自然数を2つ選べば円周率が求まる説の補足

自然数の集合から無作為に 2 つ自然数を選んで (重複を許す)、それが互いに素である確率は $6/\pi^2$ であることが知られています。以下の動画では、この事実を用いて円周率を求めました。

動画では簡略化のため、厳密な議論を避けて説明しています。厳密な証明が気になる方のために、この記事でそれを紹介します。

ただし、オイラーが示したとされる等式

$$\prod_{p \ : \textrm{ 素数 }} \frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} = \frac{\pi^2}{6}$$

は既知とします。

シミュレーション結果は github で公開しています。

厳密な証明

$N$ を任意の自然数とし、集合 $\{1, 2, \cdots, N\}$ から無作為に 1 つの数を選ぶとき、それぞれの数が選ばれる確率は全て等しく $\frac{1}{N}$ であるとします。また、それが自然数 $m$ の倍数である確率を $P_N(m)$ とおきます( 動画中では $P(m)$ とおいた)。

動画の説明の中で厳密でない部分、および証明を飛ばした部分は、以下の3つです。

  1. $P_N(m) \fallingdotseq \frac{1}{m}$ であること。動画中では
    $$\frac{1}{p} -\frac{1}{N} < P_N(p) \leq \frac{1}{p}$$
    が成り立つことに言及した。
  2. 互いに素である確率を
    $$\prod_{p: \textrm{素数}} (1 -P_N^2(p))$$
    としたこと。これはどちらかが $p_1$ で割り切れないという事象と、どちらかが $p_2$ で割り切れないという事象が独立である前提で導いているが、実際は独立でない。
  3. $\prod_{p: \textrm{素数}} (1 -P_N^2(p))$ を
    $$\prod_{p: \textrm{素数}} (1 -P_N^2(p)) \fallingdotseq \prod_{p: \textrm{素数}} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right)$$
    と近似したこと。無限積の各項が収束しても、無限積が収束するとは限らない。

この 3 つについてなるべく厳密な証明を行います。

$P_N(m)$ の評価

まずは 1. から証明していきます。定義から、

$$P_N(m) = \frac{|\{1 \leq a \leq N \mid a \textrm{ は } m \textrm{ で割り切れる} \}|}{N}$$

となります。ここで、$| \ |$ は集合の要素の数を表すものとします。正の整数 $N^{\prime}$, $0 \leq r < m$ を

$$N = m N^{\prime} + r$$

を満たすものとすると、

$$N^{\prime} = |\{1 \leq a \leq N \mid a \textrm{ は } m \textrm{ で割り切れる} \}|$$

となります。このとき

$$P_N(m) = \frac{N^{\prime}}{N} = \frac{\frac{N -r}{m}}{N} = \frac{1}{m} -\frac{r}{Nm}$$

であり、$0 \leq r < m$ から $0 \leq \frac{r}{Nm} < \frac{1}{N}$ なので、

$$\frac{1}{p} -\frac{1}{N} < P_N(p) \leq \frac{1}{p}$$

が成り立ちます。これで 1. の不等式が示されました。

互いに素である確率について

次に、2. について考えます。

$\{1, 2, \cdots, N\}$ から (重複を許して) 無作為に 2 つの数 $a, b$ を選んだとき、$a, b$ の少なくともどちらか一方が $m$ で割り切れない確率を $Q_N(m)$ とおきます。また、$m_1, \cdots, m_l \in \mathbb{N}$ として、各 $m_i$ に関して $a, b$ の少なくともどちらか一方が $m_i$ で割り切れない確率を $Q_N(m_1, \cdots, m_l)$ とおきます。$p_1, \cdots, p_k$ を $N$ 以下の全ての素数としたとき、$a, b$ が互いに素である確率は

$$Q_N(p_1, \cdots, p_k)$$

となります。

$a, b$ のどちらも $m$ の倍数である確率は、1回目の試行と2回目の試行が独立なので $P_N(m)^2$ になります。よって

$$Q_N(m) = 1 -P_N(m)^2$$

となります。これは動画中で説明した通りです。動画中では

$$Q_N(p_1, \cdots, p_k) = Q_N(p_1) \cdots Q_N(p_k)$$

が成り立つとしていましたが、これは一般には成り立ちません。少なくともどちらか一方が $p_i$ で割り切れないという事象と、少なくともどちらか一方が $p_j$ で割り切れないという事象は一般には独立でないからです。

等式が成り立たない例

$N = 5$ のとき、互いに素でない組は $(2, 2)$, $(2, 4)$, $(3, 3)$, $(4, 2)$, $(4, 4)$, $(5, 5)$ なので、

$$Q_N(2, 3, 5) = \frac{19}{25}$$

となります。$Q_N(2) = \frac{21}{25}$, $Q_N(3) = \frac{24}{25}$, $Q_N(5) = \frac{24}{25}$ であり

$$Q_N(2)Q_N(3)Q_N(5) = \frac{21}{25} \frac{24}{25} \frac{24}{25} \neq \frac{19}{25} = Q_N(2, 3, 5)$$

となります。$Q_N(2, 3) \neq Q_N(2)Q_N(3)$ 等も簡単に確かめられます。

もう少し一般的に、$A = \{1, \cdots N\}^2$ とおき、自然数 $m$ に対して

$$A_p = \{(a, b) \in A \mid a, b \textrm{ の両方が } p \textrm{ で割り切れる } \}$$

とおくと、定義から

$$Q_N(m_1, \cdots m_l) = \frac{|A \setminus (A_{m_1} \cup \cdots \cup A_{m_l})| }{N^2}$$

となります。素数 $p, q$ に対して

\begin{align} Q_N(p, q) &= \frac{|A \setminus (A_{p} \cup A_{q})|}{N^2} \\ &= \frac{|A| -|A_p| -|A_q| +|A_p \cap A_q|}{N^2} \\ &= 1 -\frac{|A_p|}{N^2} -\frac{|A_q|}{N^2} +\frac{|A_p \cap A_q|}{N^2} \\ &= 1 -P_N(p)^2 -P_N(q)^2 +P_N(pq)^2 \\ &= 1 -P_N(p)^2 -P_N(q)^2 +P_N(p)^2P_N(q)^2 + (P_N(pq)^2 -P_N(p)^2P_N(q)^2) \\ &= (1 -P_N(p)^2)(1 -P_N(q)^2) +(P_N(pq)^2 -P_N(p)^2P_N(q)^2) \\ &= Q_N(p)Q_N(q) +(P_N(pq)^2 -P_N(p)^2P_N(q)^2) \end{align}

が成り立ちます。よって $Q_N(p, q) = Q_N(p)Q_N(q)$ と、$P_N(pq) = P_N(p)P_N(q)$ が同値です。$P_N(pq)$ は $p$ で割り切れ、かつ $q$ で割り切れる確率なので、「ひとつ選んだ時に、$p$ で割り切れる事象と$q$ で割り切れる事象が独立」であることと、「二つ選んだとき、少なくとも一方が $p$ で割り切れない事象と少なくとも一方が $q$ で割り切れない事象が独立」であることが同値になります。

$P_N(pq) \neq P_N(p)P_N(q)$ となる例はたくさん作れます。

2 つが互いに素である確率

等式 $Q_N(p, q) = Q_N(p)Q_N(q)$ は成り立ちませんが、$N \to \infty$ で一致することがわかれば十分です。より一般に、$\rho(N)$ を $N$ 以下の素数の数とし、$p_1, \cdots, p_{\rho(N)}$ を $N$ 以下の全て素数として

$$|Q_N(p_1, \cdots, p_{\rho(N)}) -Q_N(p_1)\cdots Q_N(p_{\rho(N)})| < f(N)$$

かつ $f(N) \to 0$ となる $f(N)$ が存在することを示します。

※ (2023/11/30 追記) 元々想定していた方法では証明が難しそうなので、元の文章は残しつつ、別の節「互いに素になる確率についての補足」 に証明 (の概略) を追加しました。

$Q_N(p_i) = 1 -P_N(p_i)^2$ なので

$$\prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} (1 -P_N(p)^2) -f(N) < Q_N(p_1, \cdots, p_{\rho(N)}) < \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} (1 -P_N(p)^2) + f(N)$$

となります。よって

$$\lim_{N \to \infty} Q_N(p_1, \cdots, p_{\rho(N)}) = \frac{6}{\pi^2}$$

を示すには、

$$\lim_{N \to \infty} \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} (1 -P_N(p)^2)= \frac{6}{\pi^2}$$

を示せば十分です。

$N \to \infty$ で $\frac{6}{\pi^2}$ に収束すること (無限積の収束)

$P_N(p)$ についての不等式

$$\frac{1}{p} -\frac{1}{N} < P_N(p) \leq \frac{1}{p}$$

から、

\begin{align} 1 -\frac{1}{p^2} \leq 1 -P_N(p)^2 &< 1 -\left(\frac{1}{p} -\frac{1}{N}\right)^2 \\ &= 1 -\frac{1}{p^2} + \frac{2}{pN} -\frac{1}{N^2} \\ &< 1 -\frac{1}{p^2} + \frac{2}{pN} \end{align}

となります。したがって

$$\prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N}\left(1 -\frac{1}{p^2} \right) \leq \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} (1 -P_N(p)^2) \leq \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2} + \frac{2}{pN} \right)$$

となります。

両辺の極限を取ることで、

$$\lim_{N \to \infty} \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} (1 -P_N(p)^2) = \frac{6}{\pi^2} $$

となることを示します。

左辺の極限

先に左辺の $N \to \infty$ での極限を計算します。逆数をとると

\begin{align} \frac{1}{\displaystyle \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}}\left(1 -\frac{1}{p^2}\right)} &= \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}}\frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} \end{align}

なので、オイラーの公式から

\begin{align} \lim_{N \to \infty} \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}}\left(1 -\frac{1}{p^2}\right) &= \dfrac{1}{{\displaystyle \lim_{N \to \infty}} {\displaystyle \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}}} \dfrac{1}{1 -\frac{1}{p^2}}} \\ &= \frac{1}{\frac{\pi^2}{6}}  = \frac{6}{\pi^2} \end{align}

となります。

右辺の極限

右辺の極限を考えます。$N$ 以下の素数の数を $\rho(N)$ とおきます。このとき

\begin{align} &\prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} \left(1 -\frac{1}{p^2} + \frac{2}{pN}\right) \\ = \ & \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + \sum_{\substack{p: \textrm{素数}, \\ p \leq N}} \frac{2}{pN} \prod_{\substack{q: \textrm{素数}, \\ q \leq N,\\ q \neq p}} \left(1 -\frac{1}{q^2}\right) \\ & \quad \quad + \sum_{\substack{p, q: \textrm{素数}, \\ p, q \leq N,\\ p\neq q}} \frac{2}{pN}\frac{2}{qN} \prod_{\substack{r: \textrm{素数}, \\ r \leq N,\\ r \neq p, q}} \left(1 -\frac{1}{r^2}\right) \\ & \quad \quad + \cdots + \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\p \leq N}} \frac{2}{pN}\\ = \ & \prod_{\substack{p: \textrm{素数}, \\p \leq N}} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + \sum_{\substack{p: \textrm{素数}, \\p \leq N}} \frac{2}{N} \frac{1}{p\left(1 -\frac{1}{p}\right)} \prod_{\substack{q: \textrm{素数}, \\q \leq N}} \left(1 -\frac{1}{q^2}\right) \\ & \quad \quad + \sum_{\substack{p, q: \textrm{素数}, \\ p, q \leq N,\\ p\neq q}} \frac{2^2}{N^2}\frac{1}{p\left(1 -\frac{1}{p}\right)}\frac{1}{q\left(1 -\frac{1}{q}\right)} \prod_{\substack{r: \textrm{素数}, \\r \leq N}} \left(1 -\frac{1}{r^2}\right) \\ & \quad \quad + \cdots + \frac{2^{\rho(N)}}{N^{\rho(N)}} \prod_{\substack{p: \textrm{素数},\\ p \leq N}} \frac{1}{p}\\ \end{align}

となります。ここで、

$$\frac{1}{p\left(1 -\frac{1}{p}\right)} = \frac{p}{p^2 -1} = \frac{p}{(p+1)(p -1)} < \frac{1}{p-1}$$

なので、任意の素数 $p$ で $1$ より小さく、$p \neq 2$ ならば $\frac{1}{2}$ より小さいです。また、明らかに

$$1 -\frac{1}{q^2} < 1$$

です。よって

\begin{align} & \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2} + \frac{2}{pN}\right) \\ \leq \ & \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + \frac{2 \rho(N)}{N} + \binom{\rho(N)}{2}\frac{2}{N^2} + \cdots + \frac{2}{N^{\rho(N)}} \\ \leq \ & \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + 2\left(\frac{\rho(N)}{N} + \frac{\rho(N)^2}{N^2} + \cdots + \frac{\rho(N)^{\rho(N)}}{N^{\rho(N)}} \right) \\ = \ & \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + 2\left(\frac{1 -\left(\frac{\rho(N)}{N}\right)^{\rho(N)}}{1 -\frac{\rho(N)}{N}} -1 \right) \\ = \ & \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + 2\left(\frac{\frac{\rho(N)}{N} -\left(\frac{\rho(N)}{N}\right)^{\rho(N)}}{1 -\frac{\rho(N)}{N}}\right) \\ \leq \ & \prod_{p: \textrm{素数}, p \leq N} \left(1 -\frac{1}{p^2}\right) + 2\left(\frac{1}{\frac{N}{\rho(N)} -1} \right) \end{align}

となります。ここで、以下の記事

素数に関する上からの評価(初等的な証明)

から $N$ 以下の素数に関する不等式 (証明付きで載ってます)

$$\rho(N) \leq 1 + \frac{8N}{\log_2 N -1}$$

が成り立つので

\begin{align} \frac{N}{\rho(N)} & \geq \frac{N}{1 + \frac{8N}{\log_2 N -1}} \\ &= \frac{N (\log_2 N -1)}{8N + \log_2 N -1} \\ &= \frac{\log_2 N -1}{8 + \frac{\log_2 N}{N} -\frac{1}{N}} \\ \end{align}

となります。$\lim_{N \to \infty} \log_2 N/N = 0$ なので

$$\lim_{N \to \infty} \frac{N}{\rho(N)} = \infty$$

となります。したがって

\begin{align} \lim_{N \to \infty}\frac{1}{\frac{N}{\rho(N)} -1} &= 0 \end{align}

となり、右辺の極限も $\frac{6}{\pi^2}$ になります。

極限の評価に素数の数 $\rho(N)$ がでてきたのは面白いです。ちなみに $\rho(N)$ の漸近挙動については、素数定理として知られています。

互いに素になる確率についての補足

(2023/11/30 追記)

互いに素になる確率が $\frac{6}{\pi^2}$ に収束することについて、色々調べていたら証明が見つかったので、まずはそれを紹介します。その後、自分で考えた方法 (うまくいかなかったやつ) を一応メモとして残します。

互いに素になる確率の $N \to \infty$ での値と漸近挙動

互いに素になる確率を求めるには、互いに素である自然数の組の数を求めれば良いです。自然数 $n$ に対して、$n$ と互いに素である $n$ 以下の自然数の数を $\varphi(n)$ とおきます。$\varphi$ はオイラーの $\varphi$ 関数またはオイラーのトーシェント関数と呼ばれます。$N$ 以下の自然数の組 $(a, b)$ で、$a, b$ が互いに素であるものの数は、$1 \leq b < a \leq N$ のときに限れば

$$\sum_{2 \leq a \leq N} \varphi(a)$$

で与えられます。$b > a$ の場合も同様の数になり、$a = b$ のときに互いに素になるのは $(1, 1)$ だけなので、互いに素であるものの数は

$$2 \sum_{2 \leq a \leq N} \varphi(a) + 1$$

で与えられます。$\varphi(1) = 1$ なので、

$$2 \sum_{1 \leq a \leq N} \varphi(a) -1$$

としても良いです。$\sum_{1 \leq a \leq N} \varphi(a)$ の $N \to \infty$ での漸近挙動は

$$\sum_{1 \leq a \leq N} \varphi(a) = \frac{3}{\pi^2} N^2 + O(N \log N) $$

であることが知られています ([S Section3.] メビウス関数の定義と高校レベルの微積を知っていれば理解できると思います)。よって、互いに素になる確率は $N \to \infty$ で

$$\frac{2 \sum_{1 \leq a \leq N} \varphi(a) -1}{N^2} = \frac{6}{\pi^2} + O\left(\frac{\log N}{N}\right)$$

となります。

自分で考えた方法 1

示したいことは、

$$|Q_N(p_1, \cdots, p_{\rho(N)}) -Q_N(p_1)\cdots Q_N(p_{\rho(N)})| < f(N)$$

かつ $f(N) \to 0$ となる $f(N)$ が存在することです。

一般に、集合 $B_1, \cdots, B_n$ に対して

\begin{align} |B_1 \cup \cdots \cup B_n| &= \sum_{i=1}^n |B_i| -\sum_{i < j} |B_i \cap B_j| \\ & \quad +\sum_{i < j < k} |B_i \cap B_j \cap B_j| \\ & \quad – \cdots +(-1)^{n-1}|B_1 \cap \cdots \cap B_n| \end{align}

となります。また、$p, q$ を素数とすると、$A_p \cap A_q$ は $(a, b) \in A$ のうち $a, b$ の両方が $pq$ で割り切れるものの集まりなので、$Q_N(p_1, p_2, \cdots, p_k)$ を計算すると

\begin{align} Q_N(p_1, \cdots, p_k) &= \frac{|A \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_k})|}{N^2} \\ &= \frac{|A|}{N^2} -\sum_{1 \leq i \leq k} \frac{|A_{p_i}|}{N^2} +\sum_{1 \leq i_1 < i_2 \leq k} \frac{|A_{p_{i_1}} \cap A_{p_{i_2}}|}{N^2} \\ & \quad \quad -\sum_{1 \leq i_1 < i_2 < i_3 \leq k} \frac{|A_{p_{i_1}} \cap A_{p_{i_2}} \cap A_{p_{i_3}}|}{N^2} \\ & \quad \quad + \cdots + (-1)^{k} \frac{|A_{p_1} \cap \cdots \cap A_{p_k}|}{N^2} \\ &= 1 -\sum_{1 \leq i \leq k} P_N(p_i)^2 +\sum_{1 \leq i_1 < i_2 \leq k} P_N(p_{i_1}p_{i_2})^2 \\ &\quad \quad – \sum_{1 \leq i_1 < i_2 < i_3 \leq k} P_N(p_{i_1}p_{i_2}p_{i_3})^2 \\ &\quad \quad + \cdots + (-1)^{k} P_N(p_1 \cdots p_k)^2 \end{align}

となります。よって $P_N(p_{i_1} \cdots p_{i_l})$ と $P_N(p_{i_1})\cdots P_N(p_{i_l})$ の誤差が十分小さければ、

\begin{align} Q_N(p_1, \cdots, p_k) &\fallingdotseq (1 -P_N(p_1))^2 \cdots (1 -P_N(p_k))^2 \\ &= Q_N(p_1) \cdots Q_N(p_k) \end{align}

となります。しかし、$l$ 個の積に関する項は $\binom{k}{l}$ 個あるので、各項を個別に評価する方法では難しいです。

自分で考えた方法 2

$$Q_N(p_1, \cdots, p_k) -Q_N(p_1, \cdots, p_{k-1})Q(p_k)$$

を求めることで

$$Q_N(p_1, \cdots, p_k) -Q_N(p_1) \cdots Q(p_k)$$

を評価します。一般に、集合 $B_1, B_2 \subset B$ に対して

$$|B \setminus (B_1 \cup B_2)| = |B \setminus B_1| -|B_2 \setminus B_1|$$

なので、これをもとに $Q_N(p_1, p_2, \cdots, p_k)$ を計算すると

\begin{align} Q_N(p_1, \cdots, p_k) &= \frac{|A \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_k})|}{N^2} \\ &=\frac{|A \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}})| -|A_{p_k} \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}})|}{N^2} \\ &= Q_N(p_1, \cdots ,p_{k-1}) -\frac{|A_{p_k} \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}})|}{N^2} \end{align}

となります。ここで、

$$(a, b) \notin A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}} \Leftrightarrow (p_k a, p_k b) \notin A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}}$$

なので、$N_k^{\prime}$ と $0 \leq r_k \leq p_k$ を

$$N = N_k^{\prime} p_k + r_k$$

を満たすものとすると、

\begin{align} \frac{|A_{p_k} \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}})|}{N^2} &= \frac{{N_k^{\prime}}^2}{N^2} \frac{|A_{p_k} \setminus (A_{p_1} \cup \cdots \cup A_{p_{k-1}})|}{{N_k^{\prime}}^2} \\ &= P(p_k)^2 Q_{N_k^{\prime}}(p_1, \cdots, p_{k-1}) \end{align}

となります。よって

\begin{align} Q_N(p_1, \cdots, p_k) &= Q_N(p_1, \cdots, p_{k-1}) -P(p_k)^2 Q_{N_k^{\prime}}(p_1, \cdots, p_{k-1}) \\ &= Q_N(p_1, \cdots, p_{k-1})(1 -P(p_k)^2) \\ & \quad \quad + P(p_k)^2(Q_{N}(p_1, \cdots, p_{k-1}) -Q_{N_k^{\prime}}(p_1, \cdots, p_{k-1})) \\ &= Q_N(p_1, \cdots, p_{k-1})Q_N(p_k) \\ & \quad \quad + P(p_k)^2(Q_{N}(p_1, \cdots, p_{k-1}) -Q_{N_k^{\prime}}(p_1, \cdots, p_{k-1})) \end{align}

となります。従って、

$$Q_{N}(p_1, \cdots, p_{k-1}) -Q_{N_k^{\prime}}(p_1, \cdots, p_{k-1})$$

をうまく評価してやれば良いですが、それが求まるなら $Q_{N}(p_1, \cdots, p_{k-1})$ 自体が求まります。

オイラーの公式に関する補足

記事の冒頭に書いた以下の等式

$$\prod_{p \ : \textrm{ 素数 }} \frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} = \frac{\pi^2}{6}$$

は、以下のような形で書かれることがあります。

$$\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}$$

これは

$$\prod_{p \ : \textrm{ 素数 }} \frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{1}{n^2}$$

を意味しますが、これは割と簡単に示せるので、ここで紹介します。

左辺を変形することで右辺を導きますが、そのために $|x| < 1$ のときに

$$\frac{1}{1 -x} = 1 + x + x^2 + \cdots$$

であることを用います。これは

$$(1 -x^{n + 1}) = (1 -x)(1 + x + x^2 + \cdots + x^n)$$

と因数分解して、両辺を $1 – x$ で割り、$n \to \infty$ の極限を取ればわかります。これを用いると

$$\frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} = 1 + \frac{1}{p^2} + \frac{1}{p^4} + \cdots$$

となるので、

\begin{align} \prod_{p \ : \textrm{ 素数 }} \frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} &= \prod_{p \ : \textrm{ 素数 }} \left( 1 + \frac{1}{p^2} + \frac{1}{p^4} + \cdots\right) \\ &= \left(1 + \frac{1}{2^2} + \frac{1}{2^4} + \cdots \right)\left(1 + \frac{1}{3^2} + \frac{1}{3^4} + \cdots \right) \\ & \quad \quad \left(1 + \frac{1}{5^2} + \frac{1}{5^4} + \cdots \right) \cdots \end{align}

となります。これを展開すると $\sum_{n = 1}^{\infty} \frac{1}{n^2}$ になることを示しましょう。$n$ を素因数分解し、

$$n = p_1^{a_1} p_2^{a_2} \cdots p_m^{a_m}$$

となったとしましょう。このとき、

$$\frac{1}{n^2} = \frac{1}{p_1^{2a_1} p_2^{2a_2} \cdots p_m^{2a_m}}$$

ですが、$\frac{1}{p_1^{2a_1}}$ は左辺の $p_1$ に関する項を級数展開したものの中にあり、その他も同様なので、$p_1, \cdots, p_m$ に関する項以外からは $1$ を選ぶことで、左辺に $\frac{1}{n^2}$ が存在することがわかります。また、$\frac{1}{n^2}$ は左辺に一つしかないことも、素因数分解の一意性からわかります。よって

$$\prod_{p \ : \textrm{ 素数 }} \frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} = \sum_{n = 1}^{\infty} \frac{1}{n^2}$$

が成り立ちます。もし級数の無限積の展開に抵抗がある場合は、自然数 $N$ を固定して

$$\prod_{\substack{p \ : \textrm{ 素数 }, \\ p \leq N}} \frac{1}{1 -\frac{1}{p^2}} = \sum_{\substack{n \in \mathbb{N}, \\ n \textrm{ の素因子は } N \textrm{ 以下} } } \frac{1}{n^2}$$

を同様に示せるので、これを $N \to \infty$ とすれば良いです。

参考文献

[S] PETER SHIU. ON FUNCTIONS WITHOUT A NORMAL ORDER


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