べき級数の収束半径から円周率を求める

べき級数 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ には収束半径と呼ばれる数 $r \in [0, \infty]$ が定まっており、$|x| < r$ においてべき級数が収束して、和、差、積、微分積分などが自由に行えることが知られています。また収束半径を係数から求める、以下の判定法が知られています。

  1. (ダランベールの判定法) ${\displaystyle \lim_{n\to \infty} \left|\frac{a_n}{a_{n+1}}\right|}$ が存在すれば、それは $\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ の収束半径と一致する。
  2. (コーシー・アダマールの判定法) ${\displaystyle \liminf_{n\to \infty} \frac{1}{\sqrt[n]{|a_n|}}}$ は $\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ の収束半径と一致する。

これらのことは以下の 2 つの記事に詳しく載せています。

上記のことは $x$ が複素数の範囲でも成り立ちます。(複素数の範囲で考える場合は $x$ の代わりに $z$ を用いることとします。) そして、もしあらかじめ別の方法で収束半径がわかっていて、それが円周率と関わる値であれば、上記の方法で円周率を求めることができます。

正則関数に関する事実を用いると、上記の方法を用いなくてもべき級数の収束半径がわかることがあります。例えば $|z -a| < r$ で正則な関数 $f(z)$ が、$|z -a| < r$ で $0$ にならず、$|z -a| = r$ を満たすある点 $z_0$ で $f(z_0) = 0$ となるとします。このとき $\displaystyle \frac{1}{f(z)}$ は $|z -a| < r$ で正則なので $|z -a| < r$ でべき級数展開可能であり、かつ $z_0$ で定義できないので、その収束半径は $r$ となります。これについては以下の記事で述べています。

例えば $\cos z$ は $|z| < {\displaystyle \frac{\pi}{2}}$ で正則で $\cos z \neq 0$ を満たし、${\displaystyle \cos \frac{\pi}{2}} = 0$ なので、 ${\displaystyle \frac{1}{\cos z}}$ を原点を中心にべき級数展開したものの収束半径は ${\displaystyle \frac{\pi}{2}}$ となります。他にも

$$\tan z, \ \frac{1}{e^z+1}, \ \frac{z}{e^z -1}, \ \frac{1}{\sin z + 1}$$

などのべき級数展開の収束半径は $\pi$ に関わる値になります。

この記事では、${\displaystyle \frac{1}{\cos z}}$ ${\displaystyle \frac{z}{e^z -1}}$ に絞ってべき級数展開の収束半径を計算し、円周率の求め方を紹介します。動画では $\displaystyle \frac{1}{e^z + 1}$ でも円周率を計算していますが、これについては動画で説明しきれなかった部分だけ解説します。

指数関数、三角関数の複素数への拡張について

まずは収束半径を求めるために、指数関数や三角関数の複素数への拡張とその性質を調べます。

指数関数と三角関数の複素数への拡張

$e^x$ や $\sin x$, $\cos x$ は

\begin{align} e^x &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n \\ \sin x &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1} \\ \cos x &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} \end{align}

とべき級数展開され、これらは実数全体で収束します。$x$ を複素数としても右辺のべき級数は収束するので、べき級数展開によってこれらの関数を複素数全体に拡張することができます。つまり、$z \in \mathbb{C}$ として

\begin{align} e^z &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} z^n \\ \sin z &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} z^{2n+1} \\ \cos z &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} z^{2n} \end{align}

と定義します。べき級数は正則なので、これらの関数は $\mathbb{C}$ 全体で正則です。

実はこのような、べき級数展開を用いた複素数への拡張は、ある意味で一意的であることが知られています。それは一致の定理というものから従います。一致の定理については記事の末尾で補足します。

指数法則

まず $e^{z+w} = e^z e^w$ を示しましょう。これは二項定理を知っていれば難しくありません。

\begin{align} e^z e^w &= \left(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} z^n \right)\left(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} w^n \right)\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \sum_{k=0}^{n} \frac{1}{k!} z^k \frac{1}{(n-k)!} w^{n-k} \\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} z^k w^{n-k} \\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} (z+w)^n \\ &= e^{z +w} \end{align}

この式は全ての複素数 $z, w$ で成り立ちます。

$\cos(-z)$ と $\sin (-z)$

$\cos z$ のべき級数展開に現れる $z$ の次数は全て偶数なので

$$\cos(-z) = \cos z$$

となります。逆に $\sin z$ は $z$ の次数が全て奇数なので

$$\sin(-z) = -\sin z$$

が成り立ちます。

オイラーの公式

オイラーの公式は複素数の場合も成り立ちます。実際

\begin{align} e^{iz} &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} (iz)^n \\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n)!} (i)^{2n} z^{2n} +\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n+1)!} (i)^{2n+1} z^{2n+1} \\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} z^{2n} +\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n} i}{(2n+1)!} z^{2n+1} \\ &= \cos z +i \sin z \end{align}

となります。

三角関数を指数関数で表す

以上から

\begin{align} e^{iz} +e^{-iz} &= \cos z +\cos (-z) = 2\cos z\\ \cos z &= \frac{e^{iz} +e^{-iz}}{2}, \\[.3em] e^{iz} -e^{-iz} &= i \sin z -i\sin(-z) = 2i \sin z\\ \sin z &= \frac{e^{iz} -e^{-iz}}{2i} \end{align}

と $\sin z$, $\cos z$ を $e^z$ を用いて表すことができます。

$\displaystyle \frac{z}{e^z -1}$ から円周率を求める (ベルヌーイ数)

$\displaystyle \frac{1}{\cos x}$ の方が関数としてはわかりやすいですが、円周率の計算に必要な技術の説明には $\displaystyle \frac{z}{e^z -1}$ の方が向いているので、最初に $\displaystyle \frac{z}{e^z -1}$ を考えます。

収束半径

まずは $f(z) = \displaystyle \frac{e^z -1}{z}$ の零点集合を求めます。そのために、$e^z -1 = 0$ つまり $e^z = 1$ となる $z$ を求めましょう。$z = x + iy$ とおけば

\begin{align} e^z = e^{x+ iy} = e^x e^{iy}\end{align}

なので、絶対値を取ると

$$|e^z| = |e^x||e^{iy}| = e^x = 1$$

となり、$x = 0$ がわかります。また、オイラーの公式から

$$e^{iy} = \cos y + i\sin y = 1$$

を解けば良いです。 $\sin y = 0$ となるのは $y = n \pi$ $(n \in \mathbb{Z})$ のときのみです。ここで、$n$ が奇数の場合 $\cos y = -1$ なので $n$ は奇数ではありません。一方 $n$ が偶数のときは $\cos y = 1$ となり、条件を満たします。よって $z = 2 n \pi i$ $(n \in \mathbb{Z})$ が $e^z -1 = 0$ の全ての解です。

このことから、$z = 2 n \pi i$ $(n \in \mathbb{Z} \setminus \{0\})$ では $\frac{1}{z} \neq 0$ なので $f(z) = 0$ となります。$z = 0$ に関しては $f(z)$ の特異点なので、別に考える必要があります。$f(z)$ をべき級数展開すると

\begin{align}\frac{e^z -1}{z} & = \frac{1}{z} \left(\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n!}z^n\right) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(n+1)!}z^n \end{align}

となり、この収束半径は $\infty$ なので、$f(z)$ は $\mathbb{C}$ 全体で正則に拡張可能、つまり $z = 0$ は除去可能特異点で、$f(0) = 1$ となります。よって $f(z)$ の零点集合は

$$\{2 n \pi i \mid n \in \mathbb{Z} \setminus \{0\}\}$$

であり、$\frac{1}{f(z)}$ は $|z| < 2 \pi$ で正則、かつ原点を中心としたべき級数展開の収束半径は $2 \pi$ となります。

べき級数展開

${\displaystyle \frac{1}{f(z)} = \frac{z}{e^z -1}}$ のべき級数展開を $\sum_{n=0}^{\infty} b_n z^n$ とおくと

\begin{align} 1 &= \left(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(n+1)!}z^n\right) \left(\sum_{n=0}^{\infty} b_n z^n\right) \\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \sum_{k=0}^{n} \frac{1}{(n-k+1)!} b_k z^n \end{align}

から

$$b_0 = 1, \quad \sum_{k=0}^n \frac{b_k}{(n-k+1)!} = 0$$

が成り立ちます。よって

$$b_0 = 1, \quad b_n = -\sum_{k=0}^{n-1} \frac{b_k}{(n-k+1)!}$$

によって $b_n$ を求めることができます。ここで $B_n = n! b_n$ とおくと、

$$B_0 = 1, \quad \frac{z}{e^z -1} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_n}{n!} z^n$$

であり

\begin{align}B_n &= -n! \sum_{k=0}^{n-1} \frac{B_k}{(n+1-k)! k!} \\ &= -\frac{1}{n+1}\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n+1}{k}B_k\end{align}

となります。$B_n$ はベルヌーイ数と呼ばれています。計算すると

\begin{align} B_0 &= 1 , & B_1 &= -\frac{1}{2} \\ B_2 &= \frac{1}{6}, & B_3 &= 0 \\ B_4 &= -\frac{1}{30} , & B_5 &= 0 \\ B_6 &= \frac{1}{42} , & B_7 &= 0 \\ & \cdots \end{align}

となります。

奇数番目の項が $0$ であること

上記の計算から、$B_n$ は $n$ が $1$ より大きい奇数の時に $0$ になると予想されますが、実際に $0$ になります。それは

\begin{align}g(z) &= \frac{z}{e^z -1} +\frac{1}{2}z \\ &= 1 + \sum_{n=2}^{\infty} \frac{B_n}{n!} z^n\end{align}

とおいたとき、$g(z)$ が偶関数、つまり $g(z) = g(-z)$ が成り立つことからわかります。実際、$g(z)$ が偶関数であれば

\begin{align} & 1 + \sum_{n=2}^{\infty} \frac{B_n}{n!} z^n \\ = \ & 1 + \sum_{n=2}^{\infty} \frac{B_n}{n!} (-z)^n \\ = \ & 1 + \sum_{n=2}^{\infty} \frac{(-1)^n B_n}{n!} z^n \end{align}

なので

\begin{align} B_{2n+1} & = (-1)^{2n+1} B_{2n+1} \\ 2 B_{2n+1} &= 0 \quad (n \geq 1)\end{align}

となります。$g(z)$ が偶関数であることは

\begin{align} g(-z) &= \frac{-z}{e^{-z} -1} -\frac{1}{2}z \\ &= -z\left(\frac{e^z}{1 -e^z} +\frac{1}{2}\right) \\ &= -z\left(\frac{-1 +e^z +1}{1 -e^z} +\frac{1}{2}\right) \\ &= -z\left(\frac{1}{1 -e^z} -\frac{1}{2}\right) \\ &= \frac{z}{e^z -1} +\frac{1}{2} = g(z) \end{align}

からわかります。よって $B_{2n+1} = 0$ $(n \geq 1)$ です。

収束半径の計算

ダランベールの判定法を用いようとすると、$B_{2n+1} = 0$ となるため $\frac{|b_n|}{|b_{n+1}|}$ が収束せず都合が悪いです。そこで、奇数次の項を除いて、$w = z^2$ とおいた

$$\sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{2n}}{(2n)!} z^{2n} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{2n}}{(2n)!} w^{n}$$

というべき級数を考えます。このべき級数は $|z| < 2 \pi$ つまり $|w| = |z|^2 < 4 \pi^2$ で収束し、$|w| > 4 \pi^2$ で発散します。よって収束半径は $4 \pi^2$ となります。従ってもし

$$\lim_{n \to \infty} \frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|} = \lim_{n \to \infty} \frac{|B_{2n}|}{|B_{2n+2}|}(2n+1)(2n+2)$$

が存在すれば、それは $4 \pi^2$ に一致します。実際に計算してみると、単調減少して収束しそうな感じがします。

コーシー・アダマールの判定法はそのまま適用できて

$$2 \pi = \liminf_{n\to \infty} \frac{1}{\sqrt[2n]{|b_{2n}|}} = \liminf_{n\to \infty} \sqrt[2n]{\frac{(2n)!}{|B_{2n}|}} $$

となります。奇数の場合は $\infty$ になるので除いています。そのまま適用できるといっても、計算機で計算するには $\liminf$ をどうやって計算するのか、という問題があります。$\frac{1}{\sqrt[2n]{|b_{2n}|}}$ を実際に計算してみると、単調増加して普通に収束しそうな感じがします。

具体的な計算は以下から確認できます。

べき級数の収束半径から円周率を求める (サンプルプログラム)

ちゃんと収束するのか?

計算してみた限りは収束しそうな感じはしますが、本当に収束するということを証明します。そのために、ゼータ関数

$$\zeta(s) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^s}$$

の特殊値にベルヌーイ数が現れること、つまり

\begin{align}\zeta(2n) &= (-1)^{n-1} 2^{2n-1} \pi^{2n}\frac{B_{2n}}{(2n)!} \\ &= (-1)^{n-1} 2^{2n-1} \pi^{2n} b_{2n}\end{align}

が成り立つことを用います。(この等式については末尾のディリクレの L-関数の項を見てください。)

ダランベールの判定法

ゼータ関数とベルヌーイ数の関係から

\begin{align} \frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|} &= \frac{\zeta(2n)}{2^{2n-1}\pi^{2n}} \frac{2^{2n+1}\pi^{2n+2}}{\zeta(2n+2)}\\ &= 4\pi^2 \frac{\zeta(2n)}{\zeta(2n+2)} \end{align}

となります。$\zeta(s)$ は明らかに $s$ に関して単調減少なので、$\frac{\zeta(2n)}{\zeta(2n+2)} > 1$ つまり$\frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|} > 4\pi^2$ がわかります。さらに

\begin{align} \zeta(s) &= \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^s} \\ & \leq 1 + \sum_{n=2}^{\infty} \frac{1}{2^{s-2} n^2} \\ & \leq 1 + \frac{1}{2^{s-2}} \sum_{n=2}^{\infty} \frac{1}{n^2} \\ & \leq 1 + \frac{1}{2^{s-2}} (\zeta(2) -1) \end{align}

なので、$\zeta(s) \to 1$ $(s \to \infty)$ となります。よって $\frac{\zeta(2n)}{\zeta(2n+2)} \to 1$ であり、$\frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|}$ は $4\pi^2$ に収束します。

コーシー・アダマールの判定法

ゼータ関数とベルヌーイ数の関係から

\begin{align}\frac{1}{\sqrt[2n]{|b_n|}} &= \sqrt[2n]{\frac{(2n)!}{|B_{2n}|}} = \sqrt[2n]{\frac{2^{2n-1}\pi^{2n}}{\zeta(2n)}} \\ &= 2 \pi \ \sqrt[2n]{\frac{1}{2 \zeta(2n)}} < 2 \pi \end{align}

となります。

$$\liminf_{n\to\infty}\frac{1}{\sqrt[2n]{|b_n|}} = 2 \pi$$

はすでにわかっているので、下極限を取らなくても $n \to \infty$ で $2 \pi$ に収束します。ちなみに $\frac{1}{2}$ の $200$ 乗根は約 $0.99654$ なので、$n = 100$ まで計算しても $3.13$ 程度までしか求まらず、収束はあまり速くありません。

$\frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|}$ は単調減少か?

実はさらに、$\frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|}$ は単調減少であることがわかります。ここで、

\begin{align} & \frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|} > \frac{|b_{2n+2}|}{|b_{2n+4}|} \\ \Leftrightarrow \ & 4\pi^2 \frac{\zeta(2n)}{\zeta(2n+2)} > 4\pi^2 \frac{\zeta(2n+2)}{\zeta(2n+4)} \\[.3em] \Leftrightarrow \ & \zeta(2n)\zeta(2n+4) > \zeta(2n+2)^2 \\[.3em] \Leftrightarrow \ & \frac{\log \zeta(2n) + \log \zeta(2n+4)}{2} > \log \zeta(2n+2) \\ \end{align}

なので、$\zeta(s)$ が対数凸であれば $\frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|}$ は単調減少になります。よく知られた等式 (オイラー積)

$$\zeta(s) = \prod_{p: 素数} \frac{1}{1 -p^{-s}}$$

を用いると

$$\log \zeta(s) = -\sum_{p: 素数} \log(1 -p^{-s})$$

なので、これが凸であることを示せば良いです。そのためには $2$ 階微分が $> 0$ であることを示せばよいですが、まず $s > 1$ で項別微分できることを確認しましょう。

$p_n$ を小さい方から数えて $n$ 番目の素数とします。$s > 1$ で右辺の級数は収束するので、$s_0 > 1$ をとったとき、任意の $\varepsilon > 0$ に対して $N > 0$ が存在して、$n > N$ かつ $s > s_0$ なら

$$\varepsilon > -\sum_{m = n}^{\infty} \log(1 -p_m^{-s_0}) > -\sum_{m = n}^{\infty} \log(1 -p_m^{-s})$$

となります。よって $s > 1$ で右辺の級数は広義一様収束し、項別微分可能です。

微分を計算すると

\begin{align} \frac{d}{ds} \log \zeta(s) &= -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{-p_n^{-s} \log p_n}{1 -p_n^{-s}} \\ &= -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\log p_n}{p_n^{s}-1} \end{align}

となります。$N$ が十分大きく、$s \geq 3$ のとき

\begin{align} \sum_{n=N}^{\infty}\frac{\log p_n}{p_n^{s}-1} & < \sum_{n=N}^{\infty} \frac{\log n}{n^{3}-1} \\ & < \sum_{n=N}^{\infty} \frac{n -1}{n^{3}-1} \\ & < \sum_{n=N}^{\infty} \frac{1}{n^2} \end{align}

なので収束します ($\zeta(s)$ の微分可能性から $s > 1$ で収束すると思いますが、一応証明しました)。左辺の級数の絶対値は $s$ に関して単調減少でなので、先ほどと同様にして項別微分可能であることがわかり、

\begin{align} \frac{d^2}{ds^2} \log \zeta(s) &= -\sum_{n=1}^{\infty} \frac{-p_n^s \log p_n}{(p_n^{s}-1)^2}\log p_n \\ &= \sum_{n=1}^{\infty} \frac{p_n^s (\log p_n)^2}{(p_n^{s}-1)^2} > 0 \end{align}

なので $\log \zeta(s)$ は凸関数で、従って $\frac{|b_{2n}|}{|b_{2n+2}|}$ は単調減少です。

$\displaystyle \frac{1}{\cos z}$ から円周率を求める (セカント数)

次は $\displaystyle \frac{1}{\cos z}$ のべき級数展開の収束半径と係数を求めて、円周率を求めます。$\displaystyle \frac{1}{\cos z}$ はセカント (secant)という名前が付いていて、べき級数展開の $n$ 次の係数の $n!$ 倍はセカント数と呼ばれます。動画で説明した部分は省略します。

収束半径

動画で示した通り、$\cos z = 0$ の解は

$$\left\{\frac{\pi}{2} \pm n \pi \mid \ n \in \mathbb{Z}\right\}$$

となります。よって $\frac{1}{\cos z}$ の $0$ を中心とするべき級数展開 $\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n$ の収束半径は $\frac{\pi}{2}$ となります。

ちなみに、$\cos z = 0$ の解は実数上の関数 $\cos x = 0$ の解と一致します。それは

\begin{align} \cos z &= \frac{e^{iz} +e^{-iz}}{2}\\ &= \frac{e^{ix-y} +e^{-ix +y}}{2} \\ &= \frac{\cos x +i\sin y +e^{2y}(\cos x -i\sin y)}{2 e^y} \\ &= \cos x \left(\frac{1 + e^{2y}}{2 e^y}\right) + i\sin x \left(\frac{1 -e^{2y}}{2 e^y}\right) \end{align}

と変形すると、実部 $= 0$ から $\cos x = 0$ がわかり、そのとき $\sin x \neq 0$ なので $1 -e^{2y} = 0$ つまり $y = 0$ となって、$\cos z = 0$ を満たすのは $z$ が実数であるときのみであることがわかります。

べき級数の係数

$\frac{1}{\cos z}$ の $0$ を中心としたべき級数展開を $\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n$ とおいて、係数 $a_n$ を求めます。それには $\cos z$ との積が $1$ であることから

\begin{align} 1 &= \frac{1}{\cos z} \cdot \cos z \\ &= \left(\sum_{n=0}^{\infty} a_n z^n \right)\left(\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} z^{2n}\right) \end{align}

の各次数の係数を比較すれば良いです (計算は動画で行ったので省略します)。すると、以下のようになります。

\begin{align} a_0 &= 1, \quad a_1 = 0 \\ a_{2n} &= -\sum_{k=0}^{n-1} \frac{(-1)^{(n-k)}}{(2n-2k)!} a_{2k} \\ a_{2n+1} &= -\sum_{k=0}^{n-1} \frac{(-1)^{(n-k)}}{(2n-2k)!} a_{2k+1} \end{align}

この式を用いると、$a_0 = 1$, $a_1 = 0$ から $a_n$ を逐次的に求めることができます。特に、$n$ が奇数のときは、$a_1 = 0$ であることから $a_n = 0$ が逐次的に従います。それは $\frac{1}{\cos z}$ が偶関数であることからもわかります。

セカント数

$S_n = n! a_n$ はセカント数と呼ばれ

$$\frac{1}{\cos z} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{S_n}{n!} z^n$$

を満たします。$a_n$ の満たす式から $S_0 = 1$, $S_{2n+1} = 0$ $(n \geq 0)$,

\begin{align} 0 &= \sum_{k=0}^{n} \frac{(-1)^{n-k}}{(2n-2k)!} (2k)! S_{2k} \\ &= \frac{1}{(2n)!} \sum_{k=0}^{n} (-1)^{n-k} \binom{2n}{2k} S_{2k} \\ \end{align}

なので

$$\sum_{k=0}^{n} (-1)^{n-k} \binom{2n}{2k} S_{2k} = 0$$

という漸化式を満たすことがわかります。計算すると

\begin{align} S_0 &= 1, & &S_2 = 1, \\ S_4 &= 5, & &S_6 = 61, \\ S_8 &= 1385, & &S_{10} = 50521 \end{align}

となります。

円周率の計算

セカント数は奇数番目が $0$ なので、そのままでは $|a_n| / |a_{n+1}|$ の極限が存在せずダランベールの判定法を適用できませんが、$w = z^2$ とおくと

$$\frac{1}{\cos z} = \sum_{n=0}^{\infty} a_{2n} z^{2n} = \sum_{n=0}^{\infty} a_{2n} w^n$$

となり、真ん中のべき級数は $|z| < \frac{\pi}{2}$ で収束するので、右辺のべき級数は

$$|w| = |z|^2 < \frac{\pi^2}{4}$$

で収束します。よって以下の極限が存在すれば

\begin{align} \frac{\pi^2}{4} &= \lim_{n \to \infty} \frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|} \\ &= \lim_{n \to \infty} \frac{|S_{2n}|}{|S_{2n+2}|}(2n+2)(2n+1) \end{align}

が成り立ちます。

コーシー・アダマールの判定法はそのまま適用できて

\begin{align} \frac{\pi}{2} &= \liminf_{n \to \infty} \sqrt[n]{\frac{1}{|a_n|}} \\ & = \liminf_{n \to \infty} \sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}} \end{align}

が成り立ちます。

ただし、円周率を厳密に計算する場合は、$\frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|}$ や $\sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}}$ が円周率より大きいのか小さいのか、という評価が必要になります。

ちゃんと収束するのか?

ディリクレベータ関数 $\beta(s)$ を

\begin{align} & \beta(s) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(2k+1)^s} \\ = \ & 1 -\frac{1}{3^s} + \frac{1}{5^s} -\frac{1}{7^s} +\cdots \end{align}

と定義します。このとき、$\beta(s)$ とセカント数には

\begin{align}\beta(2n+1) & = \frac{\pi^{2n+1}}{2^{2n+2}}\frac{S_{2n}}{(2n)!} \\ &= \frac{\pi^{2n+1}}{2^{2n+2}} a_{2n}\end{align}

という関係があることが知られています (この等式については末尾のディリクレの L-関数の項を見てください)。この式を使って極限が存在することを示します。

ダランベールの判定法

セカント数とディリクレベータ関数の関係から

\begin{align} \frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|} &= \frac{2^{2n+2}|\beta(2n+1)|}{\pi^{2n+1}} \frac{\pi^{2n+3}}{2^{2n+4}|\beta(2n+3)|}\\ &= \frac{\pi^2}{4} \frac{|\beta(2n+1)|}{|\beta(2n+3)|} \end{align}

となります。ここで、$s \geq 1$ のとき

\begin{align}& \beta(s) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)^s} \\ = \ & \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(4n+1)^s} -\frac{1}{(4n+3)^s} > 0 \end{align}

であり、

\begin{align}\alpha_n(s) &= \frac{1}{(4n-1)^s} -\frac{1}{(4n+1)^s} \\ \beta(s) &= 1 -\sum_{n=1}^{\infty} \alpha_n(s)\end{align}

と分けたとき、$\alpha_n(s) > 0$ で

\begin{align} & \alpha_n(s) -\alpha_n(s+1) \\ = \ & \frac{1}{(4n-1)^s} -\frac{1}{(4n+1)^s} -\frac{1}{(4n-1)^{s+1}} +\frac{1}{(4n+1)^{s+1}} \\ = \ & \frac{1}{(4n-1)^s} \left(1 -\frac{1}{4n-1}\right) -\frac{1}{(4n+1)^s}\left(1 -\frac{1}{4n+1}\right) \\ > \ & \frac{1}{(4n-1)^s} \frac{4n-2}{4n-1} -\frac{1}{(4n+1)^s} \\ = \ & \frac{1}{(4n-1)^s} \left(\frac{4n-2}{4n-1} -\left(\frac{4n-1}{4n+1}\right)^s\right) \end{align}

なので、$s \geq 1$ であれば

\begin{align} & \frac{4n-2}{4n-1} -\left(\frac{4n-1}{4n+1}\right)^s \\ > \ & \frac{4n-2}{4n-1} -\frac{4n-1}{4n+1} \\ = \ & \frac{(4n-2)(4n+1) -(4n-1)^2}{(4n-1)(4n+1)} \\ = \ & \frac{16n^2 -4n -2 -(16n^2 -8n +1)}{(4n-1)(4n+1)} \\ = \ & \frac{4n-1}{(4n-1)(4n+1)} > 0 \end{align}

となり、$\alpha_n(s) > \alpha_n(s+1)$ となります。従って $0 < \beta(s) < \beta(s+1)$ であり、

$$\frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|} = \frac{\pi^2}{4} \frac{\beta(2n+1)}{\beta(2n+3)} < \frac{\pi^2}{4}$$

となります。これで、$\frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|}$ を計算して大きいものをとれば、とりあえず円周率の評価が得られます。また、

\begin{align} \alpha_n(s) = \frac{1}{(4n-1)^{s}}-\frac{1}{(4n+1)^{s}} \leq \frac{1}{(4n-1)^{s}} \end{align}

なので

\begin{align} 1 > \beta(s) &\geq 1 -\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{(4n-1)^s} \\\ &\geq 1 -\sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{n^s} \\ &= 2 -\zeta(s) \\ \end{align}

となり、$\beta(s) \to 1$ $(s \to \infty)$ であることがわかります。よって $\frac{\beta(2n+1)}{\beta(2n+3)} \to 1$ であり、$\frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|} \to \frac{\pi}{4}$ がわかります。

コーシー・アダマールの判定法

ディリクレベータ関数とセカント数の関係から

\begin{align} \sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}} &= \sqrt[2n]{\frac{\pi^{2n+1}}{2^{2n+2} \beta(2n+1)}} \\ &= \frac{\pi}{2} \sqrt[2n]{\frac{\pi}{4 \beta(2n+1)}} \end{align}

となります。$\beta(1) = \frac{\pi}{4}$ なので (ライプニッツ級数)、自然数 $n \geq 1$ に対して $\beta(n) \geq \frac{\pi}{4}$ であり、$n \geq 1$ で

$$\sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}} \leq \frac{\pi}{4}$$

となります。これから

\begin{align} & \liminf_{n\to\infty} \sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}} \\ = \ & \lim_{n\to\infty} \sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}} = \frac{\pi}{4} \end{align}

となることがわかります。特に、$\sqrt[2n]{\frac{1}{|a_{2n}|}}$ を計算してとりあえず大きい値を採用していけば円周率が求まります。

$\frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|}$ は単調増加か?

計算した限り $\frac{|a_{2n}|}{|a_{2n+2}|}$ は単調増加しそうですが、本当にそうなのか考察します。それを示すにはベルヌーイ数の場合とは逆に、$\log \beta(s)$ が凹関数であることを示せば良いです。ディリクレベータ関数は

$$\beta(s) = \prod_{\substack{p: 素数 \\ p \equiv 1 \pmod 4}} \frac{1}{1 -p^{-s}} \prod_{\substack{p: 素数 \\ p\equiv 3 \pmod 4}} \frac{1}{1 +p^{-s}}$$

というオイラー積表示をもつので (末尾のディリクレの L-関数の項を見てください)、これを用いて $\log \beta(s)$ の $2$ 階微分を計算すると

$$\frac{d^2}{ds^2} \log \beta(s) = \sum_{\substack{p: 素数 \\ p \equiv 1 \pmod 4}} \frac{p^{s} (\log p)^2}{(p^s-1)^2} -\sum_{\substack{p: 素数 \\ p \equiv 3 \pmod 4}} \frac{p^{s} (\log p)^2}{(p^s+1)^2}$$

となります。これが $0$ より小さければ $\log \beta(s)$ は凹関数となりますが、各項は正なので $4$ で割って $3$ 余る素数と $4$ で割って $1$ 余る素数のどちらがどのくらい多いか?という問題と関わります。

[小山] によると、ディリクレの算術級数定理から漸近的にはどちらもほぼ同じ数であるものの、$4$ で割って $3$ 余る素数の方が、小さい素数から順に数えたときに多く現れることが知られています。特に、ほとんどの自然数 $N$ に対して、 $4$ で割って $3$ 余る $N$ 以下の素数の数は、$4$ で割って $1$ 余る $N$ 以下の素数より多いことが知られているようです。この現象は「チェビシェフの偏り」と呼ばれているようです。

そうであれば、$\log \beta(s)$ は凹関数であると予想されますが、厳密な証明にはもっと上手い方法が必要であると思われます。

ちなみにゼータ関数やディリクレベータ関数の一般化として、ディリクレの L-関数と呼ばれるものが存在します。L-関数については記事の末尾で簡単にまとめます。

$\displaystyle \frac{1}{e^z+1}$ から円周率を求める

動画では $\displaystyle \frac{1}{e^z+1}$ でも計算をしましたが、

$$\frac{1}{e^z+1} = \sum_{n=0}^{\infty} d_n z^n$$

とおいたとき、$\pi < \frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|}$ が成り立つのか、$\pi$ に収束するのかが問題でした。また、$d_{2n} = 0$ $(n \geq 1)$ の証明も省略しました。この 2 つを解説します。

$d_{2n} = 0$ であること

$d_0 = \frac{1}{2}$ なので、$\frac{1}{e^z+1}$ から $d_0$ を引いた

$$g(z) = \frac{1}{e^z+1} -\frac{1}{2}$$

が奇関数であることを示せば良いです。計算すると

\begin{align} g(-z) &= \frac{1}{e^{-z} +1} -\frac{1}{2} \\ &= \frac{e^{z}}{e^{z} +1} -\frac{1}{2} \\ &= 1 -\frac{1}{e^{z} +1} -\frac{1}{2} \\ &= -\left(\frac{1}{e^{z} +1} -\frac{1}{2}\right) \\ &= -g(-z) \end{align}

となり、奇関数であることがわかります。よって $d_{2n} = 0$ となります。

部分分数展開

ベルヌーイ数やセカント数のように、$d_{2n}$ をある関数の特殊値として表されれば、$\frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|}$ の評価がしやすいです。ベルヌーイ数やセカント数は一般ベルヌーイ数と呼ばれているものの一種で、L-関数の特殊値を表すときによく用いられますが、$d_{2n-1}$ に関してはおそらくそうではないように思われます。しかし、部分分数展開というものを用いると、ある関数の特殊値として表されることがわかります。部分分数展開については [子葉3] を見てください。

まず、

$$\frac{1}{e^z -1} = \frac{1}{z} + \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{n+1}}{n!} z^n$$

なので $\frac{1}{e^z -1}$ の原点での留数は $1$,

$$\frac{1}{e^z+1} = \frac{1}{(-1)^{2n+1}(e^{z-(2n +1)\pi i)} -1)}$$

なので、$z = (2n +1) \pi i$ での留数は $-1$ です。よって部分分数展開すると

\begin{align} & \frac{1}{e^z+1} \\ = \ & \frac{1}{2} + \sum_{n=-\infty}^{\infty}(-1)\left(\frac{1}{z-(2n+1) \pi i} + \frac{1}{(2n+1) \pi i}\right) \\ = \ & \frac{1}{2} -\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1}{z-(2n+1) \pi i} +\frac{1}{z+(2n+1) \pi i} \right.\\ & \qquad \qquad \qquad \quad \left. + \frac{1}{(2n+1) \pi i} +\frac{1}{-(2n+1) \pi i}\right) \\ = \ & \frac{1}{2} -\sum_{n=0}^{\infty} \frac{2z}{z^2 +(2n+1)^2\pi^2} \\ = \ & \frac{1}{2} -\sum_{n=0}^{\infty} \frac{2z}{(2n+1)^2\pi^2}\frac{1}{1 + \frac{z^2}{(2n+1)^2\pi^2}} \\ = \ & \frac{1}{2} -\sum_{n=0}^{\infty} \frac{2z}{(2n+1)^2\pi^2}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k z^{2k}}{(2n+1)^{2k} \pi^{2k}} \\ = \ & \frac{1}{2} +\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^{k+1} 2}{\pi^{2k+2}}z^{2k+1} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n+1)^{2k+2}}\\ = \ & \frac{1}{2} +\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^{k+1} 2 \lambda(2k+2)}{\pi^{2k+2}}z^{2k+1} \end{align}

となります。ただし

\begin{align} \lambda(s) &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n+1)^{s}} \\ &= 1 + \frac{1}{3^s} + \frac{1}{5^s} + \cdots \end{align}

とおきました。以上から

\begin{align} d_{2n} &= 0 \quad (n \geq 1) \\[.3em] d_{2n-1} &= \frac{(-1)^n 2 \lambda(2n)}{\pi^{2n}} \end{align}

がわかりました。

$\frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|}$ の収束

$\lambda(s)$ を使って $\frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|}$ を表すと

\begin{align} \frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|} &= \frac{2 \lambda(2n)}{\pi^{2n}} \frac{\pi^{2n+2}}{2 \lambda(2n+2)} \\ &= \pi^2 \frac{\lambda(2n)}{\lambda(2n+2)} \end{align}

となります。ここで $\lambda(s)$ は $s$ に関して単調減少なので、

$$\frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|} > \pi^2$$

がわかります。また、$1 < \lambda(s) < \zeta(s)$ かつ $\zeta(s) \to 1$ $(s \to \infty)$ なので、$\lambda(s) \to 1$ $(s \to \infty)$ であり、$\frac{\lambda(2n)}{\lambda(2n+2)} \to 1$ つまり

$$\lim_{n \to \infty} \frac{|d_{2n-1}|}{|d_{2n+1}|} = \pi^2$$

がわかります。

ベルヌーイ数との関係

$\lambda(s)$ と $\zeta(s)$ は

\begin{align} \zeta(s) &= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n^s} \\ &= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n)^s} + \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{(2n+1)^s} \\ &= \frac{1}{2^s} \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n^s} + \lambda(s) \\ &= \frac{1}{2^s} \zeta(s) + \lambda(s) \\ \lambda(s) &= \left(1 -\frac{1}{2^s}\right) \zeta(s) \end{align}

という関係を持ちます。ここで

$$\frac{B_{2n}}{(2n)!} = \frac{(-1)^{n-1}}{2^{2n-1} \pi^{2n}}\zeta(2n)$$

という関係を用いると

\begin{align} d_{2n-1} &= \frac{(-1)^{n} 2 \lambda(2n)}{\pi^{2n}} \\ &= \frac{(-1)^{n} 2 \left(1 -\frac{1}{2^{2n}}\right) \zeta(2n)}{\pi^{2n}} \\ &= \frac{(-1)^{n} 2 \left(1 -\frac{1}{2^{2n}}\right)}{\pi^{2n}} (-1)^{n-1} (2^{2n-1} \pi^{2n}) \frac{B_{2n}}{(2n)!} \\ &= -2 \left(1 -\frac{1}{2^{2n}}\right) 2^{2n-1} \frac{B_{2n}}{(2n)!} \\ &= -(2^{2n} -1)\frac{B_{2n}}{(2n)!} \end{align}

となることがわかります。特に、$D_n = n!d_n$ とおくと

$$D_{2n-1} = -\frac{2^{2n} -1}{2n}B_{2n}$$

となります。

補足

一致の定理

べき級数展開によって関数を複素数に拡張しましたが、実はこのような拡張は一意的であることが知られています。それは一致の定理という以下の定理から従います。

定理. 一致の定理

$D \subset \mathbb{C}$ を領域とし, $f(z), g(z)$ は $D$ 上の正則関数とする. このとき $D$ 内に集積点をもつ部分集合 $E \subset D$ 上で $f(z)$ と $g(z)$ が一致するならば, $D$ 上で $f(z) = g(z)$ となる. $\Box$

$E$ は $D$ 内の点 $c$ に収束する点列 $\{z_n\}_{n=1}^{\infty}$ で、$z_n \neq c$ を満たすもの、と読み替えても問題ありません。特に正則関数 $f(z)$, $g(z)$ が、$D$ に含まれる区間 $I \subset \mathbb{R}$ 上で定義されていて、さらに $I$ 上で一致すれば、$I$ 上の適当な点列を取ることで、領域 $D$ 上で $f = g$ となることがわかります。べき級数による関数の複素数への拡張は、他の方法で拡張しても $\mathbb{R}$ 上で一致するので、拡張された関数が正則であれば一致します。

一致の定理の証明は、正則関数が局所的にべき級数展開可能であることを知っていればそれほど難しくありません。

零点の孤立性

基本となるのは、正則関数 $f$ が恒等的に $0$ でないとき、$f$ の零点、つまり $f(z) = 0$ となる点が孤立していること、つまり $f(z_0) = 0$ を満たすならば、$z_0$ のある開近傍 $U$ が存在して、$U \setminus \{z_0\}$ 上の点で $f(z) \neq 0$ となることです ($f$ が恒等的に $0$ である場合に限り孤立していない)。まずこれを示します。

正則関数 $f(z)$ が $z_0 \in D$ で $f(z_0)= 0$ を満たすとします。$f$ を $z_0$ を中心にべき級数展開すると、ある $r > 0$ が存在して $|z -z_0| < r$ のときに

$$f(z) = \sum_{n=1}^{\infty} a_n (z -z_0)^n$$

となります ($f(z_0) = 0$ から $a_0 = 0$)。

ここで、$a_m \neq 0$ となる $m$ が存在すれば

$$f(z) = (z -z_0)^m \sum_{n=0}^{\infty} a_{m +n} (z -z_0)^n$$

と表されますが

$$h(z) = \sum_{n=0}^{\infty} a_{m +n} (z -z_0)^n$$

とおけば $h(z_0) \neq 0$ を満たします。$h(z_0)$ は正則、特に連続なので $z_0$ のある開近傍 $U$ が存在して、$U$ 上で $h(z) \neq 0$ となります。$(z -z_0)^m$ は $z_0$ 以外で $0$ にならないので、それらの積である $f(z)$ も $U$ 上で $z_0$ を除いて $0$ になりません。

一方、$a_m \neq 0$ となる $m$ が存在しなければ、$f$ は $|z -z_0| < r$ で $0$ になります。このとき $D$ 上の全ての点で $f(z) = 0$ となることを示します。$z_1 \in D$ に対して曲線 $\gamma: [0, 1] \to D$ で $\gamma(0) = z_0$, $\gamma(1) = z_1$ を満たすものを取ります。$t \in [0, 1]$ が $0$ に近ければ、 $0 \leq s \leq t$ で $\gamma(s)$ は $|z -z_0| < r$ に含まれるので $f(\gamma(s)) = 0$ となります。$0 \leq s \leq t$ で $f(\gamma(s)) = 0$ を満たす、という性質を持つ $t$ 全体の上限を $\tau$ とし、$\tau = 1$ であることを示します。

$\gamma(\tau)$ でのべき級数展開

$$f(\gamma(\tau)) = \sum_{n=1}^{\infty} b_n (z -\gamma(\tau))^n$$

を取ると、これは任意の $n$ に対して $b_n = 0$ となります。実際、もし $b_m \neq 0$ を満たすものが存在すると、$\gamma(\tau)$ のある開近傍 $U$ が存在して $U$ 上の $\gamma(\tau)$ 以外の点で $f(z) \neq 0$ となりますが、これは $\tau$ の取り方に反します。よって $\gamma(\tau)$ のある開近傍 (べき級数の収束域) $V$ 上で $f(z) = 0$ となりますが、$\tau < 1$ の場合は $\tau$ の取り方に反します。よって $\tau = 1$ つまり $f(z_1) = 0$ となります。$z_1$ は任意だったので、$f(z)$ は $D$ 上で $0$ となります。以上で正則関数の零点の孤立性が示されました。

($D$ 上の任意の 2 点が曲線で結ばれること (弧状連結性) を用いましたが、連結性を定義通り用いる方法もあります。)

一致の定理の証明

$f(z) -g(z)$ が $D$ 上で $0$ となることを示せば、$D$ 上で $f(z) = g(z)$ となることが示されます。$f(z) -g(z)$ は $D$ 内に集積点をもつ部分集合 $E$ 上で $0$ となりますが、これは $f(z) -g(z)$ の零点が孤立していないということなので、$D$ 上で $f(z) -g(z) = 0$ となります。これで一致の定理が示されました。

ディリクレの L-関数

ゼータ関数の一般化の一種であるディリクレの L-関数について簡単にまとめます。

ディリクレ指標

写像 $\chi: \mathbb{Z} \to \mathbb{C}^{\times}$ で、任意の $n, m \in \mathbb{Z}$ に対して

  1. $\chi (nm) = \chi(n) \chi(m)$.
  2. $n \equiv m \pmod N$ ならば $\chi(n) = \chi(m)$.
  3. $n$ が $N$ と互いに素でないならば $\chi(n) = 0$.

を満たすとき、$\chi$ を法 $N$ のディリクレ指標と言います。$\mathbb{Z} / N\mathbb{Z}$ の可逆元全体は $N$ と互いに素な元全体と一致するので、$\chi$ は $(\mathbb{Z} / N \mathbb{Z})^{\times}$ から $\mathbb{C}^{\times}$ への群準同型を与えます。逆にこのような群準同型に対して、$N$ と互いに素でない整数の場合は $0$、それ以外は $N$ を法として $\mathbb{Z}$ に拡張すれば、それはディリクレ指標になります。

$n \in (\mathbb{Z} / N \mathbb{Z})^{\times}$ に対してある自然数 $m$ が存在して $n^m = 1$ となるので、$\chi(n)$ は $1$ の冪根になります。

L-関数

ディリクレ指標 $\chi$ に対してディリクレの L-関数を

$$L(s, \chi) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{\chi(s)}{n^s}$$

と定義します。$\chi_1$ が $\chi_1(0) = 0$, $\chi_1(n) = 1$ $(n \neq 0)$ を満たすディリクレ指標のとき

$$L(s, \chi_1) = \zeta(s)$$

となります。

また、$\chi_2$ を法 $2$ のディリクレ指標とすれば、$\chi_2(1) = 1$, $\chi_2(2) = 0$ で

\begin{align} L(s, \chi_2) &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{\chi_2(2n+1)}{(2n+1)^{s}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(2n+1)^{s}} \\ &= 1 +\frac{1}{3^s} +\frac{1}{5^s} +\frac{1}{7^s} +\cdots \end{align}

となります。

他にも、$\chi_3$ を法 $4$ のディリクレ指標で、$\chi_3(1) = 1$, $\chi_3(3) = -1$ を満たすものとするとき

\begin{align} L(s, \chi_3) &= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{\chi_3(2n+1)}{(2n+1)^{s}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)^{s}} \\ &= 1 -\frac{1}{3^s} +\frac{1}{5^s} -\frac{1}{7^s} +\cdots \end{align}

となります。

L-関数はオイラー積表示

$$L(s, \chi) = \prod_{p: 素数} \frac{1}{1 -\chi(p) p^{-s}}$$

を持ちます。これは

$$\frac{1}{1 -\chi(p) p^{-s}} = 1 + \frac{\chi(p)}{p^s} + \frac{\chi(p)^2}{p^{2s}} + \cdots$$

を用いて計算すれば (収束を気にしなければ) わかります。$\chi_3$ を先ほどの通り $\chi_3(1) = 1$, $\chi_3(3) = -1$ を満たす法 $4$ のディリクレ指標とすると

\begin{align} & 1 -\frac{1}{3^s} +\frac{1}{5^s} -\frac{1}{7^s} +\cdots \\ = \ & \prod_{\substack{p: 素数 \\ p \equiv 1 \pmod 4}} \frac{1}{1 -p^{-s}} \prod_{\substack{p: 素数 \\ p\equiv 3 \pmod 4}} \frac{1}{1 +p^{-s}} \end{align}

となります。

一般ベルヌーイ数

法 $N$ のディリクレ指標 $\chi$ に対して一般ベルヌーイ数 $B_{n, \chi}$ を

$$\sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{n, \chi}}{n!} z^n = \frac{z}{e^{Nz} -1} \sum_{a=1}^N \chi(a) e^{az}$$

を満たすものとして定義します。$\chi_1$ を $1$ を法とするディリクレ指標とすれば

\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{n, \chi_1}}{n!} z^n &= \frac{z}{e^{z} -1} e^{z} = \frac{-z}{e^{-z} -1} \\ &= -\sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_n}{n!}(-z)^n \end{align}

なので

$$B_{n, \chi_1} = (-1)^{n} B_n$$

となります。ベルヌーイ数は $n$ が $1$ 以外の奇数のとき $B_n = 0$ になるので、$n=1$ のときは符号が異なり、それ以外ではベルヌーイ数と一致します。

$\chi_2$ を法 $2$ のディリクレ指標とすると

\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{n, \chi_2}}{n!} z^n &= \frac{z}{e^{2z} -1}e^z \\ &= \frac{z e^z}{e^{2z} -1} \\ &= \frac{z (e^z-1) + z}{e^{2z} -1} \\ &= \frac{z}{e^{2z} -1} +\frac{z}{e^z +1} \end{align}

となるので、$B_{n, \chi_2}$ はベルヌーイ数 $B_n$ と $D_n$ を用いて表すことができます。(特殊値の公式からすると $D_n$ と $B_{n, \chi_2}$ は一致するはずですが、なぜか一致しません。)

$\chi_3$ を $\chi_3(1) = 1$, $\chi_3(3) = -1$ を満たす法 $4$ のディリクレ指標とすると

\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{B_{n, \chi_3}}{n!} z^n &= \frac{z}{e^{4z} -1}(e^z -e^{3z}) \\ &= \frac{z e^z (1 -e^{2z})}{(e^{2z} +1)(e^{2z} -1)} \\ &= \frac{-z}{e^{z} +e^{-z}} \\ &= \frac{-z}{2 \cosh z} \\ \end{align}

となります。$\cos z = \cosh (iz)$ であることとセカント数の奇数番目が $n = 1$ を除いて $0$ であることから、$\frac{1}{\cosh z}$ のべき級数展開の係数は $\frac{1}{\cos z}$ の係数と符号のみ異なります。よって $B_{n, \chi_3}$ はセカント数の $\frac{1}{2}$ と符号のみ異なります。

L-関数の特殊値

L-関数 $L(s, \chi)$ の $s = 2n$ または $s = 2n+1$ のときの値 ($\chi$ によって変わる) は一般ベルヌーイ数を用いて表されるようです ([子葉2])。ただし $n$ は $1$ 以上の整数とします。この記事ではそれを用いて収束半径の極限計算で円周率を求められることを示しました。

ちなみに一般ベルヌーイ数の定義に用いた関数の分母は、円分多項式の積の、$x$ を $e^z$ に置き換えたものになります。円分多項式の解は $e^{\frac{m}{n} \pi i}$ と表されるので、収束半径は $\pi$ の有理数倍になると思われます。

参考文献

[scd1] Scientific Doggie 数理の楽しみ. 第3章 タンジェント数とオイラー数.

[scd2] Scientific Doggie 数理の楽しみ. 第4章 ゼータ関数

[wiki] Wikipedia. ディリクレのL関数

[子葉1] 子葉 (Mathlog). ディリクレ指標の性質

[子葉2] 子葉 (Mathlog). ディリクレのL関数の特殊値と関数等式

[子葉3] 子葉 (Mathlog). ミッタク=レフラーの部分分数展開定理

[小山] 小山信也. 深リーマン予想を用いた「チェビシェフの偏り」の解明と一般化


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