スターリングの公式を用いて円周率を計算する

以下の動画では、スターリングの公式を用いて円周率を計算しています。この記事ではその内容のまとめと補足を行います。

スターリングの公式の概要

スターリングの公式は $n!$ の漸近公式

$$n! \sim \sqrt{2 \pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n$$

のことです。ここで、$\sim$ は両辺の比の極限が $1$ に収束することを意味します。スターリングの公式は、円周率の公式として認識されることは少ないですが、右辺に円周率があるのでそれを使って円周率を求めてみます。

$\sim$ を極限の言葉で言い直すと

$$\lim_{n\to\infty} \frac{n!}{\sqrt{2 \pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n} = 1$$

となります。両辺に $\sqrt{\pi}$ をかけると

$$\sqrt{\pi} = \lim_{n\to\infty} \frac{n!}{\sqrt{2 n}\left(\frac{n}{e}\right)^n}$$

となるので、これで $\pi$ を計算することができます。

スターリングの公式の証明の概略

スターリングの公式の証明の流れを簡単に紹介します。詳しくは冒頭の動画を見てください。

Step 1 : $n!$ の漸近公式簡易版

これはスターリングの公式の証明に必要ではありませんが、基本的なアイディアの説明のついでに紹介します。

$n!$ の対数を取ると

$$\log n! = \log 1 + \log 2 + \cdots + \log n = \sum_{k=1}^n \log k$$

となります。$\sum_{k=1}^n \log k$ を $\log x$ の積分で比較すると、$\log k \leq \log x$ $(k \leq x)$ かつ $\log k \geq \log x$ $(k \geq x)$ から

$$\int_{k-1}^k \log x dx \leq \log k \leq \int_k^{k+1} \log x dx$$

が成り立ちます。$k$ について $1$ から $n$ までの和を取ると、$\log 1 = 0$ であることに注意して

$$\int_1^n \log x dx \leq \log n ! \leq \int_1^{n+1} \log x dx$$

が成り立ちます。これを計算して整理すると、

\begin{gather} n \log n -(n -1) \leq \log n! \leq (n+1) \log (n+1) -n \\ \Rightarrow \quad \frac{n^{n}}{e^{n-1}} \leq n! \leq \frac{(n+1)^{n+1}}{e^{n}} \\ \end{gather}

となります。これは $n!$ を上下から抑えられているので、$n!$ の漸近的な大きさの評価を与えているといえます。ただし、左辺と右辺の比は

$$\lim_{n\to\infty} \frac{\displaystyle \frac{(n+1)^{n+1}}{e^{n}}}{\displaystyle \frac{n^{n}}{e^{n-1}}} = \lim_{n\to\infty} \left( \frac{n+1}{n}\right)^n\frac{n+1}{e} = \infty$$

となるので、漸近公式としては質が良くないです。

Step 2 : 積分の評価の精密化

漸近公式

$$n! \sim c \sqrt{n}\left(\frac{n}{e}\right)^n$$

を満たす定数 $c$ が存在することを示します。これはドモアブルが証明したといわれています。

積分による $\log n!$ の評価をもう少し精密化しましょう。$\log x$ が凹関数 (上に凸な関数) であることから、$(k, \log k)$ と $(k+1, \log (k+1))$ を結んだ線分は $\log x$ のグラフの下にあります。よって

\begin{gather} \log k + \frac{1}{2} (\log (k+1) -\log k) \leq \int_{k}^{k+1} \log x dx \\ \Rightarrow \quad \log n ! \leq \int_1^n \log x dx +\frac{1}{2} \log n \end{gather}

が成り立ちます。また、同様に $\log x$ が凹関数であることから、任意の点 $x$ における接線は常に $\log x$ の上にあります。よって

\begin{gather} \int_k^{k+1} \log x dx \leq \log k + \frac{1}{2k} \\ \Rightarrow \quad \int_1^n \log x dx +\log n -\frac{1}{2} \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{k} \leq \log n! \end{gather}

が成り立ちます。$\sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{k}$ がちょっとややこしいので、これも積分で評価すると

\begin{align} \sum_{k=1}^{n-1} \frac{1}{k} \leq 1 + \sum_{k=2}^{n-1} \frac{1}{k} & \leq 1 + \int_1^n \frac{1}{x} dx \\ &= 1 +\log n\end{align}

となります。よって

\begin{gather} \int_1^n \log x dx +\frac{1}{2}\log n -\frac{1}{2} \leq \log n! \leq \int_1^n \log x dx+\frac{1}{2}\log n \\ \Rightarrow \quad \left(n +\frac{1}{2}\right)\log n -n +\frac{1}{2} \leq \log n! \leq \left(n +\frac{1}{2}\right)\log n -n +1 \\ \Rightarrow \quad \sqrt{en} \left(\frac{n}{e}\right)^n \leq n! \leq e\sqrt{n} \left(\frac{n}{e}\right)^n \end{gather}

という不等式が得られます。特に、

$$\sqrt{e} \leq \frac{n!}{\sqrt{n} \left(\frac{n}{e}\right)^n} \leq e$$

が成り立ちます。

Step 3 : 極限の存在

数列 $\{a_n\}$ を

$$a_n = \frac{n!}{\sqrt{n} \left(\frac{n}{e}\right)^n}$$

と定めると、$\sqrt{e} \leq a_n \leq e$ を満たすので $a_n$ は収束しそうです。それを示しましょう。$\{a_n\}$ が単調減少または単調増大であれば、実数の連続性から (下に有界な単調減少数列は収束するので) $a_n$ は収束します。

\begin{align} \frac{a_n}{a_{n+1}} &= \frac{n!}{\sqrt{n}\left(\frac{n}{e}\right)^n} \frac{\sqrt{n+1}\left(\frac{n+1}{e}\right)^{n+1}}{(n+1)!} \\ &= \frac{1}{n+1} \cdot \sqrt{\frac{n+1}{n}} \cdot \left(\frac{n+1}{n}\right)^{n} \cdot (n+1) \cdot \frac{1}{e} \\ &= \frac{(1 +\frac{1}{n})^{n+\frac{1}{2}} }{e} \end{align}

なので、

$$\log \frac{a_n}{a_{n+1}} = \left(n + \frac{1}{2}\right)\log \left(1 +\frac{1}{n}\right) -1$$

となります。ここで

$$f(x) = \left(x + \frac{1}{2}\right)\log \left(1 +\frac{1}{x}\right) -1$$

を考えると、

\begin{align} f^{\prime}(x) &= \log \left(1 +\frac{1}{x}\right) -\frac{1}{2x} -\frac{1}{2(x+1)}\\ f^{\prime\prime}(x) &= \frac{1}{2x^2 (x+1)^2} >0 \end{align}

なので $f^{\prime}(x)$ は単調増加、$\lim_{x \to \infty} f^{\prime}(x) = 0$ なので $f^{\prime}(x) \leq 0$、つまり $f(x)$ は単調減少となります。ここで

\begin{align} \lim_{x \to \infty} f(x) & = \lim_{x \to \infty}x \log \left(1 +\frac{1}{x}\right) -1 \\ &= \lim_{t \to 0}\frac{1}{t} \log(1 +t) -1 = 0 \end{align}

なので $f(x) > 0$ となります。よって $\log \frac{a_n}{a_{n+1}} > 0$ から $a_n > a_{n+1}$ がわかり、$\{a_n\}$ が収束することがわかります。

$\lim_{n\to\infty} a_n = c$ とおけば

$$\lim_{n \to \infty} \frac{n!}{c \sqrt{n} \left(\frac{n}{e}\right)^n} = 1$$

つまり

$$n! \sim c \sqrt{n} \left(\frac{n}{e}\right)^n$$

となります。これはド・モアブルが示したといわれており、スターリングにより $c = \sqrt{2 \pi}$ が示されたといわれています。実際の証明はスターリングの著書 [Sti] に書かれているようですが、ラテン語なのと記号が異なるため、読むのが大変です (私は読めていません)。

Step 4 : 極限が $\sqrt{2\pi}$ であること

最後に $c = \sqrt{2 \pi}$ を示します。証明にはウォリスの公式

$$\frac{\pi}{2} = \frac{2 \cdot 2}{1 \cdot 3} \cdot \frac{4 \cdot 4}{3 \cdot 5} \cdots = \prod_{n=1}^{\infty} \frac{(2n)^2}{(2n-1) (2n+1)}$$

を用います。ウォリスの公式については以下の動画を見てください。

ウォリスの公式を変形すると

\begin{align} \frac{\pi}{2} &= \lim_{n \to \infty} \frac{2 \cdot 2}{1 \cdot 3} \cdots \frac{(2n)^2}{(2n-1) \cdot (2n+1)}\\ &= \lim_{n \to \infty} \frac{2 \cdot 2}{1 \cdot 1} \cdots \frac{(2n)^2}{(2n-1)^2} \cdot \frac{1}{(2n+1)}\\ &= \lim_{n \to \infty} \frac{(2^n \cdot n!)^2}{(3 \cdot 5 \cdots (2n-1))^2} \cdot \frac{1}{(2n+1)}\\ &= \lim_{n \to \infty} \frac{(2^n \cdot n!)^4}{((2n)!)^2} \cdot \frac{1}{(2n+1)}\\ \end{align}

なので、両辺ルートを取って

\begin{align} \sqrt{\frac{\pi}{2}} &= \lim_{n \to \infty} \frac{(2^n \cdot n!)^2}{(2n)!} \cdot \frac{1}{\sqrt{2n+1}} \\ &= \lim_{n \to \infty} 4^n \left(\frac{n!}{c\sqrt{n}\left(\frac{n}{e}\right)^n}\right)^2 \left(\frac{c \sqrt{2n}\left(\frac{2n}{e}\right)^{2n}}{(2n)!}\right) \frac{c^2 n \left(\frac{n}{e}\right)^{2n}}{c \sqrt{2n}\left(\frac{2n}{e}\right)^{2n}} \frac{1}{\sqrt{2n+1}}\\ &= \lim_{n \to \infty} c \frac{n}{\sqrt{2n}\sqrt{2n+1}} = \frac{c}{2} \end{align}

となり、$c = \sqrt{2 \pi}$ となることがわかりました。これでスターリングの公式が示されました。

スターリングの公式を用いると

$$\pi = \lim_{n\to\infty} \frac{1}{2}a_n^2$$

によって円周率を計算することができます。サンプルプログラムと計算結果は以下から確認できます。

スターリングの公式を用いて円周率を計算する : サンプルプログラム

スターリングの公式の精密化

$a_n$ は単調減少なので $\pi \leq \frac{1}{2} a_n^2$ が成り立ちますが、円周率を求めるには逆側の不等式が必要です。これを求めるついでに、スターリングの公式の精密化を行います。

テイラー展開

$$\log (1 + x) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{k} x \quad (-1 < x \leq 1)$$

を用いて

\begin{align} & \log \frac{a_n}{a_{n+1}} \\ = \ & \left(n +\frac{1}{2}\right) \log\left(1 +\frac{1}{n}\right) -1 \\ = \ & \left(n+\frac{1}{2}\right)\sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{k}\frac{1}{n^k} -1\\ = \ & \sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{k}\frac{1}{n^{k-1}} +\sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{2k}\frac{1}{n^k} -1\\ = \ & \sum_{k=\textcolor{blue}{2}}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{k}\frac{1}{n^{k-1}} +\sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{2k}\frac{1}{n^k}\\ = \ & \sum_{k=\textcolor{blue}{1}}^{\infty} \frac{(-1)^{k}}{k+1}\frac{1}{n^{k}} +\sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k-1}}{2k}\frac{1}{n^k}\\ = \ & \sum_{k=1}^{\infty} (-1)^{k}\left(\frac{2k -(k+1)}{2k(k+1)}\right) \frac{1}{n^{k}} \\ = \ & \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\left(\frac{k -1}{2k(k+1)}\right) \frac{1}{n^{k}} \\ \end{align}

となります。従って $\lim_{n\to\infty} a_n = \sqrt{2\pi}$ から

\begin{align} & \log \frac{a_n}{\sqrt{2\pi}} = \sum_{m=n}^{\infty} \log \frac{a_m}{a_{m+1}} \\ = \ & \sum_{m=n}^{\infty} \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\left(\frac{k -1}{2k(k+1)}\right) \frac{1}{m^{k}} \end{align}

となりますが、2 重級数の順序を交換 (後で補足します) して

$$\log \frac{a_n}{\sqrt{2\pi}} = \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\left(\frac{k -1}{2k(k+1)}\right) \sum_{m=n}^{\infty}\frac{1}{m^{k}}$$

となります。$\sum_{m=n}^{\infty}\frac{1}{m^{k}}$ $(k \geq 2)$ を積分で評価すると$\frac{1}{x^k}$ が単調減少であることから

$$\sum_{m=n}^{\infty}\frac{1}{m^{k}} \geq \int_n^{\infty} \frac{1}{x^k} dx= \frac{1}{k-1}\frac{1}{n^{k-1}}$$

\begin{align}\sum_{m=n}^{\infty}\frac{1}{m^{k}} & \leq \int_n^{\infty} \frac{1}{x^k} dx +\frac{1}{n^k} \\ &= \frac{1}{k-1}\frac{1}{n^{k-1}} + \frac{1}{n^k}\end{align}

となります。よって

\begin{align} \log \frac{a_n}{\sqrt{2\pi}} & \geq \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\left(\frac{k -1}{2k(k+1)}\right)\frac{1}{k-1}\frac{1}{n^{k-1}} \\ &= \sum_{k=2}^{\infty}\frac{(-1)^{k}}{2k(k+1)}\frac{1}{n^{k-1}} \\ & \geq \sum_{k=2}^{3}\frac{(-1)^{k}}{2k(k+1)}\frac{1}{n^{k-1}} \\ & = \frac{1}{12n} -\frac{1}{24n^2}, \\ \end{align}

\begin{align} \log \frac{a_n}{\sqrt{2\pi}} \leq & \sum_{k=2}^{\infty}\frac{(-1)^{k}}{2k(k+1)}\frac{1}{n^{k-1}} \\ & \quad + \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\left(\frac{k -1}{2k(k+1)}\right)\frac{1}{n^{k}} \\ \leq & \frac{1}{12n} + \frac{1}{12n^2} \end{align}

となります。ただし、単調減少な交代級数

$$\sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k} b_k \quad (b_k > b_{k+1} \cdots > 0 )$$

に対して

$$\sum_{k=2}^{2m+1} (-1)^{k} b_k \leq \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k} b_k \leq \sum_{k=2}^{2n} (-1)^{k} b_k \quad (\forall n, m \in \mathbb{N}) $$

が成り立つことを用いました。以上から

\begin{gather} \log a_n -\frac{1}{12n} -\frac{1}{12n^2} \leq \log \sqrt{2\pi} \leq \log a_n -\frac{1}{12n} +\frac{1}{24n^2} \\ a_n e^{-\frac{1}{12n}-\frac{1}{12n^2}} \leq \sqrt{2\pi} \leq a_n e^{-\frac{1}{12n}+\frac{1}{24n^2}} \\ \frac{1}{2}a_n^2 e^{-\frac{1}{6n}-\frac{1}{6n^2}} \leq \pi \leq \frac{1}{2}a_n^2 e^{-\frac{1}{6n}+\frac{1}{12n^2}} \end{gather}

となり、$\pi$ を両側から評価することができました。

$$\frac{1}{2}a_n^2 e^{-\frac{1}{6n}+\frac{1}{12n^2}} \leq \frac{1}{2}a_n^2$$

なので、$\pi$ への収束がスターリングの公式よりも速くなります。また

$$e^{-\frac{1}{24n^2}} \leq \frac{a_n}{\sqrt{2\pi} e^{\frac{1}{12n}}} \leq e^{\frac{1}{12n^2}}$$

から

$$n! \sim \sqrt{2 \pi n} \left(\frac{n}{e}\right)^n e^{\frac{1}{12n}}$$

となり、これも比の $1$ への収束の速さがスターリングの公式よりも改善されています。

より一般には

$$\log n! = \left(n +\frac{1}{2}\right) \log n -n +\frac{1}{2} \log 2 \pi + 2\int_0^{\infty} \frac{\arctan(\frac{t}{z})}{2^{2\pi t}-1} dt$$

$$\log n! \sim \left(n +\frac{1}{2}\right) \log n -n +\frac{1}{2} \log 2 \pi + \sum_{k=1}^{\infty} \frac{B_{2k}}{2k(2k-1) n^{2k-1}}$$

という公式があるようです [Wiki]。ただし、$B_k$ はベルヌーイ数です。上の等式はビネーの第二公式と呼ばれています。

2 重級数の順序の交換 (補足)

計算の途中で使った、

\begin{align}&\sum_{m=n}^{\infty}\sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\frac{k -1}{2k(k+1)}\frac{1}{m^{k}}\\ = \ & \sum_{k=2}^{\infty} (-1)^{k}\frac{k -1}{2k(k+1)} \sum_{m=n}^{\infty}\frac{1}{m^{k}}\end{align}

という 2重級数の順序交換が可能であることを示します。

$$b_{k, m} = \frac{k -1}{2k(k+1)}\frac{1}{m^{k}}$$

とおくと、$k \geq 2$ なので、$\sum_{m=n}^{\infty} b_{k, m}$ は有限です (収束半径についての記事で示しています) が、

$$\sum_{k=2}^{\infty} \frac{k -1}{2k(k+1)} = \sum_{k=2}^{\infty} \frac{1}{2k} -\sum_{k=2}^{\infty}\frac{1}{k(k+1)}$$

は、最初の項が無限大に発散し、後ろの項は有限の値に収束するので、$\sum_{k=2}^{\infty} b_{k, m}$ は収束しません。ただし、$b_{k, m}$ は単調減少で、$b_{k, m} \to 0$ $(k \to \infty)$ なので、$\sum_{k=2}^{\infty} (-1)^k b_{k, m}$ は収束します (交代級数の収束に関しては既知とします)。

よって、以下の状況で順序交換が可能であることを示せば良いです。$\{a_{n,m}\}$ を $a_{n, m} > 0$ を満たし、$n, m$ に関して単調減少、つまり $n \leq n^{\prime}$, $m < m^{\prime}$ または $n < n^{\prime}$, $m \leq m^{\prime}$ のときに

$$a_{n, m} > a_{n^{\prime}, m^{\prime}}$$

を満たすとし

\begin{gather} \lim_{n\to\infty} a_{n,m} = \lim_{m\to\infty} a_{n,m} = 0 ,\\ \sum_{m = 0}^{\infty} a_{n,m} < \infty \end{gather}

を満たすとします。これに対して

$$\sum_{n = 0}^{\infty} \sum_{m = 0}^{\infty} (-1)^n a_{n, m} = \sum_{m = 0}^{\infty} \sum_{n = 0}^{\infty} (-1)^n a_{n, m}$$

を示します。

まずは準備として、全てが正である収束 2 重級数の順序交換を示します。

正項収束 2 重級数の順序の交換

$\{a_{n,m}\}$ は $a_{n, m} > 0$ を満たし、かつ

$$\sum_{n, m=0}^{\infty} a_{n,m} = S < \infty$$

を満たすとします。ここで上の等式は、任意の $\varepsilon > 0$ に足して $L > 0$ が存在して、$N, M > L$ のときに

$$\left|S -\sum_{n = 0}^{N}\sum_{m=0}^{M} a_{n,m}\right| \leq \varepsilon$$

を満たすことを意味します。このとき

$$S = \sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m=0}^{\infty} a_{n,m} =\sum_{m=0}^{\infty} \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n,m}$$

であることを示します。

(証明)

$\varepsilon > 0$ を一つ固定し、上の条件を満たす $L > 0$ も一つ固定します。このとき $M, N > L$ に対して明らかに

$$S -\varepsilon < \sum_{n = 0}^{N}\sum_{m=0}^{M} a_{n,m} \leq \sum_{n = 0}^{N}\sum_{m=0}^{\infty} a_{n,m} \leq S$$

で、$\varepsilon$ は任意なので、

$$\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m=0}^{\infty} a_{n,m} = S$$

となります。$\sum_{m=0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{\infty} a_{n,m}$ も同様なので

$$\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m=0}^{\infty} a_{n,m} = \sum_{m=0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{\infty} a_{n,m}
= S$$

となり、級数の順序交換ができます。$\Box$

これは $\displaystyle \sum_{n, m=0}^{\infty} a_{n,m}$ の収束がわからず、$\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\sum_{m=0}^{\infty} a_{n,m}$ の収束のみがわかっている場合も適用できます。それは

$$\sum_{n =0}^{N}\sum_{m=0}^{M} a_{n,m} \leq \sum_{n=0}^{N}\sum_{m=0}^{\infty} a_{n,m} \leq S$$

から $\displaystyle \sum_{n =0}^{N}\sum_{m=0}^{M} a_{n,m}$ は上に有界であることがわかり、$\displaystyle \sum_{n, m=0}^{\infty} a_{n,m}$ の収束がわかるからです。

ちなみに、正とは限らない一般の $\{a_{n,m}\}$ に対しては、$\sum_{n,m=0}^{\infty} |a_{n, m}|$ が収束すれば級数の順序交換ができることが知られていますが (例えば [まめ])、今回は絶対収束しないので使えません。

計算の途中で使った 2 重級数

$\{a_{n,m}\}$ は $a_{n, m} > 0$ を満たし、$n, m$ に関して単調減少であるとして、さらに

\begin{gather} \lim_{n\to\infty} a_{n,m} = \lim_{m\to\infty} a_{n,m} = 0 ,\\ \sum_{m = 0}^{\infty} a_{n,m} < \infty \end{gather}

を満たすときに、

$$\sum_{n = 0}^{\infty} \sum_{m = 0}^{\infty} (-1)^n a_{n, m} = \sum_{m = 0}^{\infty} \sum_{n = 0}^{\infty} (-1)^n a_{n, m}$$

であることを示します。

(証明)

$a_{n, m}$ の代わりに

\begin{align} b_{n, m} &= a_{2n, m} -a_{2n+1, m} \\ c_{n, m} &= -a_{2n+1, m} +a_{2n+2, m} \end{align}

とおき、$N, M > 0$ に対して

\begin{align} B_{N, M} &= \sum_{n=0}^{N} \sum_{m=0}^{M} b_{n, m} \\ C_{N, M} &= \sum_{m=0}^{M} a_{0, m} -\sum_{n=0}^{N} \sum_{m=0}^{M} c_{n, m} \\ \end{align}

とおくと、$B_{N, M} < C_{N, M}$ であり、正項級数の順序交換ができることから

\begin{align} \lim_{N \to \infty}\lim_{M \to \infty}B_{N, M} &= \lim_{M \to \infty}\lim_{N \to \infty}B_{N, M} \\ \lim_{N \to \infty}\lim_{M \to \infty}C_{N, M} &= \lim_{M \to \infty}\lim_{N \to \infty}C_{N, M} \end{align}

が成り立ちます。ここで、$A_n = \sum_{m=0}^{\infty} a_{n, m}$ とおくと、$A_n > A_{n+1}$ であり、交代級数の性質から

\begin{align} & \lim_{N \to \infty}\lim_{M \to \infty}B_{N, M} \\ = \ & \lim_{N \to \infty}\sum_{n = 0}^N (A_{2n} -A_{2n+1}) \\ = \ & \lim_{N \to \infty}\sum_{n = 0}^{N} (-1)^{n}A_{n} \\ = \ & \lim_{N \to \infty} A_0 -\sum_{n = 0}^{N} (A_{2n+1}-A_{2n+2})\\ = \ & \lim_{N \to \infty} \lim_{M \to \infty}C_{N, M}\\ \end{align}

となるので、$B_{N, M}$, $C_{N,M}$ のそれぞれ 2 つの極限、合わせて 4 つの極限は全て同じ値になります。任意の $N^{\prime}, M > 0$ に対して

$$B_{N, M} \leq \sum_{n=0}^{N^{\prime}} \sum_{m=0}^{M}(-1)^{n}a_{n, m} \leq C_{N, M}$$

を満たす $N > 0$ が存在するので、

\begin{align} &\sum_{n=0}^{\infty} \sum_{m=0}^{\infty}(-1)^{n}a_{n, m} \\ = \ & \lim_{N\to\infty}\lim_{M\to\infty}B_{N, M} \\ = \ & \lim_{M\to\infty}\lim_{N\to\infty}B_{N, M} \\ = \ & \sum_{m=0}^{\infty}\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^{n}a_{n, m}\\ \end{align}

が成り立ち、極限が交換できることがわかりました。

参考文献

[Sti] James Stirling. Methodus differentialis: sive tractatus de summatione et interpolatione serierum infinitarum.

[Wiki] Wikipedia. スターリングの近似.

[まめ] まめけびのごきげん数学・物理. 絶対収束する二重級数・和の順序、コーシー積


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