ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)

今回は、京都大学OCWで3回生向けに後期に行われたガロア理論の講義の第9回の内容の要約をします。ガロアの基本定理の例をいくつか見たあと、3次多項式のガロア群の話に入ります。

  1. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:目次
  2. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第1回(10月7日)
  3. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第2回(10月14日)
  4. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)2限
  5. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第3回(10月21日)3限
  6. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第4回(10月28日)
  7. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第5回(11月4日)
  8. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第6回(11月11日)
  9. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第7回(11月18日)
  10. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第8回(12月2日)
  11. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第9回(12月9日)← 今回
  12. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)
  13. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第11回(1月6日)
  14. ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第12回(1月13日)

補足 (00:08~)

前々回の例の補足 (00:08~)

前々回の最後に例として $\mathbb{Q}(\sqrt{13 + 2\sqrt{13}}) / \mathbb{Q}$ のガロア群を求めましたが、そのとき駆け足になってしまったところを正確にしておきます。(前々回の記事では省略してしまったので、この記事でも省略します)

多項式の既約性とガロア群の性質 (4:13~)

命題. (4:13~)

$K$ を体とし, $f(x) \in K[x]$ を $\deg f = n$ で, その根 $\alpha_1, \cdots, \alpha_n$ はすべて異なるとする. このとき, $L = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_n)$ とおくと, 以下の二つは同値である.

  1. $f(x)$ は $K$ 上既約.
  2. $\mathrm{Gal}(L / K)$ は $\{\alpha_1, \cdots, \alpha_n\}$ に推移的に作用する. (推移的な作用とは, 任意の $\alpha_i, \alpha_j$ に対して $\sigma(\alpha_i)=\alpha_j$ を満たす $\sigma \in \mathrm{Gal}(L / K)$ が存在することである.)

(証明) : $L / K$ がガロア拡大であることは, 根が全て異なるから分離的であること, $f$ の根を全て含むので $L$ の元の $K$ 上共役な元が全て $L$ に含まれることから正規拡大であることからわかる.

(1) $\Rightarrow$ (2) は以前示した命題から $K$ 同型 $\varphi: K(\alpha_i) \to K(\alpha_j)$ が存在することと、これが (代数閉包の一意性の証明と同様にして) ガロア群の元に拡張できることからわかる.

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す. $g(x) \in K[x]$ が $f(x)$ を割るとすると, $g(x)$ は少なくとも $\alpha_1, \cdots, \alpha_n$ のどれか一つを根に持つ. $g(\alpha_1) = 0$ として, $\sigma(\alpha_1) = \alpha_i$ を満たす $\sigma \in \mathrm{Gal}(L / K)$ をとると

$$0 = \sigma(g(\alpha_1)) = g(\sigma(\alpha_1)) = g(\alpha_i)$$

から, $\alpha_i$ も $g(x)$ の根である. よって $\deg g = n$ であり, $g$ と $f$ は定数倍の違いしかない. 従って $f$ は既約. $\Box$

(10:47~) この命題は後で実際に使いますが、これはガロア拡大 $L / K$ のガロア群がよくわかっていて、$f(x) \in K[x]$ の根が $L$ に含まれている場合には、既約性の判定に有効ですが、そのようなガロア拡大が与えられていない場合にはそんなに有効ではありません。例えば $\sqrt[3]{2} -\sqrt[3]{4}$ を根に持つ $\mathbb{Q}$ 上多項式が既約であるかを判定するときに、$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)$ ($\omega^3 = 1$)のガロア群を調べて、この命題を使うことはできます。

ガロアの基本定理の例 (13:00~)

ガロア群の部分群と、それに対応する中間体を計算します。

例. 1 (13:22 ~)

$K = \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{3})$ とおくと, $K / \mathbb{Q}$ はガロア拡大で,

$$G = \mathrm{Gal}(K / Q) \simeq \mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z} \times \mathbb{Z} / 2 \mathbb{Z}$$

である (以前示している). ここで, $\sigma, \tau \in G$ を

$$\sigma(\sqrt{2}) = -\sqrt{2}, \ \sigma(\sqrt{3}) = \sqrt{3}$$

$$\tau(\sqrt{2}) = \sqrt{2}, \ \sigma(\sqrt{3}) = -\sqrt{3}$$

を満たすものとすると, $G = \{1, \sigma, \tau, \sigma \tau\}$ となる. $|G| = 4$ なので, 自明でない部分群は位数が $2$ である. $2$ は素数なので, 位数 $2$ の元で生成される. よって部分群は

\begin{align}H_1 &= \{1, \sigma\} \\ H_2 &= \{1, \tau\} \\ H_3&=\{1, \sigma\tau\}\end{align}

のみである. $H_1$ で不変な体 $M_{H_1}$ を考えると, $M_{H_1} \supset \mathbb{Q}(\sqrt{3})$ となる. ここで, アルティンの補題から $[K: M_{H_1}] = 2$ であり,

\begin{align} 4 &= [K: \mathbb{Q}] \\ &= [K: \mathbb{Q}(\sqrt{3})][\mathbb{Q}(\sqrt{3}): \mathbb{Q}] \\ &= 2[K: \mathbb{Q}(\sqrt{3})] \end{align}

から, $[K: \mathbb{Q}(\sqrt{3})] = 2$ となる ($[K: \mathbb{Q}] = 4$ は以前示している). 従って

\begin{align} 2 &= [K: \mathbb{Q}(\sqrt{3})]\\ &= [K: M_{H_1}][M_{H_1}: \mathbb{Q}(\sqrt{3})] \\ &= 2[M_{H_1}: \mathbb{Q}(\sqrt{3})] \end{align}

から $[M_{H_1}: \mathbb{Q}(\sqrt{3})] = 1$ がわかり, $M_{H_1} = \mathbb{Q}(\sqrt{3})$ となる. 同様に $M_{H_2} = \mathbb{Q}(\sqrt{2})$ もわかる.

ここで, $\sigma \tau (\sqrt{6}) = \sqrt{6}$ なので $M_{H_3} \supset \mathbb{Q}(\sqrt{6})$ だが, 同様の議論で $M_{H_3} =\mathbb{Q}(\sqrt{6})$ がわかる. $\Box$

例. 2 (24:04 ~)

$K = \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \sqrt{-3}) = \mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}, \omega)$ とします。このとき, $K / \mathbb{Q}$ はガロア拡大で, ガロア群は

$$\alpha_1 = \sqrt[3]{2}, \ \alpha_2 = \omega\sqrt[3]{2}, \ \alpha_3 = \omega^3\sqrt[3]{2}$$

の置換全体と一致する. (これは以前の例で示しています.) これの部分群やその不変体を求めることは省略するので動画を見てください。$\Box$

対称式、交代式 (36:23 ~)

主張だけ書いて、証明はしないことにします。

$A$ を可換環とし, $A[x] = A[x_1, \cdots, x_n]$ と表す. $\mathfrak{S}_n$ を対称群とし, $\sigma \in \mathfrak{S}_n$ に対して $\sigma(x_i) = x_{\sigma(i)}$ と定める. また

$$f(x) = f(x_1, \cdots, x_n) \in A[x]$$

に対し,

$$\sigma(f(x)) = f(x_{\sigma_{1}}, \cdots, x_{\sigma_{n}})$$

と表す.

定義. (37:57 ~)

$f(x) \in A[x]$ とする. このとき

  1. 任意の $\sigma \in \mathfrak{S}_n$ に対して $\sigma(f(x)) = f(x)$ を満たすとき, $f(x)$ を対称式という.
  2. 任意の $\sigma \in \mathfrak{S}_n$ に対して $\sigma(f(x)) = \mathrm{sgn}(\sigma)f(x)$ を満たし, かつ $x_1, \cdots, x_n$ の中に同じものがあれば $0$ であるとき, $f(x)$ を交代式という.$\Box$

(39:38 ~)「$x_1, \cdots, x_n$ の中に同じものがあれば $0$」というのは例えば $f(a, a, b) = 0$ を満たすということで, $A$ が体で, 標数が $2$ でないときは $\sigma(f(x)) = \mathrm{sgn}(\sigma)f(x)$ から従うので必要ないが, 標数が $2$ のときは常に $\mathrm{sgn}(\sigma) = 1$ なので従わず, 対称式と交代式が同じものになってしまうので, この条件をつけている.

定理. (40:26 ~)

$f(x) \in A[x]$ が対称式なら, $f(x) \in A[s_1, \cdots, s_n]$ となる. ここで $s_1, \cdots, s_n$ は基本対称式である. $\Box$

(補足) 証明は講義では省略されていますが、ネット上に公開されているものだと、以下のpdfの定理10.4があります。

https://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~ando/DAISU3.pdf

辞書式順序を入れて示すようです。

定義. (42:00 ~)

  1. $\delta(x) = \prod_{i < j} (x_i -x_j)$ を差積という.
  2. $D(x) = \delta(x)^2$ を判別式という.$\Box$

定理. (42:53~)

$A$ を整域とする. $f(x) \in A[x]$ が交代式なら, ある $g(x) \in A[s_1, \cdots, s_n]$ があり, $f(x) = g(x) \delta(x)$ となる.$\Box$

(補足) 証明は省略されましたが、あらすじは以下のようです。

  1. $x_i = x_j$ のとき $0$ なので, $f(x)$ は $(x_i -x_j)$ を因子にもつ. よって差積 $\delta(x)$ を因子にもつ.
  2. $\delta(x)$ は交代式.
  3. $f(x) = \delta(x)g(x)$ なら $g(x)$ は対称式.

例. (44:28 ~)

$n = 3$ とし

$$f(x) = \det \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 \\ x_1 & x_2 & x_3 \\ x_1^3 & x_2^3 & x_3^3 \end{pmatrix}$$

とする. (このようなものは表現論で出てくるようです。) 変数の入れ替えは列の入れ替えに対応するので, $f(x)$ は交代式. 計算すると (省略するので動画を見てください)

$$f(x) = \delta(x)(x_1 + x_2 + x_3) = \delta(x)s_1$$

となる.$\Box$

終結式と判別式 (省略) (48:15 ~)

終結式と判別式についても講義では省略します。3次多項式 $x^3 + a_2x + a_3$ の判別式が $-4a_2^3 -27a_3^2$ であることは覚えておいた方がいいです。

(補足) $K$ を体としたとき、2つの多項式 $f(x), g(x) \in K[x]$ の終結式が0であることと、$f(x), g(x)$ が (分解体上で) 共通根を持つことが同値であることは、以下のwikipediaの記事に証明付きで載っています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%82%E7%B5%90%E5%BC%8F

終結式は任意の環係数多項式について定義でき、「(係数環上に) 共通根を持つ $\Rightarrow$ 終結式が $0$ 」が成り立ちます。係数が整域ならば、終結式が0であること (商体の代数閉体上で) 共通根を持つことが同値であることが (おそらく) 示せます。

終結式は、共通根の存在を係数のみで判断できるので、2変数多項式の連立方程式 $f(x,y) = 0$, $g(x, y) = 0$ を、$y$ をただの係数とみなして終結式を取ることで、終結式は $y$ の関数 $h(y)$ となり、$h(y)$ の根は連立方程式の解の $y$ の値の候補になります。

$f(x) \in K[x]$ が重根を持つことは $f(x)$ と $f^{\prime}(x)$ が共通根を持つことと (以前示した命題から) 同値なので、$f(x)$ と $f^{\prime}(x)$ の終結式が $0$ であることと同値です。$f(x)$ と $f^{\prime}(x)$ の終結式は、$f(x) = a_nx^n + \cdots a_0$ の根を $\alpha_1, \cdots, \alpha_n$ とおくと

$$a_n^{2n-2} D(\alpha_1, \cdots, \alpha_n)$$

と一致します。(wikipedia 判別式)

3次多項式のガロア群 (50:17 ~)

$K$ を体とし、

$$f(x) = x^3 + a_1 x^2 +a_2 x + a_3 \in K[x]$$

を分離多項式とします。$f(x)$ の根を $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3$ とし、$L = K(\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3)$ とすると、$L / K$ はガロア拡大になります。そのガロア群 $\mathrm{Gal}(L/K)$ を求めたいです。

$\sigma \in \mathrm{Gal}(L/K)$ は $\sigma(\alpha_1)$, $\sigma(\alpha_2)$, $\sigma(\alpha_3)$ の値のみで決まり、$f(\sigma(\alpha_i)) = \sigma(f(\alpha_i)) = 0$ なので $\mathrm{Gal}(L/K) \subset \mathfrak{S}_3$ となります。ここで、先ほど示した命題から $\mathrm{Gal}(L/K)$ は $\{1, 2, 3\}$ は推移的に作用します (講義中では $f$ が既約と言っていませんが、$K$ 上既約と仮定する必要があります) が、(先ほどの例で求めた) $\mathfrak{S}_3$ の部分群

\begin{align} \langle (1, 2) \rangle, \langle (1, 3) \rangle, \langle (2, 3) \rangle, \langle (1, 2, 3) \rangle \end{align}

のうち、推移的に作用するのは $\langle (1, 2, 3) \rangle$ のみです。よって $\mathrm{Gal}(L/K)$ は $\langle (1, 2, 3) \rangle$ または $\mathfrak{S}_3$ に一致します。

$s_1, s_2, s_3$ を基本対称式とします。そして

$$\beta_1 = \alpha_1^2 \alpha_2 + \alpha_2^2 \alpha_3 + \alpha_3^2 \alpha_1$$

$$\beta_2 = \alpha_1 \alpha_2^2 + \alpha_2 \alpha_3^2 + \alpha_3 \alpha_1^2$$

とおき、$g(y) = (y -\beta_1)(y -\beta_2)$ とします。$g(y) \in K[y]$ であることを示したいです。そのためには $\beta_1 + \beta_2 \in K$, $\beta_1 \beta_2 \in K$ を示せば良いです。そのためには、それぞれが $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3$ の対称式になっていることを示せば良いですが、それは簡単なので省略します。((56:47~) 講義では直接計算で求めていますので、計算を知りたい人は動画を見てください)。ちなみに

$$g(y) = y^2 + (a_1a_2 -3a_3)y + a_2^3 + 9a_3^2 -6a_1a_2a_3 + a_1^3a_3$$

となります。

定理. (1:10:40~)

上の状況で

  1. $g(y)$ が $K$ 上既約なら, $\mathbb{Gal}(L/K) \simeq \mathfrak{S}_3$
  2. $g(y)$ が $K$ 上可約なら, $\mathbb{Gal}(L/K) \simeq \mathbb{Z} / 3\mathbb{Z}$

が成り立つ. $\Box$

これは標数 $2$ でも成り立ちます。証明は後回しにして、例をやります。

例. 標数2の例 (1:12:05 ~)

$K = \mathbb{F}_2(t)$ とし,

$$f(x) = x^3 +(t^2 + t + 1)x + (t^2 + t + 1)$$

とする. ここで, $t^2 + t + 1 \in \mathbb{F}_2[t]$ は既約. なぜなら, 2次式なので根を持たなければ既約, $t=0$ で $1$, $t = 1$ で $1$. $\mathbb{F}_2[t]$ は PID なので, 既約元は素元. よってアイゼンシュタインの判定法より, $f(x)$ は $K$ 上既約. 頑張って計算すると, (記事では計算を省略するので詳細は動画を見てください)

$$g(y) = y^2 +(t^2 +t + 1)y + t(t+1)(t^2 +t + 1)^2$$

となり, $g(t^3 +t^2+t) = 0$ となるので, $f$ の根を $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3$ とおけば, $K(\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3) / K$ のガロア群は $\mathbb{Z} / 3 \mathbb{Z}$ になる. (講義では分離拡大であることに言及していませんが, $f(x)$ が既約かつ $f^{\prime}(x) \neq 0$ なので以前示した命題から分離的です。)$\Box$

次回

ガロア理論の講義(OCW)を要約する:第10回(12月16日)