 = 1$ なので、この漸化式を用いて $A_n$ の計算ができます。まとめると
$$A_n < \pi < 2A_{2n} -A_{n} \tag{1}$$
$$A_{2n} = \frac{n a_n}{2} \tag{2}$$
$$a_n^2 = 2 -\sqrt{4 -a_n^2} \tag{3}$$
で円周率を求めることができます。式 (1) を適用する時点で $A_{2n}$ が計算されているので、代わりに
$$A_{2n} < \pi < 2A_{2n} -A_{n} \tag{4}$$
を用いても良いです。
無限積の公式
ヴィエトの公式は内接正多角形の周の比 $\displaystyle \frac{n a_n}{2n a_{2n}}$ を計算することで得ることができました。また、外接正多角形の周の比 $\displaystyle \frac{n b_n}{2n b_{2n}}$ を計算することで、形が汚い無限積の公式が得られました。
劉徽の方法でも無限積が得られると考えられますが、$\frac{A_n}{A_{2n}}$ を計算しても、式 $(2)$ からに周の比と同じ値になるのでヴィエトの公式が得られます。よって上からの評価に用いた $2A_{2n} -A_n$ の比
$$\frac{2 A_{4n} -A_{2n}}{2A_{2n} -A_n}$$
を考えます。
まず $OP = \frac{1}{2} \sqrt{4 -a_n^2}$ であることを用いると
$$A_n = n \frac{a_n OP}{2} = \frac{n a_n}{4}\sqrt{4 -a_n^2}$$
が成り立ちます。ここで $c_n = \frac{A_n}{A_{2n}}$ とおくと
\begin{align} c_{2n} &= \frac{A_{2n}}{A_{4n}} = \frac{\frac{2n a_{2n}}{4}\sqrt{4 -a_{2n}^2}}{\frac{2n a_{2n}}{2}} \\ &= \frac{\sqrt{4 -a_{2n}^2}}{2} \\ &= \frac{\sqrt{4 -(2 -\sqrt{4 -a_n^2}})}{2} \\ &= \frac{\sqrt{2 +\sqrt{4 -a_n^2}}} {2}\\ &= \frac{\sqrt{2 +2 \frac{A_n}{A_{2n}}}} {2}\\ &= \sqrt{ \frac{1}{2} + \frac{1}{2}c_n} \end{align}
なので
$$c_{2n} = \sqrt{\frac{1}{2} +\frac{1}{2}c_n}$$
となります。このとき
\begin{align} \frac{2 A_{4n} -A_{2n}}{2A_{2n} -A_n} &= \frac{2 \frac{A_{4n}}{A_{2n}} -1}{2 -\frac{A_n}{A_{2n}}} \\ &= \frac{ \frac{2}{c_{2n}} -1}{2 -c_n} \\ &= \frac{2 -c_{2n}}{c_{2n}(2 -c_n)} \end{align}
なので、$m \geq 2$ に対して
\begin{align} &2A_{2^{m+2}} -A_{2^{m+1}} \\ = \ & (2A_8 -A_4)\prod_{k=2}^m \frac{2A_{2^{k+2}} -A_{2^{k+1}} }{2A_{2^{k+1}} -A_2^k} \\ = \ & A_8 (2 -c_4) \frac{(2 -c_{2^{m+1}})}{2 -c_4} \prod_{k=2}^m \frac{1}{c_{2^{m+1}}} \\ = \ & A_4 (2 -c_{2^{m+1}}) \prod_{k=2}^m \frac{1}{c_{2^m}} \tag{5}\end{align}
となります。$A_4 = 2$, $a_4 = \sqrt{2}$ なので
$$c_4 = \frac{A_4}{A_8} = \frac{2}{ \frac{4 a_4}{2}} = \sqrt{\frac{1}{2}}$$
であり、
$$\lim_{n \to \infty} (2A_{2n} -A_n) = \pi$$
$$\lim_{n \to \infty} c_{2^{m+1}} = 1$$
に注意して極限を取ると
$$\pi = \lim_{m \to \infty} (2A_{2^{m+2}} -A_{2^{m+1}}) = 2 \prod_{k=2}^{\infty} \frac{1}{c_{2^m}}$$
\begin{align} &\frac{2}{\pi} = \prod_{k=2}^{\infty} c_{2^m} = \sqrt{\frac{1}{2}} \sqrt{\frac{1}{2} + \frac{1}{2} \sqrt{\frac{1}{2}}} \sqrt{\frac{1}{2} + \frac{1}{2}\sqrt{\frac{1}{2} + \frac{1}{2} \sqrt{\frac{1}{2}}}} \cdots \end{align}
となり、結局ヴィエトの公式が得られます。
極限を取るとヴィエトの公式と同じになってしまいますが、極限を取る前の式 $(5)$ は $(2 -c_{2^{m+1}})$ がかかっているおかげで $\pi$ を上から評価できます。
参考文献
[上野] 上野健爾. 円周率が歩んだ道.