半環とその上の半加群についての基本的な事項をまとめ、加群の同型定理と同様の命題が半加群においても成り立つのか考察します。
目次
半環について
半環の定義
$R$ を空でない集合とします。$R$ が以下の条件
- 2 つの二項演算 $(+, \cdot)$ をもつ
- 零元 $0_R$ をもち、$(R, +, 0_R)$ は可換モノイドである
- 単位元 $1_R$ をもち、$(R, \cdot, 1_R)$ は可換モノイドである
- 任意の $a, b, c \in R$ に対し $a \cdot (b + c) = a \cdot b + a \cdot c$ が成り立つ
- 任意の $a \in R$ に対し $a \cdot 0_R = 0_R$ が成り立つ
を満たすとき、$R$ を (可換) 半環 (semiring) といいます。環の定義との違いは、$+$ に関する逆元を仮定しないことと、条件 5 を仮定しているところです。任意の $a \in R$ に対して
$$a \cdot 0_R = a \cdot (0_R + 0_R) = a \cdot 0_R + a \cdot 0_R$$
が成り立ちますが、加法に関する逆元を仮定しないので、条件 5 を仮定しないと $a \cdot 0_R = 0_R$ が導かれません。 ([JST] では条件 5 を仮定していませんが、仮定するのが一般的なようです。同じ著者の論文 [JRT] では条件 5 を仮定しています。)
$0_R$ 以外の任意の元 $a \in R$ に対して、乗法 $\cdot$ に関する逆元 $a^{-1}$ が存在するとき、$R$ を半体 (semifield)といいます。任意の $a \in R$ に対し $a + a = a$ を満たすとき、$R$ を加法に関して冪等 (additively idempotent) であるといいます。加法に関して冪等な半環を単に冪等半環 (idempotent semiring) ともいいます。
半環の例
$0$ を含む自然数全体 $\mathbb{N}$ は通常の加法、乗法により半環になります。
$\mathbb{T} = \mathbb{R} \cup \{-\infty\}$ に演算 $(\oplus, \odot)$ を
\begin{align} a \oplus b & := \max\{a, b\}, \\ a \odot b & := a + b \end{align}
と定義したものは半環になります。このとき、$0_{\mathbb{T}} = -\infty$, $1_{\mathbb{T}} = 0$ となります。$a \in \mathbb{T}\setminus \{-\infty\}$ は積 $\odot$ に対する逆元を持ちます。$\mathbb{T}$ をトロピカル半環 (またはトロピカル半体) といいます。$\mathbb{T}$ は冪等半環です。
$\mathbb{B} = \{0, 1\}$ に
\begin{align} 0 + 0 &= 0, & 1 + 0 &= 1, \\ 1 + 1 &= 1 & 0 \cdot 0 &= 0, \\ 1 \cdot 0 &= 0, & 1 \cdot 1 &= 1 \\ \end{align}
と定義したものをブール半環 (boolean semiring) といいます。$0$ を False、$1$ を True、$+$ を OR、$\cdot$ を AND と読み替えても良いです。$\mathbb{B}$ は冪等半環です。
ちなみに半環においては移項や項のキャンセルができません。例えば $0, 1, 2\in \mathbb{T}$ に対して
$$1 \oplus 2 = 0 \oplus 2 = 2$$
ですが $1 \neq 0$ です。
半環 $R$ を係数とする 1 変数多項式全体
$$R[X] = \{a_m X^m + a_{m-1} X^{m-1} + \cdots + a_0 \mid a_0, \dots, a_m \in R, m \in \mathbb{N}\}$$
は自然な加法と乗法により半環になります (係数が $0$ の項は省略するものとします)。帰納的に、$n$ 変数多項式全体 $R[X_1, \cdots, X_n]$ も半環になります。
半環の準同型
$R_1$, $R_2$ を半環とします。写像 $f: R_1 \to R_2$ が以下の性質を満たすとき、$f$ を準同型といいます。
- 任意の $a, b \in R_1$ に対して $f(a + b) = f(a) + f(b)$
- 任意の $a, b \in R_1$ に対して $f(a \cdot b) = f(a) \cdot f(b)$
- $f(1_{R_1}) = 1_{R_2}$
- $f(0_{R_1}) = 0_{R_2}$
環の準同型と違い、条件 4 を仮定します。条件 1 から、
$$f(0_{R_1}) = f(0_{R_1} + 0_{R_1}) = f(0_{R_1}) + f(0_{R_1})$$
が成り立ちますが、$-f(0_{R_1})$ が存在しないので、条件 4 を仮定しないと $f(0_{R_1}) = 0_{R_2}$ は導かれません。また、条件 1, 2, 3 を満たし、条件 4 を満たさない写像が存在します。例えば、$f: \mathbb{B} \to \mathbb{T}$ で、任意の $a \in \mathbb{B}$ に対して $f(a) = 0$ を満たすのものがそうです。
任意の冪等半環 $R$ に対し、準同型 $f: \mathbb{B} \to R$ が唯一つ存在します。条件 3, 4 から $f(0) = 0_R$, $f(1) = 1_R$ と定めるしかないので、$f$ が準同型であることを確認すれば良いです。
\begin{align} f(0 + 0) &= f(0) = 0_R = 0_R + 0_R, \\ f(1 + 1) &= f(1)= 1_R = 1_R + 1_R, \\ f(1 + 0) &= f(1) = 1_R = 1_R + 0_R, \\ f(0 \cdot 0) &= f(0) = 0_R = 0_R \cdot 0_R, \\ f(1 \cdot 1) &= f(1)= 1_R = 1_R \cdot 1_R, \\ f(1 \cdot 0) &= f(0) = 0_R = 1_R \cdot 0_R \end{align}
なので $f$ は準同型です。逆に準同型 $f: \mathbb{B} \to R$ が存在すれば $R$ は冪等になります。実際
$$1_R = f(1) = f(1 + 1) = 1_R + 1_R$$
なので、任意の $a \in R$ に対して
$$a = (1_R + 1_R) a = a + a$$
が成り立ちます。
半環上の半加群について
半加群の定義
$M$ を可換モノイドとし、$R$ を半環とします。$R$ の $M$ への作用
$$R \times M \ni (a, x) \mapsto ax \in M$$
が、任意の $a, b \in R$ と任意の $x, y \in M$ に対して
- $a(x + y) = ax + ay$
- $(a + b)x = ax + bx$
- $(ab)x = a(bx)$
- $1_R x = x$
- $a 0_M = 0_M$
- $0_R x = 0_M$
を満たすとき、$M$ を $R$ 半加群 (R-semimodule) といいます。
半加群の例
$M$ を単位元 $0_M$ のみを要素とするモノイドとし、$a \in R$ の作用を $a 0_M = 0_M$ と定めると、$M$ は $R$ 半加群になります。$M$ を $0$ と表します。
$R$ を半環とします。$R$ の $n$ 個の直積 $R^n$ に $b \in R$ の作用を
$$b (a_1, \dots, a_n) = (b a_1, \dots, b a_n) \quad (a_1, \dots, a_n) \in R^n$$
と定めると、$R^n$ は $R$ 半加群になります。
半環 $R$ が $\mathbb{B}$ 加群であれば、$R$ は冪等になります。実際、任意の $a \in R$ に対して
$$a = 1 a = (1 + 1)a = a + a$$
を満たします。
半加群の準同型
$R$ を半環とし、$M$, $N$ を $R$ 半加群とします。写像 $f: M \to N$ が任意の $x, y \in M$ と任意の $a \in R$ に対して
- $f(x + y) = f(x) + f(y)$
- $f(ax) = a f(x)$
を満たすとき、$f$ を $R$ 半加群の準同型 (または $R$ 準同型) といいます。
$R$ 半加群の圏
$R$ 準同型の合成は $R$ 準同型になります。恒等写像も $R$ 準同型になります。よって $R$ 半加群を対象とし、$R$ 準同型を射とする圏が定義できます。
任意の $R$ 半加群 $M$ に対して、単位元のみを要素に持つ $R$ 半加群 $0$ への唯一の写像 $M \to 0$ は $R$ 準同型になります。また、$0$ から $M$ への準同型は唯一つ存在します。実際、$0 = \{*\}$ とおいて
$$\iota: 0 \ni * \mapsto 0_M \in M$$
と定めると $\iota$ は $R$ 準同型であり、他の $R$ 準同型 $\iota^{\prime}$ が存在すると、
$$\iota^{\prime}(*) = \iota^{\prime}(0_R \cdot *) = 0_R \iota^{\prime}(*) = 0_M$$
となるので $\iota = \iota^{\prime}$ となります。特に、$0$ は $R$ 半加群の圏の始対象かつ終対象になります。
半加群の像と核と商
$f: M \to N$ を $R$ 半加群の準同型とします。この節では、半加群の像と核、商についての基本的な事項について述べます
半加群の像と核
まずは、半加群の像と核が $R$ 半加群であることを確認しましょう。
半加群の像
$f$ の像 $f(M)$ が $R$ 半加群であることは次のように確認できます。$n_1, n_2 \in f(M)$ とし、$x_1 \in f^{-1}(n_1)$, $x_2 \in f^{-1}(n_2)$ をとると、
\begin{gather} n_1 + n_2 = f(x_1) + f(x_2) = f(x_1 + x_2) \in f(M) \end{gather}
となり、$0_N = f(0_M) \in f(M)$ なので $f(M)$ は可換モノイドになります。
$a \in R$ の作用については、$x \in f^{-1}(n)$ をとると
$$a n = a f(x) = f(a x) \in f(M)$$
となります。半加群の作用に関する 6 つの条件は、$N$ が満たすので $f(M)$ も満たします。よって $f(M)$ は $R$ 半加群になります。
半加群の逆像と核
$L \subset N$ が部分 $R$ 半加群であるとき、$f^{-1}(L)$ は $R$ 半加群になります。実際、$x, y \in f^{-1}(L)$ に対して
$$f(x + y) = f(x) + f(y) \in L$$
なので $x + y \in f^{-1}(L)$ であり、$f(0_M) = 0_N \in L$ から $0_M \in f^{-1}(L)$ が成り立つので、$f^{-1}(L)$ はモノイドです。$a \in R$ の作用については、
$$f(ax) = a f(x) \in L$$
なので $ax \in f^{-1}(L)$ になります。半加群の作用に関する 6 つの条件は $M$ が満たすので $f^{-1}(L)$ も満たします。よって $f^{-1}(L)$ は $R$ 半加群になります。
$f$ の核を
$$\operatorname{Ker}f = f^{-1}(0_N) = \{x \in M \mid f(x) = 0_N\}$$
と定めると、$\operatorname{Ker}f$ は $R$ 半加群になります。
saturated な部分加群
$M$ を $R$ 半加群とし、$K \subset M$ を部分 $R$ 半加群とします。$K$ が saturated であるとは、$x \in M$, $y \in K$ に対して $x + y \in K$ ならば $x \in K$ が成り立つことをいいます。
核は saturated だが像はそうではない
$R$ 半加群の準同型 $f: M \to N$ に対して $\operatorname{Ker}f$ は saturated になります。実際、$x, y \in M$ に対して $f(y) = 0$, $f(x + y) = 0$ ならば
$$0 = f(x + y) = f(x) + f(y) = f(x)$$
なので $x \in \operatorname{Ker}f$ となります。
一方、$f$ の像は saturated であるとは限りません。例えば、$\mathbb{N}$ の $2, 3$ で生成される部分半加群
$$(2, 3) = \{2n + 3m \mid n, m \in \mathbb{N}\} = \{0, 2, 3, 4 \cdots\}$$
は、$1 + 2 = 3 \in (2, 3)$ かつ $2 \in (2, 3)$ ですが、$1 \notin (2, 3)$ です。$(2, 3)$ を包含写像 $(2, 3) \hookrightarrow \mathbb{N}$ の像とみなせば、像が saturated でない例となります。
ちなみに、$L \subset N$ が saturated な部分半加群であるとき、$R$ 半準同型 $f: M \to N$ による逆像 $f^{-1}(L)$ は saturated な部分半加群になります。実際、$x \in M$, $y \in f^{-1}(L)$, $x + y \in f^{-1}(L)$ であるとすると、
$$f(x) + f(y) = f(x + y) \in L, \quad f(y) \in L$$
かつ $L$ が saturated なので $f(x) \in L$、つまり $x \in f^{-1}(L)$ となります。
saturation closure
部分 $R$ 半加群 $N \subset M$ に対して
$$\langle N \rangle = \{x \in M \mid \textrm{ある } n, m \in N \textrm{ が存在して } x + n = m \}$$
とおくと、$\langle N \rangle$ は $N$ を含む最小の saturated な部分半加群になります。これを確認しましょう。
まず、$N \subset \langle N \rangle$ であることは上記の定義において $n = 0$, $x = m$ とおくことで確認できます。
$x + y \in \langle N \rangle$, $y \in \langle N \rangle$ とします。定義から、ある $n, m, n^{\prime}, m^{\prime} \in N$ が存在して、
$$x + y + n = m, \quad y + n^{\prime} = m^{\prime}$$
が成り立ちます。このとき、
\begin{align} x + n + m^{\prime} &= x + n + y + n^{\prime} \\ &= m + n^{\prime} \end{align}
となるので、$x \in \langle N \rangle$ となり、$\langle N \rangle$ が saturated であることがわかりました。
最後に、$L$ を $N$ を含む saturated な部分半加群とするとき、$\langle N \rangle \subset L$ を確認しましょう。任意の $x \in \langle N \rangle$ に対して $n, m \in N$ が存在して $x + n = m$ が成り立ちます。このとき、$x + n \in L$ かつ $n \in L$ なので $x \in L$ が成り立ちます。よって $\langle N \rangle \subset L$ です。
$\langle N \rangle$ を $N$ の saturation closure といいます。
半加群の商
商の定義
$R$ を半環、$M$ を $R$ 上の半加群とし、$N \subset M$ を部分 $R$ 半加群とします。このとき、$x, y \in M$ に対して同値関係を
$$x \sim y \Leftrightarrow x + n = y + n^{\prime} \quad (\exists n, n^{\prime} \in N)$$
と定めます。この同値関係による商を $M / N$ と表します。
商が $R$ 半加群であること
商 $M / N$ が $R$ 半加群になることを確認しましょう。$x \in M$ の同値類を $\overline{x} \in M / N$ とおきます。
まず、$M / N$ が可換モノイドであることを確認しましょう。$x \sim x^{\prime}$, $y \sim y^{\prime}$ ならば、$n, n^{\prime}, m, m^{\prime}$ が存在して
\begin{align} (x + y) + (n + m) &= (x + n) + (y +m) \\ & = (x^{\prime} + n^{\prime}) + (y^{\prime} +m^{\prime}) \\ &= (x^{\prime} + y^{\prime}) + (n^{\prime} + m^{\prime}) \end{align}
となるので $x + y \sim x^{\prime} + y^{\prime}$ となり、$\overline{x} + \overline{y}$ が代表元によらず定まります。これから、$\overline{x}, \overline{y}, \overline{z} \in M / N$ に対して
$$(\overline{x} + \overline{y}) + \overline{z} = \overline{x} + (\overline{y} + \overline{z})$$
が成り立つことがわかります。任意の $n \in N$ に対して $n \sim 0_M$ なので、任意の $\overline{x}$ に対して $\overline{x} + \overline{0}_M = \overline{x}$ が成り立つことから $\overline{0}_M$ がモノイドとしての単位元であることもわかります。よって $M / N$ はモノイドになります。可換性は明らかです。
$M / N$ への $a \in R$ の作用が代表元によらないことを確認しましょう。$x \sim x^{\prime}$ とすると、$n, n^{\prime} \in N$ が存在して
$$ax + an = a(x + n) = a(x^{\prime} + n^{\prime}) = ax^{\prime} + an^{\prime}$$
が成り立ちますが、$N$ が $R$ 半加群であることから $an, an^{\prime} \in N$ なので、$ax \sim ax^{\prime}$ が成り立ちます。よって $R$ の作用は代表元によらず定まります。$M / N$ がこの作用で $R$ 半加群になることは省略します。
商と saturation closure
実は $M / N = M / \langle N \rangle$ が成り立ちます。これを確認しましょう。そのためには
\begin{align} x \overset{N}{\sim} y \Leftrightarrow x + n &= y + n^{\prime} \quad (\exists n, n^{\prime} \in N) \\ x \overset{\langle N \rangle}{\sim} y \Leftrightarrow x + n &= y + n^{\prime} \quad (\exists n, n^{\prime} \in \langle N \rangle) \end{align}
とおいたとき、$x \overset{N}{\sim} y \Leftrightarrow x \overset{\langle N \rangle}{\sim} y$ を示せば良いです。
$x \overset{N}{\sim} y$ $\Rightarrow$ $x \overset{\langle N \rangle}{\sim} y$ は明らかです。$x \overset{\langle N \rangle}{\sim} y$ とすると、$n, n^{\prime} \in \langle N \rangle$ が存在して
$$x + n = y + n^{\prime}$$
が成り立ちます。$n, n^{\prime} \in \langle N \rangle$ なので、$k, m, k^{\prime}, m^{\prime} \in N$ が存在して、
$$n + k = m, \quad n^{\prime} + k^{\prime} = m^{\prime}$$
が成り立ちます。このとき、
\begin{align} x + m + k^{\prime} &= x + n + k + k^{\prime} \\ &= y + n^{\prime} + k^{\prime} + k \\ &= y + m^{\prime} + k \end{align}
となり、$m + k^{\prime}, m^{\prime} + k \in N$ なので $x \overset{N}{\sim} y$ が成り立ちます。
これで $M / N = M / \langle N \rangle$ が成り立つことがわかりました。
同型定理
環上の加群の同型定理と同様の定理が半加群でも成り立つのかどうか、確認しましょう。同型定理をおさらいすると、$A$ を環、$M, N$ を $A$ 加群としたとき、以下が成り立ちます [Wiki]。
- (第一同型定理) 任意の $A$ 準同型 $f: M \to N$ に対して $$M / \operatorname{Ker} f \simeq \operatorname{Im} f$$
- (第二同型定理) 部分加群 $S, T \subset M$ に対して $$(S + T) / T \simeq S / (S \cap T)$$
- (第三同型定理) 部分加群 $S \subset T \subset M$ に対して $$(M / S) / (T /S) \simeq M / T$$
第一同型定理
$f: M \to N$ を $R$ 半加群の準同型とします。このとき、
$$M / \operatorname{Ker}f \simeq \operatorname{Im}f$$
は一般には成り立ちません。例えば、$f: \mathbb{T} \to \mathbb{B}$ を
$$f(a) = \begin{cases}1 & (a \neq -\infty) \\ 0 & (a = -\infty) \end{cases}$$
とおくと、これは $\mathbb{B}$ 半加群の準同型となります。ただし、$\mathbb{B}$ の $\mathbb{T}$ への作用は $0_{\mathbb{B}} a = -\infty$, $1_{\mathbb{B}} a = a$ により与えられているとします。このとき、$\operatorname{Ker}f = \{-\infty\}$, $\operatorname{Im}f = \mathbb{B}$ であり、
$$\mathbb{T} / \{-\infty\} = \mathbb{T} \neq \operatorname{Im}f = \mathbb{B}$$
となります。
ただし、全射
$$\overline{f}: M / \operatorname{Ker}f \to \operatorname{Im}f$$
は常に存在します。これを確認しましょう。
$x,y \in M$ が $\overline{x} = \overline{y}$ を満たすとします。このとき $n, m \in \operatorname{Ker}f$ が存在して
$$x + n = y + m$$
が成り立ちます。よって
\begin{align} f(x) &= f(x) + f(n) \\ &= f(x + n) \\ &= f(y + m) \\ &= f(y) + f(m) \\ &= f(y) \end{align}
となり、$\overline{f}(\overline{x}) = f(x)$ とおくことで $\overline{f}: M / \operatorname{Ker}f \to N$ が代表元によらずに定義できます。構成方法から、$\overline{f}$ が全射であることは明らかです。
第二同型定理
$K, L \subset M$ を部分 $R$ 半加群とします。$K$ と $L$ の和
$$K + L = \{k + l \mid k \in K, l \in L\}$$
が部分半加群であることは明らかでしょう。また、共通部分 $K \cap L$ が部分半加群であることも明らかでしょう。このとき、
$$(K + L) / L \simeq K / (K \cap L)$$
は一般には成り立ちません。例えば、$\mathbb{B}$ 半加群 $\mathbb{B}^2$ において、
\begin{align} K &= \{(0, 0), (1, 0), (1, 1)\} \\ L &= \{(0, 0), (0, 1)\} \\ \end{align}
は部分 $\mathbb{B}$ 半加群ですが、$K \cap L = (0, 0)$, $K + L = \mathbb{B}^2$ であり、
$$K / (K \cap L) \simeq K \not\simeq \mathbb{B} \simeq (K + L) /L$$
となります。
ただし、全射
$$K / (K \cap L) \to (K + L) / L$$
は常に存在します。$\iota: K \to K + L$ を包含写像とし
$$\overline{\iota}: K \to (K + L) / L$$ を $\iota$ と射影
$$\pi: (K +L) \to (K + L) / L$$
の合成とします。$n \in K + L$ の $(K + L) / L$ における同値類を $\overline{n} \in (K + L) / L$ とおくと、任意の $n = k + l \in K + L$ に対して、
$$\overline{n} = \overline{k} = \overline{\iota}(k)$$
なので、$\overline{\iota}$ は全射です。
$k$ の $K / (K \cap L)$ における同値類を $\hat{k} \in K / (K \cap L)$ とおきます。$k, k^{\prime} \in K$ が $\hat{k} = \hat{k^{\prime}}$ を満たすとき、
$$k + m = k^{\prime} + m^{\prime}$$
を満たす $m, m^{\prime} \in K \cap L$ が存在するので、包含写像 $\iota: K \to K + L$ により $k, k^{\prime} \in K + L$ とみなすと、$\overline{k} = \overline{k^{\prime}}$ です。よって
$$\hat{\overline{\iota}}: K / (K \cap L) \ni \hat{k} \mapsto \overline{\iota}(k) \in (K + L) / L$$
が代表元によらずに定まります。構成方法から、$\hat{\overline{\iota}}$ は全射です。
第三同型定理
まず、部分 $R$ 半加群 $K \subset L \subset M$ に対して、$L / K$ が $M / K$ の部分 $R$ 半加群であることを確認しましょう。そのためには、包含写像 $\iota: L \to M$ と射影 $\pi: M \to M / K$ の合成 $\pi \circ \iota: L \to M /K$ から $R$ 準同型 $\overline{\iota}: L / K \to M / K$ が代表元によらず定まること、$\overline{\iota}$ が単射であることを示せば良いです。
$x \in M$ に対して、$\overline{x}$ を $M / K$ における $x$ の同値類とし、$l \in L$ に対して $\hat{l}$ を $L / K$ における $l$ の同値類とします。$l, l^{\prime} \in L$ が $\hat{l} = \hat{l^{\prime}}$ を満たすとすると、$k, k^{\prime} \in K$ が存在して
$$l + k = l^{\prime} + k^{\prime}$$
が成り立つので、$M / K$ において $\overline{l} = \overline{l}^{\prime}$ が成り立ちます。よって
$$\overline{\iota}: L / K \ni \hat{l} \mapsto \pi \circ \iota(l) = \overline{l} \in M / K$$
は代表元の取り方によらず定まります。また、$l, l^{\prime} \in L$ が $\overline{l} = \overline{l^{\prime}}$ を満たすとすると、$k, k^{\prime} \in K$ が存在して
$$l + k = l^{\prime} + k^{\prime}$$
が成り立つので、$\hat{l} = \hat{l^{\prime}}$ が成り立ちます。よって $\overline{\iota}$ は単射です。
以上から $L / K \subset M / K$ と見做せるので、$\hat{l}$ と表す代わりに $\overline{l}$ と表します。
ここで、$K \subset L \subset M$ のとき第三同型定理
$$(M / K) / (L / K) \simeq M / L$$
が成り立つことを確認しましょう。第一、第二と違ってこれは常に成り立ちます。
$x \in M$ に対して、$\overline{x}$ を $M / K$ における $x$ の同値類、$\widetilde{x}$ を $M / L$ における $x$ の同値類とし、$[\overline{x}]$ を $(M / K) / (L / K)$ における $\overline{x}$ の同値類とします。
$x, y \in M$ が $\overline{x} = \overline{y}$ を満たすとき、$k, k^{\prime} \in K$ が存在して
$$x + k = y + k^{\prime}$$
が成り立ちます。このとき $k, k^{\prime} \in L$ なので、$\widetilde{x} = \widetilde{y}$ が成り立ちます。この対応により、$\overline{\pi}: M / K \to M / L$ が定まります。
$\overline{x}, \overline{y} \in M / K$ が $[\overline{x}] = [\overline{y}]$ を満たすとすると、$\overline{l}, \overline{l^{\prime}} \in L / K$ が存在して
$$\overline{x} + \overline{l} = \overline{y} + \overline{l^{\prime}}$$
が成り立ちます。このとき $\overline{x + l} = \overline{y + l^{\prime}}$ なので、$k, k^{\prime} \in K$ が存在して
$$x + l + k = y + l^{\prime} + k^{\prime}$$
が成り立ちます。よって $\widetilde{x} = \widetilde{y}$ が成り立ち、
$$[\overline{\pi}]: (M / K)/(L/K) \ni [\overline{x}] \to \overline{\pi}(\overline{x}) \in M / L$$
が $[\overline{x}]$ の代表元の取り方によらず定まります。
$[\overline{\pi}]$ が全射であることは定義からわかります。$[\overline{x}], [\overline{y}] \in (M / K)/(L/K)$ が $[\overline{\pi}]([\overline{x}]) = [\bar{\pi}]([\overline{y}])$ を満たすとします。このとき、$l, l^{\prime} \in L$ が存在して
$$x + l = y + l^{\prime}$$
が成り立ちますが、
$$\overline{x} + \overline{l} = \overline{x + l} = \overline{y + l^{\prime}} = \overline{y} + \overline{l^{\prime}}$$
なので、$[\overline{x}] = [\overline{y}]$ が成り立ちます。よって $[\overline{\pi}]$ は単射です。
以上から、$[\overline{\pi}]$ は全単射 $R$ 準同型であり、
$$(M / K)/(L/K) \simeq M / L$$
が成り立ちます。
参考文献
[JST] JAIUNG JUN, MATT SZCZESNY, AND JEFFREY TOLLIVER. PROTO-EXACT CATEGORIES OF MODULES OVER SEMIRINGS AND HYPERRINGS
[JRT] JAIUNG JUN, SAMARPITA RAY, AND JEFFREY TOLLIVER. LATTICES, SPECTRAL SPACES, AND CLOSURE OPERATIONS ON IDEMPOTENT
[NR] Antonio Di Nola, Ciro Russo. Semiring and semimodule issues in MV-algebras
[Wiki] Wikipedia. 同型定理
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