円の面積をテイラー展開で求める (級数の収束について)

半径 $1$ の円の方程式は

$$x^2 + y^2 = 1$$

で与えられるので、円の面積は

$$4\int_0^1 \sqrt{1 -x^2} dx$$

で与えられます。また、円の面積の公式から、上の積分は $\pi$ に一致します。以下の動画

では、テイラー展開

$$\int_0^x \sqrt{1 -t^2} dt = x -\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(2n -3)!!}{(2n)!!(2n + 1)} x^{2n+1}$$

の $x = 1$ での値

$$\frac{\pi}{4} = 1 -\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{(2n -3)!!}{(2n)!!(2n + 1)}$$

を用いて円周率を計算しましたが、テイラー展開の $x = 1$ での収束を示していませんでした。

そこで本記事では、$x = 1$ でテイラー展開がきちんと収束することを示します。必要なところで以下の記事を引用しますが、あらかじめ目を通しておいた方が理解しやすいと思います。

$\displaystyle \int_0^x \sqrt{1 -t^2} dt$ のテイラー展開

基本的には、別の記事で求めた $\arcsin x$ のテイラー展開と同様です。($(1 \pm x^2)^{\alpha}$ に一般化することもでき、その過程で一般二項定理を示すことができます。)

$\sqrt{1 -t}$ のテイラー展開

$\displaystyle \int_0^x \sqrt{1 -t^2} dt$ のテイラー展開のために $\sqrt{1 -x^2}$ のテイラー展開を求めたいですが、直接計算するのは面倒なので

$$g(x) = \sqrt{1 -x} = (1-x)^{\frac{1}{2}}$$

のテイラー展開を求めます。

\begin{align} g^{\prime}(x) &= \frac{1}{2}(1 -x)^{-\frac{1}{2}} \cdot (1 -x)^{\prime} = -\frac{1}{2}(1 -x)^{-\frac{1}{2}} \\ g^{\prime\prime}(x) &= \frac{1}{2}\frac{-1}{2}(1 -x)^{-\frac{1}{2}-1} \cdot (1 -x)^{\prime} = -\frac{1}{2^2}(1 -x)^{-\frac{3}{2}} \\ g^{(3)}(x) &= \frac{1}{2^2}\frac{-3}{2}(1 -x)^{-\frac{3}{2}-1} \cdot (1 -x)^{\prime} = -\frac{3}{2^3}(1 -x)^{-\frac{5}{2}} \\ & \cdots \\ g^{(n)}(x) &= -\frac{(2n-3)!!}{2^n} (1-x)^{-\frac{2n-1}{2}} \\ g^{(n+1)}(x) &= -\frac{(2n-3)!!}{2^n}\frac{-(2n-1)}{2}(1 -x)^{-\frac{2n-1}{2}-1} \cdot (1 -x)^{\prime} \\ & = -\frac{(2n-1)!!}{2^{n+1}}(1 -x)^{-\frac{2n+1}{2}} \end{align}

なので、

\begin{align} h(x) &= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{g^{(n)}(0)}{n!} x^n \\ &= 1 + \sum_{n=1}^{\infty}- \frac{(2n-3)!!}{(2^n) n!}x^n \\ &= 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}x^n \\ \end{align}

とおいて、$|x| < 1$ で $g(x) = h(x)$ が成り立つことを示します (動画のように剰余項 $R_n(x)$ を評価するのは大変なので、別の方法で示します)。ダランベールの判定法から、

\begin{align} & \lim_{n \to \infty} \left| \frac{\frac{(2n-1)!!}{(2n+2)!!}}{\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}}\right| \\ = & \lim_{n \to \infty} \left| \frac{(2n -1)}{(2n+2)} \right| = 1 \end{align}

なので、$h(x)$ の収束半径は $1$ です。よって $h(x)$ は $|x| < 1$ で微分可能で、その微分は項別に微分したものに等しく、

\begin{align} h^{\prime}(x) &= -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!} n \cdot x^{n-1} \\ &= -\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n-2)!!} x^{n-1} \\ &= -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} x^{n} \end{align}

となります。別の記事で $\arcsin x$ のテイラー展開を求めたときに

$$\frac{1}{\sqrt{1 -x}} =\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} x^{n}$$

が $|x| < 1$ で成り立つことを示したので、これを認めれば $|x| < 1$ で

$$h^{\prime}(x) = -\frac{1}{2} \frac{1}{\sqrt{1 -x}} = g^{\prime}(x)$$

が成り立ち、積分することで $g(x) = h(x)$ を示すことができますが、以下のように示すこともできます。

\begin{align} (1 -x)h^{\prime}(x) &= -\frac{1}{2}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} x^{n} +\frac{1}{2}\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} x^{n+1} \\ &= -\frac{1}{2} -\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} x^{n} +\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n-2)!!} x^{n} \\ &= -\frac{1}{2} +\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{(2n-3)!!}{(2n-2)!!} -\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\right)x^n \\ &= -\frac{1}{2} +\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(2n-3)!!}{(2n-2)!!}\left(1 -\frac{2n-1}{2n}\right)x^n \\ &= -\frac{1}{2} +\frac{1}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(2n-3)!!}{(2n-2)!!}\frac{1}{2n}x^n \\ &= -\frac{1}{2} g(x) \end{align}

なので、

\begin{align} h^{\prime}(x) = -\frac{1}{2} \frac{h(x)}{1 -x} \end{align}

となります。

\begin{align} g^{\prime}(x) = -\frac{1}{2} \frac{g(x)}{1 -x} \end{align}

で、$|x| < 1$ で $g(x) \neq 0$, $g^{\prime}(x) \neq 0$ なので、それぞれの辺を割って

\begin{align} & \frac{h^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)} = \frac{h(x)}{g(x)} \\ \Rightarrow \ & h^{\prime}(x)g(x) = h(x)g^{\prime}(x)\end{align}

が成り立ちます。ここで

$$\left(\frac{h(x)}{g(x)}\right)^{\prime} = \frac{h^{\prime}(x)g(x) -h(x)g^{\prime}(x)}{g(x)^2} = 0$$

なので、$\frac{h(x)}{g(x)}$ は定数となりますが、$h(0) = 1$, $g(0) = 1$ なので、

$$\frac{h(x)}{g(x)} = 1 \Rightarrow h(x) = g(x)$$

となります。これで $|x| < 1$ で

$$g(x) = 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}x^n$$

がわかりました。

$\int_0^x \sqrt{1 -t^2} dt$ のテイラー展開

$\sqrt{1 -x^2}$ のテイラー展開は、

$$\sqrt{1 -x^2} = g(x^2) = 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}x^{2n}$$

となります。これは $|x^2| < 1$ つまり $|x| < 1$ で成り立ちます。$|x| < 1$ で収束するので、積分は項別にすればよく、

\begin{align} \int_0^x\sqrt{1 -t^2}dt &= \int_0^x 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}t^{2n} dt \\ &= x -\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1} x^{2n+1} \end{align}

となります。

$x=1$ での収束

$\int_0^x\sqrt{1 -t^2}dt$ は $[-1, 1]$ で連続なので、アーベルの連続性定理から、

$$1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}$$

が収束すれば

\begin{align} \int_0^1\sqrt{1 -t^2}dt &= 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1} \\ \end{align}

が成り立ちます。$N$ 項までで止めた冪級数を

$$A_N(x) = x -\sum_{n=1}^{N}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1} x^{2n+1}$$

とおくと、任意の $N$ と任意の $0 < x <1$ で

\begin{align} 0 &\leq \int_0^x\sqrt{1 -t^2}dt \\ &= A_N(x) -\sum_{n=N+1}^{\infty}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1} x^{2n+1} \\ & \leq A_N(x) \end{align}

が成り立ち、$A_N(x)$ は (ただの多項式なので) $x \in \mathbb{R}$ で連続で、

$$A_N(1) \geq 0$$

が成り立ちます。$A_N(1)$ は $N$ に関して単調減少で、下に有界なので収束します。よって

$$1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}$$

は収束します。以上で

$$\frac{\pi}{4} = \int_0^1\sqrt{1 -t^2}dt = 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}$$

が示されました。

動画では冪級数の微分とアーベルの連続性定理を述べるのが面倒だったので有耶無耶にしましたが、それらを認めればこのように示すことができます。

$\arcsin x$ のテイラー展開との比較

実は $\arcsin x$ と $\displaystyle \int_0^x \sqrt{1 -t^2}dt$ には以下の等式が成り立ちます。

$$\int_0^x \sqrt{1 -t^2}dt = \frac{1}{2}\arcsin x + \frac{1}{2}x\sqrt{1 -x^2}$$

動画では図を用いて証明しましたが、ここでは部分積分を用いて証明します。

\begin{align} \int_0^x \sqrt{1 -t^2}dt &= \left[t \sqrt{1 -t^2}\right]_0^x -\int_0^x t \left(\frac{1}{2}\frac{-2t}{\sqrt{1 -t^2}} \right) dt\\ &= x \sqrt{1 -x^2} -\int_0^x \frac{-t^2}{\sqrt{1 -t^2}} dt \\ &= x \sqrt{1 -x^2} + \int_0^x \frac{1}{\sqrt{1 -t^2}} dt -\int_0^x \frac{1 -t^2}{\sqrt{1 -t^2}} dt \\ &= x \sqrt{1 -x^2} + \arcsin x -\int_0^x \sqrt{1 -t^2} dt \end{align}

なので、$\displaystyle \int_0^x \sqrt{1 -t^2} dt$ を移項して $2$ で割ると

$$\int_0^x \sqrt{1 -t^2}dt = \frac{1}{2}\arcsin x + \frac{1}{2}x\sqrt{1 -x^2}$$

となります。

$x = 1$ を代入すると

$$\frac{\pi}{4} = \frac{1}{2} \cdot \frac{\pi}{4} + 0$$

となり、$\frac{1}{2} x \sqrt{1 -x^2}$ は円周率に関係のない項に見えますが、テイラー展開

$$\frac{\pi}{4} = \int_0^1 \sqrt{1 -t^2} = 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}$$

$$\frac{\pi}{2} = \arcsin 1 = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}$$

で円周率を計算すると、上の方が速く収束します。つまり、$\frac{1}{2} x \sqrt{1 -x^2}$ のおかげで収束が速くなります (とは言っても、収束は遅いです)。

詳しくは動画をご覧ください。