グロモフ・ハウスドルフ距離が距離であることを確認する

本多正平さんの著書、「多様体の崩壊」([H]) をついこの前買いました。グロモフ・ハウスドルフ極限には興味があったので、つい買ってしまいました。最後までざっと目を通しましたが、色々復習が必要そうなので、ゆっくり読もうと思います。

最初のグロモフ・ハウスドルフ距離の部分は、距離であることの証明が一部飛ばされているので 、(この本の読者にとっては難しくないと思いますが) 一応個人的なノートとして残しておきます。

グロモフ・ハウスドルフ距離とは

グロモフ・ハウスドルフ距離とは、コンパクト距離空間 $\mathbb{X}_1 = (X_1, d_1)$ と $\mathbb{X}_2 = (X_2, d_2)$ の間の距離のことです。コンパクト距離空間全体の “集合” (のうち、距離空間として同型なものを同一視したもの) を $\mathcal{M}$ とおき、グロモフ・ハウスドルフ距離を $d_{GH}$ とおくと、$(\mathcal{M}, d_{GH})$ は距離空間とみなせます。

( “集合” と書いたのは、大きすぎて集合ではないかもしれないからです。任意の集合 $S$ に対して $d_S(s_1, s_2) = 1$ $(s_1 \neq s_2)$, $d_S(s_1, s_1) = 0$ とおけば、$(S, d_S)$ は距離空間です。$S$ が無限集合ならコンパクトでないので、その場合は $\mathcal{M}$ には含まれませんが、距離空間全体を考えた場合、それは任意の集合 $S$ を含むので集合ではありません。同型なものを同一視したとしても、少なくとも基数全体を含むので、集合ではありません。$\mathcal{M}$ が集合なのかどうかは私は知りませんが、[H] では集合としているので、この記事では集合と仮定します。)

距離空間 $(X, d)$ とその部分集合 $A_1, A_2$ に対して、ハウスドルフ距離 $d_H^X(A_1, A_2)$ が

$$d_H^X(A_1, A_2) = \inf \{ \varepsilon > 0 \ ; A_2 \subset B_{\varepsilon}(A_1), A_1 \subset B_{\varepsilon}(A_2)\}$$

と定められます。ここで、

$$B_{\varepsilon}(A_1) = \{x \in X \mid \inf_{a \in A_1} d(x, a) < \varepsilon\}$$

です。距離空間 $\mathbb{X}_1 = (X_1, d_1)$, $\mathbb{X}_2 = (X_2, d_2)$ に対して、グロモフ・ハウスドルフ距離は

$$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) = \inf \{d_H^X(\varphi_1(X_1),\varphi_2(X_2)) \ ; \varphi_i: X_i \hookrightarrow X \ (i = 1, 2)\}$$

で与えられます。ただし、$\inf$ は距離空間 $(X, d)$ と距離を保つ埋め込み $\varphi_i: X_i \hookrightarrow X (i = 1, 2)$ すべてにわたってとります。後で示しますが、$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) < \infty$ です。

[H] によると $(\mathcal{M}, d_{GH})$ は完備らしいので、コーシー列 $\{\mathbb{X}_n\}_n$, $d_{GH}(\mathbb{X}_n, \mathbb{X}_m) \to 0$ に対して、極限 $\lim_{n \to \infty} \mathbb{X}_n = \mathbb{X}$ が存在します。

ハウスドルフ距離について

まずはハウスドルフ距離について述べます。その前に距離空間の定義をおさらいしておきましょう。$(X, d)$ が距離空間であるとは、$d: X \times X \to \mathbb{R}$ が以下の性質を満たすことです。

  1. (非負性) 任意の $x, y \in X$ に対して $d(x, y) \geq 0$
  2. (非退化性) $d(x, y) = 0$ $\Leftrightarrow$ $x = y$
  3. (対称性) $d(x, y) = d(y, x)$
  4. (三角不等式) 任意の $x, y, z\in X$ に対して $d(x, z) \leq d(x, y) + d(y, z)$

$(X, d)$ を距離空間とし、$\mathcal{P}^{\times}(X)$ を $X$ の空でない部分集合全体とします。$A_1, A_2 \in \mathcal{P}^{\times}(X)$ に対してハウスドルフ距離 $d_{H}^X$ を

$$d_H^X(A_1, A_2) = \inf \{ \varepsilon > 0 \ ; A_2 \subset B_{\varepsilon}(A_1), A_1 \subset B_{\varepsilon}(A_2)\}$$

と定めたのでした。定義から $d_{H}^X$ の非負性と対称性と、非退化性の $\Leftarrow$ は明らかです。三角不等式は非自明ですが、成り立ちます。しかし、非退化性の $\Rightarrow$ は成り立ちません。また、距離が $\infty$ をとることがあります。これらにより、$d_{H}^X$ は普通の意味での距離ではありません。これらを一つずつ確認していきます。

非退化性の $\Rightarrow$ について

例えば、$X = \mathbb{R}$, $A_1 = [0, 1]$, $A_2 = (0, 1]$ とおくと、$d_{H}^{\mathbb{R}}(A_1, A_2) = 0$ ですが、$A_1 \neq A_2$ です。

これは $d_{H}^X$ 定義域を閉集合のみに制限すれば解決します。実際 $d_{H}^{X}(A_1, A_2) = 0$ ならば

$$A_j \subset \bigcap_{\varepsilon > 0} B_{\varepsilon}(A_i) \quad ((i, j) = (1, 2), (2, 1))$$

ですが、

\begin{align} \bigcap_{\varepsilon > 0} B_{\varepsilon}(A_i) &= \{x \in X \mid \inf_{a \in A_i} d(x, a) = 0\} \\ &= \overline{A_i} \quad (A_i \textrm{ の閉包}) \\ &= A_i \end{align}

なので、$A_1 \subset A_2$ かつ $A_2 \subset A_1$ となり、$A_1 = A_2$ がわかります。ただし、普通はこのような制限をせず、任意の部分集合に対して定めるのが一般的のようです。非退化性の $\Rightarrow$ が成り立たない距離を擬距離というようです。

距離が $\infty$ をとること

$X$ がコンパクトでないときは、$d_{H}^{X}(A_1, A_2) = \infty$ となる場合があります。例えば $X = \mathbb{R}$, $A_1 = \{1\}$, $A_2 = \mathbb{N}$ とおけば、$A_2 \subset B_{\varepsilon}(A_1)$ をみたす $\varepsilon \in \mathbb{R}$ は存在しません。

しかし $X$ がコンパクトであれば、$d_{H}^{X}(A_1, A_2) < \infty$ となります。実際、

$$\mathrm{diam}(X) = \sup_{x, y \in X} d(x, y) < \infty$$

が成り立つので、任意の $A_1, A_2 \subset X$ と任意の $\delta > 0$ に対して

$$A_j \subset B_{\mathrm{diam}(X) + \delta} (A_i) = X$$

となり、$d_{H}^{X}(A_1, A_2) \leq \mathrm{diam}(X)$ がわかります。

一応 $\mathrm{diam}(X) < \infty$ を示しておきましょう。$p \in X$ を適当にとり、

$$X = \bigcup_{n = 1}^{\infty}B_{n}(\{p\})$$

と $X$ の被覆をとると、$X$ はコンパクトなので有限個の $B_{n}(\{p\})$ で覆われます。その中で最大の $n$ を $N$ とすれば $X = B_{N}(\{p\})$ であり、任意の $x, y \in B_{N}(\{p\})$ に対して

$$d(x, y) \leq d(x, p) + d(p, y) \leq 2N$$

なので、$\mathrm{diam}(X) \leq 2N$ となります。

三角不等式

$A_1, A_2, A_3 \in \mathcal{P}^{\times}(X)$ に対して

$$d_{H}^X(A_1, A_3) \leq d_{H}^X(A_1, A_2) + d_{H}^X(A_2, A_3)$$

を示します。$d_{H}^X(A_1, A_2) = h_1$, $d_{H}^X(A_2, A_3) = h_2$ とおくと、任意の $\varepsilon > 0$ に対して

\begin{align} & A_1 \subset B_{h_1 +\varepsilon}(A_2), \ A_2 \subset B_{h_1 +\varepsilon}(A_1), \\ & A_2 \subset B_{h_2 +\varepsilon}(A_3), \ A_3 \subset B_{h_2 +\varepsilon}(A_2) \\ \end{align}

が成り立ちます。

\begin{align} & A_1 \subset B_{h_1 +\varepsilon}(A_2) \textrm{ かつ } A_2\subset B_{h_2 +\varepsilon}(A_3) \\ \Rightarrow \ & A_1 \subset B_{h_1 +h_2 +2\varepsilon}(A_3), \end{align}

\begin{align}& A_3 \subset B_{h_2 +\varepsilon}(A_2) \textrm{ かつ } A_2 \subset B_{h_1 +\varepsilon}(A_1) \\ \Rightarrow \ & A_3 \subset B_{h_1 +h_2 +2\varepsilon}(A_1)\end{align}

なので、

$$d_{H}^X(A_1, A_3) < h_1 +h_2 +2\varepsilon$$

ですが、$\varepsilon$ は任意なので、$d_{H}^X(A_1, A_3) \leq h_1 +h_2$ が成り立ちます。

以上から、コンパクト距離空間上 $(X, d)$ 上のハウスドルフ距離 $d_{H}^X$ が $\mathcal{P}^{\times}(X
)$ 上の擬距離になることがわかりました。さらに、定義域を閉集合に限れば、距離になります。

グロモフ・ハウスドルフ距離が距離であること

コンパクト距離空間 $\mathbb{X}_1 = (X_1, d_1)$, $\mathbb{X}_2 = (X_2, d_2)$ に対して、グロモフ・ハウスドルフ距離を

$$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2)) = \inf \{d_H^X(\varphi_1(X_1),\varphi_2(X_2)) ; \varphi_i: X_i \hookrightarrow X \ (i = 1, 2)\}$$

と定義したのでした。

$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) < \infty$ であること

まず、$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) < \infty$ であることを確認しましょう。$\mathrm{diam}(X_1) = 0$, $\mathrm{diam}(X_2) = 0$ の場合は、$X_1, X_2$ は一点集合なので、$X$ を一点集合、$\varphi_i: X_i \to X$ を一点を一点に写す写像とすれば、$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) = 0$ となります。よってこの場合は OK です。

$\mathrm{diam}(X_1) > 0$ とします。$X_1$ と $X_2$ の直和 $X_1 \sqcup X_2$ に、距離 $d_{12}$ を

$$d_{12}(x, y) = \begin{cases} d_1(x, y) & (x, y \in X_1) \\ d_2(x, y) & (x, y \in X_2) \\ \max\{\mathrm{diam}(X_1), \mathrm{diam}(X_2)\} & (\textrm{それ以外}) \end{cases}$$

とおくと、これは距離になります。非自明なのは三角不等式だけなので、三角不等式のみを示します。三角不等式は、$x, y, z \in X_{12}$ に対して

  1. $x, y, z \in X_1$
  2. $x, y, z \in X_2$
  3. $x, y, z$ のうち 2 点が $X_1$ に、1 点が $X_2$ に含まれる。
  4. $x, y, z$ のうち 2 点が $X_2$ に、1 点が $X_1$ に含まれる。

の 4 パターンを示せばよく、1 と 2 は自明、3 と 4 は対称性からどちらかを示せば良いので、パターン 3 のみを示します。

$x, y \in X_1$, $z \in X_2$ とすると

\begin{align} d_{12}(x, z) &= d_{12}(y, z) \\ & \leq d_{12}(x, y) + d_{12}(y, z) \end{align}

\begin{align} d_{12}(x, y) &\leq \mathrm{diam}(X_1) \\ & \leq d_{12}(x, z) \\ & \leq d_{12}(x, z) + d_{12}(z, y) \end{align}

となります。これで三角不等式が示され、$\mathbb{X}_{12} = (X_1 \sqcup X_2, d_{12})$ は距離空間となります。

$\varphi_i: X_i \to X_1 \sqcup X_2$ を自然な単射とすれば、これは $d_{12}$ の定義より $\mathbb{X}_1$ から $\mathbb{X}_{12}$ への等長写像です。このとき

$$d_H^{X_{12}}(\varphi_1(X_1), \varphi_2(X_2)) = \max\{\mathrm{diam}(X_1), \mathrm{diam}(X_2)\}$$

なので

$$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) \leq \max\{\mathrm{diam}(X_1), \mathrm{diam}(X_2)\} < \infty$$

がわかります。

三角不等式

グロモフ・ハウスドルフ距離が距離であるという主張は、以下の 3 つが成り立つことを意味します。

  1. (非負性)
    $$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) \geq 0$$
  2. (非退化性)
    $$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) = 0 \Leftrightarrow \mathbb{X}_1 \simeq \mathbb{X}_2$$
  3. (対称性)
    $$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) = d_{GH}(\mathbb{X}_2, \mathbb{X}_1)$$
  4. (三角不等式)
    $$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_3) \leq d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) + d_{GH}(\mathbb{X}_2, \mathbb{X}_3)$$

1, 3 は定義から明らかで、2 の $\Leftarrow$ も明らかです。2 の $\Rightarrow$ は [H] で示されているので、4 の三角不等式のみを示します。

三角不等式を示すには、距離空間 $(X, d)$ と距離を保つ埋め込み $\varphi_1: X_1 \hookrightarrow X$, $\varphi_3: X_3 \hookrightarrow X$ を具体的に構成し、それが

$$d_H^X(\varphi_1(X_1), \varphi_3(X_3)) \leq d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) + d_{GH}(\mathbb{X}_2, \mathbb{X}_3)$$

を満たすことを示せば十分です。

空間の構成

$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) = h_1$, $d_{GH}(\mathbb{X}_2, \mathbb{X}_3) = h_2$ とおくと、任意の $\varepsilon > 0$ に対して、$\mathbb{X}_{12} = (X_{12}, d_{12})$, $\mathbb{X}_{23} = (X_{23}, d_{23})$ と等長埋め込み $\varphi_1: X_1 \to X_{12}$, $\varphi_2: X_2 \to X_{12}$, $\psi_2: X_2 \to X_{23}$, $\psi_3: X_3 \to X_{23}$ が存在し、

\begin{align} d_H^{X_{12}}(\varphi_1(X_1), \varphi_2(X_2)) & < h_1 + \varepsilon \\ d_H^{X_{23}}(\psi_2(X_2), \psi_3(X_3)) & < h_2 + \varepsilon \end{align}

が成り立ちます。

集合 $X_{123}$ を、$X_{12}$ と $X_{23}$ を $\varphi_2(X_2)$ と $\psi_2(X_2)$ で貼り合わせたもの ($X_{12} \sqcup X_{23}$ を同値関係「$x \sim y$ $\Leftrightarrow$ $x = y$ または $x = \varphi_2(z)$, $y = \psi_2(z)$ を満たす $z \in X_2$ が存在する」で割ったもの) とすると、自然な単射 $\rho_{i}: X_i \hookrightarrow X_{123}$ が定まります。$\varphi_i$, $\psi_j$, $\rho_k$ により、$X_1, X_2, X_3$ の点と $X_{12}$, $X_{23}$ の点と $X_{123}$ の点を同一視します。

距離の構成

$X_{123}$ 上の距離 $d_{123}$ を、$x, y \in X_{12}$ のとき

$$d_{123}(x, y) = d_{123}(y, x) = d_{12}(x, y)$$

$x, y \in X_{23}$ のとき

$$d_{123}(x, y) = d_{123}(y, x) = d_{23}(x, y)$$

$x \in X_1 \setminus X_2$, $y \in X_3 \setminus X_2$ のとき

$$d_{123}(x, y) = d_{123}(y, x) = \inf_{p \in X_2} \{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, y)\}$$

と定めます。これが三角不等式以外を満たすことは明らかなので、三角不等式を示します。そのためには、

$$X_{123} = X_2 \sqcup (X_1 \setminus X_2) \sqcup (X_3 \setminus X_2)$$

と分割したとき、$x, y, z$ が (重複を許して) どこに含まれているかで場合分けすれば良いです。$X_2$ に 2点以上含まれる場合は、$d_{12}$ または $d_{23}$ の三角不等式から OK です。$X_2$ に1個含まれる場合、$X_2$ に0個含まれる場合を考えれば

  1. $x \in X_1 \setminus X_2$, $y \in X_2$, $z \in X_3 \setminus X_2$
  2. $x, y \in X_1 \setminus X_2$, $z \in X_3 \setminus X_2$

の2つの場合を考えれば十分です。

三角不等式パターン1

$x \in X_1 \setminus X_2$, $y \in X_2$, $z \in X_3 \setminus X_2$ の場合を考えます。このとき

\begin{align} d_{123}(x, z) &= \inf_{p \in X_2} \{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, y)\} \\ & \leq d_{123}(x, y) + d_{123}(y, z) \end{align}

が成り立ちます。また、

\begin{align} & d_{123}(x, z) + d_{123}(z, y) \\ = \ & \inf_{p \in X_2}\{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, z)\} + d_{23}(z, y) \\ = \ & \inf_{p \in X_2}\{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, z) + d_{23}(z, y) \} \\ \geq \ & \inf_{p \in X_2}\{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, y) \} \\ \geq \ & d_{123}(x, y) \end{align}

が成り立ちます。

三角不等式パターン2

次に、$x, y \in X_1 \setminus X_2$, $z \in X_3 \setminus X_2$ の場合を考えます。

\begin{align} &d_{123}(x, z) + d_{123}(z, y) \\ = \ & \inf_{p \in X_2} \{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, z)\} + \inf_{q \in X_2} \{d_{123}(z, q) + d_{12}(q, y)\} \\ = \ & \inf_{p, q \in X_2} \{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, z) +d_{23}(z, q) + d_{12}(q, y)\} \\ \geq \ & \inf_{p, q \in X_2} \{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, q) + d_{12}(q, y)\} \\ \geq \ & \inf_{p \in X_2} \{d_{12}(x, p) + d_{12}(p, y)\} \\ \geq \ & d_{12}(x, y) \end{align}

また、

\begin{align} & d_{123}(x, y) + d_{123}(y, z) \\ = \ & d_{123}(x, y) + \inf_{p \in X_2}\{ d_{12}(y, p) + d_{23}(p, z)\} \\ = \ & \inf_{p \in X_2}\{d_{12}(x, y) + d_{12}(y, p) + d_{23}(p, z)\} \\ \geq \ & \inf_{p \in X_2}\{d_{12}(x, p) + d_{23}(p, z)\} \\ = \ & d_{123}(x, z) \\ \end{align}

が成り立ちます。これで $d_{123}$ の三角不等式が示され、$(X_{123}, d_{123})$ が距離空間であることがわかりました。

仕上げ

$\rho_1: X_1 \hookrightarrow X_{123}$, $\rho_3: X_3 \hookrightarrow X_{123}$ は $d_{123}$ の定義から等長写像であり、$(X_{12}, d_{12})$, $(X_{23}, d_{23})$ の取り方から

\begin{align} \rho_1(X_1) &\subset B_{h_1 + \varepsilon} (\rho_2(X_2)) \\ \rho_2(X_2) &\subset B_{h_2 + \varepsilon} (\rho_3(X_3)) \\ \end{align}

なので

$$\rho_1(X_1) \subset B_{h_1 + h_2 + 2\varepsilon} (\rho_3(X_3))$$

が成り立ちます。逆も成り立つので、

\begin{align} & d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_3) \\ \leq \ & d_H^{X_{123}}(\rho_1(X_1), \rho_3(X_3))\\ \leq \ & h_1 + h_2 + 2\varepsilon \\ = \ & d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) + d_{GH}(\mathbb{X}_2, \mathbb{X}_3) + 2\varepsilon \end{align}

が成り立ちます。$\varepsilon > 0$ は任意なので、

$$d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_3) \leq d_{GH}(\mathbb{X}_1, \mathbb{X}_2) + d_{GH}(\mathbb{X}_2, \mathbb{X}_3)$$

が成り立ちます。これでグロモフ・ハウスドルフ距離の三角不等式が示されました。

まとめ

グロモフ・ハウスドルフ距離が距離であることの、[H] において省略されていた部分を証明しました。きちんと書くと意外と面倒ですね。[H] の序盤はグロモフ・ハウスドルフ距離以外にも省略されている部分が多いので、気が向いたらそれらの補足記事も書こうと思います。

個人的には、トロピカル化をグロモフ・ハウスドルフ収束として捉えることに興味があります。例えば、射影曲線 $C \hookrightarrow \mathbb{CP}^n$ のトロピカル化は、複素構造の適当な変形 $J_t$ の極限として与えられるので [M §6]、$J_t$ に整合的な適当なケーラー計量の族をとることで、グロモフ・ハウスドルフ収束を考えることができると思います。トロピカル化は一般に座標の取り方に依存しますが、それがどうなるのか気になります。

参考文献

[H] 本多正平. 多様体の収束 (朝倉数学ライブラリー) 

[M] GRIGORY MIKHALKIN. ENUMERATIVE TROPICAL ALGEBRAIC GEOMETRYIN R2