この記事は、以下の記事
「円周率の arctan公式の良さを表す Lehmer 指標について」
の補足記事であり、Lehmer 指標が「円周率の計算精度を一桁上げるのために計算が必要な項数」の2倍であることを証明することが目的です。
目次
$\arctan$ 型公式の一般型と Lehmer 指標の定義
$\arctan$ 型公式の一般型
$\arctan$ 型公式の一般型は
\begin{gather}k \frac{\pi}{4} = \sum_{i=1}^{N} c_i \arctan \frac{a_i}{b_i} \\(k \in \mathbb{Z}_{>0},\ c_i \in \mathbb{Z} \setminus \{0\},\ a_i, b_i \in \mathbb{Z},\ a_i < b_i)\end{gather}
と表されます。ここで、$\mathbb{Z}_{>0}$ は正の整数を表します。左辺の $\frac{1}{4}$ は右辺の $c_i$ に吸収させることもできますが、歴史的経緯からこのように表します。$a_i < b_i$ は、$\arctan x$ のテイラー展開が $x > 1$ で発散してしまうので、それを防ぐためにつけています。
Lehmer 指標
Lehmer は [Lehmer] において、 $\arctan$ 型公式に対して
$$\sum_{i = 1}^N \frac{1}{\log(\frac{b_i}{a_i})}$$
を measure と呼びました (おそらく測度とは無関係)。そしてこれが $\arctan$ 型公式の収束の速さを表す指標であるとしました。しかし Lehmer は、「係数の部分は無視できるので、ある精度を得るのに必要な計算項数はこの値に比例する」ということを述べているのみで、それ以上の説明は書かれていません。これをもっと正確に示すのがこの記事の目的です。
$\arctan$ の冪級数展開と収束の速さ
まずは一つの $\arctan x$ の収束について考えます。
冪級数展開
$\arctan x$ の微分は $\frac{1}{1 + x^2}$ で与えられ、$\arctan 0 = 0$ であることから
$$\arctan x = \int_0^t \frac{1}{1 + t^2} dt$$
が成り立ちます。ここで
$$(1 +t^2) \sum_{n=0}^{m} (-1)^n t^{2n} = 1 +(-1)^{m} t^{2m+2}$$
から
$$\frac{1}{1 +t^2} = \sum_{n=0}^{m} (-1)^n t^{2n} + (-1)^{m+1} \frac{t^{2m+2}}{1 +t^2} $$
なので、
\begin{align} \arctan x &= \int_0^x \left( \sum_{n=0}^{m} (-1)^n t^{2n} + (-1)^{m+1} \frac{t^{2m+2}}{1 +t^2} \right) dt \\ &= \sum_{n=0}^{m} \frac{(-1)^n}{2n+1} x^{2n+1} + \int_0^x (-1)^{m+1} \frac{t^{2m+2}}{1 +t^2} dt \end{align}
が成り立ちます。ここで
$$E_m(x) = \left|\int_0^x (-1)^{m+1} \frac{t^{2m+2}}{1 +t^2} dt \right|$$
とおくと、$\frac{1}{1 +x^2} \leq \frac{1}{1 + t^2} \leq 1$ から
\begin{align} E_m(x) &\leq \left|\int_0^x (-1)^{m+1} t^{2m+2} dt\right| \\ & = \frac{|x|^{2m+3}}{2m+3} \\ E_m(x) &\geq \left|\frac{1}{1+x^2}\int_0^x (-1)^{m+1} t^{2m+2} dt\right| \\ &= \frac{1}{1+x^2}\frac{|x|^{2m+3}}{2m+3} \end{align}
なので、
$$\frac{1}{1+x^2}\frac{|x|^{2m+3}}{2m+3} \leq E_m(x) \leq \frac{|x|^{2m+3}}{2m+3}$$
が成り立ちます。特に、$|x| \leq 1$ のとき
$$\lim_{m \to \infty} E_m(x) = 0$$
なので、
$$\arctan x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{2n+1} x^{2n+1}$$
となります。
計算精度と計算項数
$\arctan -x = -\arctan x$ なので、$x > 0$ の場合のみ考えます。$\arctan x$ を冪級数展開を用いて求めるとき、$n = m$ までで止めた場合の誤差は
$$E_m(x) = \left| \arctan x -\sum_{n=0}^m \frac{(-1)^n}{2n+1} x^{2n+1}\right|$$
で与えられます。誤差を $10^{-n}$ 以下で求めたい場合は
\begin{align} & E_m(x) \leq 10^{-n} \\ \Leftrightarrow \ & \log_{10}E_m(x) \leq -n \\ \Leftrightarrow \ & \log_{10} \frac{1}{E_m(x)} \geq n \end{align}
を満たすように $m$ を求めれば十分です。これを $m$ で割った
$$\frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{E_m(x)}$$
は、1 項あたりの精度の桁数の上昇分と考えることができます。$E_m(x)$ に関する不等式から
\begin{align} & \frac{2m+3}{m} \log_{10} \frac{1}{x} + \frac{\log_{10}(1+x^2) +\log_{10}(2m+3)}{m} \\ \leq & \ \frac{1}{m}\log_{10} \frac{1}{E_m(x)} \\ \leq & \ \frac{2m+3}{m}\log_{10} \frac{1}{x} + \frac{\log_{10}(2m+3)}{m} \\ \end{align}
が成り立つので、$m \to \infty$ での極限は
$$\lim_{m\to\infty}\frac{1}{m}\log_{10} \frac{1}{E_m(x)} = 2\log_{10} \frac{1}{x}$$
となります。従って、その逆数の
$$\frac{1}{ 2\log_{10} \frac{1}{x}}$$
は、精度を1桁上げるのに計算が必要な項数の平均の極限と考えることができます。
円周率の計算誤差と計算項数
一般の $\arctan$ 型公式の場合を考えましょう。
\begin{align} \pi &= \sum_{i=1}^N \gamma_i \arctan x_i \\ &= \sum_{i=1}^N \gamma_i \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n }{2n+1}x_i^{2n+1} \end{align}
を考えます。ただし、$\gamma_i = \frac{4}{k}c_i$ とし、$0 < x_N < \cdots < x_1 < 1$ とします。
計算誤差
$\arctan$ 型公式で円周率を計算する場合、各 $\arctan x_i$ の誤差の減り方が異なるので、計算する項の数を変えた方が計算効率が良いです (例えばマチンの公式の場合)。各 $i$ に対して $\arctan x_i$ の項を $m_i$ まで計算するとすると、円周率の計算誤差は
\begin{align} & \left|\pi -\sum_{i=1}^N \gamma_i \sum_{n=0}^{m_i} \frac{(-1)^n }{2n+1}x_i^{2n+1} \right| \\ = \ & \left| \sum_{i=1}^N \gamma_i E_{m_i}(x_i) \right| \\ \leq \ & \sum_{i=1}^N |\gamma_i| E_{m_i}(x_i) \\ \end{align}
で与えられます。
円周率を $10^{-n}$ の誤差で求めたい場合は、各 $i$ に対して
$$|\gamma_i| E_m(x) < \frac{1}{N} 10^{-n}$$
を満たせば十分です。先ほどと同様にして
\begin{align} & \log_{10}(|\gamma_i| E_{m_i}(x_i)) < -n -\log_{10} N \\ \Leftrightarrow \ & \log_{10}\frac{N}{|\gamma_i| E_{m_i}(x_i)} > n \end{align}
となりますが、
\begin{align} & \lim_{m_i \to \infty} \frac{1}{m_i} \log_{10}\frac{N}{|\gamma_i| E_{m_i}(x_i)} \\ = \ & \lim_{m_i \to \infty} \frac{1}{m_i} \log_{10}\frac{1}{E_{m_i}(x_i)} \\ = \ & \frac{1}{2 \log \frac{1}{x_i}} \end{align}
なので、それぞれの項の精度を一桁上げるのに計算が必要な項の数は $\frac{1}{2 \log \frac{1}{x_i}}$ になります。よって円周率の精度を一桁上げるのに計算が必要な項の数はそれらの和の
$$\sum_{i=1}^{N} \frac{1}{2 \log \frac{1}{x_i}}$$
であると考えるのは自然です。ただし、より正確に「円周率の精度を一桁上げるのに計算が必要な項の数」を求めるならば、$m$ 項計算したときの誤差が最小になるように、各級数の計算項数を計算した場合の誤差を
$$E(m) = \min_{m = \sum_{i=1}^N \alpha_i} \left\{\left| \sum_{i=1}^N \gamma_i E_{\alpha_i}(x_i)\right|\right\}$$
とおいて、
$$\lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10}\frac{1}{E(m)}$$
を求めた方が良いです。ただしこれを計算するには、$\gamma_i$ の符号によって誤差が相殺することを考慮しなければならず、面倒です。そこで、誤差を大きめに評価した
$$\overline{E}(m) = \min_{m = \sum_{i=1}^N \alpha_i} \left\{\sum_{i=1}^N |\gamma_i| E_{\alpha_i}(x_i)\right\}$$
の $m$ で割った極限を求め、その逆数 (の2倍) がレーマー指標と一致することを示します。
問題の簡略化
問題を少し簡単にします。
$$\mathcal{E}_m(x) = \frac{x^{2m+3}}{2m+3}$$
とおくと、
$$\frac{1}{1 +x^2} \mathcal{E}_m(x) \leq E_m(x) \leq \mathcal{E}_m(x)$$
が成り立ちます。よって
$$\overline{\mathcal{E}}(m) = \min_{m = \sum_{i=1}^N \alpha_i} \left\{\sum_{i=1}^N |\gamma_i| \mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i)\right\}$$
とおくと、$x_N < \cdots < x_1$ から、
\begin{align} & \frac{1}{1 +x_1^2}\overline{\mathcal{E}}(m) \leq \overline{E}(m) \leq \overline{\mathcal{E}}(m) \\ \Leftrightarrow \ & \frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} \leq \frac{1}{\overline{E}(m)} \leq (1 +x_1^2)\frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} \end{align}
が成り立ちます。$\overline{\mathcal{E}}(m)$ は $m$ に関して単調減少なので極限が存在し、
\begin{align} & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1 +x_1^2}{\overline{\mathcal{E}}(m)} \\ = \ & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} +\lim_{m \to \infty} \frac{\log_{10}(1 +x_1^2)}{m} \\ = \ & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} \end{align}
なので
$$\lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10}\frac{1}{\overline{E}(m)} = \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} $$
が成り立ちます。よって、$\overline{E}(m)$ の代わりに $\overline{\mathcal{E}}(m)$ を考えても問題ありません。
$\overline{\mathcal{E}}(m)$ の解析
$\overline{\mathcal{E}}(m)$ の極限を求めるには、
$$f(\alpha_1, \cdots, \alpha_N) = \sum_{i=1}^N |\gamma_i| \mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i)$$
が、
$$\alpha_1 + \cdots + \alpha_N = m$$
という条件のもと、いつ最小値を取るのかを求める必要があります。$\alpha_i \in \mathbb{Z}_{>0}$ とすると計算が難しいので、$\alpha_i$ を連続変数とみなして、大学 1, 2 年レベルの解析学を使って求めます。具体的には以下の流れで求めます。
- $f$ が凸関数であることを示す。
- ラグランジュの未定乗数法を用いて最小点と最小値を求める
- 下からの評価と上からの評価
- 極限を求める
凸関数であること
まずは $f$ が凸関数であることを求めます。
\begin{align} \frac{\partial f}{\partial \alpha_i} &= |\gamma_i|\frac{\partial }{\partial \alpha_i} \mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i) \\ &= |\gamma_i|\frac{\partial }{\partial \alpha_i} \frac{x_i^{2\alpha_i + 3}}{2\alpha_i + 3} \\ &= |\gamma_i| \left(\frac{2 \cdot x_i^{2\alpha_i+3} \log x_i}{2\alpha_i + 3} -\frac{2 \cdot x_i^{2\alpha_i+3}}{(2\alpha_i +3)^2}\right)\\ &= 2|\gamma_i| \frac{x_i^{2\alpha_i+3}}{2\alpha_i +3} \left(\log x_i -\frac{1}{2\alpha_i +3}\right)\\ &= 2|\gamma_i| \mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i) \left(\log x_i -\frac{1}{2\alpha_i +3}\right), \end{align}
\begin{align} \frac{\partial^2 f}{\partial \alpha_i \partial \alpha_j} &= 0 \quad (i \neq j), \\ \frac{\partial^2 f}{\partial \alpha_i^2} &= 2 |\gamma_i| \left(2 \cdot \mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i) \left(\log x_i -\frac{1}{2\alpha_i +3}\right)^2 +\mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i)\frac{2}{(2\alpha_i +3)^2} \right)\\ &= 4 |\gamma_i| \mathcal{E}_{\alpha_i}(x_i) \left(\left(\log x_i -\frac{1}{2\alpha_i +3}\right)^2 +\frac{1}{(2\alpha_i +3)^2} \right) \\ & > 0 \end{align}
なので、$f$ のヘッセ行列は領域
$$D = \{(\alpha_1, \cdots, \alpha_N) \mid \alpha_i > -\frac{1}{2} \}$$
で正定値であり、$D$ 上で $f$ は凸関数になります。($\mathbb{R}_{>0}^N$ を含む開集合上で凸であることが望ましいので、$D$ を少し広めに取りました。)
最小点と最小値
ラグランジュの未定乗数法で $f$ の最小値を求めます。
$$g(\alpha_1, \cdots, \alpha_N) = \alpha_1 + \cdots + \alpha_N -m$$
とおくと、$g(\alpha_1, \cdots, \alpha_N) = 0$ の条件のもとで $f(\alpha_1, \cdots, \alpha_N)$ が最小値となる点 $(\beta_1, \cdots, \beta_N)$ は、
$$F(\alpha_1, \cdots, \alpha_N, \lambda) = f(\alpha_1, \cdots, \alpha_N) -\lambda g(\alpha_1, \cdots, \alpha_N)$$
とおいたとき、ラグランジュの未定乗数法から
$$\frac{\partial F}{\partial \alpha_i}(\beta_1, \cdots, \beta_N, \lambda) = \frac{\partial F}{\partial \lambda}(\beta_1, \cdots, \beta_N, \lambda) = 0$$
を満たします。よって解くべき方程式は
\begin{gather} \frac{\partial f}{\partial \alpha_i} = \lambda \\ \alpha_1 + \cdots + \alpha_N = m \end{gather}
となります。これから、任意の $2 \leq i \leq N$ に対して
$$\frac{\partial f}{\partial \alpha_1} = \frac{\partial f}{\partial \alpha_i}$$
である必要があります。ここで
\begin{gather} \frac{\partial^2 f}{\partial \alpha_i^2} > 0 \end{gather}
なので、$\frac{\partial f}{\partial \alpha_i}$ は $\alpha_i$ について単調増加で、$0 < x_i < 1$ から
\begin{align} &\lim_{\alpha_i \to \infty} \frac{\partial f}{\partial \alpha_i} \\ = \ & \lim_{\alpha_i \to \infty} 2|\gamma_i| \frac{x_i^{2\alpha_i+3}}{2\alpha_i +3} \left(\log x_i -\frac{1}{2\alpha_i +3}\right) \\ = \ & 0 \end{align}
となります。よって $\alpha_1$ を十分大きい値に固定したとき $\frac{\partial f}{\partial \alpha_1} = \frac{\partial f}{\partial \alpha_i}$ を満たす $\alpha_i$ がただ一つ存在します。これを $\beta_i(\alpha_1)$ とおくと、$\frac{\partial f}{\partial \alpha_i}$ が単調増加なので、$\beta_i$ は $\alpha_1$ に関して単調増加です。また、$\alpha_1$ が十分大きければ、$\beta_i > 0$ を満たします。
$\beta_i(\alpha_1)$ が $\alpha_1$ に関して連続であることは、$\frac{\partial^2 f}{\partial \alpha_i^2} \neq 0$ と陰関数定理からわかります。よって $m$ が十分大きい ($\sum_i \beta_i(0)$ より大きい) ときに、$\alpha_1$ を $0$ から大きくしていくことで
$$\beta_1 + \beta_2(\beta_1) + \cdots + \beta_N(\beta_1) = m$$
を満たす $\beta_1 > 0$ が一意的に存在することがわかります。これが $f$ の $g = 0$ のもとでの極値点であり、$f$ が凸関数であることと、$g = 0$ を満たす点の集合が凸集合であることから、$f$ はこの点で最小値をとります。
上下からの評価
以上の考察から、$\sum_{i = 1}^N \beta_i = m$ のとき
$$f(\beta_1, \cdots, \beta_N) \leq \overline{\mathcal{E}}(m)$$
が成り立ちます。また、$\lfloor x\rfloor$ を $x$ を超えない最大の整数とすると、$ \overline{\mathcal{E}}(m)$ が $m$ に関して単調減少であることから、
$$\overline{\mathcal{E}}(m) \leq f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor)$$
が成り立ちます。よって
$$\frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor)} \leq \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} \leq \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)}$$
となります。ここで
\begin{align} & \log_{10} \frac{1}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} -\log_{10} \frac{1}{f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor)} \\ = \ & \log_{10} \frac{f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor)}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} \\ = \ & \log_{10} \left(1 + \frac{f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor) -f(\beta_1, \cdots, \beta_N)}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} \right) \end{align}
ですが、
\begin{align} 0 & \leq f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor) -f(\beta_1, \cdots, \beta_N) \\ & = \sum_{i = 1}^N |\gamma_i| \frac{x_i^{2 \lfloor \beta_i \rfloor + 3}}{2 \lfloor \beta_i \rfloor + 3} -\sum_{i = 1}^N |\gamma_i|\frac{x_i^{2 \beta_i + 3}}{2 \beta_i + 3} \\ &= \sum_{i = 1}^N |\gamma_i| \frac{x_i^{2 \beta_i + 3}}{2 \beta_i + 3} \left(\frac{2 \beta_i + 3}{2 \lfloor \beta_i \rfloor + 3} \frac{1}{x_i^{2(\beta -\lfloor \beta_i \rfloor )}} -1\right) \\ & \leq \sum_{i = 1}^N |\gamma_i| \frac{x_i^{2 \beta_i + 3}}{2 \beta_i + 3} \left(\frac{5}{3 x_i^2} -1\right) \\ & \leq \left(\frac{5}{3 x_N^2} -1\right) f(\beta_1, \cdots, \beta_N)\\ \end{align}
なので、
\begin{align} 0 & \leq \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} -\frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor)} \\ & \leq \frac{1}{m} \log_{10} \frac{5}{3 x_N^2} \to 0 \quad (m \to \infty) \end{align}
となり、
\begin{align} & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\lfloor\beta_1\rfloor, \cdots, \lfloor\beta_N\rfloor)} \\ = \ & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{\overline{\mathcal{E}}(m)} \\ = \ & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} \end{align}
が成り立ちます。
極限の計算
あとは以下の極限
\begin{align} & \lim_{m \to \infty}\frac{1}{m} \log_{10} \frac{1}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} \\ = \ &\lim_{\beta_1 \to \infty}\frac{1}{\beta_1 + \cdots + \beta_N(\beta_1)} \log_{10} \frac{1}{f(\beta_1, \cdots, \beta_N)} \end{align}
を計算すれば良いです。$\beta = (\beta_1, \cdots, \beta_N)$ とおくと $\frac{\partial f}{\partial \alpha_1}(\beta) = \frac{\partial f}{\partial \alpha_i}(\beta)$ から、
\begin{align} & 2|\gamma_1| \mathcal{E}_{\beta_1}(x_1) \left(\log x_1 -\frac{1}{2\beta_1 +3}\right) \\ & \qquad =2|\gamma_i| \mathcal{E}_{\beta_i}(x_i) \left(\log x_i -\frac{1}{2\beta_i +3}\right) \\ \Leftrightarrow \ & |\gamma_i| \mathcal{E}_{\beta_i}(x_i) = |\gamma_1| \mathcal{E}_{\beta_1}(x_1)\left(\frac{\log x_1 -\frac{1}{2\beta_1 +3}}{\log x_i -\frac{1}{2\beta_i +3}}\right) \end{align}
が成り立ちます。よって
$$f(\beta) = |\gamma_1| \mathcal{E}_{\beta_1}(x_1) \sum_{i=1}^N \frac{\log x_1 -\frac{1}{2\beta_1 +3}}{\log x_i -\frac{1}{2\beta_i +3}}$$
となります。ここで
$$C_m = \sum_{i=1}^N \frac{\log x_1 -\frac{1}{2\beta_1 +3}}{\log x_i -\frac{1}{2\beta_i +3}}$$
とおくと、
$$\lim_{m \to \infty} C_m = \sum_{i=1}^N \frac{\log x_1}{\log x_i}$$
なので、
\begin{align} & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log\frac{1}{f(\beta)} \\ = \ & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m}\log \left(\frac{1}{|\gamma_1|\mathcal{E}_{\beta_1}(x_1)C_m}\right) \\ = \ & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \left(\log \frac{1}{|\gamma_1|} +\log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_1}(x_1)} + \log \frac{1}{C_m}\right) \\ = \ & \lim_{m \to \infty}\frac{1}{m} \log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_1}(x_1)} \\ = \ & \lim_{\beta_1 \to \infty}\frac{1}{\beta_1 +\sum_{i=2}^N \beta_i(\beta_1)} \log \frac{1}{ E_{\beta_1}(x_1)} \\ = \ & \lim_{\beta_1 \to \infty}\frac{1}{1 + \sum_{i=2}^N \frac{\beta_i(\beta_1)}{\beta_1}} \frac{1}{\beta_1} \log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_1}(x_1)} \\ = \ & \frac{1}{2 \log \frac{1}{x_1}} \lim_{\beta_1 \to \infty}\frac{1}{1 + \sum_{i=2}^N \frac{\beta_i(\beta_1)}{\beta_1}} \end{align}
となります。あとは $\lim_{\beta_1 \to \infty} \frac{\beta_i(\beta_1)}{\beta_1}$ を求めれば良いです。計算すると
\begin{align} & \lim_{\beta_1 \to \infty} \frac{\beta_i(\beta_1)}{\beta_1} \\ = \ & \lim_{\beta_1 \to \infty} \frac{\displaystyle \frac{1}{\beta_1} \log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_i}(x_i)}} {\displaystyle \frac{1}{\beta_i(\beta_1)} \log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_i}(x_i)}} \\ = \ & \frac{\displaystyle \lim_{\beta_1 \to \infty} \frac{1}{\beta_1} \log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_i}(x_i)}} {\displaystyle \lim_{\beta_1 \to \infty} \frac{1}{\beta_i(\beta_1)} \log \frac{1}{\mathcal{E}_{\beta_i}(x_i)}} \\ = \ & \left(2 \log \frac{1}{x_i}\right) \lim_{\beta_1 \to \infty} \frac{1}{\beta_1}\log \frac{1}{\frac{|\gamma_1|}{|\gamma_i|} \mathcal{E}_{\beta_1}(x_1) \left(\frac{\log x_1 -\frac{1}{2\beta_1 +3}}{\log x_i -\frac{1}{2\beta_i +3}}\right)} \\ = \ & \frac{\displaystyle \log \frac{1}{x_i}}{\displaystyle\log \frac{1}{x_1}} \end{align}
となります。よって
\begin{align} & \lim_{m \to \infty} \frac{1}{m} \log\frac{1}{f(\beta)} \\ = \ & \frac{1}{\displaystyle 2 \log \frac{1}{x_1}} \lim_{\beta_1 \to \infty}\frac{1}{\displaystyle 1 + \sum_{i=2}^N \frac{\beta_i(\beta_1)}{\beta_1}} \\ = \ & \frac{1}{\displaystyle 2 \log \frac{1}{x_1}}\frac{1}{\displaystyle 1 + \sum_{i=2}^N \frac{\log (1/x_i)}{\log (1/x_1)}} \\ = \ & \frac{1}{2 \sum_{i=1}^N\log \frac{1}{x_i}} \end{align}
となります。これは Lehmer 指標の半分なので、これで示したかったことが示されました。
参考文献
[Lehmer] D. H. LEHMER. ON ARCCOTANGENT RELATIONS FOR π
[円] 円周率.jp. arctan系公式
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