【圏論】部分対象分類子の冪のevalが要素記号で表される理由

$\mathcal{C}$ を圏とし、$\Omega$ を $\mathcal{C}$ の部分対象分類子 (subobject classifier) とます。$X \in Ob(C)$ に対し以下の冪

$$\Omega^{X} \times X \xrightarrow{\mathrm{eval}_X} \Omega$$

における射 $\mathrm{eval}_X$ は $\in_{X}$ と書かれるようです。

$\mathcal{C}$ が集合の圏であれば、$\Omega = \mathbf{2} = \{0, 1\}$ であり、$\mathbf{2}^X$ は写像 $f: X \to \mathbf{2}$ の集合を表します。 $f \in \mathbf{2}^X$ と $f^{-1}(1) \subset X$ を対応させることで $\mathbf{2}^X$ と $X$ の部分集合全体の集合と同一視できます。また、$(f, x) \in \Omega^X \times X$ に対し、$\mathrm{eval}_X(f, x) = f(x)$ となりますので、$A = f^{-1}(1)$ とおくと、

$$\mathrm{eval}_X(f, x) = 1 \Leftrightarrow x \in A$$

となります。よって集合の圏においては $\mathrm{eval}_X$ を、要素であることを意味する記号 $\in_{X}$ と書くことに納得がいきます。

一般の圏では要素をとって考えることができないため、同様の事が圏論的に説明できるのか気になります。$\mathcal{C}$ が終対象 $1$ を持つ場合、終対象からの射 $x: 1 \to X$ を $X$ の要素とみなす考え方がありますが、その場合は集合の圏と同様に上記の $\mathrm{eval}_X$ を $\in_X$ とみなすことができるのでしょうか。本記事ではこれを確認しようと思います。

注意 (2022/11/30追記): 一般の圏においては終対象からの射 $x: 1 \to X$ が存在しない場合もあります。

準備

冪と部分対象分類子について説明します。ご存知の方は読み飛ばしてください。

冪対象とeval

圏 $\mathcal{C}$ は直積を持つとし、$X, Y \in Ob(\mathcal{C})$ とします。$Y^X$ が冪対象であるとは、評価射 (evaluation map) $\mathrm{eval}_X: Y^X \times X \to Y$ を持ち、さらに次の普遍性を満たすことを言います。


任意の $Z \in Ob(\mathcal{C})$ と射 $e: Z \times Y \to X$ に対し, 以下の図式を可換にする射 $u: Z \to Y^X$ が一意的に存在する.

\[ \xymatrix{ Y^X \times X \ar[rr]^{\mathrm{eval}_X} && Y \\ Z \times X \ar[rru]_{e} \ar@{.>}[u]^{u \times \mathrm{id}_Y} && } \]


$\mathcal{C}$ が終対象 $1$ を持てば、以下のように $u: 1 \to Y^X$ と $e: X \to Y$ が対応します。まず、終対象と直積の定義から任意の $X \in \mathcal{C}$ に対して $1 \times X \simeq X$ が成り立ちます。

$u: 1 \to Y^X$ に対し、

$$X \simeq 1 \times X \xrightarrow{u \times \mathrm{id}_{X}} Y^X \times X \xrightarrow{\mathrm{eval}_X} Y$$

により $e_u: X \to Y$ が得られます。逆に $e: X \to Y$ に対しては、$X \simeq 1 \times X$ と冪の普遍性を用いることで $u_e: 1 \to Y^X$ が得られます。この対応が $1$ 対 $1$ であることも簡単に確かめられます。

よって $u: 1 \to Y^X$ を $Y^X$ の要素とみなせば、$Y^X$ は射 $X \to Y$ の集合の、圏 $\mathcal{C}$ における対応物とみなす事ができます。

部分対象分類子 (subobject classifier)

圏 $C$ は終対象 $1$ を持つとします。$C$ の対象 $\Omega$ と射 $\mathrm{True}: 1 \to \Omega$ が部分対象分類子であるとは、任意の mono射 $m: A \to X$ に対して以下の図式が pullback になるような射 $ \chi_m: X \to \Omega$ が一意的に存在することを言います。

\[ \xymatrix{ A \ar[r]^{!_A} \ar[d]_{m} & 1 \ar[d]^{\mathrm{True}} \\ X \ar@{.>}[r]_{\chi_m} & \Omega } \]

ただし、$!_A$ は $A$ から終対象への唯一の射を意味します。

mono射 $m: A \to X$ を $X$ の”部分集合”のようなものであるとみなすと、$X$ の任意の”部分集合”が $\Omega$ への射 $\chi_m: X \to \Omega$ に対応するということです。

圏 $C$ が常に pullback を持つとすれば、逆に $\chi_m: X \to \Omega$ に対し pullback をとることで $m: A \to X$ が得られます。$\mathrm{True}: 1 \to \Omega$ が mono射であることと、mono射の pullback は mono射であることから、$m$ が mono射である事がわかります。

本題

前提

以下、圏 $\mathcal{C}$ はすべての有限極限 (特に終対象、直積、引き戻し (pullback)) を持つとし、さらに、冪と部分対象分類子も持つとします。(つまり初等トポスであるとします。)

$x \in A \subset X$ の圏論的な表現

$1$ を $\mathcal{C}$ の終対象とします。$X$ の元に相当するものは $x: 1 \to X$ で与えられるとします (集合の圏では1点集合から $X$ への写像です)。部分対象 $m: A \to X$ は「$A \subset X$」に対応します。$x: 1 \to X$ が部分対象 $m: A \to X$ の元であることは以下の図式

\[ \vcenter{ \xymatrix{ 1 \ar[rd]_x \ar@{.>}[rr]^{m_A} && A \ar[ld]^{m} \\ & X & \tag{1} } } \]

を可換にする射 $m_A : 1 \to A$ が存在することと言えます。

示すべきこと

mono射 $m: A \to X$ に対応する $\Omega$ への射を $\chi_m: X \to \Omega$ とし、それに対応する冪への射を $u_{\chi_m}: 1 \to \Omega^X$ とします。本記事冒頭で説明した $\in_X$ によって $x$ が $A$ の元であることを評価する射は

$$1 \xrightarrow{u_{\chi_m} \times x} \Omega^X \times X \xrightarrow{\in_X} \Omega$$

となり、これが真であることは以下の図式が可換であることを意味します (pullbackでなくて良い)。

\[ \vcenter{ \xymatrix{ 1 \ar[r]^{!_1} \ar[d]_{u_{\chi_m} \times x} & 1 \ar[d]^{\mathrm{True}} \\ \Omega^X \times X \ar[r]_{\in_X} & \Omega \tag{2} } } \]

よって示すべきことは、

図式 $(1)$ を可換にする射 $m_A$ が存在する $\Leftrightarrow$ 図式 $(2)$ が可換である

となります。

証明

$(\Rightarrow)$

図式 $(1)$ を可換にする射 $m_A$ が存在するとします。図式 $(2)$ の $1 \to \Omega^X \times X$ を分解し、図式 $(1)$ をくっつけると、

\[ \xymatrix{ 1 \ar[r]^{m_A} \ar[d]_{x} & A \ar[ld]_{m} \\ X \ar[r]^{!_X} \ar[d]_{u_{\chi_m} \times \mathrm{id}_X} & 1 \ar[d]^{\mathrm{True}} \\ \Omega^X \times X \ar[r]_{\in_X} & \Omega } \]

となります。$m: A \to X$ に対応する $\Omega$ への射 $\chi_m: X \to \Omega$ を書き込むと、以下の図式の青の部分は可換になります。

\[ \xymatrix{ 1 \ar[r]^{m_A} \ar[d]_{x} & A \ar@[blue][ld]_{m} \ar@[blue][d]^{!_A} \\ X \ar[r]^{!_X} \ar[d]_{u_{\chi_m} \times \mathrm{id}_X} \ar@[blue][rd]^{\chi_m} & 1 \ar@[blue][d]^{\mathrm{True}} \\ \Omega^X \times X \ar[r]_{\in_X} & \Omega } \]

また、図式の左下

\[ \vcenter{ \xymatrix{ X \ar[d]_{u_{\chi_m} \times \mathrm{id}_X} \ar@[blue][rd]^{\chi_m} & \\ \Omega^X \times X \ar[r]_{\in_X} & \Omega \tag{3} } } \]

は冪の定義から明らかに可換です。よって $A$ から $\Omega$ に向かう経路はすべて可換であり、図式 $(1)$ が可換であることから、$1$ から $\Omega$ に向かう経路もすべて可換です。特に $!_1 = !_A \circ m_A$ から、図式 $(2)$ は可換です。

$(\Leftarrow)$

図式 $(2)$ が可換であるとします。図式 $(2)$ の可換性と図式 $(3)$ の可換性から、下の図式の外側が可換である事がわかります。部分対象分類子の定義から、以下の図式における射 $m_A$ が存在します。$m_A$ が求めたかったものです。

\[ \xymatrix{ 1 \ar@/_/[rdd]_{x} \ar@/^/[rrd]^{!_1} \ar@{.>}[rd]|{m_A} & & \\ & A \ar@[blue][d]_{m} \ar@[blue][r]^{!_A} & 1 \ar@[blue][d]^{\mathrm{True}} \\ & X \ar@[blue][r]_{\chi_m} & \Omega } \]

参考文献

西郷 甲矢人, 能美 十三. 線型代数対話 第1 巻 圏論的集合論 集合圏とトポス