距離空間上の Borel 確率測度全体は距離空間になる (準備編)

この記事は以下の記事を読むにあたっての予備知識をまとめたものです。同じ記事にすると長くなりすぎるので分けることにしました。

上記の記事を読むにあたって必要な位相空間、測度、関数解析の予備知識を基本的に証明なしで述べます。それらの証明を知らなくても上記の記事の内容を理解できるように書くつもりです。証明を知りたい場合は別の文献を参照して下さい。インターネット上で閲覧できるものはリンクを貼っておきます。解析学関連は Mathpedia が詳しいのでおすすめです。

位相空間について

完備性と完備化

点列 $\{s_n\}$ が

$$\lim_{n, m \to \infty} d(s_n, s_m) \to 0$$

を満たすとき、$\{s_n\}$ はコーシー列であるといいます。距離空間 $(S, d)$ が完備であるとは、$S$ の任意のコーシー列が収束することをいいます。つまり、$S$ の任意のコーシー列 $\{s_n\}$ に、ある極限

$$\lim_{n \to \infty} s_n = s \in S$$

が存在することをいいます。

例えばユークリッド空間 $\mathbb{R}^n$ は完備ですが、$\mathbb{R}^n \setminus \{0\}$ は完備ではありません。$x_m = (\frac{1}{m}, 0, \dots, 0)$ とおいたとき $\{x_m\}$ はコーシー列ですが、$0$ が $\mathbb{R}^n \setminus \{0\}$ に含まれないからです。

任意の距離空間 $(S, d)$ に対して、以下を満たす完備距離空間 $(\hat{S}, \hat{d})$ が一意的に存在します。

  1. 連続写像 $i: X \to \hat{S}$ が存在し、任意の $x, y \in S$ に対して $$\hat{d}(i(x), i(y)) = d(x, y)$$ が成り立つ。
  2. $i(S)$ は $\hat{S}$ で稠密である。

$(\hat{S}, \hat{d})$ を $(S, d)$ の完備化といいます。$\mathbb{R}^n \setminus \{0\}$ の完備化は $\mathbb{R}^n$ です。

可分性

位相空間 $X$ は高々可算な部分集合 $A$ で $\overline{A} = X$ となるものが存在する時、可分であるといいます。

$\mathbb{R}^n$ において

$$A = \{(q_1, \dots, q_n) \mid q_i \textrm{は有理数}\}$$

は可算な部分集合であり $\overline{A} = \mathbb{R}^n$ を満たすので $\mathbb{R}^n$ は可分です。高々可算個の連結成分からなる多様体も可分です。

コンパクト性と可分性、完備性

$X$ を位相空間とします。$X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U} = \{U_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$ に対して、有限個の $\{\lambda_i\}_{i = 1}^n$ が存在して $\bigcup_{i = 1}^n U_{\lambda_i} = X$ を満たすとき、$X$ はコンパクトであるといいます。

距離空間 $(S, d)$ がコンパクトならば $S$ は可分です。これを確認しましょう。

$$B(x, \delta) = \{y \in X \mid d(x, y) < \delta\}$$

とおくと、任意の $n > 1$ に対して $\{B(x, 1 / n)\}_{x \in S}$ は $S$ の開被覆であり、$S$ はコンパクトなので有限集合 $A_n = \{a_1, \dots, a_{k_n}\}$ で

$$\bigcup_{i = 1}^{k_n} B(a_i, 1 / n) = X$$

を満たすものが存在します。さらに $A_n \subset A_{n+1}$ となるようにとれます。このとき、任意の $x \in S$ と $\varepsilon > 0$ に対して $1 / n < \varepsilon$ になるように $n$ をとれば、$a \in A_n$ で $d(x, a) < \varepsilon$ となるものが存在します。よって $A = \bigcup_{n = 1}^{\infty} A_n$ は $S$ の稠密部分集合であり、構成方法から高々可算のなので、$S$ は可分です。

さらに、$(S, d)$ がコンパクトならば $S$ は完備でもあります。これを確認しましょう。$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$ をコーシー列とし、極限が存在しないとします。さらに、$i \neq k$ ならば $x_i \neq x_k$ とします (もし $x_i = x_k$ となるペアが有限個存在するなら切り捨てればよく、無限個するならそれが極限になります)。このとき、各 $x_n$ に対して $\delta_n > 0$ を十分小さくとれば、

$$x_i \notin B(x, \delta_n) \quad (i \neq n)$$

ととれ (とれなければ $x_n$ が極限になります) さらに $\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$ がコーシー列であることから $\delta_n \to 0$ が成り立ちます。このとき

$$U = X \setminus (\overline{\bigcup_{n=1}^{\infty} B(x, \delta_n / 2)})$$

とおくと、

$$X = U \cup (\bigcup_{n=1}^{\infty} B(x, \delta_n))$$

となります。実際、$x \in X$ がどの $B(x, \delta_n)$ にも含まれていなければ、$x$ は極限ではないので $x \notin \overline{\bigcup_n B(x, \delta_n / 2)}$ です。この開被覆のうち有限個を選んでも開被覆にならないので、$S$ がコンパクトであることに反します。よって $S$ は完備となります。

よって $(S, d)$ がコンパクトならば可分かつ完備です。

ストーンチェックコンパクト化

$X$ をチコノフ空間とします。つまり、$X$ の任意の 1 点集合が閉集合で、かつ任意の閉集合 $F \subset X$ と任意の $x \in X \setminus F$ に対し、連続関数 $f: X \to \mathbb{R}$ で $f(x) = 1$ かつ $f|_{F} = 0$ を満たすものが存在するとします。

このとき、コンパクトハウスドルフ空間 $\beta X$ と連続な包含写像 $i: X \to \beta X$ で以下の条件を満たすものが一意的に存在します。

  1. $X \simeq i(X)$
  2. $i(X)$ は $\beta X$ において稠密である。
  3. 任意のコンパクトハウスドルフ空間 $K$ と連続写像 $f: X \to K$ に対し連続写像 $\beta f: \beta X \to K$ がただ一つ存在し、$\beta f \circ i = f$ を満たす。

これをストーンチェックコンパクト化と言います。条件 3 から、有界な連続関数 $f: X \to \mathbb{R}$ は連続関数 $\beta f: \beta X \to \mathbb{R}$ に一意的に拡張されます。一般的に $\beta X$ がきれいな空間になることは期待できません。例えば $X = (0, 1]$ のストーンチェックコンパクト化は $[0, 1]$ ではありません。$\sin \frac{1}{x}$ の連続拡張が一意ではないからです。$\sin \frac{1}{x}$ の連続拡張が一意であるには、少なくとも埋め込み $[-1, 1] \hookrightarrow \beta X \setminus i(X)$ が存在する必要があります。

ちなみに、局所コンパクトハウスドルフ空間はウリゾーンの補題からチコノフ空間であり、さらに $X$ が局所コンパクトハウスドルフ空間であることと $i(X)$ が開集合であることが同値になるようです。

距離空間もチコノフ空間なのでストーンチェックコンパクト化が存在します。

ストーンチェックコンパクト化の存在の証明は例えば [H] を参照して下さい。

コンパクト化が距離空間となるコンパクト化

ストーンチェックコンパクト化 $\beta X$ は距離化可能ではない場合が存在するようです。距離空間上の確率測度を考察するにあたって、それでは都合が悪い場合があります。別のコンパクト化 $\psi: X \hookrightarrow \gamma X$ で $\gamma X$ が距離空間であるものがあると都合が良いです。

まず、$\Omega = [0, 1]^{\mathbb{N}}$ とし、$x, y \in \Omega$ に対し

$$\rho(x, y) = \sum_{i = 1}^n \frac{1}{2^i} |x_i -y_i|$$

と定めると、$(\Omega, \rho)$ は距離空間になります。さらに、$\rho$ の定める位相は直積位相と同相になります。これを確認しましょう。直積位相の開集合はある自然数 $N$ と開集合 $U_N \subset [0, 1]^{N}$ によって

$$U = U_N \times [0, 1]^{\mathbb{N} \setminus \{1, \cdots, N\}}$$

と表されます。$\varepsilon > 0$ と $a \in \Omega$ に対し

\begin{align} B(a, \varepsilon) &= \{x \in \Omega \mid \rho(a, x) < \varepsilon\} \\ B_N(a, \varepsilon) &= \{x \in \Omega \mid \rho(a, x) < \varepsilon, n > N \textrm{ ならば } a_n = x_n \} \end{align}

とおくと、任意の $a \in U$ に対して

$$B_N(a, \varepsilon) \subset U_N \times (a_{N+1}, a_{N+2}, \cdots)$$

を満たすように $\varepsilon > 0$ をとれば、

$$a \in B(a, \varepsilon) \subset U$$

となります。逆に任意の $x \in B(a, \varepsilon)$ に対し $B(x, \delta) \subset B(a, \varepsilon)$ となるように $\delta$ をとり、$N$ を $\sum_{n = N + 1}^{\infty} 1 / 2^n < \delta / 2$ を満たすように十分大きくとると、

$$U = B_N(b, \delta / 2) \cup (b_1, \cdots, b_N) \times [0, 1]^{\mathbb{N} \setminus \{1, \cdots, N\}}$$

は直積位相の開集合であり、

$$x \in U \subset B(x, \delta) \subset B(a, \varepsilon)$$

となります。よって $\rho$ の定める位相と直積位相は一致します。チコノフの定理から、$(\Omega, \rho)$ はコンパクト距離空間になります。

$(S, d)$ を可分距離空間であると仮定し、コンパクト化 $\gamma S$ を構成します。$S$ が可分なので稠密部分集合 $E = \{e_1, e_2, \cdots \}$ が存在します。$x, y \in S$ に対して

$$\tilde{d}(x, y) = \min\{d(x, y), 1\}$$

とおくと、$\tilde{d}$ は $d$ と同値な $S$ 上の距離となります。$\psi: S \to \Omega$ を

$$\psi(x) = (\tilde{d}(x, e_n))_n$$

とおくと、コンパクト空間上の閉集合はコンパクトなので、$(\overline{\psi(S)}, \rho)$ はコンパクト距離空間になります。よって $\psi: S \to \psi(S)$ が同相であれば、$\gamma S = \overline{\psi(S)}$ は $S$ のコンパクト化になります。

$x, y \in S$ が $\psi(x) = \psi(y)$ を満たすとします。$E$ が稠密なので $x$ に収束する点列 $\{e_{k_n}\}_n$ が存在します。$\psi(x) = \psi(y)$ から $\{e_{k_n}\}_n$ は $y$ にも収束するので、$x = y$ となり $\psi$ が単射であることがわかります。$\psi(S)$ の開集合は直積位相の定義から、ある $N$ と開集合 $I \subset [0, 1]$ によって $U = I \times [0, 1]^{\mathbb{N} \setminus \{N\}}$ と表される開集合で生成されますが、この $U$ に対して

$$U \cap \psi(S) = \{\psi(x) \mid x \in S, \tilde{d}(x, e_N) \in I \}$$

が成り立ちます。このとき

$$\psi^{-1}(U \cap \psi(S)) = \{x \in S \mid \tilde{d}(x, e_N) \in I\}$$

であり、これは $\tilde{d}$ の連続性から $S$ の開集合です。よって $\psi$ は連続です。次に、$U \subset S$ を開集合とし、$\psi(U)$ が開集合であることを示します。任意の点 $x \in \psi(U)$ に対して $e_N \in E$ と $\varepsilon > 0$ を $\psi^{-1}(x) \in B(e_N, \varepsilon) \subset U$ を満たすようにとれば、

$$x \in [0, \varepsilon) \times [0, 1]^{\mathbb{N} \setminus \{N\}} \cap \psi(S) \subset \psi(U)$$

なので $\phi(U)$ は $\psi(S)$ の開集合になります。よって $\psi: S \to \psi(S)$ は同相写像であり、$ \overline{\psi(S)}$ は $S$ のコンパクト化になります。

ちなみに $(S, d)$ と $(\psi(S), \rho)$ は同相になりますが、$d$ と $\rho$ は同値な距離とは限りません。

Banach空間と弱収束

Banach 空間

$\mathbb{K}$ を $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ のいずれかとし、 $X$ を $\mathbb{K}$ 上の線型空間とします。$||\cdot||: X \to \mathbb{R}$ が以下の性質を満たすとき、ノルムと言います。

  1. $||x|| \geq 0, \ \ ||x|| = 0 \Leftrightarrow x = 0$
  2. $||ax|| = |a| ||x|| \quad (a \in \mathbb{K}, x \in \mathbb{u})$
  3. $||x + y|| \leq ||x|| + ||y||$

ノルムが定義された線型空間 $X$ をノルム空間と言います。ノルム空間は

$$d(x, y) = ||x -y||$$

と定めることで距離空間となり、特に位相空間となります。この距離に関して完備であるとき、$X$ を Banach 空間と言います。

双対空間

$X$ をノルム空間とします。$X$ 上の連続な線型関数全体を $X$ の双対空間といい、$X^*$ と表します。関数 $f: X \to \mathbb{K}$ が有界であること、つまり、ある $M > 0$ が存在して任意の $x \in X$ に対して

$$f(x) \leq M ||x||$$

を満たすことと、$f$ が連続であることが同値であることが知られています。$f \in X^*$ に対し

$$||f||_{X^*} = \sup_{x \neq 0}\frac{|f(x)|}{||x||}$$

とおくことで $X^*$ はノルム空間になることが知られています。$X$ が Banach 空間ならば $X^*$ も Banach 空間になることが知られています。

弱収束と $*$ 弱収束

$X$ を Banach 空間、$X^*$ をその双対空間とします。$f \in X^*$ を連続にする最弱の位相を $X$ の弱位相といいます。$X$ の点列 $\{x_n\}$ が弱位相で収束する、つまり任意の $f \in X^*$ に対して

$$\lim_{n \to \infty}f(x_n) = f(x)$$

を満たす $x \in X$ が存在するとき、$x_n$ は $x$ に弱収束するといいます。

ノルムに関して収束すれば、

$$|f(x_n) -f(x)| \leq ||f||_{X^*} ||x_n -x||$$

から弱収束しますが、逆は一般には成り立ちません。

$X^*$ にも同様に、$x \in X$ を $X^*$ 上の関数 $f \mapsto f(x)$ とみなしてそれらを連続にする最弱の位相を定めることができます。これを $*$ 弱位相といい、$*$ 弱位相における収束を $*$ 弱収束とます。

Alaogluの定理

Banach 空間が無限次元の場合、 $X$ の単位閉球 $\{x \in X \mid ||x|| \leq 1\}$ はノルムが定める位相においてコンパクトではありません。実際、$X$ は距離空間なのでコンパクト性と点列コンパクト性は同値であり、$X$ の基底の列 $\{e_n\}_n$ は収束する部分列を持ちません。

しかし $X^*$ に $*$ 弱位相を入れた場合、単位閉球 $\{\varphi \in X^* \mid ||\varphi|| \leq 1\}$ は $*$ 弱位相においてコンパクトになります。これをAlaogluの定理といいます。

証明を知りたい場合は [M3] を参照して下さい。

測度について

Radon測度

$X$ を局所コンパクトハウスドルフ空間、$\mathfrak{B}_X$ を Borel 集合族とします。Borel 測度 $\mu: \mathfrak{B}_X \to [0, \infty]$ が以下の性質を満たすとき、$\mu$ を Radon 測度といいます。

  1. 任意のコンパクト集合 $K \subset X$ に対して $\mu(K) < \infty$。
  2. 外部正則性: 任意の $B \in \mathfrak{B}_X$ に対し
    $$\mu(B) = \inf \{\mu(U) \mid B \subset U, U \textrm{ は開集合} \}$$
    が成り立つ。
  3. 内部正則性: 任意の開集合 $U$ に対し
    $$\mu(U) = \sup \{\mu(K) \mid K \subset U, K \textrm{ はコンパクト} \}$$
    が成り立つ。

局所コンパクトハウスドルフ空間以外の場合でも同様の性質を満たす場合がありますが、その場合も Radon 測度と呼ぶこととします (一般的な用語であるか分かりません)。単に 2, 3 を満たす測度を正則測度といいます。

以下の空間においては、任意の有限 Borel 測度は Radon 測度になります。

  • 第二可算局所コンパクトハウスドルフ空間
    • 証明は [M2] に載っています。
  • 可分完備距離空間
    • 証明は本記事の別節に記載します。
    • コンパクト距離空間は可分完備です。
    • 可分完備距離空間で局所コンパクトハウスドルフ空間でないものが存在します。例えば可算個の基底をもつ Banach 空間がそうです。

Radon 測度を扱う場合は主に $X$ がコンパクト距離空間であることを仮定します。

符号付測度と複素測度

$(X, \mathfrak{M})$ を可測空間とします。$\nu: \mathfrak{M} \to \mathbb{C}$ が $A_n \in \mathfrak{M}$ $(n \in \mathbb{N})$, $A_i \cap A_j = \varnothing$ $(i \neq j)$ に対して

$$\nu(\bigcup_{n = 1}^{\infty} A_n) = \sum_{n = 1}^{\infty} \nu(A_n)$$

を満たすとき、$\nu$ を複素測度といいます。$\nu$ が実数値のとき、符号付測度といいます。

複素測度 $\nu$ は $A \in \mathfrak{M}$ に対して

$$\nu(A) = \nu_1(A) + i \nu_2(A)$$

とおくことで、ふたつの符号付測度 $\nu_1$, $\nu_2$ で表されます。また、符号付測度 $\nu$ はふたつの有限測度 $\nu_{+}$, $\nu_{-}$ により

$$\nu = \nu_{+} -\nu_{-}$$

と表されます (Jordan分解)。

全変動

複素測度 $\nu$ に対し、$|\nu|: \mathfrak{M} \to [0, \infty)$ を

$$|\nu|(A) = \sup \left\{\sum_{i = 1}^n |\nu(A_i)| \ \ \middle| \ \ \bigcup_{i = 1}^n A_i = A \textrm{ かつ } i \neq j \Rightarrow A_i \cap A_j = \varnothing \right\}$$

と定めると、$|\nu|$ は $(X, \mathfrak{M})$ 上の有限測度になり、さらに $\nu$ が符号付測度なら

$$|\nu| = \nu_{+} +\nu_{-}$$

が成り立ちます。$|\nu|$ を $\nu$ の全変動 (total variation) といいます。

$X$ を局所コンパクトハウスドルフ空間とし、$\nu: \mathfrak{B}_X \to \mathbb{C}$ を複素測度とします。$|\nu|$ が Radon 測度であるとき、$\nu$ を複素 Radon 測度といいます。$\mathcal{M}(X)$ を $X$ 上の複素測度全体の集合とし、$\mathcal{R}(X)$ を $X$ 上の複素 Radon 測度全体の集合とします。$\nu_1, \nu_2 \in \mathcal{M}(X)$ と $a, b \in \mathbb{C}$ に対して $a \nu_1 + b \nu_2 \in \mathcal{M}(X)$ であり、さらに

$$||\nu||_{var} = |\nu| (X)$$

により $\mathcal{M}(X)$ はノルム空間になります。$\mathcal{R}(X)$ も同様にノルム空間になることが知られています。

証明は [M1] を参照してください。

Riesz-Markov-角谷の表現定理

$X$ を局所コンパクトハウスドルフ空間とします。$C(X)$ を $X$ 上の複素数値連続関数全体の集合とし、$f \in C(X)$ と $\varepsilon > 0$ に対して

$$X_f(\varepsilon) = \{x \in X \mid |f| \geq \varepsilon\}$$

とおきます。$C_0(X)$ を

$$C_0(X) = \{f \in C(X) \mid \textrm{任意の } \varepsilon > 0 \textrm{ に対して } X_f(\varepsilon) \textrm{ はコンパクト} \}$$

とします。$C_0(X)$ は $\sup$ ノルム

$$||f|| = \sup_{x \in X}|f(x)|$$

により Banach 空間になります。

$\nu \in \mathcal{R}(X)$ に対して $\varphi_{\nu} \in C_0(X)^*$ を

$$\varphi_{\nu}: C_0(X) \ni f \to \int_X f d \nu \in \mathbb{C}$$

と定義します。このとき、

$$ \mathcal{R}(X) \ni \nu \to \varphi_{\nu} \in C_0(X)^*$$

はノルムを保つ線形同型写像になります。これを Riesz-Markov-角谷の表現定理といいます。これにより、$\mathcal{R}(X)$ は Banach 空間になります。

証明は [M2] を参照してください。

距離空間上の有限 Borel 測度の正則性について

可分完備距離空間 $(S, d)$ 上の有限 Borel 測度は Radon 測度になります。また、可分完備でなくとも、正則性を弱めた性質を満たします。

その証明を確認できるインターネット上の記事がなかったので、証明を載せることにしました。

外部正則性と弱内部正則性

距離空間 $(S, d)$ 上の有限 Borel 測度が外部正則性と弱い意味での内部正則性を満たすことを示します。ここで、弱い意味での内部正則性とは内部正則性のコンパクト集合という条件を閉集合に置き換えた、

  • 任意の開集合 $U$ に対し
    $$\mu(U) = \sup \{\mu(F) \mid F \subset U, F \textrm{ は閉集合} \}$$
    が成り立つ

ことをいいます。これを (この記事だけの呼び方ですが) 弱内部正則性と呼びます。

まず、$S$ 上の有限測度 $\mu$ と任意の $\varepsilon > 0$ と $A \in \mathfrak{B}_S$ に対して開集合 $U$ と閉集合 $F$ が存在して

$$F \subset A \subset U, \quad \mu(U \setminus F) < \varepsilon \tag{*}$$

が成り立つことを示します。

$(*)$ が成り立つ $A \in \mathfrak{B}_S$ 全体を $\mathfrak{G}$ とおきます。$\mathfrak{G}$ が $\mathfrak{B}_S$ に一致すれば示したいことが示されます。

まず、任意の閉集合 $F$ が $F \in \mathfrak{G}$ であることを確認しましょう。$x \in S$ と集合 $B \subset S$ との距離を

$$d(x, B) = \inf_{b \in B} d(x, b)$$

と定め、$n \geq 1$ に対して

$$U_n = \{x \in S \mid d(x, F) <\frac{1}{n}\}$$

とおきます。このとき $\{U_n\}$ は開集合の減少列で $\bigcap_{n=1}^{\infty} U_n = F$ を満たします。$\mu(U_1) < \infty$ なので、

$$\mu (\bigcap_{k=1}^n U_k \setminus F ) \to 0$$

であり、$F \in \mathfrak{G}$ となります。

次に $\mathfrak{G}$ が $\sigma$-加法族であることを確認しましょう。$\varnothing \in \mathfrak{G}$ は明らかです。$A \in \mathfrak{G}$ に対して $S \setminus A \in \mathfrak{G}$ であることも $(*)$ の $U$, $F$ の補集合を取ることで明らかです。

よってあとは $A_n \in \mathfrak{G}$ に対して $\bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \mathfrak{G}$ を示せば十分です。任意の $\varepsilon > 0$ に対して開集合 $U_n$, 閉集合 $F_n$ で

$$F_n \subset A_n \subset U_n, \quad \mu(U_n \setminus F_n) < \varepsilon / 2^n$$

を満たすものが存在します。$A = \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n$ をおき、$U = \bigcup_{n=1}^{\infty} U_n$ とおくと、$U$ は開集合であり、

\begin{align} \mu(U \setminus A) &= \mu \left(\bigcup_{n=1}^{\infty} (U_n \setminus A)\right) \\ & \leq \mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty} (U_n \setminus A_n)\right) \\ & \leq \sum_{n=1}^{\infty} \mu(U_n \setminus A_n) \\ & \leq \varepsilon \end{align}

を満たします。また、$\mu(\bigcup_{n=1}^{\infty} F_n) < \infty$ から

$$\mu(\bigcup_{n=1}^{\infty} F_n \setminus \bigcup_{n=1}^{N} F_n) \to 0 \quad (N \to \infty)$$

なので、

$$\mu(\bigcup_{n=1}^{\infty} F_n \setminus \bigcup_{n=1}^{N} F_n) \leq \varepsilon$$

を満たすように $N$ を十分大きくとり、$F = \bigcup_{n=1}^{N} F_n$ とおきます。このとき $F$ は閉集合であり、

$$\mu(A \setminus F) = \mu(A \setminus \bigcup_{n=1}^{\infty} F_n) + \mu(\bigcup_n^{\infty} \setminus F_n \ F)$$

ですが、

\begin{align} \mu(A \setminus \bigcup_{n=1}^{\infty} F_n) & \leq \mu \left(\bigcup_{n = 1}^{\infty}(A_n \setminus F_n) \right) \\ & \leq \sum_{n=1}^{\infty} \mu(A_n \setminus F_n) \\ & \leq \varepsilon \end{align}

が成り立つので

$$\mu(A \setminus F) \leq 2 \varepsilon$$

を満たします。まとめて $\mu(U \setminus F) < 3 \varepsilon$ となるので $A \in \mathfrak{G}$ がわかります。$\mathfrak{G}$ は全ての閉集合を含む $\sigma$-加法族なので $\mathfrak{B}_S$ と一致します。

以上で $(*)$ が示されました。

$(*)$ から有限 Borel 測度 $\mu$ の正則性が従うことはほぼ明らかです。外部正則性は、$A \in \mathfrak{B}_S$ と任意の $\varepsilon > 0$ に対して開集合 $U$ が存在して $\mu(U \setminus A) < \varepsilon$ が成り立つので

$$\mu(A) = \inf \{\mu(U) \mid A \subset U, U \textrm { は開集合}\}$$

が成り立ちます。弱内部正則性も同様です。

可分完備距離空間上の有限 Borel 測度の正則性

距離空間 $(S, d)$ が可分かつ完備ならば、$(*)$ の閉集合をコンパクト集合に置き換えられることを示します。それにより、先ほどと同様の議論により内部正則性が従います。

内部正則性を示しましょう。弱内部正則性から $A \subset \mathfrak{B}_S$ と $\varepsilon > 0$ に対して閉集合 $F$ で

$$\mu(A \setminus F) < \varepsilon$$

を満たすものをとります。$F$ は閉集合なので、距離空間 $(F, d)$ も可分かつ完備です (可分であることは $S$ と同じ可算部分集合をとればよく、完備であることは $S$ の完備性と $F$ が閉集合であることから従います)。

$K \subset F$ で、$\mu(F \setminus K) < \varepsilon$ かつ $K$ がコンパクトであるものを構成します。$E = \{e_1, e_2, \cdots\}$ を $F$ の可算稠密部分集合とします。$a \in F$ と $\delta > 0$ に対して

$$\overline{B}(a, \delta) = \{x \in F \mid d(a, x) \leq \delta\}$$

とおくと、任意の $k \geq 1$ に対して

$$\bigcup_{n=1}^{\infty} \overline{B}(e_n, \frac{1}{k}) = F$$

となります。よってある $N_k$ が存在して

$$\mu \left(F \setminus \bigcup_{n = 1}^{N_k} \overline{B}(e_n, \frac{1}{k}) \right) < \varepsilon / 2^k$$

となります。

$$K = \bigcap_{k=1}^{\infty} \bigcup_{n=1}^{N_k} \overline{B}(e_n, \frac{1}{k}) \subset F$$

とおき、$K$ がコンパクトであることを示します。$\{U_{\lambda}\}_{\lambda \in \Lambda}$ を $K$ の開被覆とします。$\{e_n\}_n$ のうち $K$ に含まれるもののみを改めて $\{e_n\}_n$ とおくこととします。各 $e_n$ に対して $e_n \in U_{\lambda_n}$ を満たす $\lambda_n \in \Lambda$ を取ると、$\{e_n\}$ が $K$ において稠密であることから $\{U_{\lambda_n}\}_n$ も $K$ の開被覆となり、$\Lambda$ を高々可算な集合に置き換えることができます。これを改めて $\{U_n\}_n$ とおきます。

$\{e_n\}_n$ が有限集合の場合は $\{U_n\}_n$ が有限の開被覆となり $K$ はコンパクトになります。

$\{e_n\}_n$ が無限集合であるとし、 $K$ がコンパクトでないとします。すると任意の $m \geq 1$ に対して $\bigcup_{n=1}^m U_n$ に含まれない $\{e_n\}_n$ のうち適当なものを取ることで、 $\{e_n\}_n$ の部分列 $\{e_{n_k}\}_k$ で、各点が互いに異なるものを取ることができます。

もし $\{e_{n_k}\}_k$ が部分コーシー列 $\{b_l\}_l$ を持てば、$K$ が完備であることから $b \in K$ で $b_l \to b$ となるもの存在します。このときある $N$ が存在し $b \in U_N$ となりますが、これは十分大きい $l$ に対し $b_l \in U_N$ であることを意味し、$\{e_{n_k}\}_k$ の取り方に反します。

しかし、$\{e_{n_k}\}_k$ から次のようにして部分コーシー列を取ることができます。$K$ の取り方から、

$$K \subset \bigcup_{n = 1}^{N_1} \overline{B}(e_n, 1)$$

ですが、$\overline{B}(e_n, 1)$ のうちどれかは $\{e_{n_k}\}_k$ の点を無限個を含みます。無限個含む集合を $A_1$ とおき、それに含まれる $\{e_{n_k}\}_k$ のうち、どれかひとつを $e^{\prime}_1$ とします。さらに

$$A_1 \subset K \subset \bigcup_{n = 1}^{N_2} \overline{B}(e_n, \frac{1}{2})$$

であることから、$\overline{B}(e_n, \frac{1}{2})$ のうちいずれかは $A_1$ に含まれる $\{e_{n_k}\}_k$ の点を無限個を含みます。その集合を $A_2$ とし、それに含まれる $\{e_{n_k}\}_k$ のうち、どれかひとつを $e^{\prime}_2$ とします。これを繰り返すことで $\{e^{\prime}_k\}_k$ を $\{e_{n_k}\}_k$ の部分コーシー列になるようにとれます。

従って $K$ がコンパクトでないと仮定すると矛盾が生じるため、$K$ はコンパクトです。

よって

$$\mu(A \setminus K) = \mu(A \setminus F) + \mu(F \setminus K) < 2 \varepsilon$$

となり、$\mu(U \setminus A) < \varepsilon$ を満たす開集合も取れるので、

$$K \subset A \subset K, \quad \mu(U \setminus K) < 3 \varepsilon$$

を満たす開集合 $U$ とコンパクト集合 $K$ が取れることがわかりました。

参考文献

[K] 小谷 眞一. 測度と確率

[H] HAMSTER’S HIDEOUT. Stone-Čech Compactification

[M1] Mathpedia. 測度と積分4:測度論の基本定理(2)

[M2] Mathpedia. 測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度

[M3] Mathpedia. 位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相