「ハウスドルフ空間上のコンパクト部分集合は閉集合である」という事実を、それぞれの頭文字をとってハコ閉の法則と呼ぶようです。これを証明しようと思います。その前に、ハウスドルフ空間とコンパクト集合の定義のおさらいをします。
定義. ハウスドルフ空間
$X$ を位相空間とする. 任意の相異なる2点$x, y \in X$に対し, $U \cap V = \emptyset$ を満たす $x$ の開近傍 $U$ と $y$ の開近傍 $V$ が常に存在するとき, $X$ をハウスドルフ空間であるいう.$\Box$
例えば、$\mathbb{R}^n$ にユークリッド位相を入れたものはハウスドルフ空間になります。2点間の距離の $1 / 3$ の半径を持つ開近傍を考えれば良いです。ザリスキー位相 (開集合が $X \setminus \{x\}$ の形の集合で生成されるもの) を入れるとハウスドルフ空間にはなりません。
また、ハウスドルフ空間の同値な定義として、対角線集合 $\Delta = \{(x, x) \in X \times X \mid x \in X\}$ が閉集合であるというものがあります。これは $X \times X \setminus \Delta$ が開集合であることと、$(x, y) \in U \times V \subset X \times X \setminus \Delta$ を満たす開集合 $U, V$ が取れることが同値であることからわかります。
定義. コンパクト
$X$ を位相空間とする. $X$ の開集合の集合 $\{ U_{\lambda} \}_{\lambda}$ が $X = \bigcup_{\lambda} U_{\lambda}$ を満たすとき, $\{ U_{\lambda} \}_{\lambda}$ を $X$ の開被覆という.
$X$ の任意の開被覆 $\{ U_{\lambda} \}_{\lambda}$ に対して, その開被覆に含まれるの有限個の開集合 $\{U_{\lambda_1}, \cdots, U_{\lambda_n}\}$ で $X$ の開被覆となるものが存在するとき, $X$はコンパクトであるという.
$X$ の部分集合 $A$ がコンパクト部分集合であるとは、$A$ が相対位相に関してコンパクトであることをいう. $\Box$
つまり、コンパクト空間 $X$ をどのような開集合族で覆っても、そのうちの有限個を選べばそれらだけで $X$ 覆えているということです。例えば、閉区間 $[0, 1]$ はコンパクトです (ハイネボレルの定理)。一方、開区間 $(0, 1)$ はコンパクトではありません。開被覆 $\{(0 + \frac{1}{n}, 1 -\frac{1}{n}) \mid n \in \mathbb{N}\}$ のうち有限個選んでも $(0, 1)$ を被覆できないからです。
また、コンパクト集合の連続写像の像はコンパクトになります。これはコンパクト集合の像の開被覆の逆像が元のコンパクト集合の開被覆であることから、有限の部分被覆を取れることと、その部分被覆の像がコンパクト集合の像の被覆になることからわかります。
本題のハコ閉じの法則を証明します。
命題. ハウスドルフ空間上のコンパクト部分集合は閉集合である
証明) $X$ をハウスドルフ空間, $K$ をそのコンパクト部分集合とする. $W = X \setminus K$ が開集合であることを示す. そのためには, 任意の $w \in W$ に対して, $K$ に交わらない開集合 $U_w$ が存在することを示せばよい. それは以下のように構成する.
$w \in W$ と $k \in K$ に対して, ハウスドルフ性からそれらを分離する開集合 $w \in U_w^k, k \in V_w^k$ が存在する. $w \in W$ を一つ固定し, 全ての $k \in K$ に対して $U_w^k, V_w^k$ をとると, $K$ がコンパクトであることから, 有限個の $\{k_1, k_2, \cdots, k_N\}$ を選べば, $\{V_w^{k_i}\}_{i=1}^N$ は $K$ を被覆する. このとき,
$$U_w = \bigcap_{i=1}^N U_w^{k_i}$$
とおくと、$U_w$ は開集合であり, $K$と交わらない. よって任意の $w \in W$ に対して $K$ に交わらない開集合 $U_w$ が存在する. このとき $W = \bigcup_{w \in W} U_w$ は開集合だから, $K$ は閉集合である。$\Box$
最後に補足として、コンパクト集合上の連続関数は最大値を持つことを示します。
まず、$\mathbb{R}$ のコンパクト部分集合 $K$ は有界になります。もし有界でなければ、任意の $N \in \mathbb{N}$ に対して $|x| > N$ を満たす $x \in \mathbb{R}$ が存在するので、各開区間の長さが $1 /2$ 以下になるように開被覆を取れば、そのうち有限個の開集合では $K$ を被覆できません。従って、$\mathbb{R}$ のコンパクト部分集合は最大値を持ちます。
コンパクト集合の連続写像の像はコンパクトになるので、コンパクト集合 $K$ の連続関数 $f$ による像 $f(K) \subset \mathbb{R}$ はコンパクトになり、最大値を持ちます。
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