接続の捩れと接枠バンドル(接続の幾何3)

本記事は接続の捩れを理解することを目的としたシリーズ記事、接続の幾何シリーズの3回目の記事です。前回は一般の主束の接続とその曲率について述べました。

色々と泥沼にはまってしまって更新が遅れてしまいましたが、今回はとうとう捩れについて解説します。

接枠バンドルと標準形式

$M$ を$n$ 次元可微分多様体とし、$TM$ をその接バンドルとします。各点 $p \in M$ において、$T_pM$ の枠の集合、つまり $T_pM$ の基底を成すベクトルの順序付き組の集合を $F_p(M)$ とおきます。$f = \{v_1, \dots, v_n\} \in F_p(M)$ を一つ固定すると、任意の $f^{\prime} \in F_p(M)$ に対し $A \in GL_n$ が唯一存在し、

$$f^{\prime} = fA = \{v_1A, \dots, v_nA\}$$

を満たします。よって集合として $F_p(M) = GL_n$ となります。また、ある元を単位元とすれば、$GL_n$ と群として同型になります。 $F(M)$ を、点 $p \in M$ でのファイバーを $F_p(M)$ とし、変換関数を $TM$ の変換関数とするファイバー束とすると、$F(M)$ は $GL_n$ を構造群とする主束となります。 $F(M)$ を接枠バンドルといいます。

標準形式

接枠バンドルは他の $GL_n$ 主束にはない特徴を持ちます。それは標準 $1$ 形式と呼ばれる、$\mathbb{R}^n$ に値をとる $1$ 形式 $\theta \in A^1(F(M); \mathbb{R}^n)$ を持つことです。

まずは標準 $1$ 形式 $\theta$ を定義しましょう。$\pi: F(M) \to M$ を接枠バンドルとし、$u \in F(M)$, $\pi(u) = p \in M$ とします。このとき、$u \in F(M)$ に対応する順序付けられた基底を $\{v_1, \dots, v_n\}$ とし、$x = (x_1, \dots, x_n) \in \mathbb{R}^n$ に対し

$$\varphi_u(x) = x_1 v_1 + \cdots + x_n v_n$$

と定めると、$\varphi_u: \mathbb{R}^n \to T_p M$ は線形同型になります。標準 $1$ 形式 $\theta$ は、これを用いて $X \in T_uF(M)$ に対し、

$$\theta_u(X) = \varphi_u^{-1}(\pi_*(X))$$

と定めることで定義します。

標準形式への右作用の振る舞い

$\theta$ への右作用での振る舞いも確認しましょう。$(R_g^*\theta)_u(X) = \theta_{ug}((R_g)_*(X))$ ですが、$\pi \circ R_g = \pi$ より $ \pi_* \circ (R_g)_*(X) = \pi_*(X)$ なので、

$$(R_g^*\theta)_u(X) = \theta_{ug}((R_g)_*(X)) = (\varphi_{ug})^{-1}(\pi_*(X))$$

となります。$u$ に対応する順序付けられた基底を $\{v_1, \dots, v_n\}$ とおくと

$$\varphi_{ug}(x) = x_1 v_1g + \cdots x_n v_ng = \sum_{j = 1}^n x_j v_j g$$

ですが、

$$v_jg = \sum_{j = 1}^n v_i g_{ij}$$

と $g$ を ($(ug)h = u(gh)$ を満たすように) 行列表示すると、

$$\varphi_{ug}(x) = \sum_{j = 1}^n x_j \sum_{i = 1}^n v_i g_{ij} = \sum_{i, j} g_{ij} x_j v_i = \sum_{i} (gx)_i v_i$$

が成り立つので $\varphi_{ug}(x) = \varphi_u(gx)$ がわかります。よって

$$(\varphi_{ug})^{-1}(\pi_*(X)) = g^{-1} \varphi_u^{-1}(\pi_*(X)) = g^{-1} \theta_u(X)$$

となり、

$$R_g^* \theta = g^{-1} \theta$$

が成り立ちます。

標準形式が接枠バンドルを特徴付けること

逆に、$M$ 上の $GL_n$ 主束 $P(M)$ に次の性質を満たす $1$ 形式 $\theta \in A^1(P(M); \mathbb{R}^n)$が存在すれば、それは接枠バンドルになります。

  1. 各点 $u \in P(M)$ で $\theta_u: T_uP(M) \to \mathbb{R}^n$ は全射である。
  2. $\operatorname{Ker}(\theta_u) = V_u$
  3. $R_g^* \theta = g^{-1} \theta$

以下、それを確認しましょう。

$u \in P(M)$ で、$\pi(u) = p \in M$ とします。条件1, 2から、$\theta_u: T_uP(M) / V_u \to \mathbb{R}^n$ は線形同型となります。これにより、以下の写像の合成

$$T_pM \xrightarrow{(\pi_*)^{-1}} T_u P(M) / V_u \xrightarrow{\theta_u} \mathbb{R}^n$$

も線形同型となります。$e_i = (0, \dots, 0, \stackrel{i}{1}, 0, \dots, 0)$ とおき、

$$v_i = \pi_* (\theta_u^{-1} (e_i))$$

とおくと、$\{v_1, \dots, v_n\}$ は $T_pM$ の (順序付き) 基底となります。これを $u$ に対応する順序付き基底と呼びます。

次に、$u$ に対応する順序付き基底と $ug$ に対応する順序付き基底の関係を見ましょう。条件3から、

$$\pi_* (\theta_{ug}^{-1} (e_i)) = \pi_* (\theta_{u}^{-1} (ge_i))$$

ですが、右作用の振る舞いを確認したときと同様の計算で、

$$\pi_* (\theta_{u}^{-1} (ge_i)) = \pi_* (\theta_{u}^{-1} (e_i))g = v_i g$$

が成り立ちます。よって $ug$ に対応する順序付き基底は $\{v_1g, \dots, v_ng\}$ となります。

$u \in P(M)$ に対して $u$ に対応する順序付き基底を対応させる写像 $P(M) \to F(M)$ は明らかに同型なバンドル写像であり、右作用を保ちます。よって、$P(M)$ は主束として $F(M)$ と同型です。

接続と標準形式

先ほど、標準形式の存在は接枠バンドルのみが持つ性質であることを見ましたが、接枠バンドルに接続を定めると、色々と面白いことができます。

標準水平ベクトル場

主束の場合は、各点 $u \in P(M)$ で垂直成分 $V_u$ と左不変ベクトル場 $\mathfrak{g}$ の同型が与えられました。そして $A \in \mathfrak{g}$ を各垂直成分 $V_u$ に引き戻すことで $P(M)$ 上のベクトル場を得ることができました。接枠バンドルではこのような操作を水平成分について行うことができます。

$F(M)$ を $M$ 上の接枠バンドルとし、$\{H_u\}_{u\in F(M)}$ を $F(M)$ 上の接続とします。$\xi \in \mathbb{R}^n$ に対し、各点 $u \in F(M)$ で $\theta(v) = \xi$ を満たす水平なベクトル $v \in H_u$ が一意的に存在します。このような水平ベクトルで構成されるベクトル場を $B(\xi)$ と書き、標準水平ベクトル場 (standard horizontal vector field) と呼びます。

捩れ

$e_i \in \mathbb{R}^n$ に対し $B^i = B(e_i)$ とおくと、定義から

$$\{\pi_*(B^1_u), \dots, \pi_*(B^n_u)\}$$

は $u \in F(M)$ に対応する順序付き基底となります。これらを標準水平ベクトル場 $B(\xi)$ のフロー $\psi^{\xi}_t$ 沿って動かした

$$\{\pi_* ((\psi^{\xi}_t)_* (B^1_u)), \dots, \pi_* ((\psi^{\xi}_t)_* (B^n_u))\}$$

は、$\psi^{\xi}_t(u)$ に対応する順序付き基底

$$\{\pi_*(B^1_{\psi^{\xi}_t(u)}), \dots, \pi_*(B^n_{\psi^{\xi}_t(u)}) \}$$

と一致するのでしょうか、それとも異なるのでしょうか。

もし一致するのなら、フローに沿って動かしても $\theta$ の値が変わらないので、以下の等式を満たします。

$$\frac{d}{dt} \theta_{\psi^{\xi}_t(u)}((\psi^{\xi}_t)_* (B^i)) = 0$$

左辺を計算すると、

\begin{align} \frac{d}{dt} \theta_{\psi^{\xi}_t(u)}((\psi^{\xi}_t)_* (B^i)) &= \lim_{t \to 0} \frac{\theta_{\psi^{\xi}_t(u)}((\psi^{\xi}_t)_* (B^i))-\theta_u(B^i)}{t} \\ &= \lim_{t \to 0} \frac{\theta_{\psi^{\xi}_t(u)}((\psi^{\xi}_t)_*(B^i))-\theta_{\psi^{\xi}_t(u)}(B^i)+\overbrace{\theta_{\psi^{\xi}_t(u)}(B^i)-\theta_u(B^i)}^{=0}}{t} \\ &= \lim_{t \to 0}\frac{\theta_{\psi^{\xi}_t(u)}((\psi^{\xi}_t)_* (B^i))-\theta_{\psi^{\xi}_t(u)}(B^i)}{t} \\ &= \lim_{t \to 0}\theta_{\psi^{\xi}_t(u)} \left(\frac{(\psi^{\xi}_t)_*(B^i)-B^i}{t} \right) \\ &= \theta_u(-[B(\xi), B^i]) \\ &= -\theta_u([B(\xi), B^i]) \end{align}

となります (後ろから3式目から次の式への変換はベクトル場のリー微分と計算と同じです) 。よって $-\theta_u([B(\xi), B^i]) = 0$ であれば、$u$ に対応する順序付き基底を標準水平ベクトル場 $B(\xi)$ に沿って動かしたものは、$\psi^{\xi}_t(u)$ に対応する順序付き基底に一致します。ただし、$[B(\xi), B^i]$ の垂直成分は $0$ でない場合があるため、その場合は $(\psi^{\xi}_t)_* (B^i_u)$ と $B^i_{\psi^{\xi}_t(u)}$ は一致しません。

ちなみに、$B^i_u \in T_uF(M)$ と $B^i_{\psi^{\xi}_t(u)} \in T_{\psi^{\xi}_t(u)}F(M)$ は接続による平行移動によって移り合います。なぜなら、$M$ 上の曲線 $\pi \circ \psi^{\xi}_t(u)$ の水平持ち上げが $\psi^{\xi}_t(u)$ であるからです。よって、$-\theta_u([B(\xi), B^i])$ は平行移動とベクトル場に沿った移動の差を表していると言えます。これを接続 $\{H_u\}_{u\in F(M)}$ の捩れと呼びます。

捩れ率形式

$\Theta \in A^2(F(M); \mathbb{R}^n)$ を

$$\Theta(X, Y) = d\theta(X_h, Y_h)$$

と定めると、これは捩れを表します。実際、標準水平ベクトル場 $B(\xi), B^i$ に対して

\begin{align} \Theta(B(\xi), B^i) &= d\theta(B(\xi), B^i) \\ &= \frac{1}{2} \{B(\xi) \theta(B^i)-B^i \theta(B(\xi)) -\theta([B(\xi), B^i])\} \\ &= -\frac{1}{2} \theta([B(\xi), B^i]) \end{align}

ですので、$2\Theta$ は先ほどの定義と一致します。$\Theta$ を捩れ率形式と呼びます。

ただし、標準水平ベクトル場以外の場合は、$X_h\theta(Y_h) -Y_h\theta(X_h)$ の分、先ほどの定義と異なります。$X_h\theta(Y_h)$ は先ほどの計算上、3式目で $0$ とした部分が対応しますが、$-Y_h \theta(X_h)$ は対応するものがありません。よって正確には $\Theta$ と先ほどの捩れの定義は異なりますが、$X$ が標準水平ベクトル場である場合は両者が一致します。(一般には $\Theta$ のみを捩れと呼びます。)

ちなみに上で捩れと呼んでいたものは標準形式のリー微分 $(L_{X_h}\theta)(Y_h)$ です。カルタンの公式を用いて計算すると、

\begin{align} L_{X_h}(\theta)(Y_h) &= i_{X_h} (d\theta)(Y_h) + d i_{X_h}(\theta) (Y_h) \\ &= 2d\theta(X_h, Y_h) + Y_h \theta(X_h) \end{align}

となり、$2\Theta(X, Y)$ と $(L_{X_h}\theta)(Y_h)$ は $Y_h \theta(X_h)$ の分ずれている事がわかります。

構造方程式

$\Theta$ は構造方程式と呼ばれる次の等式を満たします。

$$d \theta = -\frac{1}{2} [\omega, \theta] + \Theta$$

ただし、右辺第1項は

$$[\omega, \theta](X, Y) = \omega(X)\theta(Y) -\omega(Y) \theta(Y)$$

を意味します。

実際、$X, Y$ が垂直な場合、$\theta(X) = \theta(Y) = 0$ のため右辺は1項目は $0$ であり、2項目は定義から $\Theta(X, Y) = 0$ です。左辺は

\begin{align} d\theta(X, Y) &= \frac{1}{2} \{X \theta(Y) -Y \theta(X) -\theta([X, Y])\} \\ &= -\frac{1}{2} \theta([X, Y]) \\ \end{align}

ですが、$[X, Y]$ は垂直なベクトルなので、左辺 $=0$ です。

$X, Y$ の両方が水平な場合は定義通りです。

$X, Y$ のどちらかが垂直、もう一方が水平な場合、$\Theta(X, Y) = 0$ であり、残りの項は交代的なので、$X$ が垂直、$Y$ が水平な場合に両辺が等しければ、$X$ が水平、$Y$ が垂直の場合も両辺が等しいです。よって$X$ が垂直、$Y$ が水平として計算します。

ある $u \in F(M)$ で、$A \in \mathfrak{gl}$ により $X_u = A^*_u$ が成り立ち、ある $\xi \in \mathbb{R}^n$ により $Y_u = B(\xi)_u$ であるとします。このとき右辺は

$$ -\frac{1}{2} (\omega(A^*)\theta(B(\xi)) -\overbrace{\omega(B(\xi))\theta(A^*)}^{=0}) = -\frac{1}{2} A\xi $$

となります。左辺は、

\begin{align} d\theta(X, Y) &= d\theta(A^*, B(\xi)) \\ &= \frac{1}{2} \{A^* \theta(B(\xi)) -B(\xi) \theta(A^*) -\theta([A^*, B(\xi)])\} \\ &= -\frac{1}{2} \theta([A^*, B(\xi)]) \\ \end{align}

ですが、$[A^*, B(\xi)]$ は適当な右作用 $R_{a_t}$ により

$$[A^*, B(\xi)] = \lim_{t \to 0} \frac{R_{a_{-t}}^* (B(\xi)) – B(\xi)}{t}$$

と表されます。計算すると、

\begin{align} \lim_{t \to 0} \frac{R_{a_{-t}}^* (B(\xi)) – B(\xi)}{t} &= \lim_{t \to 0} \frac{B((a_{-t})^{-1} \xi) -B(\xi)}{t} \\ &= B \left(\lim_{t \to 0} \frac{a_{t} \xi -\xi}{t} \right) \\ &= B(A\xi) \end{align}

であり、結局左辺 $=-\frac{1}{2} \theta(B(A\xi)) = -\frac{1}{2} A\xi$ となり右辺に一致します。

よって、構造方程式が成り立ちます。

まとめ

接枠バンドルには標準形式と呼ばれる $1$ 形式が存在し、それを用いて水平なベクトル場を構成できること、それのフローと接続による平行移動にはズレがあることを示しました。そして、そのズレが”捩れ”であると定義しました。一般に呼ばれている捩れ (=捩れ率形式) とは微妙に差異がありますが、標準水平ベクトル場に限ればその差は無くなり、捩れの幾何学的解釈を正しく与えているといえます。

次回は接枠バンドルの捩れとリーマン幾何学における捩れの関係を、G-構造の観点から説明しようと思います。

・前の記事「主束の接続と曲率 : 最短解説(接続の幾何2)

参考文献

[森田1]. 森田茂之 特性類と幾何学