今回は、京都大学で3回生向けに後期に行われたガロア理論の講義の第13回の内容の要約をします。今回は、作図問題とクンマー理論についての話です。作図問題の定式化が少し甘いと感じたので、より厳密な定義を与えています。それに伴い、証明に少しアレンジが加わっています。基本的なアイディアは動画に従っています。
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:目次
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第1回(10月7日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第2回(10月14日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第4回(10月28日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第5回(11月4日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第6回(11月11日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第7回(11月18日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第8回(12月2日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第11回(1月6日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第12回(1月13日)
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第13回(1月20日)← 今回
- ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第14回(1月27日)
目次
作図問題 (00:08~)
定規 (目盛なし) とコンパスだけでどのような図形が描けるかという問題を考えます。$1$ という長さは、コンパスを適当に開いてできる長さを $1$ とすることで、測れることとします。できることは、
- 与えられた 2 点を結ぶ
- 1 点を中心とする、与えられた半径の円を描く
です。(講義中は明言しておりませんが、もう少し厳密なルールを説明するとおそらく次のようになります。原点 $0$ および $1$ (に相当する点) が最初に与えられており、上記の「与えられた2点」および円の中心は、$0, 1$ と、描いた直線、円周の交点集合のみから選べることとし、円の半径は $0, 1$ と交点の集合の、任意の2点間の長さを取ることができるとします。)
作図可能な長さ全体は体である (03:04~)
$L$ を作図できる長さ全体の集合とします (講義中は具体的な定義をしていませんが、交点集合うちの2点間の長さと考えて良いです。$0, 1$ を含む直線を $x$ 軸とみなせば、作図可能な長さは $x$ 軸上にある交点集合と思っても良いです)。このとき、以下が成り立ちます。
命題. (03:30~)
$L$ は体をなす.
(証明の概略) $\alpha, \beta \in L$ とする. 直線を引いて, コンパスを使って, 直線上のある点から長さ $\alpha$ の点, その点から長さ $\beta$ の点を描けば $\alpha \pm \beta$ を作図できる. 次に $\alpha, \beta \in L \setminus \{0\}$ に対して $\alpha \beta, \frac{\alpha}{\beta} \in L$ を示す. ある点からある直線に垂線が引けるので、平行線を引くことができる. 交わりを持つ 2 直線を描き, その交点から一方には $\alpha$, もう一方には $1$ と $\beta$ を描く. $\alpha$ と $1$ を結び, それと平行かつ $\beta$ を通る直線を引けば $\alpha \beta$ が, $\alpha$ と $\beta$ を結び, それと平行かつ $1$ を通る直線を引けば, $\frac{\alpha}{\beta}$ が作図できる. (詳しくは動画を見てください。) $\Box$
(補足) : 垂線と平行線を引くことができるので、$\alpha, \beta \in L$ ならば $(\alpha, \beta)$ に交点を持つ直線を作図できます。逆に $(\alpha, \beta)$ が交点集合に含まれるならば $\alpha, \beta \in L$ です。
次に、どのような長さを作図できるかを考えます。まずは2次拡大に関する補題を示しておきます。
補題 (09:58~)
$K$ は体で, $\mathrm{ch} K \neq 2$ とし, $F \supsetneq K$ をその拡大体とする. このとき,
- ある $a \in K$ が存在し, $F = K(\sqrt{a})$
- $[F:K] = 2$
は同値である.
(証明) (1) $\Rightarrow$ (2) を示す. 条件から $\sqrt{a} \notin K$ なので, $\sqrt{a}$ は $f(x) = x^2 -a$ の根で, $f(x)$ は既約である. よって $[F:K] = 2$
(2) $\Rightarrow$ (1) を示す. $\alpha \in F \setminus K$ を一つとる. $2$ は素数なので ($K \subset M \subset F$ を満たす中間体 $M$ は存在せず), $F = K(\alpha)$ が成り立つ. $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式を
$$a x^2 + bx + c \quad (a, b, c \in K, a \neq 0)$$
とすると, 解の公式から
$$\alpha = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 -4ac}}{2a}$$
であり, $\alpha \notin K$ から $\sqrt{b^2 -4ac} \notin K$ なので
$$F = K(\sqrt{b^2 -4ac})$$
となる. $\Box$
次の定理からどのような $\alpha \in \mathbb{R}$ が作図可能なのかわかります。
定理. 作図可能性 (13:50~)
$\alpha \in \mathbb{R}$ に対して
- $\alpha \in L$ であること
- 体の列$$\mathbb{Q} = K_0 \subset K_1 \subset \cdots \subset K_n \subset \mathbb{R}$$で, ある $\beta_i \in K_{i-1}$ に対して $K_{i} = K_{i-1}(\sqrt{\beta_i})$ を満たすものが存在し, $\alpha \in K_n$ となること
は同値である.
(証明の概略) (1) $\Rightarrow$ (2) を示す. 新たな交点は
- 直線と直線の交点
- 直線と円の交点
- 円と円の交点
で得られる. $(\alpha, \beta)$, $(\alpha^{\prime}, \beta^{\prime})$ を通る直線は,
$$(\alpha -\alpha^{\prime})(y -\beta^{\prime}) -(\beta -\beta^{\prime})(x -\alpha^{\prime}) = 0 $$
で与えられるので, $(\alpha_1, \beta_1)$, $(\alpha_1^{\prime}, \beta_1^{\prime})$ を通る直線と, $(\alpha_2, \beta_2)$, $(\alpha_2^{\prime}, \beta_2^{\prime})$ を通る直線の交点の $x$ 座標, $y$ 座標はそれぞれ
$$\mathbb{Q}(\alpha_1, \beta_1, \alpha_1^{\prime}, \beta_1^{\prime}, \alpha_2, \beta_2, \alpha_2^{\prime}, \beta_2^{\prime})$$
の元である. 直線と円の交点, 円と円の交点は 2 次方程式で与えられるので, 交点の $x$ 座標, $y$ 座標はそれぞれ, $\mathbb{Q}$ に方程式の係数を添加した体の高々 2 次拡大の元である. 新たに得られた交点と既知の交点との距離は, $\mathbb{Q}$ にそれぞれの $x$ 座標, $y$ 座標の値を添加した体の高々 2 次拡大に含まれる. これで (1) $\Rightarrow$ (2) が示された
(21:38~) (2) $\Rightarrow$ (1) を示すには, $\beta_i \in K_i$ に対して $\sqrt{\beta_i}$ が作図できれば良い. $\beta_i, 1, \beta_i+1$ は作図可能で, 直径 $\beta_i+1$ の円は, 垂直2等分線を描くことで作図可能である. 円の中に適当な直角三角形をとり, 垂線を引けば $\sqrt{\beta_i}$ が作図できる. (詳しくは動画を見てください) $\Box$
(23:50~) 特に、上の定理の (2) は、拡大次数が $2$ 冪であることと同じです (動画にも注釈が入っていますが、これは間違いで、次回の講義で反例が示されます。)
正多角形の作図可能性 (26:30~)
定理. (26:30~)
正五角形は作図可能である.
(証明) : $\cos \frac{2\pi}{5}$, $\sin \frac{2\pi}{5}$ が作図できれば良い.
$$\sin \frac{2\pi}{5} = \sqrt{1 -\cos^2 \frac{2\pi}{5}}$$
なので, $\cos \frac{2\pi}{5} \in L$ であれば良い. $\zeta = \zeta_5$ (原始5乗根) とすると
$$\cos \frac{2\pi}{5} = \frac{\zeta +\zeta^{-1}}{2} = \frac{\zeta +\zeta^4}{2}$$
なので, $t = \zeta +\zeta^4$, $s = \zeta^2 +\zeta^3$ とおくと
\begin{align} t + s &= \zeta + \zeta^2 +\zeta^3+\zeta^4 = -1 \\ ts &= (\zeta +\zeta^4)(\zeta^2 +\zeta^3) \\ &= \zeta^3 +\zeta^4 +\zeta +\zeta^4 = -1 \end{align}
となり, $t, s$ は $x^2 +x -1 = 0$ の解である. それは
$$x = \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$$
で, $t > 0$ なので $t = \frac{-1 + \sqrt{5}}{2}$ となる. よって作図可能.$\Box$
定義. (33:52~)
素数 $p$ が $p = 2^n +1$ という形をしているとき, $p$ をフェルマー素数という. $\Box$
$3$, $5$, $17$, $257$, $65537$ はフェルマー素数であることが知られています。これ以外のフェルマー素数は見つかっていません。フェルマー素数は $2^{2^m} + 1$ という形であることが知られています (初等的に示せるらしい)。
定理. (35:47 ~)
以下は同値である.
- 正 $n$ 角形は作図可能
- $n$ を $2^{i_0} p_1^{i_1} \cdots p_m^{i_m}$ と素因数分解したときに, $p_1, \cdots, p_m$ はフェルマー素数で, $i_1 = i_m = 1$ を満たす
(証明の概略) : (1) $\Rightarrow$ (2) を示す. 仮定から $\cos \frac{2\pi}{n}, \sin \frac{2\pi}{n} \in L$ である. よって $[\mathbb{Q}(\cos \frac{2\pi}{n}): \mathbb{Q}]$ は 2 冪. $\zeta_n = \exp\left(\frac{2\pi}{n}\sqrt{-1}\right)$ とおくと, $\cos \frac{2\pi}{n} = \frac{1}{2}(\zeta_n + \zeta_n^{-1})$ である. $[\mathbb{Q}(\zeta_n): \mathbb{Q}(\cos \frac{2\pi}{n})] = 2$ なので $[\mathbb{Q}(\zeta_n): \mathbb{Q}]$ も 2 冪. ここで, $n = 2^{i_0} p_1^{i_1} \cdots p_m^{i_m}$ と素因数分解すると, オイラー関数の性質と, $\mathbb{Q}(\zeta_n)$ の $\mathbb{Q}$ 上の拡大次数がオイラー関数に一致することから,
\begin{align} &[\mathbb{Q}(\zeta_n): \mathbb{Q}] = \varphi(n) \\ = \ & 2^{i_0-1} p_1^{i_1-1}(p_1-1) \cdots p_m^{i_m-1}(p_m-1) \end{align}
となる. これが 2 冪なので $i_1 = \cdots = i_m = 1$ かつ $p_1-1, \cdots p_m-1$ はフェルマー素数.
(44:18~) (2) $\Rightarrow$ (1) を示す. 先ほどの議論から $[\mathbb{Q}(\zeta_n): \mathbb{Q}]$ は 2 冪. 円分体のガロア群は
$$\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n) / \mathbb{Q}) \simeq (\mathbb{Z} / n \mathbb{Z})^{\times}$$
である. 特に $\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n) / \mathbb{Q})$ はアーベル群であり, 任意の部分群は正規部分群である. さらに, 位数の関係から, 任意の部分群の位数は 2 冪である. ガロアの基本定理から, $\mathbb{Q}(\cos \frac{2\pi}{n}) \subset \mathbb{Q}(\zeta_n)$ に対応する部分群 $H \subset \mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n) / \mathbb{Q})$ が存在し
$$\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\cos {\textstyle \frac{2\pi}{n})/ \mathbb{Q}}) \simeq \mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_n) / \mathbb{Q}) / H$$
が成り立つ. 特に $\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\cos {\textstyle \frac{2\pi}{n})/ \mathbb{Q}})$ はアーベル群で, 位数は 2 冪である. 有限生成アーベル群の基本定理から
$$\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\cos {\textstyle \frac{2\pi}{n})/ \mathbb{Q}}) \simeq \mathbb{Z}/ 2^{j_1} \mathbb{Z} \times \cdots \times \mathbb{Z}/ 2^{j_l} \mathbb{Z}$$
という形をしている.
$$\mathbb{Z} / 2^{j} \mathbb{Z} \supset \mathbb{Z} / 2^{j-1} \mathbb{Z} \supset \cdots \supset \{0\}$$
という部分群の列を取れば, ガロアの基本定理から 2 次拡大の列
$$\mathbb{Q} \subset K_1 \subset \cdots K_m =\mathbb{Q}(\cos {\textstyle \frac{2\pi}{n}})$$
が得られる. $\Box$
(42:58~) 上の定理から、例えば正9角形は ($9 = 3^2$ から) 作図可能ではありません。正3角形は作図可能なので、角の3等分も一般には作図不可能であることがわかります。
クンマー理論 (48:38 ~)
例えば $\mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3}, \sqrt{7}, \sqrt{11})$ の $\mathbb{Q}$ 上の拡大次数を求めようと思うと、素朴にやれば $\mathbb{Q}(\sqrt{2})$ に $\sqrt{3}$ が含まれないことを示すのに 2 次方程式を考えて、矛盾を導くということになりますが、それを繰り返すのは面倒です。クンマー理論はこのような体の拡大を記述するもので、クンマー理論を使えば、すっきりとわかります。
(50:35~) $n$ を正の整数、$K$ を体として、標数 $0$ または $\mathrm{ch} K \nmid n$ で、かつ $1$ の原始 $n$ 乗根 $\zeta$ を持つとします。ちなみに $x^n -1$ を微分すると $nx^{n-1}$ なので分離多項式であり、$x^n -1$ は $n$ 個の根を持ちます。原始 $n$ 乗根は任意の $1 \leq i \leq n-1$ に対して $\zeta^i \neq 1$ を満たすもののことです。このような体に $n$ 乗根を付け加えたらどうなるのかを調べていきます。
(補足) 上記の条件を満たす $K$ に対して原始 $n$ 乗根が本当に存在するのか気になるところですが、以前示した命題から乗法群 $K^\times$ の有限部分群は巡回群で、$1$ の $n$ 乗根全体の集合が $K^\times$ の部分群であることから、原始 $n$ 乗根が存在します。
指標群 (52:14~)
定義. 指標 (52:25~)
$G$ を有限アーベル群とする. 準同型
$$\varphi: G \to \mathbb{C}^1 = \{z \in \mathbb{C} \mid |z| = 1\}$$
を $G$ の指標という.$\Box$
$\varphi_1, \varphi_2$ を $G$ の指標とします。このとき
$$G \ni g \mapsto \varphi_1(g) \varphi_2(g) \in \mathbb{C}^1$$
は指標になります。この積により、指標全体はアーベル群になります。これを $G^*$ と書いて、指標群と言います。
直積の指標は以下のようになります。
補題. 直積の指標 (55:14~)
有限アーベル群 $G_1$, $G_2$ に対して
$$(G_1 \times G_2)^* \simeq G_1^* \times G_2^*$$
が成り立つ.$\Box$
証明は省略されていますが、概略を書くと以下のようになります。$e_1$ を $G_1$ の単位元、$e_2$ を $G_2$ の単位元とします。$\varphi \in (G_1 \times G_2)^*$ に対して
$$\varphi((g_1, g_2)) = \varphi((g_1, e_2)) \varphi((e_1, g_2))$$
なので $(G_1 \times G_2)^* \to G_1^* \times G_2^*$ が定まります。逆の対応は指標の積を取ればよく、1対1対応であることは明らかです。
(55:52~) $a \in G$ に対して
$$\sigma_a: G^* \ni \varphi \mapsto \varphi(a) \in \mathbb{C}^1$$
が定まります。$\sigma_a \in (G^*)^*$ です。
命題. (56:40~)
以下が成り立つ.
- 自然な写像 $G \ni a \mapsto \sigma_a \in (G^*)^*$ は同型を与える
- (必ずしも自然ではない) 同型 $G \simeq G^*$ が存在する
(証明の概要) : (2) から証明する. 上の補題と有限生成アーベル群の基本定理から, $G = \mathbb{Z} / n \mathbb{Z}$ として良い. $a \in \mathbb{Z}$ に対して
$$\phi_a: G \ni \bar{j} \mapsto \exp\left(\frac{2\pi a j \sqrt{-1}}{n}\right) \in \mathbb{C}^1$$
を対応させる写像は準同型である. よって $\phi_a \in G^*$ である. $\phi_a \phi_b = \phi_{a+b}$ かつ, $a \equiv b \pmod n$ ならば $\phi_a = \phi_b$ であることは明らか. よって
$$G \ni \bar{a} \mapsto \phi_a \in G^*$$
は準同型. ここで, 一般の $\varphi \in G^*$ に対して
$$\varphi(\bar{1})^n = \varphi(n \cdot \bar{1}) = \varphi(\bar{0}) = 1$$
なので $\varphi(\bar{1})$ は $1$ の $n$ 乗根である. 従って $\varphi(\bar{1}) = \exp(\frac{2 \pi a \sqrt{-1}}{n})$ という形をしている. $\bar{1}$ は $G$ の生成元で $\varphi(\bar{1}) = \phi_a(\bar{1})$ なので, $\varphi = \phi_a$. これで上の対応 $G \to G^*$ は全射であることがわかった. また $\phi_a(\bar{1}) = \zeta_n^a$ であり $\zeta_n, \cdots, \zeta_n^{n-1}$ は全て異なるので単射でもある. 従って $G \simeq G^*$ である.
(1) を示す. (2) から $|(G^*)^*| = |G^*| = |G|$ が成り立つ. (2) のときと同様, $G \simeq \mathbb{Z} / n \mathbb{Z}$ のときに示せば良い. $G \ni \bar{i} \neq \bar{0}$ に対して
$$\sigma_{\bar{i}}(\phi_1) = \phi_1(\bar{i}) = \zeta_n^i \neq 1$$
なので, $G \to (G^*)^*$ は単射. 位数が等しいので全射. よって $G \simeq (G^*)^*$. $\Box$
定義. perfect pairing (1:08:03~)
$G, H$ を有限アーベル群とする. $\Phi: G\times H \to \mathbb{C}^1$ が次の条件を満たすとき, perfect pairing という.
- 任意の $a_1, a_2 \in G$, $b \in H$ に対して $$\Phi(a_1 + a_2, b) = \Phi(a_1, b)\Phi(a_2, b)$$が成り立つ
- 任意の $a \in G$, $b_1, b_2 \in H$ に対して $$\Phi(a, b_1 + b_2) = \Phi(a, b_1)\Phi(a, b_2)$$が成り立つ
- $g \in G$ は全ての $h \in H$ に対して $\Phi(g, h) = 1$ を満たすなら $g = 0$
- $h \in H$ は全ての $g \in G$ に対して $\Phi(g, h) = 1$ を満たすなら $h = 0$
(1), (2) を合わせて双線形, (3), (4) を合わせて非退化という.$\Box$
命題. (1:10:50~)
$\Phi$ を $G\times H$ 上の perfect pairing とする. このとき $G \simeq H^*$ かつ $H \simeq G^*$ となる.
(証明) : $g \in G$ に対して
$$\sigma_g: H \ni h \mapsto \Phi(g, h) \in \mathbb{C}^1$$
とおくと, $\Phi$ の $H$ に関する線形性から $\sigma_g \in H^*$ であり, $G \ni g \mapsto \sigma_g \in H^*$ は, $\Phi$ の $G$ に関する線形性から準同型である. $\sigma_g = 0$ ならば, 任意の $h \in H$ に対して $\Phi(g, h) = 1$ であり, これは $g = 0$ を意味する. よって $G \to H^*$ は単射. 同様に単射 $H \to G^*$ が存在する. 位数の関係からそれぞれ全射である.$\Box$
クンマー理論 (1:14:26~)
perfect pairing を使うとクンマー理論の片方が証明できます。$n$ を正の整数とし、体 $K$ は標数 $0$ または $\mathrm{ck} K \nmid n$ を満たすとします。さらに $K$ は $1$ の原始 $n$ 乗根を持つとします。このとき
$$(K^{\times})^n = \{a^n \mid a \in K^{\times} \}$$
とおきます。
定義. (1:15:02)
$K^\times$ の部分群 $K^\times \supset R \supset (K^\times)^n$ に対し, $K$ に $\{\sqrt[n]{a} \mid a\in R\}$ を添加した体を $K(\sqrt[n]{R})$ と書く.$\Box$
(補足) $a$ の $n$ 乗根は $n$ 個存在するので、$K(\sqrt[n]{R})$ は代数閉包 $\overline{K}$ の元 $\alpha$ で $\alpha^n \in R$ を満たすもの全体を添加したものといったほうが正しい気がしますが、$K$ は $1$ の原始 $n$ 乗根 $\zeta$ を含むので、$a$ の $n$ 乗根を一つ含めば、それを $\sqrt[n]{a}$ としたとき、$\zeta^i\sqrt[n]{a}$ は $a$ の他の $n$ 乗根となり、$a$ の $n$ 乗根を全て含みます。よって上記のような書き方でも問題ありません。
このようなものの拡大次数がわかるというのがクンマー理論の片方です。
定理. (1:16:20~)
$n$ を正の整数, $K$ を標数 $0$ または $\mathrm{ch} K \nmid n$ を満たす体とし, $K$ は $1$ の $n$ 乗根を含むとする. 部分群 $K^\times \supset R \supset (K^\times)^n$ に対し $R / (K^{\times})^n$ が有限群ならば, $K(\sqrt[n]{R}) / K$ は有限次ガロア拡大で, 自然な同型
$$\mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{R}) / K) \simeq \left(R / (K^{\times})^n\right)^*$$
が存在する.
(証明) : $K$ における $1$ の原始 $n$ 乗根を $\zeta$ とおき,
$$\mu_n = \{\zeta^i \mid i = 0, \cdots, n-1\}$$
とおく. これは $\mathbb{C}$ における $1$ の $n$ 乗根全体 $\{\zeta_n^i \mid i = 0, \cdots, n-1\}$ と同型なので, この同型により $\mu_n$ を $\mathbb{C}^1$ の部分群とみなす. $\mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{R}) / K)$ と $R / (K^{\times})^n$ の間の perfect pairing を作る.
まず有限次ガロア拡大であることを示す. 任意の $a \in R$ に対し, $\sqrt[n]{a}$ の共役は $\zeta^i \sqrt[n]{a}$ という形であり, $\zeta \in K$ なので $\zeta^i \sqrt[n]{a} \in K(\sqrt[n]{R})$. つまり正規拡大. $x^n -a$ は分離多項式なので (微分すれば確かめられる), 分離拡大. よって $K(\sqrt[n]{R}) / K$ はガロア拡大. $R / (K^{\times})^n$ が有限群なので, 生成元を考えることで, $K(\sqrt[n]{R}) / K$ が有限次拡大であることがわかる.
perfect pairing を作る. $\sigma \in \mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{R}) / K)$ と $a \in R$ に対して
$$(\sigma, a) \mapsto \frac{\sigma(\sqrt[n]{a})}{\sqrt[n]{a}} = \Phi(\sigma, a)$$
と定めると,
\begin{align} \left(\frac{\sigma(\sqrt[n]{a})}{\sqrt[n]{a}}\right)^n = \frac{\sigma(a)}{a} = \frac{a}{a} = 1 \end{align}
から $\Phi(\sigma, a) \in \mathbb{C}^1$ となる. これが perfect pairing になることを言いたい.
まずは双線形性を示す. $\Phi(\sigma, a) \in K$ ($1$ の $n$ 乗根) であることに注意して
\begin{align} \Phi(\sigma\tau, a) &= \frac{\sigma \tau(\sqrt[n]{a})}{\sqrt[n]{a}} \\ & = \frac{\sigma \tau(\sqrt[n]{a})}{\sigma(\sqrt[n]{a})} \frac{\sigma(\sqrt[n]{a})}{\sqrt[n]{a}} \\ & = \sigma (\Phi(\tau, a)) \Phi(\sigma, a) \\ & = \Phi(\tau, a) \Phi(\sigma, a) \\ \end{align}
となる. $\Phi(\sigma, ab) = \Phi(\sigma, a)\Phi(\sigma, b)$ は明らか.
次は非退化性を示す. $\sigma \neq 1$ のとき, ある $a \in R$ が存在し, $\sigma(\sqrt[n]{a}) \neq \sqrt[n]{a}$ となる. このとき $\Phi(\sigma, a) \neq 1$ である. $a \neq 1$ とすると, これは $a \notin (K^\times)^n$ を意味し, $K(\sqrt[n]{a})/K$ は自明でないガロア拡大となる. このときある $\sigma \in \mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{a} / K)$ が存在して, $\sigma(\sqrt[n]{a}) \neq \sqrt[n]{a}$ となる. $\sigma$ は $\mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{R} / K)$ に延長できて, それも $\sigma$ と表すと, $\Phi(\sigma, a) \neq 1$ を満たす.
以上で $\Phi$ は perfect pairing となり,
$$\mathrm{Gal}(K(\sqrt[n]{R}) / K) \simeq \left(R / (K^{\times})^n\right)^*$$
となる.$\Box$
(1:27:49~) これでクンマー理論 (の片方?) が証明できました。特に拡大次数がわかります。
例. (1:28:05~)
$K = \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3}, \sqrt{5}, \sqrt{7})$ とすると, $1$ の原始 $2$ 乗根は $-1$ なので $K$ は原始 $2$ 乗根を含む.
$$R = \langle 2, 3, 5, 7, (\mathbb{Q}^\times)^2\rangle$$
とおくと, $K = \mathbb{Q}(\sqrt{R})$ となる. $2^a 3^b 5^c 7^d \in (\mathbb{Q}^\times)^2$ ならば, $a, b, c, d$ は $2$ の倍数である. 逆は明らか. よって
$$R / (\mathbb{Q}^\times)^2 \simeq (\mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z})^4$$
つまり
$$\mathrm{Gal}(K / Q) \simeq ((\mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z})^4)^* \simeq (\mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z})^4$$
となる. 特に拡大次数は 16 である.$\Box$