半環上の加群の圏は proto-exact category である

トロピカル幾何学に応用できる可能性がありそうな半環の理論を見つけたので紹介します。

PROTO-EXACT CATEGORIES OF MODULES OVER SEMIRINGS AND HYPERRINGS

proto-exact category は加法圏でない圏への完全圏の一般化として Dyckerhoff と Kapranov によって定義されたようです [DK]。この論文は半環上の (半) 加群及び hyper ring 上の加群の圏が proto-exact category であることを示しています。私は完全圏も proto-exact category もよく知らないので、どのくらいのことができるのかわかりませんが、可能性を感じたのでまとめてみることにしました。

基本的には [JST] の内容に沿って述べていきますが、適宜省略、補完をしますので、ご了承ください。例えば [JST] ではブール半環 $\mathbb{B}$ 上の半加群と algebraic lattice, geometric lattice の関係や hyper ring の場合も考察していますが、本記事ではそれらを省略します。

半環と半加群の基本的な性質については以下の記事にまとめています

半環と半加群の同型定理について

先に目を通して頂いた方が本記事を読みやすいと思います。

proto-exact category の定義

pointed category

準備として、pointed category について述べます。

定義. pointed category

圏 $\mathcal{C}$ に始対象と終対象が存在し, それらが同型であるとき, $\mathcal{C}$ は pointed category であるという. またこのとき, 始対象 (かつ終対象) を零対象といい $0$ と表す. $\Box$

半環 $R$ 上の半加群の圏は pointed category です。零対象は、単位元のみを持つモノイド $M = \{0_M\}$ に、$a \in R$ の作用を $a 0_M = 0_M$ と定めたものになります。

proto-exact category

proto-exact category の定義と、完全列について述べます。

定義. proto-exact category

圏 $\mathcal{C}$ を pointed category とする. $\mathcal{C}$ と2つの射の族 $\mathfrak{M}$, $\mathfrak{E}$ の組 $(\mathcal{C}, \mathfrak{M}, \mathfrak{E})$ が proto-exact category であるとは, 以下の性質を満たすことをいう.

  1. 任意の $A \in Ob(\mathcal{C})$ に対し, $0 \to A$ は $\mathfrak{M}$ に含まれ, $A \to 0$ は $\mathfrak{E}$ に含まれる.
  2. $\mathfrak{M}$ 及び $\mathfrak{E}$ は全ての同型射を含む.
  3. $\mathfrak{M}$ 及び $\mathfrak{E}$ は合成で閉じている.
  4. 以下の図式において, $i \in \mathfrak{M}$, $j \in \mathfrak{E}$ とする. このとき, この図式を pushout とする $i^{\prime}: A^{\prime} \to B^{\prime}$, $j^{\prime}: B \to B^{\prime}$ が存在し, $i^{\prime} \in \mathfrak{M}$, $j^{\prime} \in \mathfrak{E}$ となる.
    \[ \xymatrix@M=8pt{ A \ar@{>->}[r]^{i} \ar@{->>}[d]^{j} & B \ar@{.>}[d]^{j^{\prime}} \\ A^{\prime} \ar@{.>}[r]^{i^{\prime}} & B^{\prime} }\]
  5. 以下の図式において, $i^{\prime} \in \mathfrak{M}$, $j^{\prime} \in \mathfrak{E}$ とする. このとき , この図式を pullback とする $i: A \to B$, $j: A \to A^{\prime}$ が存在し, $i \in \mathfrak{M}$, $j \in \mathfrak{E}$ となる.
    \[ \xymatrix@M=8pt{ A \ar@{.>}[r]^i \ar@{.>}[d]^j & B \ar@{->>}[d]^{j^{\prime}} \\ A^{\prime} \ar@{>->}[r]^{i^{\prime}} & B^{\prime} } \]
  6. 以下の図式は可換であり, $i, i^{\prime} \in \mathfrak{M}$, $j, j^{\prime} \in \mathfrak{E}$ とする. この図式が pullback であることと pushout であることは同値である。
    \[ \xymatrix@M=8pt{ A \ar@{>->}[r]^{i} \ar@{->>}[d]_{j} & B \ar@{->>}[d]^{j^{\prime}} \\ A^{\prime} \ar@{>->}[r]_{i^{\prime}} & B^{\prime} } \]

$\mathfrak{M}$ に含まれる射を許容的単射 (admissible monomorphism) といい, $\mathfrak{E}$ に含まれる射を許容的全射 (admissible epimorphism) という.$\Box$

定義. 許容的単完全列

$C$ を proto-exact category とする. $C$ の許容的単完全列 (admissibloe short exact sequance) とは, 射の列

$$A \overset{i}{\rightarrowtail} B \overset{j}{\twoheadrightarrow} C$$

で $i \in \mathfrak{M}$, $j \in \mathfrak{E}$ であり, 以下の図式が pushout かつ pullback であることである.

\[ \xymatrix@M=8pt{ A \ar@{>->}[r]^{i} \ar@{->>}[d] & B \ar@{->>}[d]^{j^{\prime}} \\ 0 \ar@{>->}[r] & C } \]

$\Box$

半加群の $R$ 準同型の正規単射と正規全射

圏論において、$f: A \to B$ が normal monomorphism (本記事では正規単射と訳します) であるとは、射 $g: B \to C$ と零射 $0_{B, C} = B \to 0 \to C$ の equalizer で表されること、つまりある射の Kernel で表されることをいうようです [nLab]。normal epimorphism (本記事では正規全射と訳します) はその双対で、ある射と零射の coequalizer で表される射のことを言うようです。

ネタバレをすると、$R$ 半加群の圏は正規単射を許容的単射、正規全射を許容的全射として proto-exact category になります。まずは正規単射、正規全射の性質を調べましょう。

正規単射の性質

$R$ を半環とし、$f: M \to N$ を $R$ 準同型とします。このとき、以下は同値です。

  1. $f$ は正規単射である。
  2. $f$ は単射で、$f(M) \subset N$ は saturated な部分加群である。

これを確認しましょう。

(1) $\Rightarrow$ (2)

$f$ を正規単射とします。このとき、ある $R$ 準同型 $g: N \to L$ が存在して、以下の図式は equalizer になります。

\[ \xymatrix{ M \ar[r]^f & N \ar@<0.25em>[r]^g \ar@<-0.25em>[r]_{0_{N, L}} & L } \]

$x, y \in M$ は $f(x) = f(y)$ を満たすとします。$R$ 準同型 $h: R \to N$ を $h(1_{R}) = f(x)$ を満たすように定めると、$g \circ h = 0_{N, L} \circ h$ を満たすので、普遍性から $h^{\prime}: R \to M$ で、$f \circ h^{\prime} = h$ を満たすものがただ一つ存在します。

\[ \xymatrix{ M \ar[r]^f & N \ar@<0.25em>[r]^g \ar@<-0.25em>[r]_{0_{N, L}} & L \\ R \ar[ur]_{h} \ar@<0.25em>[u]^{h_x, h_y} \ar@{.>}@<-0.25em>[u]_{h^{\prime}} & & } \]

$h_x: R \to M$ を $h_x(1_R) = x$、$h_y: R \to M$ を $h_y(1_R) = y$ と定めると、

$$f \circ h_x = h, \quad f \circ h_y = h$$

を満たすので、$h_x = h_y = h^{\prime}$ となり、$x = y$ であることがわかります。よって $f$ は単射です。

$f(M) = g^{-1}(0)$ であることを確かめれば、$f(M)$ が saturated であることがわかります。$n \in f(M)$ に対して $g(n) = 0_{N, L}(n) = 0$ なので $f(M) \subset g^{-1}(0)$ であることがわかります。逆に $g(n) = 0$ とすると、$R$ 準同型 $h: R \to N$ を $h(1_R) = n$ と定めれば、普遍性から $h^{\prime}: R \to M$ で $f \circ h^{\prime} = h$ を満たすものが存在します。よって $f(M) \supset g^{-1}(0)$ であることがわかります。

(1) $\Leftarrow$ (2)

$f$ が単射で、$f(M) \subset N$ が saturated であるとします。このとき、射影 $\pi: N \to N / f(M)$ に対して以下の図式

\[ \xymatrix{ M \ar[r]^f & N \ar@<0.25em>[r]^-{\pi} \ar@<-0.25em>[r]_-{0_{N, N / f(M)}} & N / f(M) } \]

が equalizer であることを確認しましょう。任意の $x \in M$ に対して $\pi \circ f(x) = 0$ であることは商半加群の定義から明らかなので、$\pi \circ f = 0_{N, N / f(M)} \circ f$ が成り立ちます。

$K: h \to N$ が、$\pi \circ h = 0_{N, N / f(M)} \circ h$ を満たすとします。このとき、$k \in K$ に対して $n, n^{\prime} \in f(M)$ が存在して

$$h(k) + n = n^{\prime}$$

を満たしますが、$f(M)$ は saturated なので $h(k) \in f(M)$ となります。$f$ は単射なので、$x = h(k)$ を満たす $x \in M$ が唯一つ存在します。$h^{\prime}(k) = x$ とおくことで、写像 $h^{\prime}: K \to M$ が得られます。構成方法から、$h^{\prime}$ は一意です。$h^{\prime}$ が $R$ 準同型であることは $h$ が $R$ 準同型であることから明らかです。

正規全射の性質

$R$ を半環とし、$f: M \to N$ を $R$ 準同型とします。このとき、以下は同値です。

  1. $f$ は正規全射である。
  2. 部分加群 $L \subset M$ が存在して、$M / L \simeq N$ であり、$f$ は射影 $\pi: M \to M / L$ に一致する。

また、2 における部分加群は saturated であるように取れます。これを確認しましょう。

ちなみに半加群においては第 1 同型定理 (準同型定理) が成り立たないので、正規全射でない全射が存在します。

(1) $\Leftarrow$ (2)

先に (1) $\Leftarrow$ (2) を示します。$\iota : L \to M$ を包含写像とし、以下の図式が coequalizer であることを示します。

\[ \xymatrix{ L \ar@<0.25em>[r]^{\iota} \ar@<-0.25em>[r]_{0_{L, M}} & M \ar[r]^-{\pi} & M / L } \]

$g: M \to K$ が任意の $l \in L$ に対して $g(x) = 0$ を満たすとします。このとき、$M / L$ における $x \in M$ の同値類を $\overline{x} \in M / L$ とおいて、$\overline{g}: M / L \to K$ を

$$\overline{g}(\overline{x}) = g(x)$$

とおくと、$\overline{g}$ は代表元の取り方によらず定まります。

\[ \xymatrix{ L \ar@<0.25em>[r]^{\iota} \ar@<-0.25em>[r]_{0_{L, M}} & M \ar[r]^{\pi} \ar[rd]_{g} & M / L \ar@{.>}[d]^-{\bar{g}} \\ & & K } \]

実際 $x, y \in M$ が $x \sim y$ を満たすとすると、$l, l^{\prime} \in L$ が存在して

$$x + l = y + l^{\prime}$$

を満たします。このとき、$g(l) = g(l^{\prime}) = 0$ なので

$$g(x) = g(x + k) = g(y + k^{\prime}) = g(y)$$

となります。

$\overline{g}$ の一意性を示しましょう。$h: M / L \to K$ が $h \circ \pi = g$ を満たすとします。このとき、

$$h(\overline{x}) = h(\pi(x)) = g(x) = \overline{g}(\overline{x})$$

なので $h = \overline{g}$ となります。よって最初の図式は coequalizer になります。従って $f = \pi$ ならば $f$ は正規全射です。

$L$ の saturated closure を $\langle L \rangle$ とおくと、$M / L = M / \langle L \rangle$ なので、$L$ を $\langle L \rangle$ に置き換えることで、saturated にとることができます。

(1) $\Rightarrow$ (2)

$f: M \to N$ を正規全射とします。このとき $g: L \to M$ が存在して、以下の図式は coequalizer になります。

\[ \xymatrix{ L \ar@<0.25em>[r]^g \ar@<-0.25em>[r]_{0_{L, M}} & M \ar[r]^f & N } \]

射影 $\pi: M \to M / g(L)$ に対して $x \in g(L)$ は $\pi(x) = 0$ を満たすので、$\pi \circ g = \pi \circ 0_{L, M}$ となります。よって $\pi^{\prime}: N \to M / g(L)$ で、$\pi = \pi^{\prime} \circ f$ を満たすものが唯一つ存在します。また、先ほど示したことから $\overline{f}:M / g(L) \to N$ が存在し、$\overline{f} \circ \pi = f$ を満たします。

\[ \xymatrix{ L \ar@<0.25em>[r]^g \ar@<-0.25em>[r]_{0_{L, M}} & M \ar[r]^f \ar[rd]_{\pi} & N \ar@{.>}@/^0.5em/[d]^-{\pi^{\prime}} \\ & & M / g(L) \ar@{.>}@/^0.5em/[u]^-{\overline{f}} } \]

このとき、$\pi = \pi^{\prime}\circ f = \pi^{\prime} \circ \overline{f} \circ \pi$ であることと $\pi$ が全射であることから、

$$\pi^{\prime} \circ \overline{f} = \mathrm{id}_{M / g(L)}$$

となります。同様に

$$\overline{f} \circ \pi^{\prime} = \mathrm{id}_{N}$$

なので、$N \simeq M / g(L)$ かつ $f$ は $\pi$ に一致します。

$R$ 半加群の圏が proto-exact category であること

$R$ を半加群とし、$R – \mathcal{SMod}$ を $R$ 半加群の圏とします。本節では、$\mathfrak{M}$ を正規単射全体、$\mathfrak{E}$ を正規全射全体としたとき、$(R – \mathcal{SMod}, \mathfrak{M}, \mathfrak{E})$ が proto-exact category であることを示します。定義を一つずつ確認しましょう。

零対象からの射と零対象への射

$M$ を $R$ 半加群とします。射 $0 \to M$ は、像 $\{0_M\} \subset M$ が saturated なので正規単射です。また、射 $M \to 0$ は、$M \to M / M = 0$ と一致するので、正規全射です。

$\mathfrak{M}$, $\mathfrak{E}$ が同型射を含むこと

$\mathrm{id_M}: M \to M$ を同型射とします。$\mathrm{id_M}$ の像は $M$ に一致するので saturated であり、正規単射です。また、$\mathrm{id_M}$ は $M \to M / 0$ と一致するので、正規全射でもあります。

合成について閉じていること

$f: L \to M$ と $g: M \to N$ を正規単射とします。$f, g$ は単射なので、$L \subset M \subset N$ とみなせます。$x, y \in N$ に対して $x + y \in L$ かつ $y \in L$ であるとします。$M \subset N$ は saturated なので、$x \in M$ であり、$L \subset M$ は saturated なので $x \in L$ となります。よって $L$ は $N$ において saturated であり、$g \circ f$ は正規単射です。

$f: L \to M$ と $g: M \to N$ を正規全射とします。$f$ は正規全射なので、部分加群 $T \subset L$ が存在し、$f$ は射影 $\pi_1: L \to L / T$ に一致します。$g$ は正規全射なので、部分加群 $H \subset L / T$ が存在し、$g$ は射影 $\pi_2: L / T \to (L/T)/H$ に一致します。このとき

$$T \subset \pi_1^{-1}(H) \subset L$$

なので、第 3 同型定理から

$$L / \pi_1^{-1}(H) \simeq (L / T) / (\pi_1^{-1}(H) / T)$$

となります。$\pi_1^{-1}(H) / T \simeq H$ なので、$g \circ f$ は

$$\pi_2 \circ \pi_1: L \to (L/T) / H \simeq L / \pi_1^{-1}(H) $$

と一致し、正規全射になります。

pushout の存在

$i: M \to N$ を正規単射、$j: M \to M^{\prime}$ を正規全射とします。$j$ は staturated な部分加群 $L \subset M$ が存在して $\pi: M \to M /L$ に一致するので、$M^{\prime}$ をあらかじめ $M /L$ に置き換えます。また、$i$ は単射なので、$i(L) \subset N$ を $L$ と同一視します。

このとき、以下の可換図式が pushout で、$i^{\prime}: M / L \to N / L$ が正規単射であることを示します。$\pi^{\prime}: N \to N / L$ が正規全射であることは明らかです。

\begin{equation} \vcenter{ \xymatrix{ M \ar[r]^{i} \ar[d]_{\pi} & N \ar[d]^{\pi^{\prime}} \\ M / L \ar[r]^{i^{\prime}} & N / L } \tag{*} } \end{equation}

まずは $i^{\prime}$ が正規単射であることを確認します。$i^{\prime}$ が単射であることは明らかなので、$i^{\prime}(M / L) \subset N / L$ が staturated であることを確認すれば十分です。$i^{\prime}$ は単射なので、$i^{\prime}(M / L)$ を $M / L$ と同一視します。$[x], [y] \in N / L$ にを $x, y \in N$ の同値類とし、$[x] + [y] \in M / L$、$[y] \in M /L$ とします。$[x] + [y] = [m]$、$[y] = [m^{\prime}]$ を満たす $m, m^{\prime} \in M$ をとると、$l_1, l_2, l_3, l_4 \in L$ が存在して

\begin{align} x + y + l_1 &= m + l_2, \\ y + l_3 &= m^{\prime} + l_4 \end{align}

を満たします。このとき、

\begin{align} x + m^{\prime} + l_1 + l_4 &= x + (m^{\prime} + l_4) + l_1\\ &= x + y + l_3 + l_1 \\ &= (x + y + l_1) + l_3 \\ &= m + l_2 + l_3 \end{align}

が成り立ち、$x + m^{\prime} + l_1 + l_4 \in M$ となりますが、$i$ が正規単射なので $M$ は $N$ において saturated であり、$x \in M$ となります。よって $[x] \in M / L$ となり、$M / L$ が $N/ L$ において saturated であることがわかりました。従って $i^{\prime}$ は正規単射です。

次に pushout であることを示します。$R$ 半加群 $K$ と $R$ 準同型 $\alpha: M / L \to K$、$\beta: N \to K$ が、$\beta \circ i = \alpha \circ \pi$ を満たすとします。

\[ \xymatrix{ M \ar[r]^{i} \ar[d]_{\pi} & N \ar[d]^{\pi^{\prime}} \ar@/^1em/[rdd]^{\beta} &\\ M / L \ar[r]^{i^{\prime}} \ar@/_1em/[rrd]_{\alpha} & N / L & \\ && K } \]

このとき、この図式を可換にする $\gamma: N / L \to K$ が唯一つ存在することを示します。任意の $l \in L$ に対して

$$\beta(l) = \beta \circ i(l) = \alpha \circ \pi(l) = 0_K$$

なので、$x, y \in N$ に対して $x \sim y$ のとき、つまり $x + l_1 = y + l_2$ を満たす $l_1, l_2 \in L$ が存在するとき、

$$\beta(x) = \beta(x + l_1) = \beta(y + l_2) = \beta(y)$$

を満たします。このとき、$\gamma([x]) = \beta(x)$ と定義すると $\gamma$ は代表元の取り方によらずに定まります。また、$\gamma \circ \pi^{\prime} = \beta$ を満たすとすれば、$\gamma$ をこのように定めるしかありません。よって図式 $(*)$ が pushout であることがわかりました。

pullback の存在

$i^{\prime}: M^{\prime} \to N^{\prime}$ を正規単射、$j^{\prime}: N \to N^{\prime}$ を正規全射とします。このとき、

$$M := {j^{\prime}}^{-1} (i^{\prime}(M^{\prime})) \subset N$$

とおき、$i: M \to N$ を包含写像としたとき、以下の可換図式が pullback であることを示します。

\begin{equation} \vcenter{ \xymatrix{ M \ar[r]^{i} \ar[d]_{j^{\prime}|_M} & N \ar[d]^{j^{\prime}} \\ M^{\prime} \ar[r]_{i^{\prime}} & N^{\prime} } \tag{**} } \end{equation}

まず $i$ が正規単射であることを確認しましょう。$i^{\prime}$ が正規単射なので、$i^{\prime}(M^{\prime}) \subset N^{\prime}$ は saturated であり、saturated な部分加群の逆像は saturated なので、$M = {j^{\prime}}^{-1} (i^{\prime}(M^{\prime}))$ は $N$ において saturated です。よって $i$ は正規単射です。

次に $j^{\prime}|_M$ が正規全射であること確認しましょう。$j^{\prime}$ は正規全射なので、saturated な部分加群 $L \subset N$ が存在して、$j^{\prime}$ は $\pi^{\prime}: N \to N / L$ と一致します。$M$ の定義から $L \subset M$ であり、$j^{\prime}|_M$ は $\pi^{\prime}|_M: M \to M / L$ と一致するので、正規全射です。

最後に図式 $(**)$ が pullback であることを示します。$\pi = \pi^{\prime}|_M$ とおきます。$R$ 準同型 $K: \alpha \to M / L$、$\beta: K \to N$ が $i^{\prime} \circ \alpha = \pi^{\prime} \circ \beta$ を満たすとします。このとき、以下の図式を可換にする $R$ 準同型 $\gamma: K \to M$ が唯一つ存在することを示します。

\[ \xymatrix{ K \ar@/^1em/[rrd]^{\beta} \ar@/_1em/[rdd]_{\alpha} & & & \\ & M \ar[r]^{i} \ar[d]_{\pi} & N \ar[d]^{\pi^{\prime}} \\ & M / L \ar[r]^{i^{\prime}} & N / L } \]

まず、$\beta(K) \subset i(M)$ であることを確認しましょう。$x \in K$ に対し

$$i^{\prime} \circ \alpha(x) = \pi^{\prime} \circ \beta(x)$$

を満たします。$\pi(m) = \alpha(x)$ を満たす $m \in M$ を選ぶと、

\begin{align} \pi^{\prime} \circ i(m) &= i^{\prime} \circ \pi(x) \\ &= i^{\prime} \circ \alpha(x) \\ &= \pi^{\prime} \circ \beta(x) \end{align}

が成り立ちます。よって $l_1, l_2 \in L$ が存在して、

$$\beta(x) + l_1 = m + l_2$$

を満たします。$L \subset M$ であることと、$i$ が正規単射であることから $i(M)$ が $N$ において saturated なので、$\beta(x) \in i(M)$ となります。

以上から、$\gamma(x) = \beta(x) \in M$ とおくと、$\gamma$ は $K$ から $M$ への $R$ 準同型であり、図式を可換にします。$i \circ \gamma = \beta$ を満たすにはこの定め方しかないので、$\gamma$ の一意性もわかります。よって図式 $(**)$ は pullback です。

pullback と pushout の同値性

$i: M \to N$、$i^{\prime}: M^{\prime} \to N^{\prime}$ を正規単射、$j: M \to M^{\prime}$、$j^{\prime}: N \to N^{\prime}$ を正規全射とし、以下の図式が可換であるとします。

\[ \xymatrix{ M \ar[r]^{i} \ar[d]_{j} & N \ar[d]^{j^{\prime}} \\ M^{\prime} \ar[r]_{i^{\prime}} & N^{\prime} } \]

この図式が pullback であることと pushout であることが同値であることを確認しましょう。pullback であるときも pushout であるときも、上記の図式は部分加群 $L \subset M$ が存在して

\[ \xymatrix{ M \ar[r]^{\pi} \ar[d]_{j} & N \ar[d]^{\pi^{\prime}} \\ M / L \ar[r]_{i^{\prime}} & N / L } \]

と一致します。これが pullback かつ pushout であることはすでに確認しました。よって pullback であることと pushout であることは同値です。

以上から、$(R – \mathcal{SMod}, \mathfrak{M}, \mathfrak{E})$ が proto-exact category であることが示されました。

まとめ

半環 $R$ 上の半加群の圏が正規単射を許容的単射、正規全射と許容的全射として proto-exact category になることを確認しました。proto-exact category は完全列が定義できるのでホモロジーも定義できそうですが、その辺りが気になります。気が向いたら勉強してみようと思います。

参考文献

[JST] JAIUNG JUN, MATT SZCZESNY, AND JEFFREY TOLLIVER. PROTO-EXACT CATEGORIES OF MODULES OVER SEMIRINGS AND HYPERRINGS

[JRT] JAIUNG JUN, SAMARPITA RAY, AND JEFFREY TOLLIVER. LATTICES, SPECTRAL SPACES, AND CLOSURE OPERATIONS ON IDEMPOTENT

[NR] Antonio Di Nola, Ciro Russo. Semiring and semimodule issues in MV-algebras

[DK] Tobias Dyckerhoff and Mikhail Kapranov. Higher Segal spaces I. arXiv preprint arXiv:1212.3563, 2012.

[nLab] nLab. normal monomorphism