以下の記事で、冪級数の収束半径や、収束半径の内側での四則演算、微積分について述べました。
しかし、収束半径のちょうど境界の上での振る舞いについては全く触れませんでした。そこでこの記事では、収束半径のちょうど境界の上で冪級数の振る舞いと収束の判定法についていくつか紹介していきます。具体的には、
- 収束半径の境界上で収束するか
- 収束するならばどのような値になるのか
という問題を考えます。
話を簡単にするため、冪級数の中心は常に $0$ であるとし、$A(x) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ の収束半径は $1$ であるとします。一般の場合は、中心が $0$ 以外ならば平行移動を、収束半径が $r \neq 1$ なら $\sum_{n=0}^{\infty} \frac{a_n}{r^n} x^n$ と置き換えることで、中心が $0$、収束半径が $1$ である場合に帰着できます。($r = 0, +\infty$ の場合は境界がないので考えないこととします。)
よって上の問題 1「収束半径の境界上で収束するか」は (実数上で考えれば) 単に $\sum_{n=0}^{\infty} a_n$ と $\sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n a_n$ が収束するか、という問題と同じです。上の問題 2 「収束するならばどのような値になるのか」は、$x = \pm 1$ のみを考えるだけでは単に級数の収束を考えるのと同じになってしまうので、$|x| < 1$ での値とどのような関係があるか、ということを考えます。
本記事では、基本的には $x \in \mathbb{R}$ として考えますが、一部で複素数の場合の補足をすることがあります。
目次
アーベルの連続性定理
まずは問題 2. 「収束するならばどのような値になるのか」に対する答えを与えます。
定理. アーベル (Abel) の連続性定理
$\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ を収束半径が $1$ の冪級数とし, 各 $a_n, x$ は実数であるとする. このとき, $\sum_{n=0}^{\infty} a_n$ が収束するならば,
$$\lim_{x \nearrow 1} \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n = \sum_{n=0}^{\infty} a_n$$
が成り立つ. ここで, $\lim_{x \nearrow 1}$ は $x< 1$ という条件のもと $x$ を $1$ に近づけた極限である. $\Box$
この定理から、例えば $|x| \leq 1$ で連続な関数 $f(x)$ の冪級数展開が $\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ であったとき、$\sum_{n=0}^{\infty} a_n$ が収束することが分かりさえすれば、$f(1) = \sum_{n=0}^{\infty} a_n$ と級数の値を求めることができます。
一応 $\lim_{x \nearrow 1}$ の部分を $\varepsilon – \delta$ 論法で表すと、「任意の $\varepsilon > 0$ に対して $\delta > 0$ が存在し、$x < 1$ かつ $|x -1| <\delta$ を満たすならば
$$\left|\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n -\sum_{n=0}^{\infty} a_n \right| < \varepsilon$$
が成り立つ」となります。
アーベルの連続性定理の証明
アーベルの連続性定理を証明します。
(証明) : $\sum_{n=0}^{\infty} a_n = S$ とおき, $n$ 項までの部分和 $\sum_{k=0}^{n} a_k$ を $s_n$ とおく. また
\begin{align}A_n(x) &= \sum_{k=0}^{n} a_k x^k, \\ A(x) &= \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n\end{align}
とおく. $\lim_{x \nearrow 1} A(x) = S$ を示せば良い. $a_n = s_n -s_{n-1}$ から
\begin{align} A_n(x) &= a_0 + a_1x + \cdots + a_n x^n \\ &= s_0 + (s_1 -s_0)x + \cdots + (s_n -s_{n-1}) x^n \\ &= s_0(1-x) + s_1(x-x^2) + \cdots + s_{n-1}(x^{n-1} -x^n) + s_nx^n \\ &= (1 -x)(s_0 + s_1x + \cdots + s_{n-1} x^{n-1}) + s_nx^n \\ &= (1 -x) \sum_{k=0}^{n-1}s_k x^k + s_nx^n \end{align}
が成り立つ. $s_n$ は $n \to \infty$ で収束するので, $|x| < 1$ で $\lim_{n \to \infty} s_nx^n = 0$ となり,
$$A(x) = (1 -x) \sum_{n = 0}^{\infty} s_n x^n \quad (|x| < 1)$$
が成り立つ. ここで, $s_n$ が収束することから任意の $\varepsilon > 0$ に対してある $N > 0$ が存在して, $n > N$ ならば $|s_n -S| < \varepsilon$ を満たすので, $|x| < 1$ で
\begin{align} & \left| (1 -x)\sum_{n = N+1}^{\infty} s_n x^n -S\right| \\ \leq \ & |1 -x| \left|\sum_{n = N+1}^{\infty} s_n x^n -\frac{S}{1-x}\right| \\ = \ & |1 -x| \left|\sum_{n = N+1}^{\infty} s_n x^n -\sum_{n =0}^{\infty}Sx^n\right| \\ = \ & |1 -x| \left|\sum_{n = N+1}^{\infty} (s_n -S) x^n -\sum_{n =0}^{N}Sx^n\right| \\ \leq \ & |1 -x| \left(\sum_{n = N+1}^{\infty} |s_n -S| |x|^n + \sum_{n =0}^{N}|S||x|^n \right) \\ \leq \ & |1 -x| \left(\sum_{n = N+1}^{\infty} \varepsilon |x|^n + \sum_{n =0}^{N}|S||x|^n \right) \\ \leq \ & |1 -x|\varepsilon \frac{1}{1 -|x|} +|1 -x||S| \frac{1 -|x|^N}{1 -|x|} \\ = \ & \frac{|1 -x|}{1 -|x|} (\varepsilon + |S|(1 -|x|^N)) \end{align}
が成り立つ. よって
\begin{align} &|A(x) -S| \\ \leq \ & \left|(1 -x)\sum_{n = 0}^{N} s_n x^n\right| + \left|(1 -x)\sum_{n = N+1}^{\infty} s_n x^n -S\right| \\ \leq \ & |1 -x|\left|\sum_{n = 0}^{N} s_n x^n\right| + \frac{|1 -x|}{1 -|x|} (\varepsilon + |S|(1 -|x|^N)) \\ \end{align}
となる. 第1項は, $\left|\sum_{n = 0}^{N} s_n x^n\right|$ が (ただの多項式なので) $|x| \leq 1$ で最大値 $M$ を持つため, $x$ を $1 -x \leq \frac{\varepsilon}{M}$ を満たすようにとれば $< \varepsilon$ とできる. 第2項 の $\frac{|1 -x|}{1 -|x|}$ は $x > 0$ で $1$ なので, $x$ を $1 -|x|^n < \frac{\varepsilon}{|S|}$ を満たすようにとれば $< 2\varepsilon$ とできる. よって $x$ を $1$ の十分近くに取れば $|A(x) -S| < 3\varepsilon$ となり, $\varepsilon$ は任意なので $\lim_{x\nearrow 1} A(x) = S$ となる.
以上でアーベルの連続性定理が示された. $\Box$
補足 (アーベル変形について)
証明中で用いた変形
$$\sum_{n=0}^{N} a_n x^n = (1 -x) \sum_{n=0}^{N-1}s_n x^n +s_N x^N$$
はアーベルの変形法と呼ばれています。アーベルの変形法は部分積分を離散したものとみなすことができるらしいです。アーベルの連続性定理の証明のように、部分積分によって極限の計算が簡単になる場合があるので、覚えておくと助かることがあるかもしれません。
補足 (複素数の場合)
$a_n, x$ が複素数の場合でもほぼ同様の事実が成り立ちますが、$\frac{|1 -x|}{1 -|x|}$ の部分だけは、$x$ が複素数の場合 $1$ ではないので注意が必要です。
複素数で考えるので $x$ を $z$ に置き換えます。$1$ に収束する複素数列 $\{z_n\}_{n=0}^{\infty}$, $|z_n| < 1$ に対して
$$\frac{|1 -z_n|}{1 -|z_n|} \leq M$$
を満たす定数 $M$ が存在すれば、$\lim_{n \to \infty} A(z_n) = S$ が成り立つことが上記の証明と同様に示すことができます。
この条件をもう少し詳しく見てみましょう。$z_n = 1 + w_n$, $w_n = r_ne^{i\theta_n}$ とおくと
\begin{align} & \frac{|1 -z_n|}{1 -|z_n|} = \frac{|-w_n|}{1 -|1 +w_n|} \leq M \\ \Leftrightarrow \ & |1 + w_n| \leq 1 -\frac{|w_n|}{M} \\ \Leftrightarrow \ & (1 + r_ne^{i\theta_n})(1 + r_ne^{-i\theta_n}) \leq \left(1 -\frac{r_n}{M}\right)^2 \\ \Leftrightarrow \ & 1 + 2r_n(e^{i\theta_n} +e^{-i\theta_n}) + r_n^2 \leq 1 -2\frac{r_n}{M}+\frac{r_n^2}{M^2} \\ \Leftrightarrow \ & \cos \theta_n \leq -\frac{1}{M}+ \left(\frac{1}{M^2} -1 \right) \frac{r_n}{2} \\ \end{align}
$0 < M < 1$ とすると、$n \to \infty$ で $r_n \to 0$ で、
$$\lim_{n \to \infty} \cos \theta_n \leq -\frac{1}{M} < -1$$
なので、これを満たすような $\{z_n\}$ は存在しません。よって $M \geq 1$ です。
$M = 1$ のときは $\cos \theta_n = -1$ なので、$z_n = 1 -r_n$ つまり $z_n$ は実数になります。
$M > 1$ のとき $\frac{1}{M} < 1$ で、任意の $0 < \varepsilon < 1 -\frac{1}{M}$ に対して $n$ を十分大きくすれば、
$$\cos \theta_n \leq -\frac{1}{M} -\varepsilon \leq -\frac{1}{M}+ \left(\frac{1}{M^2} -1 \right) \frac{r_n}{2}$$
となります。よって $\{z_n\}$ が
$$\cos \theta_n \leq -\frac{1}{M} -\varepsilon$$
を満たせば、
$$\frac{|1 -z_n|}{1 -|z_n|} \leq M$$
が成り立ちます。
応用例 ($\arcsin x$ の $x=\pm1$ での収束)
以下の記事
の最後で、$\arcsin x$ の冪級数展開
$$\arcsin x = x + \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(2n -1) \cdot (2n -3) \cdots 3 \cdot 1}{2n \cdot (2n -2) \cdots 4 \cdot 2} \frac{x^{2n+1}}{2n +1}$$
が $|x| < 1$ で成り立つことを示しました。これが $x = \pm 1$ でも成り立つことを示します。
その前に以下の記号を導入します。
\begin{align}(2n -1)!! &= 1 \cdot 3 \cdots (2n-3) \cdot (2n -3) \\ (2n)!! &= 2 \cdot 4 \cdots (2n-2) \cdot 2n \\ 0!! &= 1 \\ (-1)!! &= 1\end{align}
すると上の冪級数は
$$\sum_{n = 0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \frac{x^{2n+1}}{2n +1}$$
と表すことができます。この冪級数を $A(x)$ と表すと、示したいことは $\arcsin \pm 1 = A(\pm 1)$ (複号同順) が成り立つことです。$\arcsin x$ が連続なので、アーベルの連続性定理から $A(\pm 1)$ が収束することを示せば十分です。$A(-1) = -A(1)$ なので、$A(1)$ が収束することと $A(-1)$ が収束することは同値になります。よって $A(1)$ が収束することを示せば十分です。
$A(x)$ の $n$ 項までの部分和
$$A_n(x) = \sum_{k = 0}^{n} \frac{(2k-1)!!}{(2k)!!} \frac{x^{2k+1}}{2k +1}$$
を考えると、$A_n(x)$ は $x \in \mathbb{R}$ で連続で、係数が全て正なので、$x \in [0, 1]$ で
$$A_n(x) \leq \arcsin x \leq \arcsin 1 = \frac{\pi}{2}$$
が成り立ちます。よって特に $A_n(1) \leq \frac{\pi}{2}$ です。$A_n(1)$ は $n$ に関して単調増加で、上に有界なので収束します。よって $A(1)$ は収束します。
よってアーベルの連続性定理から
\begin{align} & \sum_{n = 0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \frac{1}{2n +1} \\ = \ & A(1) = \lim_{x \nearrow 1} A(x)\\ = \ & \lim_{x \nearrow 1} \arcsin x \\ = \ & \arcsin 1 = \frac{\pi}{2} \end{align}
が成り立ちます。
収束するという条件が必要であること
上記の応用例でのポイントは、冪級数が $x = 1$ で収束することを示すことでした。そもそもそれが必要なのか、という疑問は以下の例で解決します。
例えば $|x| < 1$ で
$$\frac{1}{1 +x} = 1 -x +x^2 -x^3 + \cdots$$
が成り立つので、$x$ を $x^2$ に置き換えて、$|x| < 1$ で
$$\frac{1}{1 +x^2} = 1 -x^2 +x^4 -x^6 + \cdots$$
が成り立ちます。$\frac{1}{1 +x^2}$ は $x \in \mathbb{R}$ で連続で
$$\lim_{x \nearrow 1} \frac{1}{1 + x^2} = \frac{1}{2}$$
が成り立ちますが、$x = 1$ で冪級数は
$$1 -1 +1 -1 + \cdots$$
なので収束しません。
交代級数
$\{a_n\}_{n=0}^{\infty}$ を、全ての $n$ に対して $a_n \geq 0$ を満たす、または全ての $n$ に対して $a_n \leq 0$ を満たす実数列とします。項の正負が交互に入れ替わる級数
$$a_0 -a_1 +a_2 -a_3 + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n a_n$$
を交代級数と言います。例えば
$$1 -\frac{1}{2} +\frac{1}{3} -\frac{1}{4}+ \cdots = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n}$$
$$1 -\frac{1}{3} +\frac{1}{5} -\frac{1}{7}+ \cdots = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$$
は交代級数です。冪級数
$$\sum_{n=0}^{\infty} (-1)^n a_n x^n$$
を考えると、この $x = 1$ での値は交代級数になります。例えば上の2つの交代級数はどちらも
$$\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{a_n} = 1$$
を満たすので、収束半径は $1$ であり、コーシー・アダマールの判定法では収束するかどうかを判定できません。このような場合に使える収束判定法が知られています。
交代級数の収束
$\{|a_n|\}_{n=0}^{\infty}$ は広義単調減少、つまり $|a_n| \geq |a_{n+1}|$ を満たすとし、さらに $\lim_{n \to \infty}a_n = 0$ を満たすとします。このとき交代級数は収束します。先ほどの2つの交代級数はこの条件を満たすので、収束します。これを示しましょう。
$a_n$ が全て負の場合は、$-a_n$ に置き換えると全て正になるので、$a_n$ が全て正の場合のみを考えれば十分です。$n$ 項までの級数を
$$s_n = \sum_{k=0}^{n} (-1)^k a_k$$
とおきます。このとき、
\begin{align} s_{2n+1} &= s_{2n} -a_n \\ &\leq s_{2n} \end{align}
が成り立ちます。また、$\{a_n\}_{n=0}^{\infty}$ は広義単調減少なので、$a_{2n} -a_{2n+1} \geq 0$, $-a_{2n+1} +a_{2n+2} \leq 0$ が成り立ちます。よって
\begin{align}s_{2n +1} &= s_{2n-1} +(a_{2n} -a_{2n+1})\\ &\geq s_{2n-1}\end{align}
\begin{align}s_{2n +2} &= s_{2n} +(-a_{2n+1} +a_{2n+2})\\ &\leq s_{2n}\end{align}
が成り立ちます。したがって
$$s_1 \leq s_3 \leq \cdots \leq s_{2n+1} \leq s_{2n} \leq \cdots \leq s_2 \leq s_0$$
が成り立ちます。
$\varepsilon > 0$ に対して $N > 0$ を、$n \geq N$ のときに $a_n < \varepsilon$ を満たすように取ります。このとき $n, m \geq N$ に対して
$$|s_m -s_n| \leq |s_{N+1} -s_N| = |a_N| < \varepsilon$$
を満たすので $\{s_n\}_{n=0}^{\infty}$ はコーシー列であり、収束します。
応用例
最初に挙げた2つの例
$$1 -\frac{1}{2} +\frac{1}{3} -\frac{1}{4}+ \cdots = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n}$$
$$1 -\frac{1}{3} +\frac{1}{5} -\frac{1}{7}+ \cdots = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$$
の値を計算しましょう。収束することは先ほど示したので、アーベルの連続性定理を用いて収束値を求めます (アーベルの連続性定理を用いなくても求められます)。
$\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n}$ の値
冪級数
$$A(x) = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n}x^n$$
を考えます。この冪級数の収束半径は $1$ なので、$A(x)$ は $|x| < 1$ で微分可能で
\begin{align} A^{\prime}(x) &= \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1} x^{n-1} \\ &= 1 -x +x^2 -x^3 +x^4 -\cdots \end{align}
となります。$|x| < 1$ で
\begin{align}\frac{1}{1 + x} &= 1 -x +x^2 -x^3 +x^4 -\cdots \\ &= A^{\prime}(x)\end{align}
なので、
\begin{align} A(x) &= \int_0^x A^{\prime}(t) dt + A(0) \\ &= \int_0^x \frac{1}{1 +t} dt \\ &= \log(1+x) \end{align}
が $|x| < 1$ で成り立ちます。$\log(1+x)$ は $x = 1$ で連続で、$A(1)$ は収束するので、アーベルの連続性定理から
\begin{align} & \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n} \\ = \ & A(1) = \lim_{x \nearrow 1}A(x) \\ = \ &\lim_{x \nearrow 1}\log(1+x) \\ = \ & \log(2) \end{align}
となります。
$\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}$ の値
同様に冪級数
$$A(x) = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{2n-1}x^{2n-1}$$
を考えると、収束半径は $1$ なので、$|x| < 1$ で微分可能で
\begin{align} A^{\prime}(x) &= \sum_{n = 1}^{\infty} (-1)^{n-1}x^{2n-2} \\ &= 1 -x^2 +x^4 -x^6 +\cdots \\ &= \frac{1}{1 +x^2} \end{align}
が成り立ちます。ここで $x = \tan y$ とおくと、逆関数の微分の公式から ($-\frac{\pi}{2} < y < \frac{\pi}{2}$ なので $\cos y \neq 0$ であることに注意して)
\begin{align} \frac{dy}{dx} &= \frac{1}{\frac{dx}{dy}} = \frac{1}{\tan^{\prime} y}= \cos^2 y\\ & = \frac{\cos^2 y}{\sin^2 y +\cos^2 y} \\ &= \frac{1}{1 +\tan^2 y} = \frac{1}{1 +x^2} \end{align}
となるので 、$|x| < 1$ で
$$\arctan^{\prime}x = \frac{1}{1 + x^2} = A^{\prime}(x)$$
が成り立ちます。したがって $|x| < 1$ で
\begin{align} A(x) &= \int_0^x A^{\prime}(t) dt + A(0) \\ &= \int_0^x \arctan^{\prime}(t) dt \\ &= \arctan (x) -\arctan (0) \\ &= \arctan (x) \end{align}
が成り立ちます。よってアーベルの連続性定理から
\begin{align} & \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{2n-1} \\ = \ & A(1) = \lim_{x \nearrow 1}A(x) \\ =\ & \lim_{x \nearrow 1}\arctan (x) \\ = \ & \frac{\pi}{4} \end{align}
となります。(アーベルの連続性定理を用いない方法は別の記事で紹介しています。)
オイラー・マクローリンの判定法
正の値をとる単調減少な関数 $f(x)$ に対して、面積の比較から
$$0 \leq \sum_{n=a+1}^{N} f(n) \leq \int_a^N f(x) dx $$
が成り立ちます。よって右辺の積分が $N \to \infty$ で収束するなら、左辺も収束します。これをオイラーマクローリンの判定法というようです (一般的な呼び方なのか分かりませんが、[杉浦 P.368] にはそう書かれています。オイラー・マクローリンの和公式と呼ばれるものがあり ([高校]) 、それを意識した呼び方だと思われます)。
応用例
$s > 1$ に対して $\displaystyle f(x) = \frac{1}{x^s}$ とおくと、$f(x)$ は $x \in (0, \infty)$ で正の値をとる単調減少な関数です。級数
$$\sum_{n = 1}^{\infty} f(n) = \sum_{n = 1}^{\infty}\frac{1}{n^s}$$
が収束することを示しましょう。
\begin{align} \sum_{n = 1}^{N}\frac{1}{n^s} &= 1 +\sum_{n = 2}^{N}\frac{1}{n^s} \\ & \leq 1 +\int_1^{N} \frac{1}{x^s} dx \\ &= 1 + \left[\frac{1}{1 -s} x^{1 -s}\right]_1^N \\ &= 1 + \frac{1}{s -1} -\frac{1}{s-1} \frac{1}{N^{s-1}} \end{align}
となりますが、$\lim_{n \to \infty} \frac{1}{N^{s-1}} = 0$ なので、級数は収束します。($s \geq 2$ のときはもっと簡単に示すことができます。)
バーゼル問題
$s = 2$ のときの級数の値
$$\sum_{n = 1}^{\infty}\frac{1}{n^2}$$
を求める問題はバーゼル問題と呼ばれており、オイラーが解決したと云われています。これをアーベルの連続性定理で求められるか考えてみましょう。
$$A(x) = \sum_{n = 1}^{\infty}\frac{1}{n^2}x^{n}$$
とおくと、
$$\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{\frac{1}{n^2}} = 1$$
なので $A(x)$ の収束半径は $1$ です。よって $|x| < 1$ で微分可能で
\begin{align} A^{\prime}(x) &= \sum_{n = 1}^{\infty}\frac{1}{n}x^{n-1} \\ &= 1 +\frac{1}{2}x +\frac{1}{3}x^2 + \cdots \end{align}
となります。ここで $|x| < 1$ で
\begin{align} \log(1 -x) &= -\int_0^x \frac{1}{1 -t} dx \\ &= -\int_0^x \sum_{n=0}^{\infty} t^n dx \\ &= -\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n+1} x^{n+1} \\ &= -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n} x^{n} \end{align}
なので、$|x| < 1$ で
$$x A^{\prime}(x) = -\log(1 -x)$$
が成り立ちます。$x \neq 0$ ならば
$$A^{\prime}(x) = -\frac{\log(1 -x)}{x}$$
が成り立ちますが、$A^{\prime}(x)$ は $|x| < 1$ で連続で $A^{\prime}(0) = 1$ なので、$\lim_{x \to 0} \frac{\log(1 -x)}{x} = 1$ が成り立ちます。$\frac{\log(1 -x)}{x}$ を拡張し、$x = 0$ での値を $1$ とした関数も $\frac{\log(1 -x)}{x}$ と表すことにします。このとき $A(0) = 0$ なので、 $|x| < 1$ で
$$A(x) = -\int_0^x \frac{\log(1 -t)}{t} dt$$
が成り立ちます。
右辺の関数は二重対数関数と呼ばれており、
$$\mathrm{Li}_2(x) := -\int_0^x \frac{\log(1 -t)}{t} dt$$
と表されることが多いです。$\mathrm{Li}_2(x)$ は $x < 1$ で定義されます。
アーベルの連続性定理から
$$\lim_{x \nearrow 1} \mathrm{Li}_2(x) = \sum_{n = 1}^{\infty}\frac{1}{n^2}$$
なので、左辺の値を計算すれば良いですが、少し予備知識が必要なので、この記事ではここで終わります。計算方法を知りたい方は例えば以下の記事が参考になると思います。
参考文献
[杉浦] 杉浦 光夫. 解析入門 Ⅰ
[高校] 高校数学の美しい物語. オイラー・マクローリンの和公式
[Fib] Fibonacci Freak バーゼル問題の二重対数による解法
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